~従来にない全く新しい分子標的抗がん剤の創薬スタートアップ起業を目指す~
東京理科大学
国立がん研究センター
三菱UFJキャピタル株式会社
【研究の要旨】
東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 椎名 勇 教授・村田 貴嗣 助教らは、独自の有機合成技術を活用することで、従来にない分子標的抗がん剤を創出しました。国立がん研究センター 研究所 がん細胞内トラフィック研究ユニット 小幡 裕希 独立ユニット長(併任:東京理科大学総合研究院 創薬研究開発センター 客員准教授)との共同研究を通じて本剤はがん細胞を特異的に死滅させる新規作用メカニズムを有することが明らかとなり、動物実験により強力な薬効と安全性の両面が確認されました。本剤の開発が進むことで、既存の抗悪性腫瘍薬や分子標的薬では対処困難ながんにも適応可能な新しい治療法が確立できるものと期待されます。
本プロジェクトは、三菱UFJキャピタル株式会社が事業化推進機関となり起業を図るもので、科学技術振興機構(JST)の2024年度ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)(*1)に採択され、治験を目指す新薬開発が一層加速するものと期待されます。
【研究の背景】
東京理科大学の椎名 勇 教授(総合研究院 創薬研究開発センター センター長併任)、村田 貴嗣 理学部助教、下仲 基之 理学部教授、および真野 泰成 薬学部教授らは、がん細胞を取り巻く腫瘍微小環境を制御することのできる薬剤である分子性化合物「ヒナペン類縁体」を創出しています。「ヒナペン類縁体」はがん細胞をアポトーシス(細胞死)に導くとともに、腫瘍塊の肥大やがん細胞の浸潤、他の臓器やリンパ節に広がる現象(転移)を抑制します。東京理科大学の研究者らはがん細胞を用いた「ヒナペン類縁体」のマウスゼノグラフト試験を行なうことで悪性腫瘍を消滅させる動物実験に成功しています。
【研究結果の概要】
ヒナペン(*2)は1993年に北里研究所の大村 智 教授らによって単離・構造決定された化合物であり、抗コクシジウム活性を有することが知られています。ヒナペンは多置換オクタリンまたは多置換デカリン骨格をもちます。もっとも複雑な構造を有するヒナペンAには立体中心が8つあり、また二重結合部は2ヶ所あるため、立体およびシス-トランス構造異性に関わる炭素骨格部位は合計10ヶ所あります。そのため、ヒナペンAを人工的に入手するためには、2¹⁰個=1024個の化合物の中から1つだけを選択的に合成する技術が必要でした。椎名教授が創出した「ヒナペン類縁体」も同様に、目的とする立体化学を有する薬剤を製造するためには1024個の異性体の中から1つだけを確実に得る方法を編み出さなくてはいけません。
研究グループはヒナペン類縁体のグラムスケール合成を、不斉アルキル化・不斉向山アルドール反応(*3)・Horner-Wadsworth-Emmons反応(*4)・分子内Diels-Alder反応(*5)および超高速脱水縮合反応(*6)によって達成しました。本手法により、立体化学が完全に制御された多置換オクタリンを大量に入手し、動物実験による抗腫瘍効果の確認や安全性試験に供することが可能になりました。
現在、東京理科大学ならびに国立がん研究センターではヒナペン類縁体を用いた薬効ならびに大動物安全性試験を展開しています。本プロジェクトは、三菱UFJキャピタル株式会社支援(*7)のもと、JSTの2024年度D-Globalに採択され、治験を目指す新薬開発が一層加速するものと期待されます。
【今後の展望】
三菱UFJキャピタル株式会社が事業化推進機関となり、D-Global期間内にヒナペン類縁体を用いた非臨床研究試験のデザイン策定ならびに薬効薬理・薬物動態・GLP-Tox試験を終え治験プロトコル(臨床試験実施申請資料)を提出できる段階まで進め、創薬スタートアップの起業を目指します。
【用語】
*1 国立研究開発法人 科学技術振興機構 大学発新産業創出基金事業
ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)採択情報
https://www.jst.go.jp/pr/info/info1725/index.html
*2 ヒナペン
別名、ハイナペン。1993年、大村 智 教授(北里研究所 所長:当時、北里大学 特別栄誉教授:現在)らが最初に天然から発見した有機化合物。抗コクシジウム活性を示す。ヒナペンAからCまでが最初に単離・報告され、現在ではヒナペンDおよびEも発見されている。
J. Antibiot.,
46, 1854 (1993). Doi: 10.7164/antibiotics.46.1854.
*3 不斉向山アルドール反応
アルドールはβ-ヒドロキシケト化合物の総称。不斉向山アルドール反応は、酸を用いて立体化学を制御したアルドール反応。
*4 Horner-Wadsworth-Emmons(HWE)反応
リン酸エステルを反応試剤としてカルボニル化合物を増炭することができる反応。一般に、電子求引性基を持つHWE試薬を用いるとE選択的になることが知られている。
*5 分子内Diels-Alder反応
分子内で2つの共役したπ結合と1つのπ結合同士が、2つのσ結合と1つのπ結合へと組み替わる反応。ペリ環状反応の一つ。
*6 超高速脱水縮合反応
2002年、東京理科大学 椎名研究室で開発された技術(全世界で19,000件以上の利用件数が報告されている。)
https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/shiina/indexj.html
*7 三菱UFJキャピタル株式会社
三菱UFJキャピタルは、1974年に設立以来、三菱UFJフィナンシャル・グループのベンチャーキャピタルとして業界をリードするノウハウを提供し、幅広い業種に対する投資を行っています。ライフサイエンス分野においては、2017年2月の1号ファンド以降、「三菱UFJライフサイエンス4号ファンド」(200億円)を含め計500億円と継続的にファンドを設立しています。ライフサイエンスに特化した民間ファンドの運営としては国内最大規模であり、創薬、再生医療、医療機器(デジタルヘルスを含む)などのベンチャー企業を対象に投資を行っています。バイオベンチャー投資にとどまらず、アカデミア創薬、製薬会社のカーブアウト案件、製薬会社の開発プロジェクトへの投資、医療機器関連にも注力しています。
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https://www.tus.ac.jp/today/archive/20241021_2531.html)をご参照ください。