[発表] 小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析 揮発性成分分析チーム 研究成果の科学誌「Science Advances」論文掲載について
宇宙航空研究開発機構(JAXA)小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析 揮発性成分分析チーム
研究成果の科学誌「Science Advances」論文掲載について
2022年(令和4年)10月21日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立大学法人九州大学
国立大学法人茨城大学
国立大学法人東京工業大学
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人北海道大学
国立大学法人東北大学
国立大学法人京都大学
国立大学法人広島大学
国立大学法人東京大学
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)では小惑星リュウグウ試料分析を、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」および、2つの「Phase-2キュレーション機関」にて進めています。
この度「はやぶさ2初期分析チーム」のうち「揮発性成分分析チーム」の研究成果をまとめた論文が、アメリカの科学誌「Science Advances」に2022年10月21日付(日本時間)で掲載されましたのでお知らせします。
「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル:
リュウグウからのたまて箱
原 題 :
First asteroid gas sample delivered by the Hayabusa2 mission: A treasure box from Ryugu
掲載誌 :
Science Advances
DOI:
概要につきましては、別紙をご参照ください。
小惑星リュウグウ試料の初期分析について
小惑星探査機「はやぶさ2」により2020年12月6日に地球へ帰還したリュウグウ試料は、JAXA宇宙科学研究所に設置された施設において、初期記載(Phase-1キュレーション)が行われました。試料の一部が、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」と2つの「Phase-2キュレーション機関」へ分配されました。初期分析チームは「はやぶさ2」の科学目的達成のために専門サブチームが分担して、計画された高精度分析により、試料の多面的価値を明らかにします。Phase-2キュレーション機関はそれぞれの特徴である総合分析に基づき、個々の「はやぶさ2粒子」に関するカタログを作成すると同時に、粒子の特性に応じた測定・分析により、「はやぶさ2粒子」がもつ潜在的価値を明らかにしていきます。
なお、初期分析の6つのチーム、Phase-2キュレーション機関からの報告は、論文としての成果が公表されるタイミングで、個別にお知らせしてまいります。また、全ての初期成果が公表されたのち、あらためて「はやぶさ2」サイエンス全体の総括をご説明する予定です。
以上
【別紙】
「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル:
リュウグウからのたまて箱
First asteroid gas sample delivered by the Hayabusa2 mission:
A treasure box from Ryugu
1.概要
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰ったサンプルコンテナ内のガス成分の質量分析およびガス採取を行いました。カプセル回収から30時間後に、オーストラリア現地でガス採取・分析装置(GAEA)を用いてコンテナ内のガス成分の抽出・採取・質量分析を行いました。その後、採取したガスを国内外の研究機関に配布し、ガス成分の精密な同位体分析を行いました。その結果、コンテナガスは太陽風と地球大気の混合であることが判明しました。コンテナ内のヘリウム量から計算したところ、リュウグウ試料の表面が剥離した際に遊離した太陽風がコンテナガスとして含まれている可能性が最も高いことがわかりました。近地球軌道小惑星からガス成分を気体のまま地球に持ち帰ったのは、「はやぶさ2」ミッションが世界で初めてです。
©Okazaki et al., 2022b
図1:
GAEA搭載の質量分析装置によるコンテナガスの質量分析結果(青色実線)。 横軸は質量(m)とイオン価数(z)の比(m/z)、縦軸はm/zに相当するイオンの質量分析装置での電気信号強度(任意スケール)。装置由来のガス(灰色点線)や地球大気標準ガス(赤丸)とくらべてm/zが4のガス(ヘリウム)が過剰に存在する。
©Okazaki et al., 2022b
図2:
はやぶさ2コンテナガスのヘリウムおよびネオン同位体組成(緑色)。 地球大気(Earth’ atmosphere)と太陽風(Solar wind)の混合で説明できる。実線は端成分の混合線を表す。木星大気(Jupiter’s atmosphere)、始原的希ガス(P1)、先太陽系起源希ガス(P3, HL)、および銀河宇宙線生成希ガス(GCR-produced)も比較のために示している。
2.本文
小惑星探査機「はやぶさ2」は2020年12月6日にオーストラリア・ウーメラ地域にリエントリカプセルを着陸させました。カプセルには小惑星上で採取したリュウグウ試料を封じたサンプルコンテナが収納されています。サンプルコンテナはメタルシール機構で密封構造になっています。このサンプルコンテナ内のガス成分をカプセル地球帰還の30時間後に質量分析およびガス採取を行いました。
まず、ウーメラで回収したリエントリカプセルを現地に設置した研究施設に持ち込み、カプセルの安全化および清浄化作業を行った後、サンプルコンテナをカプセルから取り出しました。その後、日本から輸送したガス採取・分析装置(GAs Extraction and Analysis system, GAEA)の接続インターフェイスを介して真空装置とサンプルコンテナを接続しました。コンテナ底部に真空中で細孔を開け、大気に暴露することなくコンテナ内のガスをGAEAに導入しました。GAEAの真空圧力計によってコンテナ内圧は68 Paであり、地球大気の千分の一以下です。
圧力測定後、ガスの約8割を専用の金属製容器に回収しました。残りのガスをGAEAに搭載された質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer, QMS)に導入し、質量分析を行いました。その結果、コンテナには質量/イオン価数比(m/z)が2(水素分子)、4(ヘリウム4)、28(窒素分子あるいは一酸化炭素)、40(アルゴン40)が主要なガス成分であることがわかりました。
©Okazaki et al., 2022b
図3:
コンテナガスの元素存在度(青実線)。測定誤差は灰色棒で示している。縦軸は36Arと地球大気組成で規格化した存在度。横軸はガス種を示す。ヘリウムは地球大気(オレンジ色点線)に比べてひと桁以上過剰である。
より詳細な同位体分析を行うため、金属容器に回収したガスの一部を国内外の7つの研究機関に配布しました。その結果、ヘリウムの同位体比が地球大気と比べて、質量数3のヘリウム(3He)が100倍多いことが判明しました(図2)。また、ネオンの同位体組成も地球大気とは異なっていました。コンテナ内のヘリウム、ネオン、アルゴンの元素存在度とヘリウム同位体比を検討した結果、コンテナガスは太陽風と地球帰還後にコンテナ内に混入した地球大気の混合で説明できることがわかりました(図2)。
一方、m/z 28のガスは窒素分子であること、窒素の同位体組成は地球大気の値に近いこと、アルゴンの同位体組成も地球大気に近いことがわかりました。このことは、ヘリウムとネオン以外のガスの大部分は地球大気起源であることを示しています(図3)。また、リュウグウに含まれる含水鉱物の脱水で発生する水蒸気などは非常に高感度な分析装置を用いてもコンテナガスからは検出されませんでした。
コンテナ内に存在する太陽風起源のヘリウムとネオンがどのようにしてリュウグウ試料から遊離したのかを、コンテナ中のヘリウムの量、リュウグウ試料の回収質量、サイズ分布、ヘリウムガス濃度をもとに考察しました。「リュウグウ試料がコンテナ内で等方的に割れる場合」と、「太陽風が打ち込まれている試料表面だけが選択的に剥離する場合」の2つの試料破砕様式(図4)での太陽風ヘリウムの放出率を計算しました。その結果、表面剥離であれば、総表面積のおよそ2%が剥離すれば、コンテナ内のヘリウム量を説明できることがわかりました。等方的な破砕の場合は試料が非常に細かく破壊され細粒になっている必要がありますが、実際のサンプルキャッチャで見つかったリュウグウ試料は数ミリメートルサイズのものも存在するため、その可能性は低いといえます。また、大気圏突入時の加熱の可能性も検討しましたが、コンテナの温度は65℃を超えておらず、リュウグウ試料に与えた熱的影響は小さいといえます。
「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから固体物質だけでなく、試料から遊離したガス成分も地球に持ち帰えることができたことをコンテナガスは証明しました。このような、近地球軌道天体から気体のサンプルを採取し、持ち帰ったのは、「はやぶさ2」ミッションが世界初です。サンプルコンテナはまさにリュウグウからの「たまて箱」だったといえます。
©Okazaki et al., 2022b
図4:
リュウグウ試料のコンテナ内での破砕の様式。(A)等方的に割れた場合、僅かな面積(黄色線)だけから太陽風が放出される。(B)粒子表面が剥離する場合、もとの粒子サイズは大きく変化しないが、太陽風を放出する面(黄色線)を効率的に生成できる。
3.論文情報
雑誌名:
Science Advances
論文タイトル:
First asteroid gas sample delivered by the Hayabusa2 mission: A treasure box from Ryugu
著者:R. Okazaki1, Y.N. Miura2, Y. Takano3, H. Sawada4, K. Sakamoto4, T. Yada4, K. Yamada5, S. Kawagucci6,7, Y. Matsui6,7, K. Hashizume8, A. Ishida9, M.W. Broadley10, B. Marty10, D. Byrne10, E. Füri10, A. Meshik11, O. Pravdivtseva11, H. Busemann12, M.E.I. Riebe12, J. Gilmour13, J. Park14,15, K. Bajo16, K. Righter17, S. Sakai3, S. Sekimoto18, F. Kitajima1, S.A. Crowther13, N. Iwata19, N. Shirai20,21, M. Ebihara20, R. Yokochi22, K. Nishiizumi23, K. Nagao24, J.I. Lee24, P. Clay13, A. Kano25, M.W. Caffee26,27, R. Uemura28, M. Inagaki18, D. Krietsch12, C. Maden12, M. Yamamoto1, L. Fawcett13, T. Lawton13, T. Nakamura9, H. Naraoka1, T. Noguchi29, H. Yabuta30, H. Yurimoto16, Y. Tsuda4, S. Watanabe28, M. Abe4,31, M. Arakawa32, A. Fujii4, M. Hayakawa4, N. Hirata32, N. Hirata33, R. Honda34, C. Honda33, S. Hosoda4, Y. Iijima4†, H. Ikeda4, M. Ishiguro35, Y. Ishihara36, T. Iwata4, K. Kawahara4, S. Kikuchi37,38, K. Kitazato33, K. Matsumoto31,38, M. Matsuoka39, T. Michikami40, Y. Mimasu4, A. Miura4, T. Morota25, SatS.oru Nakazawa4, N. Namiki31,38, H. oda31,38, R. Noguchi41, N. Ogawa4, K. Ogawa36, T. Okada4,42, C. Okamoto32†, G. Ono43, M. Ozaki4, 31, T. Saiki4,31, N. Sakatani44, H. Senshu37, Y. Shimaki4, K. Shirai4,32, S. Sugita25, Y. Takei4, H. Takeuchi4, S. Tanaka4, E. Tatsumi25,45, F. Terui46, R. Tsukizaki4, K. Wada37, M. Yamada37, T. Yamada4, Y. Yamamoto4, H. Yano4,31, Y. Yokota4, K. Yoshihara4, M. Yoshikawa4,31, K. Yoshikawa4, S. Furuya4, K. Hatakeda47, T. Hayashi4, Y. Hitomi47, K. Kumagai47, A. Miyazaki4, A. Nakato4, M. Nishimura4, H. Soejima47, A. Iwamae47, D. Yamamoto4,48, K. Yogata4, M. Yoshitake4, R. Fukai4, T. Usui4, T. Ireland49, H.C. Connolly Jr.50. D.S. Lauretta51, S. Tachibana52
1Department of Earth and Planetary Sciences, Kyushu University, Fukuoka, 819-0395, Japan.
2Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, 113-0032, Japan.
3Biogeochemistry Research Center, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC), Yokosuka, Kanagawa, 237-0061, Japan.
4Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), Sagamihara, 252-5210, Japan.
5Department of Chemical Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, Yokohama, Kanagawa, 226-8503, Japan.
6Research Institute for Global Change, JAMSTEC, Yokosuka, 237-0061, Japan.
7Institute for Extra-cutting-edge Science and Technology Avant-garde Research (X-star), JAMSTEC, Yokosuka, 237-0061, Japan.
8Faculty of Science, Ibaraki University, Mito, 310-8512, Japan.
9Department of Earth Science, Tohoku University, Sendai, 980-8578, Japan.
10Université de Lorraine, CNRS, CRPG, F-54000 Nancy, France.
11Physics Department, Washington University, Saint Louis, MO, 63130, USA.
12Institute of Geochemistry and Petrology, Eidgenössische Technische Hochschule (ETH) Zürich, 8092 Zürich, Switzerland.
13Department of Earth and Environmental Sciences, The University of Manchester, Manchester, M13 9PL, UK.
14Physical Sciences, Kingsborough Community College, The City University of New York, Brooklyn, NY, 11235, USA.
15Department of Earth and Planetary Sciences, American Museum of Natural History, NY, 10024, USA.
16Department of Earth and Planetary Sciences, Hokkaido University, Sapporo, 060-0810, Japan.
17Astromaterials Research and Exploration Science, Mailcode XI2, National Aeronautics and Space Administration (NASA) Johnson Space Center, Houston, TX, 77058, USA.
18Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto University, Osaka, 590-0494, Japan.
19Faculty of Science, Yamagata University, Yamagata, 990-8560, Japan.
20Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Metropolitan University, Hachioji, Tokyo, 192-0397, Japan.
21Department of Chemistry, Faculty of Science, Kanagawa University, Hiratsuka, Kanagawa, 259-1293, Japan.
22Department of the Geophysical Sciences, The University of Chicago, Chicago IL, USA.
23Space Sciences Laboratory, University of California, Berkeley, CA, 94720, USA.
24Division of Earth Sciences, Korea Polar Research Institute, Incheon, 21990, Korea.
25School of Science, The University of Tokyo, Tokyo, 113-0033, Japan.
26Department of Physics and Astronomy, Purdue University, West Lafayette, IN 47907, USA.
27Department of Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences, Purdue University, West Lafayette, IN 47907, USA.
28Department of Earth and Environmental Sciences, Nagoya University, Nagoya, 464-8601, Japan.
29Division of Earth and Planetary Sciences, Kyoto University, Kyoto, 606-8502, Japan.
30Department of Earth and Planetary Systems Science, Hiroshima University, Higashi-Hiroshima, 739-8526, Japan.
31Department of Space and Astronautical Science, The Graduate University for Advanced Studies, Hayama 240-0193, Japan.
32Department of Planetology, Kobe University, Kobe, 657-8501, Japan.
33Aizu Research Cluster for Space Science, University of Aizu, Aizu-Wakamatsu, 965-8580, Japan.
34Center of Data Science, Ehime University, Matsuyama, 790-8577, Japan.
35Department of Physics and Astronomy, Seoul National University, Seoul, 08826, Republic of Korea.
36JAXA Space Exploration Center, JAXA, Sagamihara, 252-5210, Japan.
37Planetary Exploration Research Center, Chiba Institute of Technology, Narashino, 275-0016, Japan.
38National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka, 181-8588, Japan.
39Geological Survey of Japan, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Ibaraki, 305-8567, Japan.
40Faculty of Engineering, Kindai University, Higashi-Hiroshima, 739-2116, Japan.
41Faculty of Science, Niigata University, Niigata, 950-2181, Japan.
42Department of Chemistry, The University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan.
43Research and Development Directorate, JAXA, Sagamihara, 252-5210, Japan.
44Department of Physics, Rikkyo University, Tokyo, 171-8501, Japan.
45Instituto de Astrofísica de Canarias, University of La Laguna, Tenerife, Spain.
46Department of Mechanical Engineering, Kanagawa Institute of Technology, Atsugi, 243-0292, Japan.
47Marine Works Japan Ltd., Yokosuka, 237-0063, Japan.
48Department of Earth and Planetary Science, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Tokyo, 152-8550, Japan.
49School of Earth and Environmental Sciences, The University of Queensland, St Lucia QLD, 4072, Australia.
50Department of Geology, School of Earth and Environment, Rowan University, Glassboro, NJ, 08028, USA.
51Lunar and Planetary Laboratory, University of Arizona, Tucson, AZ, 85721, USA.
52UTokyo Organization for Planetary and Space Science, The University of Tokyo, Tokyo, 113-0033, Japan.
†Deceased.
DOI 番号:10.1126/sciadv.abo7239外部リンク
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