2024/02/19

出血合併症の再現を含む 胆膵内視鏡シミュレータモデルを開発 産学連携「Medical Rising STAR」プロジェクト第2弾

デンカ 株式会社 

2024 年 2 月 19 日
国立大学法人東北大学
デンカ株式会社
ユー・エー株式会社

出血合併症の再現を含む
胆膵内視鏡シミュレータモデルを開発
産学連携「Medical Rising STAR」プロジェクト第 2 弾


【発表のポイント】

 胆膵内視鏡の重要な手技である内視鏡的胆管膵管造影(ERCP)および乳頭切開術(EST)を合併症まで含めて学習できるシミュレータモデルを開発しました。初学者が患者を危険に晒すことなく学習できる機会を提供します。

 東北大学とデンカの共同研究として独自開発した止血シミュレータの技術を応用し、ヒト類似の電気メスでの切離感と、解剖学的特徴を再現した血管配置と胆管走行を再現しました。

 不適切な切開時の出血合併症を再現することで、学習者は安全な処置を理解できます。

 実際の胆膵内視鏡と治療用具を用いた通電切開と結石除去の流れを、2 つのモニタに同時投影することで臨床と同じ 2 画面が提供できます。

【概要】

胆膵内視鏡検査と治療に用いられる後方斜視鏡は、進行方向と視野が一致しないことから、処置に十分な慣れと訓練が必要です。

東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野の菅野武准教授、正宗淳教授の研究グループとデンカ株式会社 (本社:東京都中央区、代表取締役社長:今井 俊夫) は、ユー・エー株式会社(東京都大田区、代表取締役社長:稲永寛)との共同研究の成果をもとに、 「Medical Rising STAR」 (注 1) プロジェクトの第 2 弾として 実際の内視鏡と治療用具を用いて、胆管挿管~十二指腸乳頭切開~胆管結石除去の包括的な流れを学習でき、推奨されない方向や過剰な乳頭切開時の出血合併症を体験できるシミュレータを開発しました。

本研究成果は、2024 年 1 月 31 日付で臨床医学の専門誌 Digestion にオンライン掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

食物の消化液である胆汁と膵(すい)液は肝臓と膵臓から分泌され、それぞれ胆管と膵管を通り、十二指腸の側面で並走または合流し十二指腸乳頭(ファーター乳頭)から腸内に入ります(図 1)。

例えば胆管内が結石等で閉塞すると、急性胆管炎や急性膵炎を引き起こします。これらは救急疾患であり、治療が遅れると致死的となることもあります。

内視鏡診療の進歩は目覚ましく、近年は内視鏡下に乳頭の一部に切り込み(切開)を入れて消化液の出口を広げ、結石を除去する治療が行われています。その際に 11-12 時方向(図 1 右下:網掛け部)を切開すると出血の危険が小さいとされています。

乳頭切開を含む胆膵内視鏡検査と治療に用いられる後方斜視鏡は、十二指腸乳頭を正面視しやすくするために、通常の胃カメラ(上部内視鏡)や大腸カメラ(下部内視鏡)とは異なる向きにカメラのレンズが設置してあります(図 2)。上下部内視鏡では内視鏡の進行方向と視野が一致するため直感的に位置を理解して操作しやすいのですが、進行方向と視野が一致しない後方斜視鏡での処置には、さらなる慣れと訓練が必要です。

今回の取り組み

このように重要かつ難易度の高い手技である胆膵内視鏡ですが、内視鏡的胆管膵管造影(ERCP)および正しい方向への乳頭切開術(EST)を学ぶ機会は、患者を対象とした治療の場面が中心でした。消化器病態学分野の菅野武(かんの たけし)准教授、畑山裕(はたやま ゆたか)医員、滝川哲也(たきかわ てつや)助教、正宗淳(まさむね あつし)教授 、東北大学クリニカル・スキルスラボ荒田悠太郎(あらた ゆうたろう)助手らは、デンカ株式会社 (本社:東京都中央区、代表取締役社長:今井 俊夫(いまい としお))、ユー・エー株式会社(東京都大田区、代表取締役社長:稲永寛(いななが ひろし))との共同研究として、実際の電気メスを用いて切開でき不適切な切開時に出血を起こす交換可能な乳頭部分と、繰り返し使用でき後方斜視鏡の操作感をリアルに再現している管腔部分を組み合わせたシミュレータを開発しました(図 3)。

今回開発したシミュレータは実際の処置同様に乳頭部分を映した内視鏡画面と、胆管膵管を造影した X 線透視像画面に類似した疑似透視画面を同時にモニタに投影でき、臨床とよく似た画像情報を提供しています(図 4)。また、合成樹脂やシリコン等を素材としていることから、動物を用いた練習と比較して、屠殺や感染リスクの問題解決にも貢献します。

今後の展開

この共同研究は侵襲的内視鏡手技に対するシミュレータ開発「 Medical Rising STAR」 プロジェクトの第 2 弾であり、今後販売を目指し準備しています。患者を対象としない学習方法の確立により、患者安全の推進と内視鏡技術の発展とに寄与します。また、本シミュレータを用いた、若手医師への教育プログラムの開発とその効果の検証を進めています。

【謝辞】

本研究課題は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI Grant Number JP22K10460)および内視鏡医学研究振興財団研究助成を受けており、デンカ株式会社およびユー・エー株式会社との共同研究として行われました。

【用語説明】

注1. Medical Rising STAR :Medical Rising STAR の STAR には “Simulator Training model for Advanced high Risk endoscopic therapy” の意味を込めています。また Medical Rising STAR はデンカ株式会社の登録商標です。

【論文情報】

タイトル:A novel dry simulator model for learning comprehensive endoscopic retrograde cholangiopancreatography/endoscopic sphincterotomy procedures while minimizing adverse bleeding events (with Video)

著 者 : Yutaka Hatayama, Takeshi Kanno*, Tetsuya Takikawa, Ryotaro Matsumoto, Yutaro Arata, Suguo Suzuki, Yohei Ogata, Masahiro Saito, Xiaoyi Jin, Shin Miura, Waku Hatta, Shin Hamada, Kaname Uno, Kiyoshi Kume, Kazuhiro Kikuta, Naoki Asano, Akira Imatani, Tomoyuki Koike, Atsushi Masamune

*責任著者:
東北大学大学院医学系研究科 消化器病態学分野 准教授 菅野 武
掲載誌:Digestion
DOI:10.1159/000536217
URL: https://karger.com/dig/article/doi/10.1159/000536217/894178/Anovel-dry-simulator-model-for-learning

【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 准教授
自治医科大学医学教育センター医療人キャリア教育開発部門 特命教授
菅野 武(かんの たけし)
TEL: 022-717-7171 Email: kanno.takeshi@med.tohoku.ac.jp
(報道に関すること)

デンカ株式会社
コーポレートコミュニケーション部
TEL: 03-5290-5511 Email: corporate-info@denka.co.jp

ユー・エー株式会社
TEL:03-3763-3753(代表)
Email: info@u-a.tokyo 医療関連事業 HP:https://u-art.jp/

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press@pr.med.tohoku.ac.jp

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