2024/06/27

人材委員会 研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材に係るワーキング・グループ(第6回)議事録

文部科学省 

人材委員会 研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材に係るワーキング・グループ(第6回)議事録

1.日時

令和6年4月26日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省15F局1会議室及び Web 会議(ZOOM)

3.議題

  1. これまでの議論の整理
  2. 研究開発マネジメント業務・人材に係るヒアリング
  3. その他

4.出席者

委員

小泉委員、稲垣委員、桑田委員、杉原委員、高木委員、野口委員、正城委員

文部科学省

生田人材政策課長、髙見人材政策推進室長

5.議事録

科学技術・学術審議会 人材委員会 研究開発イノベーションの創出に関わる
マネジメント業務・人材に係るワーキング・グループ(第6回)

令和6年4月26日


【小泉主査】 それでは、定刻となりましたので、只今から、科学技術学術審議会人材委員会研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材に関わるワーキング・グループの第6回を開催いたします。本日の会議は冒頭より傍聴者に公開しておりますので、よろしくお願いいたします。
本日は6名の委員に御出席いただくこととなっておりますので、定足数を満たしていると考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、議事に入る前に、本日の委員会の開催に当たって事務局から注意事項と資料確認をお願いいたします。
【大場人材政策推進室長補佐】 本日の会議は、対面とオンラインのハイブリッドでの開催となります。対面で御出席の委員は、御発言の際には挙手または名立てなどで合図いただき、オンラインで御出席の委員は挙手機能により挙手ボタンを押していただき、主査に指名を受けましたら、お名前をおっしゃっていただいた上で御発言いただきますよう、お願いいたします。
機材の不具合等がございましたら、対面で御出席の委員は会場の事務局にお声がけいただき、オンラインで御出席の委員はマニュアルに記載の事務局連絡先に御連絡ください。
資料につきましてはZoom上での共有も行いますが、会場ではお配りしておりますので、各自、お手元で資料を御覧ください。資料確認をさせていただきます。事前送付資料としまして、議事次第、資料1から資料3、参考資料1でございます。議事進行の過程で不備等がございましたら、事務局までお知らせ願います。
以上です。
【小泉主査】 ありがとうございます。それでは早速、議題1に入っていきたいと思います。これまで議論を続けてきましたが、これまでの議論の整理について、事務局より御説明をお願いいたします。髙見室長、お願いします。
【髙見人材政策推進室長】 おはようございます。人材政策推進室の髙見です。資料1を御覧いただければと思います。第1回から前回の第5回までに皆様方からいただいた御意見を一旦、整理をした内容になっております。こちらの構成ですが、1回から5回まで様々なヒアリングをしてきておりますが、ヒアリングさせていただいた皆様から御発表いただいた内容、先生方からいただいた御意見、そして初回に参考資料の1-1として提示をした、現状と課題の資料からも一部引用することで構成をしております。
では、早速ですが、Ⅰで本ワーキング・グループの共通認識を、第1回の会議において主査より提示をいただいて、そこから議論をスタートいたしました。マル1日本の大学等における研究開発マネジメント力強化の目標と意義として、大学等における研究開発マネジメント力を高めるために、人材の育成と処遇の改善、それから人材の流動性を確保し、キャリアパス整備にもつながるエコシステムの構築が必要であるということ。マル2個々の大学等における研究開発マネジメントの目的と在り方、各大学等においては研究開発マネジメントの実施を通じて何を実現したいのかということを明らかにした上で、自らの強み・特色に応じた適切で柔軟な研究開発マネジメント体制を構築する必要があるということ。マル3研究開発マネジメント業務の拡大ということで、2013年に作成されたスキル標準に整理した業務から大幅に業務が拡大しており、特定の業務の専門性の追求に加えて全体を俯瞰する視点を持った人材の育成も必要だということ。マル4人材の多様性ということで、研究開発マネジメント業務を担う人材が多様であり、大学等は当該人材を適切に評価し、処遇することが求められること。このようなことを冒頭、主査より御提示をいただきまして、皆様からも御賛同いただきながら、共通認識として確認をしたというところからスタートいたしました。
Ⅱについて、まず、研究開発マネジメント業務や人材の現状ということで、先日御紹介をいたしました、実態調査を実施したというのが総論です。以下、先生方の御意見を抽出してまとめております。大学における第三の職種、業務、必要とされるスキル、資質・能力は広範囲に及ぶということ。役割の在り方として、研究支援の機能、戦略推進の機能、価値化して価値を外へ出していく機能が挙げられるという御意見、任期付きの者は成果が出る個別案件にマネジメント活動の重心が行きがちになるが、テニュアになると長期的な視野を持っての活動が可能になるという御意見。大学産学連携部門のスタッフ数に関する御発表をいただきました。2006年と比較して2021年には倍増をしているということ。ランニング・ロイヤリティー収入も伸びていて、アカデミアの成果が活用された製品やサービスが増加しているということも、現状として触れていただいております。加えて、技術移転人材ですが、こちらは若手人材が活躍する現場になっているという御指摘もいただいております。
(2)として、個別の事例です。信州大学のURAキャリアパスに対する昇給制度、名古屋大学からは研究インテグリティ確保への対応、及び雇用財源の確保の在り方として共同研究の直接経費、間接経費、グラントの間接経費、プロジェクト雇用費、このようなものをURAの雇用財源として運用しているという点も、御紹介いただいております。限定的に挙げておりますが、後の部分で個々の事例について入れ込んでいる部分がありますので、追って御紹介いたします。人材育成のための研修の現状ですが、JSTにおけるURA研修、そしてPM研修。大学技術移転協議会のライセンス・アソシエイト研修、医療系産学連携ネットワーク協議会のプログラム、ファンドレイジング協会の研修についても御紹介をいただきました。
研究開発マネジメント人材を取り巻く課題です。(1)URAに関する課題は、第1回の現状と課題の資料から抜粋していますが、URA総数の伸びが鈍化している中で、URAスキル認定機構による認定を独自に継続できるだけの規模がないというところは、課題として当初、提示をしていました。(2)研究体制マネジメント人材全体に関する課題として、このような人材の実績をどのように評価すればよいのか検討が必要であること。医療系の産学連携の実務者が自組織で不足している機能として、例えばプロジェクトのつくり込みやマネジメントを挙げているということ。そして、ミッションが異なるマネジメント人材間での横の連携、URA組織が小規模な大学における評価や組織の維持、技能継承の困難さ、そして給与の不透明さによる採用の難しさ、このような点が先生方から課題として挙げられております。
次に、研究開発マネジメント人材確保の意義として、優れた研究シーズや研究者の目利きをし、研究開発成果の最大化を図ることだという御指摘をいただいております。研究力強化に向けて、単に研究者の研究時間確保のためだけではなく、大学研究機関において戦略的に資源配分を行い最大の効果を上げるために、研究開発の一翼を担う重要な機能という御指摘。それから、この意義は大学や研究機関ごとに異なるため、研究力向上に比重を置く、あるいは資金獲得に比重を置く、研究者の負担を減らすことに比重を置くという御指摘をいただいております。
次に研究開発マネジメント人材の確保方策として、(1)JSTをはじめとした多様な機関における人材育成として、マル1、マル2の目的、範囲については、第1回の現状と課題のペーパーから引用しております。マル3の人材育成の在り方ですが、URAスキル認定機構における認定について、認定が処遇にコミットできるものになっていくと良いという御意見。人事制度のインセンティブとして、このURAの認定制度等で質保証をしていくことも重要だという御意見もいただきました。
産学連携等の関係団体との連携を図って、将来にわたって財政的に持続可能な仕組みとすることが必要だという点を、こちらは第1回の現状と課題の論点ペーパーから挙げております。機関に定着していく人材の育成、例えばベンチャーで外に出て短期間で稼ぎ、新たなシーズを見つけて旅立つような人材の育成、ここを分けて議論すべきではないかという御意見もありました。
次に研修の見直しの方向性です。研修を受けることをこの業界の標準にしていくところまで推進できれば、人材の流動性確保にもつながるという御意見。全体を俯瞰する力、これは最初の共通認識のところでも触れましたが、全体を俯瞰する力の育成が必要だという御意見。リーダーシップを発揮する、あるいは人材育成、組織運営・マネジメントスキルの育成が必要という御意見をいただいております。
大学独自の研修としては、名古屋大学における事例、京都大学における事例を御紹介いただきました。人事交流制度の関係の御指摘として、例えばJSTにおいて大学のURA等の人材を他大学や他機関に長期・短期で出向することをサポートする制度の御提案をいただきました。表彰制度ですが、このようなマネジメント人材の尊厳や誇りを醸成するための仕組みとして重要だということで、東京工業大学で、一大学で表彰しているという例を挙げていただいております。
(2)、大学や研究機関におけるマネジメント体制の構築ということで、自機関の中でどのような体制を作っていくかという話です。マル1、大学や研究機関の経営層の理解増進が必要だということ、そしてマル2、学内連携の強化を図る必要があるということも議論の中では御指摘がありました。マル3、機関におけるURAの適切な配置について、最初は外部資金獲得につながる部署、ポストにURAを配置し着実に外部資金を獲得した上で、全体的な機能強化を少人数ながら進めていき、分業できる体制になってから得意分野で運用する方法がよいという御指摘をいただいております。
マル4、機関における評価、適切な雇用・処遇の実施という項目ですが、皆様から安定的な雇用の必要性については触れられております。事例としては筑波大学における事例、信州大学における事例、名古屋大学における事例が紹介されており、モチベーションを高めるための工夫として、上位職から業務範囲・役割に対する指示、進捗管理を行うこと、組織全体の目標実現のための体制、人材配置の明確化、組織の責任分掌や役割の明確化が必要であるということ、また評価がしっかり伝達されていると、仮に給与に反映されないにしても、評価の報酬系が満たされて満足度が高くなるという御指摘をいただきました。医療系に関しては中長期のプロジェクトが多いということで、働きがいを確保するようなインセンティブ設計、キャリアアップのための仕組みも必要で、そのためには透明性の高い人事評価制度が核になるという御指摘をいただいております。マル5、魅力的なキャリアパスの形成について、信州大学において、URAをUAとして育成するという事例を御紹介いただきました。また京都大学においては全額支援組織のハブ機能を京大のURA、KURAが担うという御紹介をいただきました。
マル6、民間資金の獲得として、オープンイノベーション機構の取組を御紹介いただいて、クリエィティブ・マネージャーの人件費について、民間との共同研究の研究費から得る間接経費の割合の適正化により捻出をしているということ。産学連携部門の土台を作るために資金が幾ら必要で、企業からこれだけ拠出してほしいという説明を大学ができれば、企業側としてもその費用負担はできる可能性が高いという御意見。そして、企業にとって価値のある内容であれば、該当分の研究開発マネジメント人材の人件費を出すことにつながるという、前向きな、民間資金の獲得に関する御意見も頂戴しました。以上が、研究開発マネジメント人材全体についてです。技術職員に関する御意見も幾つかいただいております。技術職員の現状としては、前回御紹介した雇用等に関する実態調査で把握したという状況です。2、技術職員を取り巻く課題として、上3点は、初回に提示をした現状と課題からピックアップしております。
4点目、オールジャパンで取り組むべき高度な技術者の養成システムは、国が先導し、定着を図るべきだという御意見。最後、装置に対して人が少ないというのはどの現場でも起きているという御意見。高度な装置、汎用性のある機器に関してもしっかり世話をする人は全く足りていないという状況が整理されております。
3、技術職員確保の意義ですが、最先端の研究において、研究環境の整備、及び高度な専門的技能を有する技術職員による研究支援は不可欠であるという御指摘をいただいております。技術職員の確保方策、人材育成の方法として、前回、東京工業大学のテクニカルコンダクターカレッジの取組を御紹介いただきましたが、本日、大学共同利用機関法人の中の各研究所における人材育成の取組を御紹介いただく予定です。
(2)、技術職員同士のネットワーク形成に関しては、一般社団法人研究基盤協議会が行っている研究基盤EXPOの取組について紹介いただきました。将来的な構想として、技術職員の流動化について、全国で流動化させるというよりは、まず各地域での流動化を促進することが必要なのではないかという御指摘をいただきました。
そして(3)、大学における技術職員改革として、信州大学においては、URA同様、職階を構築していく、あるいは技術職員の新たなスキルとして、技術職員自ら外部資金獲得に関与できるような能力育成を開始しているという御指摘、部局に所属していた職員を全部本部所属に集約し、研修を行いスキルアップを図っているということは、御紹介いただいております。東京工業大学の事例として、技術職員の上位職、職階を設定しているという話、あるいは技術職員からマネジメント職というキャリアチェンジが可能になる仕組みにしているという御紹介をいただきました。
以上、これまでの御意見を一旦この形で整理しておりますが、本日、皆様に御意見をいただきたいのは、議論が足りていない部分に関する御指摘、我々が挙げきれていない部分についてのご指摘、あるいは特に強調していくべき点について御指摘いただきたいと思っております。
説明は以上です。
【小泉主査】 髙見室長、ありがとうございました。また、このようにきれいに整理していただいて、まずはフレームワークという形、それから今までの御発表等をきれいに整理していただいて、ありがとうございます。もう、稲垣先生はじめ、杉原先生、高木先生、正城先生、それぞれ御発表いただいた内容が組み込まれているかと思われますが、現時点で加えるべき点等あれば、委員の先生方、御発言いただければと思いますが、いかがでしょうか。高木先生。
【高木委員】 大変よくまとめていただき、ありがとうございます。この議論の整理はこの方向で進めていただければよいと思いますが、この先が気になっておりますので、少し先の話でもよろしいでしょうか。
【小泉主査】 はい、もちろん。
【高木委員】 大学によって事情は様々だと思いますが、おおむね研究力強化、財務基盤強化については研究開発マネジメント人材の役割が非常に重要だということは、共通した認識だと思います。少し先の話になり、この次のステップになると思いますが、気になっておりますのが長期的なビジョンの共有です。例えば10年、20年先を考えたときに、少し唐突で申し訳ないのですが、大学等のサステナビリティという問題があると思います。日本の人口動態を見ますと、学生数減少、研究者数減少、税収減少により公的研究費も減少してしまいます。この視点から見たときに、今御議論いただいております研究開発マネジメント人材の議論は、非常に重要だと思います。
以前、政策連携が重要だと申し上げたのですが、この議論の整理を深掘りしていただくことは重要ですが、それに加え次のステップとして、文部科学省、あるいは内閣府で大学改革がいろいろ議論されていると思いますので、ぜひそのような政策との連携、あるいは関連を視野に入れた上で、第7期の科学技術・イノベーション基本計画にも盛り込んでいただきたいと思います。私からは以上です。
【小泉主査】 ありがとうございます。本当に、このペーパー自身が議論の整理なのですが、未来、それこそ具体的には第7期科学技術・イノベーション基本計画、今、色々と水面下で調整が図られ始めていると思うのですが、そのような議論にもインプットしていきたいです。ありがとうございます。
正城先生。
【正城委員】 取りまとめ、ありがとうございます。これまで議論していただいたところを挙げていただいていると思います。最初の質問ですが、これはこれまでの議論の整理ですが、最終的なまとめの形はもう少し体系的に書く必要があるかと思っておりますが、その認識でよいかというのが一点目です。
他に三点ありますが、我々は長い間研究開発マネジメント人材と言っていましたが、このワーキングには、名前が研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務人材と書かれております。私の個人的な印象かもしれませんが、この二つはニュアンスが違うと思います。研究開発マネジメントというと具体的なプロジェクト等をマネジメントするような印象を受けますが、イノベーションの創出に関わるというところがあるともう少し広い概念がある気がしており、この研究開発マネジメントという言葉もよいのですが、このワーキングで取り上げる範囲を、ある程度定義づけしてはどうかと思いました。
次に、これは対象を研究機関も含めて大学等としているので、範囲としてはよいと思いますが、大学にとって人材育成というと、学生、大学院生の教育が入るため、教育も関連して考えていく必要があると思います。今回、大学以外の研究機関も対象にしているため、恐らくここの中にそのまま入れるのではないかもしれないですが、その場合でも研究開発イノベーションと教育が、教育機関においては関連して検討すべきであるというような点は、入ってほしいと思います。
最後ですが、医療やリスク管理、法律、倫理も含めて、専門的なところが重要という点が何人かの委員から御指摘があったと思うのですが、それをどこまで深掘りしてまとめに入れるかというのは、やり方はいろいろあると思いますが、幾つかについては触れておいたらどうかと思いました。以上です。
【小泉主査】 ありがとうございます。何か髙見室長、ありますか。
【髙見人材政策推進室長】 これはもう全て皆様と御相談をしながら、ということで事務局はあくまでたたき台を作っているだけなのですが、最初に御指摘がありました最終的なまとめのイメージは御指摘の通りで、まず本日のこの資料1はこれまでの皆様の御意見を柱立てごとに分類したという趣旨の資料で、これを論点整理という形にしていくに当たってはもう少し間の情報を、例えば実態調査で明らかになったことを入れ、もう少し全体を構成していき、今後どうしていくのかをもう少し明らかになるような形で整えていく必要があるとは思っているため、そのような書き方でよいかをぜひ次回以降、御相談できればと考えております。
【小泉主査】 ありがとうございます。イノベーションの関わりというところでは、一番はじめの高木委員の話、稲垣先生の話がrelatedしていると思いながらお聞きしていました。そこはどこまでどうこのワーキング・グループとして言えるのかについても少し、次回以降、議論したいと思います。
僕自身が気になったのが、まさに教育の話、研究インテグレートの話、正城委員からも出ていましたが、そのような研究開発マネジメント業務の拡大、多様性は、少し大きな項目として取ってもよいと思いました。またそこも次回以降、御相談させていただければと思います。
まさに信州大学の事例がいろいろと出ており、また正城先生からの教育の話云々も、研究開発マネジメントに関わる業務はいろいろとあると思いますが、杉原先生、何かこれに対して、今の時点での整理に対して付け加えること等ありますか。
【杉原委員】 一つは、教育という視点で見ると、研究を支える大学院と具体的な研究活動の連携は大きなポイントだと思っており、社会情勢に応じた大学院のカリキュラム等の見直し、あるいは最近では例えば学環という仕組みを活用した社会ニーズに合った、多分野連携による人材育成においても、社会ニーズをきちんと教育内容に転換するようなところで、URA的な人材は鍵になると思います。もう一つはリカレント教育、リスキリングに関してはイノベーションの現場、産学連携の現場でURAたちが社会からの人材育成ニーズをかなり捉えているところがあるので、それを大学の教育部署とうまく連動・連携させ、社会人向けの再教育、あるいは新しいスキルプログラムの提供までを、大学の次の使命として担っていくようなところは、視点として必要かと思います。
【小泉主査】 ありがとうございます。社会との接点、知の価値化、今、杉原委員の言葉だとあると思いますが、そのような接点に研究開発マネジメント人材があり、それを育てていく、またそのような人たちが関わりながら新たな人たち、リカレント、リスキリングもそうですが、人材育成という観点も必要かというところです。ありがとうございます。
稲垣先生。
【稲垣主査代理】 まず、研究開発マネジメントがどういうものなのかを言葉で説明するとまたそれに縛られてしまうので、大学や研究機関において教育や研究との関係性の中でどう捉えるか、どう捉えてこういうものを提言するのかという書き方にしたほうがいいと思い、お聞きしていました。文章で定義づけしてしまうともうそれしかないとになってしまいますが、常に、絶えず変化して、今、膨張モードですが、変わっていっても、このような教育と研究と大学の本部経営との関わりの中において、ここで言う研究開発マネジメントはこういうものだともし描くことができれば、すごく柔軟なアプローチで、この文章をもとにいろいろなことを考えられるようになると思い、聞いていました。
【小泉主査】 その根幹部分を示していくということですね。ありがとうございます。
野口委員、ぜひ、コメントをお願いします。
【野口委員】 ありがとうございます。これまでの議論の積み上げを踏まえて的確にまとめておられるので、非常に読みやすく、把握しやすく、理解しやすい文章だと思います。その上で、1ページの共通認識がマル1からマル4までありますが、本当にこれは重要な課題で、私は特にマル1、マル2の部分は双方おおくくりにできるかと思いますが、とりわけマル1とマル3は、私はさらに深めていく必要があるのではないかと思っています。このワーキングのアウトプットが、例えば各大学が保有する課題として、それぞれこのマル1からマル4の課題に当てはまると思いますが、どのように考えていくかという道しるべになれば、私は非常にワーキングの成果でもあり、客観的に可視化できるのではないかと思っています。
また、マル1とリンクするのですが、先ほどお話があったように、固有名詞で並べていくと融通性が利かなくなる、あるいは各大学でこれかという形の決めうちで考えていくというのもどうかと思います。一方で、人材像を考える必要があると考えます。切り口としては国立、公立、私大であったり、自然科学系や人文社会科学系の支援エフォート部分であったり、産学連携・大型プロジェクト・教育分野へのコミットなどであったり、人材像の大枠をカテゴリーで示すほうが、例えば各大学で研修方針を立てたり、人材を確保するところに寄与できるのではないかと思いました。マル3は、過去10年を比べても、本当に研究開発マネジメント、産学連携、多様な公募事業もありますし、そこにスタートアップも加わってきているため、かなりメニューが拡大、多様化していると思います。
先ほど言いました産学連携の手法、様々な公募対応、スタートアップの対応、昔も今も大事な知財の対応、そこに安全保障輸出管理を踏まえたグローバル研究に対応するリスクマネジメント対応も必須となってきているため、対応する射程分野が格段に多様化しています。このような専門分野の多様化の観点からもURAの「何でも屋」化は避けなければ、研究開発マネジメントも機能しないと考えます。場合によっては、研究開発マネジメントにも、各大学の事業構想に沿ったグラデーション(濃淡)をつけるようなことも、道しるべになるのではないかと思います。そういった点でも、少しメリとハリの部分が、後半はあっても良いかなと思いました。以上です。
【小泉主査】 野口先生、ありがとうございます。道しるべという考え方、人材像というのは確かに、何か皆さん同床異夢というか違うことを、そういったものを少し具体的に示していくのもいいかもしれないですね。表彰制度のところにもありましたが、ここは表彰するという目的もあるため、ある種、ロールモデルを示していくという目的もある、そういったものが具体的にあるとそれぞれ、各大学より具体的にこういう人材像が欲しい等、具体的な検討に進める一歩になるかもしれないと、今、野口委員のお話を聞きながら思ったところです。具体的なところは次回以降、具体的に御議論させていただいて、ワーキング・グループとしてのまとめは、もう今の勢いでいくと100ページを超えるまとめができそうですが、ぜひよろしくお願いいたします。
何か髙見室長、ありますか。
【髙見人材政策推進室長】 ありがとうございます。本日はなかなかお時間が少ない中でしたので、次回、論点整理の素案という形式でお示しができればと考えておりますが、少し早めに皆様にはお送りさせていただいて、事前に御覧いただいた上で、当日しっかり御議論いただける形式で準備ができたらと思っております。よろしくお願いいたします。
【小泉主査】 よろしくお願いします。ありがとうございます。
では、議題の2に移りたいと思います。研究開発マネジメント業務人材に係るヒアリングとして、本日は特に、技術職員の人材育成の在り方についてさらなる検討をするということで、2件のヒアリングを予定しています。まずは、国立大学法人岡山大学副理事(研究・産学共創総括担当)・副学長(学事担当)・上級URAでいらっしゃいます佐藤法仁先生から、研究開発イノベーションのマネジメント業務と人材~「プロジェクトマネジメント」と「組織」の視点から~と題して、御発表いただければと思います。佐藤先生、ぜひよろしくお願いします。
【岡山大学(佐藤様)】 ありがとうございます。ただいま御紹介いただきました、岡山大学の佐藤法仁です。本日、このような場を頂戴しましたこと、ありがとうございます。私、時間配分を間違えておりまして、大量の資料を作ってしまい、大変申し訳ございません。オンラインの方々には、また後日、資料が公開されるということで、それを考慮して文字多めのものを作成した次第です。また、テーマとして技術職員の点もありますが、全体を俯瞰するようなお話を考えております。これまで本WGでお話している先生方がデータ等の専門性を持ったお話をされていますので、少し違う視点で、資料作成をさせていただきました。それでは、お時間もございますので、資料が多い中、足早に説明させていただこうと思います。
今日の話は、「プロジェクトマネジメント」と「組織」という2つの視点から、研究開発のイノベーションマネジメント業務と人材に焦点を当てたいと考えます。プロジェクトマネジメントは皆様御存じの通りだと思いますが、もう一つの組織という点は、私がいま経営層におりますので、経営という点から、感じていることを少し述べさせていただきたいと思います。また、私はURA職ですが、岡山大学URAはいろいろな取組をやっています。その取組内容はボリュームが多過ぎますので、今回は参考として配付資料の最後につけています。
それでは最初に、プロジェクトマネジメントから始めさせていただきます。4ページですが、世の中、インターネットで「プロジェクトマネジメント」と「書籍」をうてば、プロジェクトマネジメントの本がたくさん出てきます。「10歳から始めるプロジェクトマネジメント」、「童話で分かる」など、プロジェクトマネジメントの本がとても多くあります。これは、仕事だけに限らず日常生活そのものがプロジェクトでありマネジメントであるというのは、皆さんも御存じの通りです。これだけたくさんの本が出てくるというのは至極当然かとも思います。
5ページですが、例えば海外を見てみますと、こちらはアメリカのオバマ大統領の時代です。2016年に連邦政府において、この場合は「プロジェクト」でなく「プログラム」ですが、プログラムマネジメントをしっかりやっていこうという点が立法化されました。この中で4点掲げられていますが、例えばマル1は、連邦政府においてプログラムマネージャーを公式の職として、そのキャリアパスを実践する、整えるということが書かれています。
全体像としてなぜこのようなことをやっているのかという点ですが、プログラム/プロジェクトのマネジメントに関しては欧米が先行していますが、その中で政府に関しても事業をいろいろやっています。我が国の文部科学省もそうですし、いろいろな府省庁でもそうですが、その効率化がとても重要である点、資金運用プロセスという点、その資金運用プロセスを最大限の効果を発揮させなければいけないという点などにおいて、プロジェクトマネジメント、プログラムマネジメントが大変重要であるという点などから、連邦政府で立法化されました。
なお、プログラムとプロジェクトの違いは、この資料ページの右端に少し書いていますが、プロジェクトが個々のもの、それを俯瞰するのがプログラムとなります。詳細な定義は除外しますが、簡単に言うとこういう形になります。
6ページですが、このプロジェクトマネジメントを普及させていく、あるいは共通化していくにはどのようなことが必要なのかという点があると思います。その点に関しては、1969年に設立されたPMI(ピーエムアイ)という世界最大級のプロジェクトマネジメントの組織があります。この組織では、プロジェクトマネジメントの調査や研究、啓発活動、人材育成などを行っており、東京にもあります。PMI日本支部として1998年にできています。PMI日本支部は、会員が6,000人ほどおり、元来はIT関係の方々がよく御存じだと思いますが、今はあらゆる業種、大学の方々もそうですが、入っています。
また、アカデミック・スポンサーがあり、各大学が入っています。岡山大学ももちろん入っており、本学は「PM Award」といって、PMI日本支部が主催しているプロジェクトマネジメントを表彰する制度の協賛として、賞を授与しています。また、PMIが実施しているプロジェクトマネジメントに関する取組を日本語訳したスキル標準や、プロジェクトマネジメントのイロハやマニュアルに関して日本語に翻訳し、発行しています。
7ページですが、PMIの中において「PMBOK(ピンボック)」というものがあります。これはプロジェクトマネジメントの知識体系ガイドです。PMBOKの書籍は、端的に言うとプロジェクトマネジメントの専門書であり、物事の初めから終わりまでを、成果も含めて一連のガイドを盛り込んでいます。
また、多くの場面、業種や職種で活用できます。つまり、プロジェクトマネジメントの概念の定義や、プロジェクトのライフサイクル、それに関わるプロセスを網羅しているものです。最新版は第7版で公開されていますが、これは日本語訳されているため、日本語で読むことが可能です。「大学は関係ない」と思われる可能性がありますが、プロジェクトマネジメント、先ほど最初に紹介させていただいた、いろいろな書籍に関しても共通するものであり、大学における、例えばURAの活動についても、これを読めば大体プロジェクトマネジメントをURA活動に落とし込むことができます。実際私もやっており、問題ないです。
8ページですが、プロジェクトというのは、このPMBOKに書かれているものを定義すると、ここに書かせていただいているものになります。有期性ある業務、例えば期限があるというのはプロジェクトとして分かりますが、その期限の中で最大の効果、最大の効率を生み出すということが言われるかもしれません。いろいろな事業をやられている方、例えばURAや、研究開発マネジメントにおいて、最大限の効果を発揮する、インプットしてアウトプットを最大化させるということがプロジェクトであり、それをマネジメントするということに関しては、資料のマル5に書いているものがあります。
PMBOKの第6版から第7版に関して、「5つのプロセス群」から「12のプロジェクトマネジメント・プリンシプル」、つまり原則が変わりました。また、知識エリアに関しても10から8に減っています。資料にはその点を書いておりますが、これはプロジェクトマネジメントの国際的な共通の言語化ということです。つまり、PMBOKを用いることで、プロジェクトを進めるのに、業種や業態が変わったとしても、例えばこのプロジェクトのどこで止まっているのか、どこで困っているかなどは、この12のプロジェクトマネジメント・プリンシプルや、8つのパフォーマンス・ドメインに照らし合わせることで、プロジェクトの参加者が分かるということです。
例えば、各大学の業務のプロジェクトマネジメント化をするにあたり、「岡山大学ではこういうところで止まっている」と言っても、ほかの大学にはなかなか通じないです。これは産業界で言えば、例えばPMBOKを共通化しているため、「ここの部分」、例えば「8つのパフォーマンスの開発アプローチとライフサイクルの過程において今、止まっているので、そこはどうしているか?」と他の業界に聞けば、「うちではこうしている」というのが返ってくる、要するに共通言語化さているので知恵を出してくれる、あるいは情報の共有化ができるということです。
次に9ページですが、この知識体系ガイド(PMBOK)に関して、国際的な資格があります。PMP(ピーエムピー)という資格があり、これはプロジェクトマネジメントの実務者経験者向けの認定資格です。全世界で100万人ほど資格を取得しており、日本では4万人以上が取得しています。こちらの資格の合格率が発表されていないので正確なことはわかりませんが、うわさでは大体6割取れば合格と言われています。また、年々難しくなっているとも言われています。年々難しくなっている、正式なデータはないのですが、皆様が言われているのは、昔は暗記的なものが多かったのが、今はアジャイル型のプロジェクトが多くなっており、「考える」ということが多くなってきたので、試験も暗記よりも考える問題が多くなり、このため試験が難しくなっていると言われています。
また、海外ではMBAと同じようにPMPを学位、あるいはライセンスとして、大学院で教えるところが多いです。日本にもありますが、PMPを取得してジョブチェンジする、あるいはキャリアップするというのは、普通にやられています。また、PMPの資格を持っているので給与が上がるということは、海外では普通です。
もう一つの資格として、CAPMというものがあります。こちらは学生を対象にしたものです。プロジェクトマネジメントは社会人になってからいきなり始めるというのは遅いので、学生の時代から教え込む、そのための資格、一つの称号、あるいは認定が用意されています。CAPMは昨年度(2023年度)から始まっており、まだ正式なデータ等は見ていないのですが、学生が受けられる資格があります。
10ページですが、岡山大学でプロジェクトマネジメントにおいてどのようなことやっているのかという話です。岡山大学ではイノベーション・マネジメント・コア、IMaC(アイマック)という組織があります。簡単に言うと、従来のウォーターフォール型の組織ではなく、アジャイル型、プロジェクトベースでみんなが集まってやるというものです。プロジェクトベースで回し、スピード感を持って実施します。
プロジェクト、特にアジャイル型のため、学内のいろいろな部門の方々が集まってきます。いろいろな部門の方々が集まってくるため、共通言語化が必要です。そのときにプロジェクトマネジメントの手法として共通言語化されているので、プロジェクトが回しやすいという点があります。全体をマネジメントするプロジェクトマネジメントオフィス、PMOを置き、そこが指揮監督をして全体のプロジェクトを回していくという仕組みを進めています。これは2021年から設置しています。
11ページは、技術職員についてです。私は技術職員を統括している総合技術部の本部長を拝命しております。80名の技術職員の本部長ですが、ただよく言われることですが、技術職員といってもいろいろなカテゴリーの技術職員がいます。教育研究系技術職員、施設系技術職員、医療専門職系技術職員、情報系技術職員などです。それぞれによって分野が違うため、私は教育研究系技術職員の本部長、さらにその上にある技術統括監理本部を担当しています。技術統括監理本部は岡山大学の教育研究系、施設系と医療系をまとめた361名の技術職員を統括する組織です。その中において、技術職員は、大変言い方が失礼な点もありますが、今まであまり光が当たってこなかった。特に国立大学において当たっていなかったので、これをより高度化させていくことが必要です。
本学では総合技術部があり、部長と課長が技術職員を務めています。技術統括監理本部のトップである技術総監は学長です。技術副総監は私と、もう1人は技術職員の部長です。つまり、副理事・副学長級の者が就く技術副総監のポストを技術職員が就任できるキャリアパスを構築しています。このような技術職員の高度化において、役職を上げる、あるいは給与を上げるなどの施策はよいと思います。実際、岡山大学では技術職員の方々が対外的なコンサルティングをする、あるいは博士課程において大学院生を指導することもあります。その際、しっかりと指導できる能力がないと駄目だという点、その基本となるのがプロジェクトマネジメントなどにあるため、技術プロジェクトマネージャーを育成できるようなスキルをPMI日本支部とタッグを組んで進めています。これはJ-PEAKS、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業でもやっている取組で、今後、横展開していこうと考えています。
12ページですが、小括として取りまとめです。このプロジェクトマネジメントにおいては、世界で共通化されたものがあり、これをうまく活用することによって効率的な人材育成や業務改善ができるのではないか、岡山大学では実施していますが、実際に効果があったと思います。
また、プロジェクトマネジメントのスキルはURAや知財、技術移転、産学連携、寄附等、あらゆる活動のベースであると言われます。これは、冒頭に申し上げたとおり、事業を行う際、その事業には期限があること、その期限の中で目指すものに到達することが必要です。目指すものとは、バックキャスティングしたありたい未来、姿とよく言われますが、そのようなものを達成するためにはプロジェクトマネジメントが重要であるという点があります。
ここで参考として資料に挙げておりますが、「時間は未来から過去に流れている」と書かせて頂いています。これは、私が個人的に海外の大学の教員、マネジメントをやらせていただいている中で、海外と日本の違いは何かと思った際に「時間の捉え方」が違うのではないかと個人的に思った点です。日本は、時間は過去の積み重ね、後ろから前に進んでいくという考えが多い気がしますが、海外では時間は未来から過去に流れている、前から後ろに進んでいくという考えで仕事をしている感じがします。
資料にあるように、例えば砂時計、砂が上から下へ、未来(上)から過去(下)に流れていく、あるいは川の流れがあり、上流を見て橋の上に立っている。川の流れは、上流から目の前に流れてきて、自分の橋の下を流れて下流、河口へと流れていく。これは未来(上流)から水が流れてきて、自分の橋の上が現在であって、橋の後ろ、過去(下流)に水が流れていく、欧米ではこのような未来から過去に時が流れているという時間感覚があるのではないかと個人的に感じています。これをプロジェクトマネジメントに関連して言うと、未来にありたい姿があり、それを達成する期間、つまり時間があるとすれば、そのありたい姿を実現するためには未来からAをする、Bをする、Cをするというタスクが流れてきて、それをひとつずつ片づけていく、未来から時間とともに流れてくるものを、プロジェクトマネジメントを構築して効率的・効果的に片づけていくというのをプロジェクトマネジメントとして実施しているのではないか、これは個人的な感覚のため、データなどは何もないのですが、海外の大学の教員、マネジメントをしている人間として、このようなことをとても感じます。
日本の場合は、これが逆になっているのではないか、ありたい姿が先送りされていて、時間がかかっている、要するに議論ばかりして前に全く進まないという点を感じます。プロジェクトマネジメントの流れということで参考として書かせていただきました。
もう一点、先程のPMPなどの資格がありますので、このような資格を活用して人材育成ができないかと思っています。また、CAPMに関しては大学生、大学院生でも資格を取ることができるので、例えば今議論されている博士人材の活用という点で、博士号を取る人材に対してはトランスファラブルスキル、移転可能な能力・スキルが重要と言われています。プロジェクトマネジメントは、A業界しか使えない、Aの業種しか使えないというわけではなく、あらゆる業界や業種に対して使えるものです。トランスファラブルスキルもひとつの専門性の追求だけではなく、移転可能な能力という点において、ひとつの専門性以外の他の場面でも生かせられる能力です。プロジェクトマネジメントとトランスファラブルスキルは、ほぼ同じようなものとなっていると思います。
加えて、大学院生においてプロジェクトマネジメントが重要だというのは、研究計画それ自体がプロジェクトマネジメントという点です。人文社会科学系でよく言われている博士後期課程3年の標準修業年限内で博士号を取ることができるのは大体2割程度と聞いておりますし、平均5年ぐらいかかると言われています。大変失礼ですが、これは研究計画において、プロジェクトマネジメントができていないのではないかとも思います。
私のプロフィールは今日の資料の一番後ろに書いていますが、私は最初の学位は人文社会科学系で取っていて、その後、自然科学系で学位を取っているので、自然科学系のみならず人文社会科学系の学位を取ることはとても大変だということを自分の身でよく分かっているつもりです。大学院生、その前からプロジェクトマネジメントをしっかりと身につけておくことによって、自分の研究計画においてどのようにプロジェクト、学位を取るというプロジェクトの達成を進めていくかということをしっかりと考える必要もあるのではないかと考えます。
次は「組織」についてです。これは、冒頭に申しましたとおり、私がマネジメントをやらせていただいている点から、結局一部の職場、部門しか頑張っていないのではないかという点があり、もっと全体を考える仕組みが重要だということです。16ページですが、このような点を感じたのは、文部科学省の「研究大学強化促進事業」という10年ものの事業がありました。岡山大学は頑張って最終評価においてS評価をいただきました。実際、研究IRで分析すると確かに岡山大学の研究力が上がっており、その実感もありました。一方で、組織全体で見ると、例えばその頑張りは研究部門のみで、総務などの他部門はどれだけ頑張っているのかという話です。もっと言うと「自分事」として捉えていたのかということ、その点は疑問が残ると感じています。
これは、私が研究部門の所属でなくて、副学長としては総務部門などを担当しており、また総合技術部本部長としては技術部門の担当を、他の全学機構に関してはそれぞれの部局を担当しているため、個々を細かく見ていると、研究部門だけ頑張って、マネジメントが変わったが、大学全体、もっと言うと法人全体があまり変わっていないのではないかという点をすごく感じています。また、今日の研究開発イノベーションのマネジメント業務や人材に関しても、結局は研究部門だけ変わって法人全体、大学全体が変わっていなければ何の意味もないと、個人的には感じています。これは私たち岡山大学だけのことかもしれませんが、他の大学に関しても言えることではないかと思っています。
18ページに書かせていただいたように、仕組みをしっかり考えておかないといけないと考えています。そうしなければ、研究開発イノベーションのマネジメント業務や人材も定着しないと考えています。
19ページですが、唐突なことですが、国立大学法人において副学長と副理事どっちがマネジメント職として上位かという点を書かせて頂きました。これはある方に、「国立大学の経営層の方々に、本当に国立大学法人におけるガバナンス、レポートラインを理解しているか否かを端的にできる質問が一つある」と言われたことがあり、書かせて頂きました。この質問に対してもし「副学長」と答えた人は「マネジメント、レポートラインを分かっていない人だと認識しなさい」というのを、過去にある人から言われました。
確かに副学長は、学校教育法92条に規定されている、明文化された役職ですし、理事は国立大学法人法、確か13条に書かれているものであり、理事の数に関しても法定で決められ、重みがあります。その点で副理事は明記されていない点がありますが、組織において、国立大学法人というガバナンスやレポートラインにおいて、副理事が副学長よりも上職というのは当然なことです。したがって、岡山大学、今の那須保友学長が去年度に就任した際、「法人の役職」と「大学の役職」を明確に分ける、レポートラインを分ける、つまり学内会議においても法人の話をしているのか、大学の話をしているのかが混在しており、なおかつレポートラインも整理されておらず、研究開発マネジメントをやっているのも、法人でやるのか、それとも大学でやるのかという議論が、国立大学ではきちんと整理されていないのではないかと思います。岡山大学ではしっかりと区別しています。例えば学内の案内に関しても、先に副理事があり、後に副学長がある。ホームページの掲載を見ていただいたら分かるのですが、副理事が先にあって副学長が後にあるようになっています。また、企画・評価・総務担当理事や財務・施設担当理事は、法人本部の仕事が大半のため、副学長の職はつけないという形になっています。私の役職も、今回の資料の1ページ目でもそうですが、副理事が先にあって副学長が後になっています。
次の21ページですが、こういう行動や意識変化を及ぼすということを重要視しており、組織においても、法人本部と大学の組織を分ける、事務職員においても分かれていいます。多くの国立大学では、法人監査室や法人監査部だけが法人の組織になっていることが多いですが、岡山大学に関しては事務局においても法人の本部と大学の組織をしっかりと分けています。また、事務職のトップは「事務局長」とされることが多いですが、法人の立場と大学の立場、両方を兼ねることから、岡山大学では「事務総長」という名前になっています。また、研究大学として「研究ファースト」を掲げており、岡山大学では研究部門を事務の建制順の最上位にしています。これは、企業でもそうですが、大体は総務部門が建制順の一番上になっており、研究部門は真ん中ぐらいになっていることがあると思います。このような点は研究大学としてあり得ないと考えますので、事務職員の意識変化を促すためにも研究部門を最上位にするように変えました。
マル2の〇〇補佐等についてですが、これは那須学長が就任した際の執行部組閣の際に全廃しました。事務方から見ると、レポートラインが整理されておらず、労力がかかります。つまり、〇〇補佐と〇〇特別補佐はどちらが偉いのか、それに副何とか補佐もおり、稟議や相談、事前説明などはどのように回すのかという点、これは大学の悪しき制度だと思っています。本当にその人を人材育成したいのであれば、当事者としてしっかりと正職に就ける、岡山大学では正職につけて評価して、対価を払うということを必ずするようにしています。その点において、このマル3に書いてある「分掌」というものをしています。
単純に、〇〇補佐、○○特別補佐などの職ではなく、規程によって職を分けて、それに対する評価が定められています。例えば岡山大学においては、現在、研究担当理事を置いていません。これは、研究大学として学長が研究担当理事を兼務する形を取り、学長自ら先頭に立つということ、その方がスピード感もあるなど点があります。一方、学長と研究担当理事の職の2つは業務内容が多大になってしまうため、これを5人の研究担当副理事が分掌しています。規則によって誰がどの仕事を分掌するかが決まっています。その分掌をした内容によって評価され、給与、ボーナスなどが変わります。そして分掌によって経営人材の育成を行っています。
また、岡山大学には研究担当の副理事はいますが、研究担当の副学長はいません。これは、組織において研究担当の副学長を置くと、全体の法人ガバナンスができないという点などがあるため、副学長はあえて置いていません。
マル4ですが、「なんでも教員、ひとまず教員」というやり方を全て廃止しました。全学センター、全学機構等に教員を配置していることが多いのですが、今後、配置しないことにしました。これは、教育研究を行うのは学術研究院、学部や大学院、研究所などに配置し、そこでしっかりと教育研究をやってもらうということです。なおかつ、教員と職員というものに関して、どうしても教員のほうが偉いという形、雰囲気があります。これも「そういうことはあり得ない」と、那須学長がいつも口にしており、教員と職員は同等であるという意識を強くすること、その意識を強く定着、浸透させるために、事務職員の高度化という点を進めています。例えば、本学の研究・イノベーションの司令塔である研究・イノベーション共創機構において、トップの機構長は学長が自ら務めますが、筆頭副機構長は事務職員が務めています。これは、普通の大学では絶対にあり得ないことだと思います。教員が就くものだというのが普通だと思いますが、本学においては、高度な事務職員においては、教員よりも上位の職に就くことができる、そのようなことを当然のようにやるというのを進めています。教員もうかうかしていられないということです。
マル5は博士人材の活用です。資料の23ページですが、本学では、今年度から事務職員や技術職員、図書職員などに対して、高度化という点から大学院への就学支援制度を開始します。これは、業務として大学院に行っていただく、学位を取っていただくということです。なおかつ、その費用に関しては全額、大学が負います。これは、私たち大学も文部科学省もそうですが、博士人材を一生懸命育てようとしていますが、そもそもとして大学が博士人材を雇用、運用していないというのは恥ずべきことだと私は思っています。ですので、人を育てるだけではなく、しっかりと博士人材を受け入れるという体制を構築しないと、大学は駄目だと思います。海外では、大学職員である程度の役職の方は博士号を持っているのが当たり前ですが、それに並ぶためにもしっかりとやらなければいけないと考えています。なので、KPIもしっかりと立ててやっていくと、その中で、職員の高度化、研究マネジメント人材も含めて高度化させていくというのを進めています。
マル6の「研究ポリシー」というのは、その機関の研究活動における「憲法」ですが、岡山大学では、技術職員は研究に従事する者(教員など)のパートナーであること、研究に従事する者は個人ではなく集団の群を対象にして研究推進を行うこと、これは個人研究は大学として支援しないということを明確に書いています。つまり、個人の研究は科研費等でやっていただき、大学としての支援は研究者グループとして行うことをポリシーに書いています。これらは、研究力の強化という点もありますが、大学全体、さらに言えば法人全体として組織を変えていかないといけないという点で、研究ポリシーを含めた全体の行動変容と意識変容を促すような仕組みを積極的に打っていためです。
マル7ですが、これが一番の問題であり、できるかできないかを判断する仕組みしかない大学が本当に多くあります。組織でよくある駄目なパターン、これは個人的な意見ですが、できるかできないかしか判断しない人、議論ばかりして時間とコストを全く考えない人、聞いていないとしか言えない無能な人が多過ぎるという点があり、これを変えていきたい、意識と行動変容を進めています。那須学長が就任して半年間で30を超える規則や制度を新たにつくり出しましたが、これは、どうしたらできるかという意識と、決断して前に進め、その後に最適化するとことを進めました。大変失礼ですが、博士人材の議論も結局は決断できていないだけではないかと思っており、恐らく、その決断できていない間に海外に追い抜かされているのではないかと思います。結局、決断することが重要であると思います。
あと、資料の3)は企画のラインと制度化のラインを同じ人がやっています。例えば私は、研究担当の副理事であり、研究部門で企画する立場ですが、同時に大学における制度を作る学事担当の副学長です。同じ人間がこれらを担当しているため、研究で起案したものが瞬時に形になるという仕組みになっています。これら紹介してきたものは行動変容ですが、研究マネジメントを定着させるような組織において、結局は、上の方々がしっかりとそのようなガバナンスや組織のことを理解していないと、いい研究マネジメント人材がいたとしても前に進まないのではないかと、個人的にすごく感じたため、今回この組織の話をさせていただきました。
資料26ページの終わりですが、特にこれからの研究開発マネジメントの業務の人材に求められるものについて、研究開発しか知らないという人は恐らく生きていけないと思います。スペシャリストでありジェネラリストである必要があると思います。というのは、プロジェクトマネジメントも、Aの業界、業種だけではなく、あらゆる業界で使うことができるという共通言語化されている点、逆を言えば共通言語化されているので自分の業界だけではなく、他の業界も知っていないと共通言語は役立たないという点、なおかつ組織という点においては、研究開発のイノベーションを担うようなマネジメント業務や人材は、将来的に経営層に行っていただくという点から、研究部門しか知らないというのは全体の組織を回せないと思います。研究開発しか知らないというのはあり得ないと思っています。
これは、博士人材で言われているトランスファラブルスキル、つまり移転可能なスキルと全く同じあり、研究開発だけでなく、総務や財務なども知っておく必要があります。スペシャリストである必要はありませんが、チームを組織するので、ある程度俯瞰できるような能力が必要ではないかと思っています。それがプロジェクトマネジメントのスキルではないかと思っています。
加えて、これは強く言いたいのですが、ナレッジワーカーである必要性があります。ナレッジワーカーというのは、知識から新たな価値を創造する者ですが、博士人材、あるいはアントレプレナー、研究開発マネジメント人材は、ナレッジワーカーである必要性があると感じています。本学においても、職員の高度化という点において、ナレッジワーカーであれというのを強く言葉として言っています。
これはマニュアルワーカーと比べられるのですが、大学に関してもそうですが、日本の社会では、決められたとおりの業務をミスなく速く行うということ、マニュアルワーカーが大変多いです。これは、マニュアルワーカーは視点が現在ということになる、つまり早く業務をこなして、決められたとおりやっていくという、現在の課題を解決していくということです。しかし、ナレッジワーカーは、どうしていいか分からない未来のもの、情報を知恵に変えて、改善しながら前に進めます。改善を進めるというのはプロジェクトマネジメントそのものですが、これは視点が現在ではなく未来を見ています。未来のありたい姿を目指して仕事をする方々です。それによって価値を生み出す方です。
博士人材だけでなく、アントレプレナー、研究開発イノベーションマネジメント業務を行う人材も、ナレッジワーカーであるべきだと思っています。そして、ナレッジワーカーを育成していくという枠組みの中において、研究開発イノベーションのマネジメント業務や人材をしっかりと確立していければすばらしいと思っています。
私の発表は以上です。ありがとうございました。
【小泉主査】 研究開発のイノベーションも加えていただいています、研究開発イノベーションマネジメント人材は組織としての覚悟、考え方、それがないと、幾ら人を雇ってもというところがあったと思ってお聞きしたところです。
せっかくなので、今の佐藤先生の御発表に対して、御質問等があればぜひお願いしたいのですが、いかがでしょうか。高木先生、お願いします。
【高木委員】 大変実践的な、貴重なお話をありがとうございました。2点質問がございます。
まず12ページについてですが、時間が未来から過去に流れているという個人的な感覚、ということをお話しになられたのですが、これは海外の御経験が基になっておられるということだったと思います。私も2年間アメリカの大学に滞在して、その際かなりマインドセットに変革があったという実感を持っています。アメリカでの御経験からこのような感覚を持たれたということですが、バックキャスティングから描かれたありたい未来、という考え方は、文部科学省のCOI-NEXTとかなり共通しているのか、あるいは少し違う点もあるのか、そこを教えていただきたいのが1点目です。
2点目は、18ページ以降に、大学のガバナンスのお話がございました。岡山大学のガバナンスは大変すばらしいと思いましたが、同時に佐藤先生のガバナンスのリテラシーもすばらしいと思いました。先生御自身が、このようなガバナンスのリテラシーをどこでどのような御経験、プロセスで習得されたのかに、大変興味を持ちました。2点よろしくお願いいたします。
【岡山大学(佐藤様)】 ありがとうございます。1点目に関しては、このような考え方は、文部科学省のCOI-NEXT(共創の場形成支援プログラム)の前のCOI STREAM(革新的イノベーション創出プログラム)のときからもあったと思うのですが、ほぼ同じだと思います。それが内閣府などのいろいろな事業でもそうですが、やられていると思っています。これらが欧米から輸入したものかどうかというのは当事者のみ知ると思っております。
一方、この考え方は、契約主義に伴う契約です。海外の場合は契約主義のため、契約の期限内に最大限の効果を発揮して、よりよいジョブや報酬を得るというのは当然のことのため、至極当たり前のことだと思います。
我が国においても、年功序列が廃止され、年俸制、契約によってことを進めるという点があります。契約で、限られた事業期間内に最大限の効果にするという点において、時間の流れを未来から過去にするという考え方を持たれている人は、プロジェクトマネジメントをやっている人は、恐らくその流れでやられているかと思っています。これは個人的な考え方です。
もう一つは、これも個人的なことですが、私は経歴が複雑というか、元は人文社会科学系で学位を取り、民間企業にも勤め、その後に医療系の大学に入り直し、大学院を出て、研究開発もやり、今はマネジメントをやっていますが、様々な、文系・理系と分けるのはとても嫌いですが、文系も理系も両方を分かっていますし、なおかつ、産業界のことも分かっています。公的なことも分かっています。いろんなことを分かっています。ただ分かっているだけでは駄目であり、情報を知恵に変えるということを何よりも重要視しています。世の中、情報を持っていて、できるかできないかしか判断しない人があまりにも多いと感じています。情報を知恵に変えること、それがナレッジワーカーだと思っており、新たな価値を生み出す人間だと思います。これらをすることにより、他の業界の情報を知恵に変えるという作業を自分自身の中できるようなスキルが身についたと思っています。これはトランスファラブルスキルかもしれません。いろいろな業界を知っておく、情報を知恵に変えるというのが最も重要であると個人的には感じています。以上です。
【高木委員】 どうもありがとうございました。
【小泉主査】 ありがとうございます。野口先生、お願いします。
【野口委員】 佐藤先生、ご説明ありがとうございました。J-PEAKSの提案コンセプトもすばらしいと思って聞いておりました。
お伺いしたいのは、プロジェクトマネジメントに関してです。幾つかのスライドにもありましたように、バックキャストで目標設定をしっかりと立てながら、アジャイル型で短期間で成果を出していくというのは、フロー的にも私はすばらしいと思うのですが、一方で、そうするためには、多様な、また高レベルのスキルのあるメンバーを国内外や企業、また場合によってはURA、事務職員、学生なども交えて、多様なメンバーシップを入れているからこそ、いい成果も出ると思っております。
その上で、実践するためのマネジメントが本当に難しいと思います。成功する秘訣はとお話がありました、共通の言語化というのはよく分かります。お聞きしたいのが、逆にこのようなマネジメントをすると必ず失敗する、このことが回避できれば大体よい成果に導くことができる、というポイントを幾つか教えていただければと思います。
一貫してご指摘されているレポートラインがあやふや、混線しているというのはダメだ、ということは、あると思うのですが、その点も踏まえて、ご経験から教えていただければと思います。以上です。
【岡山大学(佐藤様)】 野口先生、ありがとうございます。また日頃からお世話になっております。
失敗することはない、失敗を失敗と捉えるかどうか、哲学的ですが、失敗する確率が100%のものは人間関係だけです。これだけは言えます。人間関係というのは、日本だから、業界だからという話ではなく、人間関係がこじれているプロジェクトに関しては絶対にうまくいかないので、人間を変えるというのが一番の対処です。
もう一つは、レポートラインのスリム化、短縮化というのもありますが、先ほど申した分掌です。分掌というのはしっかりと責任と権限を分けるということです。これはよくあることですが、例えば研究チームというと、研究者が真ん中におり、研究支援員やURAなどが周りにいる、ということを言われのですが、これは海外で言うと、例えばチームの監督が、例えばURAや研究開発マネジメント人材であり、選手が研究者であるということになります。コーチが知財マネジャー、や産学連携コーディネーターなどで、チームで仕事をしているということです。それはそれぞれ権限が分掌されているのでうまく回るので、プロジェクト、組織においても権限を分掌させることが重要だと思っています。
加えて、失敗と成功というか、先ほど野口先生が言われていましたが、物事を、プロジェクトをやる際に、道が失敗か成功に分かれているようなことを考えられると思います。どっちらかの道が成功、あるいは失敗、となりますが、そうではありません。失敗の先に成功があるのです。道は1本しかないのです。日本人は、私も日本人ですが、成功か失敗かで道が分かれていると誤解しているのですが、道は1本しかなくて、失敗の先に成功がある、失敗を重ねて成功がある、そのため失敗を失敗と思わないこと、それは成功に近づいたと思っておくのがよいという思想があります。
【小泉主査】 ありがとうございます。
【野口委員】 佐藤先生ありがとうございました。複数のパターンから、これはというものに絞っていくというのが非常に多かったのですが、その先は1本しか道がないのがよく分かりました。大変勉強になりました。ありがとうございました。
【小泉主査】 ありがとうございます。ローランドも言っていますよね。一本の道で、失敗の先に成功があると。
【岡山大学(佐藤様)】 落とし穴もありますが。
【小泉主査】 細かい議論はまた後ほどさせていただこうと思うのですが、僕から1点、今の話に関わるとすると、決断ができないのはリスクテイクができないからだと思います。失敗したときにリスクをテイクして、先に進むということができないから、失敗を恐れて決断ができないとなっていると思います。したがって、失敗を恐れずにといった場合に、リスクテイクをしっかりと、誰がレスポンシビリティーを持ってリスクテイクして、リスクヘッジをどうやってしていくのかというところまで考えていかないと、失敗をした、お前が悪いのだという組織体系だと、お前が悪い、お前が首を切れというような話になってしまうと、結局皆決断もできず前に進まないという、そういった文化体系があるのかと思いました。
【岡山大学(佐藤様)】 これは小泉先生の言われたとおり、那須学長も私もですが、決断して前に進めようというときに失敗という言葉を使わないです。「最適化」です。決断して、やってみて、不十分なので、失敗することは当たり前ですが、それを最適化することをどれだけの短時間でやるのかが重要です。成功するか、あるいは最適化だといつも思っています。
【小泉主査】 ありがとうございます。
続いて、先に進めた上で議論をもう一回したいと思います。
続きまして、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所、特任部長、特任部長、研究戦略担当の中村敏和先生にお願いしたいと思います。中村先生のような一流の研究者が、技術職員を率いる立場のトップにいるということは本当に我々としても誇る、自然科学研究機構としての誇るところです。「大学共同利用機関における技術職員の人材育成」と題してお話をいただきます。中村先生、お願いします。
【自然科学研究機構(中村様)】 小泉先生、ありがとうございます。私は中村と申します。研究力強化戦略室で、今URAの職をやっておりますが、2足のわらじで研究者もやっています。去年の11月に、主と副が代わって、URA側になりましたが、まだビギナーのため何とぞよろしくお願いいたします。
そして、私のドライビングフォースをまず御紹介したのですが、私は60を超えているので、大学院に進学したのが1987年、バブルが絶頂のときで、日経が3万、何万円になっていて、当時の為替レートが150円ほど、ちょうど今のような雰囲気でした。私は長い間京都大学だったのですが、当時の京都大学は何もありませんでした。1か月あると、1週間東京大学の物性研究所に行き実験し、1週間くしくも分子科学研究所に行き実験し、2週間残り東京大学でサンプルを作る等しており、本当に何もありません。大学に装置がありませんでした。したがって、大学共同利用機関を、私は育ててもらったし、これからは育てたいというのがドライビングフォースになって、今の仕事をやっております。
本日御紹介する大学共同利用機関ですが、髙見様からは網羅するよう言われましたが、実は4機構、19の研究所があります。そのうちの一つは人文社会系で、人文社会系のほうは個人プレーのところのため、技術職員というのは、設備等になるので研究系の方はおられません。加えて、情報システム研究機構、例えば極地研究所というのは、技術職員がそもそもいない、研究系の技術職員がいません。教員としてやっていただいているというところがあります。あと高エネルギー加速器研究機構は、我々の自然科学研究機構と大体似たような感じのため、自然科学研究機構の事例を中心としてお話ししていきたいと思います。
5つの研究所から成っており、国立天文台は一番有名だと思いますが、核融合研究所が岐阜にあり、3つの研究所が愛知県の岡崎市にございます。
大学共同利用機関法人のミッションとして、大学共同利用機関というものは、一つの大学では維持管理できないような大型装置あるいは先端装置を置いて、全国の大学の方に使っていただくという、それをミッションとしてつくられている法人のため、当然のことながら、先端装置や大型装置があり、それを維持管理する必要があります。したがって、技術職員の方もそれをミッションとして重々理解していて、まずサービスを行う、維持管理を行うというところを非常に強く思っています。
そのようなところがあるため、外来の研究者に対してサポートするということがあります。実際私も学生の時には分子科学研究所の技術職員の方に実験をたくさん教えてもらい、学位を取得するに至っておりますので、本当に彼らなし、彼女らなしには生きていけないという感じになっております。
もう一点、技術職員が大学共同利用機関の場合は、割と組織が大きく、また大型施設を持っています。我々も放射光施設を持っているため、非常に結束力が強く、大学では技術職員は必ずしも体系化されないところが多いと聞いておりますが、大学共同利用機関では、割とユニットとして成っているところが多いです。
例えば、これは分子科学研究所の事例です。分子科学研究所には、技術推進部が存在します。これは3年前に部になりました。技術職員の人は、今までは最高で課、課長だったのですが、キャリアパスをしっかりさせるためには職種を上げて、ありていに言うと、給料を上げるような仕組みをつくるために部にしました。しかし、今のところ技術推進部長は教員から移った人しかいないため、これから、技術職でたたき上げた方がなるだろうと思います。
もう一つのキャリアパスのところの特徴ですが、技術推進部長は任期つきで交代になります。したがって、なったらなりっ放しではなく、様々なチャンスを与えるというふうになっています。ユニット長も、これも交代で行うというようになっています。
この4つプラス1つのユニットに分かれますが、実際の業務というのは、多岐、専門性が特に分かれています。例えば、これは分子科学研究所の例ですが、一番上が大型計算機を扱う計算ユニット、2番目の光技術というのは、我々が持っている放射光の施設です。放射光の運転は特殊なため、それのユニット、加えて、私が属している機器分析ユニット、これも先端装置の共同利用をしています。そして装置開発ユニット、これは加工、微細加工とか、あるいはマシン等をつくっているところ、及び共通業務があります。このように専門性がどうしても分かれているため、ジョブローテーションをするときには、推奨しても実際には難しいというようになっています。
それから、大学共同利用機関法人特有の事情ですが、学術プロジェクトの幹事機関となることが多いです。これは優秀だからというわけでなく、共同利用の元なので取りまとめをしやすいということで引き受けることがあります。
まず、一つが大学連携研究設備ネットワーク、これは2007年のときに文部科学の特別経費でいただいたものですが、現在は運営費に組み込まれております。また、機構本部からも支援を受けております。これは運営費で行っています。
2番目がマテリアル先端リサーチインフラ、これは文部科学省研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付で、昔はナノテクノロジープラットフォーム事業として実施していたものですが、これも分子科学研究所は今スポークとして参画しております。それから去年から開始した学際領域展開ハブ形成プログラム、スピン生命フロンティア、これも大学研究基盤整備課のプロジェクト等があります。
Q-LEAPとムーンショット、これはどちらかというと個人研究者のミッションになるので、今回は先の3つのお話をしていきます。
このプロジェクトの多くのミッションは、技術職員、技術系職員のキャリアパスをミッションの一つにするように入れ込んであり、期待されているため、こちらは予算的、プログラム的に推進することが可能となっています。
一方で、例えば2番目にあるマテリアル先端リサーチインフラ、これはDX事業ですが、データリポジトリをやる、DXリモート化をしていくという意味で、これは技術職員の方には、少し負荷がかかるかと思います。仕事を行う以上に成果を出すということが期待され、負荷がかかっているというところもあります。
逆に、学術論文の共著になることもあるので、我々の機器センターの技術職員は、多くの方がドクターを取っていますが、トップジャーナルにも名前が出ていることもあり、それが一つのエンカレッジになっております。
次に、人材育成の事例というところで、我々分子科学研究所並びに大学共同利用機関の研修事業というものは、ほぼ業務内で行っております。業務費用も所の費用から出していることが多いので、裏返しになりますが、現在、就業時間が厳しくなっているので、例えば土日の研修というのが大変難しくなっているのが、それは技術職員の方々からも逆に、例えば残業をつけてほしい、あるいは土日も何かつけてほしいという、我々としても土日に研修がやりにくいなということがあります。
事例ですが、プロジェクト推進型の事例ということで、大学連携研究設備ネットワーク、研究設備の共用事業でも研修を行っています。実際に参画している大学が、設備を共用しているほうの参画機関ですけが、78のため、多くの大学に参加していただいています。利用されているほうは600近いので、かなり多いのですが、「人材育成・啓発活動」を行っております。
講習会、研修会を34件やっています。コロナ禍もありましたが、旅費が要らないということでハイブリッド開催がかなり増えております。延べ人数1,100名程度で、これは自然科学研究機構、分子科学研究所だけではなく、全国の方に参画していただいています。
この人材育成のページがホームページに載っておりますので、御興味のある方は御覧いただければと思いますが、これの情報を発信しております。大学連携研究設備ネットワークに入っている86の機関にメールで研修情報が流れます。加えて、様々なところとタイアップしており、情報のやり取りをここでしているので、主だった技術職員、分析系ですが、分析系の技術職員にはこのメールが流れ、どういうことが行われているかということをやっています。大学連携研究設備ネットワークに関しては運営費でやっておりますので、自然科学研究機構から再配分が可能になっております。主催者を見ると、分子科学研究所以外にも大阪大学や静岡大学、鳥取大学とあるように、各大学の支援を行うことができます。
加えて、オンラインがこの御時世大変多いですが、大阪大学、名古屋大学というように、オンサイトで他の機関でやっていると、このような事業に関しても分子科学研究所は支援しております。これも共同利用機関法人としてのミッションとして、このような各大学で行われるところに支援を行っております。企業とかで行っている例もございます。これは現在、分析系、物理科学系ですが、生物系にも進めようということで、小泉先生を含めて、もんでいるところです。
次に、これは過去にあった事例で、分子科学研究所のYouTubeチャンネルにその動画をアーカイブとして残してあります。これはせっかく撮ったというのもあり、加えて、若い人材の方も来られる、あるいは新たにこの装置も使用したいという方もいらっしゃると思うので、YouTubeに載せてあります。本当に実践的なため、利用者の方々からは割と好評を得ています。座学では入らないような情報が目に入るので、非常に利用をしていただいております。
次に、この設備ネットワークのこのような事業は、他の設備共用事業とも連携を行っています。マテリアル先端リサーチインフラは分子科学研究所がスポークとして参画しておりますが、多くの講習会は共催でやっております。したがって、大学連携を進めるという、分析機器センター、全国の大学の、そこに情報を流すと同時に、マテリアル先端リサーチインフラ、ARIMと呼んでいますが、それの参画大学、そちらは必ずしも分析とは限らずに、微細加工等も行っているところが多いので、そのようなフィールドの技術職員、あるいは研究者の方にも講習会に関する情報が行っております。
さらに、これは国立大学機器・分析センター協議会とも連携しており、分子科学研究所も2018年から入っており、私も事業検討委員会に入っております。
もう一つ、先の江端先生がやっておられるコアファシリティ構築支援プログラムのうちの一つ、東工大のTCカレッジ、そちらともタイアップしておりまして、お互い相互乗り入れをしております。TCカレッジの講師を私が務めておりますと同時に、自然科学研究機構は施設見学ということで、去年はTCカレッジに参画している技術職員の方が、国立天文台の見学と、研修を行っています。加えて2024年度、まだ具体的に決まっていませんが、岡崎地区の見学を希望されているので、その対応をしていこうと思っております。
次のページ、文部科学省研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付でやっているマテリアル先端リサーチインフラ事業ですが、こちらは、参画25法人の技術職員、あるいは技術系支援員が一堂に会してお話をするという会があります。ARIM事業自身はDX事業で共同利用、共用事業に参画されている方のDXをするのですが、そこに参画されて、支援している技術職員の方々のスキルアップ、講習を年に1回オンサイトでやっていることがあります。去年は九州大学で行いました。
そこでは、各技術支援員ですが、分子科学研究所の例を挙げていますが、各自自分の業務を紹介し、あるいは他の技術支援員の技術支援を見学、質問し、これは教員も参加するため、ポスター発表をしながら、お互いの情報交換を行うということをやっております。オンサイトの話です。これはプロジェクトの受託事業のため、参画している技術職員に関しては、潤沢な予算があって旅費の支援ができるのですが、問題点は、これは参画機関に限られてしまうため、つまり入っているほうの25法人のみに限られているため、先ほどの設備ネットのほうはかなり自由度があるのですが、こちらは支援が限られるというふうになっています。
次に、これは分子科学研究所の例ですが、各ユニットで独自に行っている事例です。これは計算情報ユニットとして、技術職員が自ら案を練ってやるというものです。これは計算情報ユニットのため、スーパーコンピューターのワークショップを開催しております。無論これは教員が発表して、教員の仕事もやりますが、そこに技術職員も参画して、シミュレーションや量子化学計算に関するスキルの講習会を講演する、あるいは受講するということをやっております。
分子科学研究所の中で一番オフ・ザ・ジョブトレーニングが充実しているのは装置開発ユニットで、本当に毎日のように、日記のように、4月、5月、6月には書いてあり、特に新人研修がとても充実しております。装置開発は、当然加工のほうが多いので、それに対する技術をオン・ザ・ジョブ・トレーニングでやるのは当たり前ですが、分子科学研究所の放射光施設が主なユーザーのため、加速器が何たるや、真空とは何たるか、あるいは光について勉強しようと、物理学を本当に勉強しようということもやっております。これは多様な、だるま落としか何かを実際加工してみまようということをやっています。
それから、装置開発ユニットでは、マネジメントスキルを向上するということもやっております。国立天文台が一番熱心にやっています。技術職員全体の研修というのが無論あり、これも所として支援しながら行っています。
分子科学研究所のその他の事例ですが、自然関係研究機構、5研究所で、異分野の技術職員に対する連携も、回数が多いわけではないですが、行っています。岡崎地区には生物系の研究所があるため、お互いのやっていることを理解するということがあります。
加えて、個人研修の事例ですが、これはARIM事業とか、それから設備ネットでは様々な研修を提供しています。自分のスキルアップというものもあるのですが、例えば、Pythonのコードを勉強しよう、あるいは英語研修等を行っています。これは割と好評です。さらに、他大学、あるいは他の学会が主催しているものに対しても、分子科学研究所としては、これは一例ですが、TEM講習会、佐賀大で主催されたものに分子科学研究所の技術系職員が参加して、これも業務内として旅費支給を行っているため、このようなところも手厚く行えているのではないかと思っています。
分子科学研究所の若手の女性の技術職員が、自ら率先して情報共有サイトを構築しております。多様なSNSがあるので、技術職員も様々なところで情報共有されていますが、これはアーカイブをつくり、今までの蓄積した技術やスキルを分子科学研究所、自然科学研究機構のサーバーを利用して載せているため、これはフリーアクセスできます。これも、大学共同利用機関のミッションとして、全国の大学の方に情報を共有する場を提供しようというところでこのようなサイトをつくって展開をしております。
他研究所の事例ですが、同じく生理学研究所のほうです。岡崎地区にある、これはスモールサイエンスをやっていますが、人材育成のほうです。学外のこれは生理学研究所の実験トレーニングコースというのがあって、学外、他の機関の若手向けのトレーニングコースがあるのですが、そちらにも技術職員の方が指導的役割をされています。生理学研究所では、科研費の申請の奨励、これは東工大TCカレッジも同じようなものがあったと思いますが、科研費を出していこうということをやります。
生理学研究所のもう一つの面白いところは、データベースを構築している点です。技術というのはその人が退職してしまったら終わってしまうので、それはもったいないということで、データベース、アーカイブをつくっています。
次に、キャリアパス制度です。研修と、キャリアパス、現在、不可分なところが多いですが、その一つの例として、生理学研究所の事例を御紹介しますが、生理学研究所はまだ課ですが、お給料をなるべく、必ずしも技術職員はいい待遇ではないので、待遇をよくしようとしております。〇〇長、班長、係長等を置くと、その人が一度なってしまったら空き場所がないということになるので、班長相当の技師、あるいは係長相当主任技術員というポジションをつくり、そこで給料を上げるよう、職階をつくり、そこにスキルアップしていくよう、あるいはエンカレッジするような制度を設け、技術職員の労働意欲を上げていこうというものをやっています。これは分子科学研究所でも行っております。
そして、国立天文台の事例ですが、国立天文台はかなり面白い事例をやっており、技術職員のほかに研究教育職、教員も含めて技術系の組織をつくっております。研究職ですが、教育を行わず、専らそのスキル向上、測定技術を行うというエンジニア職員が存在していて、技術職員と言わず、技術系職員というふうに称しているそうです。総勢が60名程度で、技術職員40名、研究系の教育系職員は24名と、そのような制度になっています。こちらは、国立天文台は部や課という組織ではなく、特定のプロジェクト、あるいは研究部門にぶら下がっている形になっております。
次のキャリアパス、これが割とユニークなところで、左の列は教員のキャリアパスのカラムになっています。右側が、技術職員のキャリアパスのカラムになっています。これは多くの組織ですと、独立なカラムとして相互作用がないのですが、国立天文台は、斜めの線がございます。これが、スキルをアップしていくと、左上に上がる、あるいは右上に上がることができるので、頑張っていけば上のキャリアを目指すことができるということになり、知識の共有、知識の交換ができるというところが国立天文台のユニークなところになっています。
国立天文台のキャリアパス、研修制度ですが、これもユニークになっており、重点項目(2)のアのところには、目指すべき職務系統と、目指すべき職務系統に応じた人材育成のスキーム(モデルキャリアパス)が大事ということがあり、その右側に樹形図的なものがありますが、キャリアを踏んでいくとともに、自分自身が進んでいくところの選択ができるようになっています。最近の事例のため、今は途上だと思いますが、例えば本当に技術職員の通常業務を極めるというコースから、マネジメントを進めていくようなスキルを磨いていく人と、そのようなジョブが分かれる、個人の指向に合わせて分かれていくようなコースが用意されているということで、これは非常にユニークなところですので、このようなところ、このような事例は、私も調べましたが、分子科学研究所でもこのようなものがあったらいいかと思っていました。
このように様々なことを努力していますが、無論問題もあります。職階制度を用意して頑張って上がっていきましょうというのをつくっていますが、技術職員の意識として、プロモーション、要するに出世しようという意向は意外にありません。これは2つあると思うのですが、1つは技術職員になるという方は、人のためになりたいという指向が強い方が多いので、現場から離れたくないという指向が意外とあります。もう一つ、これはネガティブな意見ですが、もう教員のように本当に過労死するレベルで働くほどでもないと思っている方も結構いるので、あまりしんどい仕事は嫌だと思っている方もいらっしゃいます。どちらかというと現場志向が強い人、管理職は躊躇される方が多いので、これは教員が、そんなことはないと、現場にも携わることができるとエンカレッジしていく必要があります。
ジョブローテーション、これは本当に様々なところを回ることができるほうが本人のためにも、組織のためにもよいと思うのですが、今とても装置が高度化しています。実際問題、教員が分からないという装置がたくさんあります。したがって、技術職員の方が他に異動するということは、異動されたほうはぽっかりと大きな穴が開くため、大変なことです。したがって、知識を共有することと実際にジョブを回すということは難しいので、知識の共有はできると思うので、そのようなところでやっていたただくのかと思っています。
さらに、これは技術支援員、今日御紹介した例はほとんど技術職員ですが、常勤職員で、多くのところでは技術支援員という、30時間労働の方もいらっしゃいます。特に生物系の研究所では、技術職員以外に技術支援を行う短期の、短時間の契約職員の方が多くいらっしゃいます。分子科学研究所にも少なからずいます。その方々は、近年はしっかりと長時間を望みたいというところの傾向があるのですが、技術職員の数は限られておりますので、雇用に関する方策が求められているというところがあります。
私は雑駁な話を申し上げましたが、以上になります。ありがとうございました。
【小泉主査】 中村先生、ありがとうございました。
僕自身も、大学共同利用機関法人に来て15年以上にもなってしまうので、今、中村先生のお話にもあったように、技術職員がPhDを持っていて論文を出すというのは普通に考えていたのですが、大学からするとすごいことなのかもしれないです。組織立って動いていて、教授職の技術職員もおられます。それは一般的かと思っていたら、大学ではそこまでではないというのは恐らくあるのかと思います。
一方、大学共同利用機関法人からすると、技術人材はとても大切で、教員が上、下という問題ではなく、いないと研究が回らない、まさに大切な存在だと思っています。中村先生、ありがとうございました。
全体討論に入っていきながら、中村先生への質問もあると思っております。まず、桑田先生、今の中村先生への質問でなくても構わないので、いかがでしょうか。
【桑田委員】 ありがとうございます。
まず、先ほどの質問です。私は大変重い課題を長い間抱えていて、今日答えを半分ほど教えていただけた感じがして、佐藤先生ありがとうございました。
実は何が悩みかというと、役割分担で仕事をするという考え方、責任と分担をクリアにしようというところが非常に心に響いていて、どうしても企業だと組織で動こうというような考え方が常識で、役職が偉いのではなくて、それは役割だという考えが、1990年代ほどから随分常識化されてきているんです。ところが大学だと、例えば教授の先生は大変偉いということがあり、物申せないようなスタッフの人たちを見受けることが多いです。そうすると、全体としてプロジェクトをよりよいものにしていこうというときに、なかなか言い出せないでいるということが、私はダイバーシティの担当でもあるのですが、心理的安全性が担保されていないとよく言うのですが、いずれにしても組織の常識となっているようなバックグラウンドの考え方を、少し風穴を開けない限り、なかなかこのような役割分担で仕事をするということの意識改革は成せず、どうしたものかと長い間思っていました。
ところが、今日プレゼンしていただきまして、組織がこのような形で、岡山大学は本当にすばらしくて、いろんな形で、役割分担で物事は進んでいくということをおっしゃっていただきました。これは組織としての常識が変わっていく、そのようなことに関して、どのようなオリエンテーションや、どのような働きかけをして、このようなところに至った、このような体制に至ったのかというあたりの状況をお教えいただいて、私たちもやっていくべきことのヒントにさせていただきたいと思うのですが、お願いできますでしょうか。
【岡山大学(佐藤様)】 ありがとうございます。こちらは、個人的な感想もありますし、全体を見回した感想でもありますが、本学が12年ほど前にURAの制度を整備したときに担当された、故 山本進一先生の功績が多大であったと思っております。これは岡山大学URAを、最初は4人、年俸1,000万で確保するということを山本進一先生が決められ、その際に研究担当理事とURAはパートナーである、同等の仕事をやってもらうということなどを決められました。その際によくURA教授やURA准教授、URA助教という職階を設けようという議論があったのですが、山本進一先生が「それはあり得ない」とおっしゃいました。これは、例えばURA助教の人が、教授職である学部長や研究科長にあれこれと指示やお願いができるかということです。つまり、URAというのは高度専門人材であり、理事と同等の仕事をし、指揮命令の権限を持っているというのを明確に位置づけている人に、「助教」とかの教員の職階はあり得ないという話です。またURA制度定着と理解のために学長や理事の方々が各部局に、URA制度の説明に行き、10年以上かけて岡山大学の中で浸透させて行ったという点があります。
またもう一つ、J-PEAKS、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業の取組もありますが、大学では教員になると教員以外に異動できないという点があります。例えば教員になった後に事務職に異動しないというのがありますが、これが規定上できると、教員から事務職員に異動することができます。しかし、できないという風潮があり、このようなものをしっかりとできるような制度づくりを今やっています。本当は規定上はできるのですが、皆やらないというのを、それは心理的安全性等様々あるのですが、それができるような、なおかつインセンティブを与えるような制度設計に今取り組んでいます。
組織風土という点においては、トップの学長や理事が全て部局に回って説明をするというのを必ずやっています。例えば教育研究評議会だけで説明して終わりではなく、その後に学長等が各部局に回り、大変長い時間を取っていただいて質疑応答するというものを必ずやるようにしています。
それで十分でないというのもあると思います。人は、なかなか変わらないと思っていますが、若い方々を積極的に変えていきたい、エンカレッジしていくようなシステムにしています。以上です。
【桑田委員】 ありがとうございました。制度設計は頑張ってやっていくつもりではいるのですが、どうしてもバックグラウンドに背負っているものがどうもある感じがして、そういう意味では、山本進一先生がやられたように、粘り強くお話をして回っていくということも大切であるということをよく理解いたしました。ありがとうございました。
【小泉主査】 ありがとうございます。では改めて、中村先生の質問も含めて、いかがでしょうか。正城先生、お願いします。
【正城委員】 御説明ありがとうございます。中村先生に質問です。
大学による利用と、それ以外の例えば民間機関等の利用との考え方の違いというのが、機構の組織運営上どう位置づけられているのかというのを伺いたいです。具体的に言うと、例えば利用料や、利用いただいたことの成果の評価指標等、少し違うかとも思うのですが、そのような点を伺いたいです。
【自然科学研究機構(中村様)】 まずお金ですが、それは大学共同利用機関の運営のほうはしっかりと明記されており、大学関係に関しては、共同利用に関しては、お金は取らないとなっています。分子科学研究所に至っては、限られていますが旅費も支援しております。民間のほうは、しっかりとコストを計算し、コストではまる範囲内でお金を徴収しています。
さらに、例えばプロジェクト等他のものに関しては、無論民間利用を妨げるものではなく、民間利用を増やしたほうがよいというものもございますので、それは受けています。一方、我々が持っている装置はアカデミア向けの装置が多く、決してヘジテイトするわけではないのですが、産業利用がさほど大きいわけではないです。それは全然躊躇しているわけではないです。
【正城委員】 利用されたことを評価するというのは、利用した大学が学術的な価値を生み出す論文等を評価されるのでしょうか。
【自然科学研究機構(中村様)】 そこまでお願いしているわけですが、実際問題そんなに深くは追及していません。ただし、共同利用された方には、体系型の課題番号を振っているため、論文にはそれを載せるよう指示しています。協力研究という教員が絡むほうに関しては、それは成果を出すようお願いしています。
【小泉主査】 ありがとうございます。稲垣先生、どうぞ。
【稲垣主査代理】 御説明ありがとうございました。中村先生にお伺いしたいのですが、最後のスライドでジョブローテーションが困難と、これは素人的にも何となく分かるのですが、先ほども産業利用でない、アカデミア寄りの機械だからというようなお話があったのですが、そのような機器開発を行っている企業との人事交流や、企業から技術職員として入ってこられる、あるいは技術職員だった人が開発のメーカーに行かれるといったことはあるのでしょうか。
【自然科学研究機構(中村様)】 それは今、例えば大学の学際ハブというのをやっていて、それをやりたいと思っているところですが、ただ多くの機械は、残念ながら日本製でないので、海外の方が、無論海外の日本法人はあるのですが、海外の日本法人の方がコミットするということは、どちらかというと躊躇する例が多いです。ただし日本のメーカーもございますので、それを今、お互いクロアポ等何らかの形で参画してもらえないかというところを実はたくらんでいるところです。
【稲垣主査代理】 ありがとうございます。
【小泉主査】 ありがとうございます。他にいかがでしょうか。杉原先生、お願いします。
【杉原委員】 佐藤先生の御質問ですが、教員や技術職員あるいは事務職員を高スキル化、高スぺック化していく中で、その待遇として、生々しいお話になるのですが、お給料をある程度、能力に反映させていく必要があると思っています。一方で大学では、従来の事務職員の給料表や教員の給料表があり、そこからどこまで大きく変革できるものなのかというところを教えていただければと思います。
その背景は、ある程度、高スペック高スキルの人材に対して、待遇はよくしていかないと、言い方は悪いですが、他機関へ流出していってしまうのではないかという点が育てる側からすればあり、どのように、これらの人材を自分たちの大学でしっかり維持し、雇用を確保していくのかが今後の大きなポイントかと思ってお聞きするところです。
【岡山大学(佐藤様)】 ありがとうございます。経営的な立場、副理事の立場からすると、お金を、コストを抑えたいので、給料はあまり上げたくないというのは当然の話です。副学長の立場としては、大学の強化という点で、お給料を上げるべきだというはざまにおるのですが、基本的に、例えば技術職員に関しては、高度化がもう喫緊の課題であるという点がありますので、給与等を調整する、要するに上げていくということを施策として挙げています。
例えば入り口、初任給としても博士号を取っている人だと、最低でも30万円ほど出すのは当然だと個人的には思っています。むしろ、民間で30万円では博士人材は採れないので、それ以上を出さないと採れません。そのような点を考えて、技術職員に関しては、入り口は30万円ほどにしようというのを、今実際に考えて近々発表できると思います。事務職員も含めてそのくらいのレベルにするということを進めたい次第です。
入った後のキャリアパスにおいての給料ですが、これは、岡山大学は経営的に人件費が高い、そもそも給与が高いという点もあります。それを抑制しようというのは我々経営層の立場ですが、できる人を上げていきたいという点を考えています。その点において、手当というのを一つ考えています。例えばプロジェクトマネジメントのPMPの資格を取るとか技術士の資格を取る等、その手当をつけるということです。そのようなことを考えている次第です。
さらに流動性という点も我が国の研究力強化などの点で大変重要です。岡山大学に長い間いていただくことも有難いことですし、我々第二レイヤーと言われている、旧帝国大学の下にいるラインの大学としては、流動性を考えた際、良い人材は動いていただく、給与が流動性を持たせるという点も施策として考えています。この大学よりもあの大学に行こうかなというのも少し考えて流動性を持たせるというのは経営的な立場としては少しあると思っています。
いずれにしましても、基本給ではなく手当給でインセンティブをつける、なぜかというと、手当というのは、頑張ったら取ることができる、頑張らないと取ることができないというので、行動変容が起こしやすいという点、基本給よりも手当給でインセンティブをつけたほうがいいというロジックがあると思います。
【杉原委員】 ありがとうございました。よく分かりました。
【小泉主査】 技術職員の待遇に関して中村先生、既に発表されている内容以上に何かございますか。
【自然科学研究機構(中村様)】 少し離れますが、文系の方も博士号を取るようにという、それは面白いと思います。博士号を持っていると特任専門員の給与体形に乗るので、給料を上げられます。したがって、技術職員もそうですが、学位を取るような社会にしていくと、地位の向上、あるいは給料が出しやすくなるというのがあるので、そのようなものを積極的にエンカレッジしていけば、技術職員の待遇も、事務職員も今多分大変だと思うので、よくできると思っています。
【小泉主査】 ありがとうございます。野口先生、いかがでしょうか。
【野口委員】 私も中村先生にご質問ですが、最後のスライドにもありますように、共通する問題は、人材の確保だと思います。技術職員におかれては、先ほどお話がありましたように、他機関に転籍するというのは非常に特殊な機器操作の関係もあり難しいと思います。一方で、無期雇用者を確保していくには恐らく定員という概念があると思います。そのような定員枠の中で、シニア職員の方々が増えてくると思われます。そうすると、若手の職員を雇用して、技術伝承をしていくようなことも必要で、若手職員の定着化なども課題になってくると思います。
先ほど佐藤先生がおっしゃったように、ある域の職員になると、職域を超えた職種に行く、あるいは、様々な職種への複線化もあるかもしれません。例えば知財のほうに行く、場合によっては外部との交渉で活動するURAに行く等あると思うのですが、とりわけシニア職員の処遇や新たな働き口の模索など、若手職員の定着化との兼ね合いや技術伝承の観点、組織のガバナンスの観点などについて、もう少しお伺いしたいと思いました。以上です。
【自然科学研究機構(中村様)】 分子科学研究所は、割と回っているのですが、それでも定員があり、年齢が高い職員がたまると言っては失礼ですが、上のほうに高い年齢がたまるということは起こりがちですが、今、分子科学研究所は、定員とは別に技術支援員等他の形で技術支援の候補となる人材にまず来ていただいて、言い方は悪いですが、枠が空いたところで技術職員に転換していただけないかというお願いをして同意していただける人にはそのようにする、あるいは若手の人材をあらかじめ別の形で雇用していただいて、技術の継承をするということも取り組んでおります。
具体例はそこまで多くないですが、今現在やっているので、そういうことで技術の継承ができたらと考えております。
【野口委員】 ありがとうございます。ある枠でそういう若手の方を一定、もちろん希望もあると思うのですが、確保しながら技術伝承をしていくということもよく分かりました。ありがとうございました。
【小泉主査】 ありがとうございました。時間が過ぎてしまったので、今日はここまでにしたいと思います。まだまだ議論が足りないところがあるかもしれませんが、今日はお二人、佐藤先生、中村先生、どうもありがとうございました。
それでは、最後に事務局より事務連絡をお願いいたします。
【大場人材政策推進室長補佐】 事務局です。次回のワーキング・グループの開催日時等につきましては、先日メールにて御連絡しましたとおり、5月17日金曜日を予定しております。
本日の会議の議事録につきましては、作成次第、委員の皆様にお目通しいただき、主査に御確認の上、文部科学省のホームページを通して公表させていただきます。
以上です。
【小泉主査】 どうもありがとうございました。それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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