2024/09/02

ノーベル賞研究の源流 乗鞍観測所「朝日の小屋」跡地に記念碑建立

株式会社 朝日新聞社 

2024-09-02

まなぶ・あそぶ 朝日新聞社から

ノーベル賞研究の源流 乗鞍観測所「朝日の小屋」跡地に記念碑建立

乗鞍観測所と「朝日の小屋」跡地に建立された記念碑=東京大学宇宙線研究所提供

東京大学宇宙線研究所は8月29日、乗鞍岳の山頂付近にある乗鞍観測所(岐阜県高山市、標高2770メートル)にあった「朝日の小屋」の跡地に記念碑を建立したと発表しました。高山における日本の宇宙線共同研究の「発祥の場」として貢献し、ノーベル物理学賞を受賞したニュートリノ研究などの源流にもなったとしています。

乗鞍観測所の「朝日の小屋」跡地に建立された記念碑=東京大学宇宙線研究所提供

朝日の小屋は、1950年に朝日新聞社の朝日科学奨励金を受けて建てられました。53年に隣接地に観測所が建設された後も「分室」として活用され、2018年に老朽化のために解体されるまで68年間にわたって観測を支えてきました。乗鞍観測所が昨年、開設70周年を迎えたことを受けて宇宙線研究所が記念碑の設置を進めてきました。

乗鞍観測所の隣接地にあった木造平屋建ての通称「朝日の小屋」。老朽化のため2018年に解体され、現在は更地になっている=1998年撮影、東京大学宇宙線研究所提供

記念碑は大人の腰ほどの高さで、地元産の安山岩の本体に黒御影石の文字板が埋め込まれています。「朝日の小屋址(あと) 高地における日本の宇宙線共同研究発祥の地」との表題や設置の経緯に加えて、「我が国の宇宙線研究に大きな飛躍をもたらし、研究水準を世界一流に向上させるのに大きな役割を果たした」などと記されています。

大気が薄い高地は、宇宙から降り注ぐ素粒子の観測に適しています。加速器での研究が本格化する前は、高地での宇宙線観測が主流で、戦後の日本でも欧米との観測競争の遅れを取り戻そうと研究が始まりました。

その後、日本の宇宙線研究は、小柴昌俊博士の超新星ニュートリノの観測や梶田隆章博士によるニュートリノに質量があることの発見で、二つのノーベル物理学賞に輝くなど「お家芸」とも呼ばれる分野に成長しました。

乗鞍観測所の﨏(さこ)隆志所長は「全国の研究者たちが共同の施設で宇宙線を観測する文化が定着したのは、戦後に共同研究が始まった朝日の小屋にさかのぼる。日本の宇宙線研究の基礎となり、発展に貢献した」などと話しています。

朝日新聞社代表取締役社長 角田克の祝辞

乗鞍観測所「朝日の小屋」記念碑の建立に際しまして

このたびは東京大学宇宙線研究所付属乗鞍観測所の通称「朝日の小屋」の跡地に立派な記念碑を建立していただき、心から感謝を申し上げます。
この記念碑は、伝統ある日本の宇宙線研究を支えてきた乗鞍観測所の歴史と、その黎明期から関わらせていただいた朝日新聞社の役割を後世に伝えるものであり、私たちにとってたいへんな誇りであるとともに、一報道機関としても身に余る栄誉であります。
乗鞍観測所のルーツは、1950年に「朝日科学奨励金」を受けて建てられた「朝日の小屋」にさかのぼります。木造平屋建ての小さな小屋でしたが、隣接地に本格的な観測所が建設された後も長年にわたって愛用され、世界に誇る日本の素粒子物理学の発展に寄与して参りました。一連の研究からは、二つのノーベル物理学賞を含む数々の優れた発見が生まれました。つい最近も、宇宙線研究所を中心とする国際共同研究グループが、桁違いに高いエネルギーをもつ謎の宇宙線「アマテラス粒子」の正体に迫る論文を発表するなど、世界が注目する研究を続けています。「朝日の小屋」で始まった研究が日本の宇宙線研究に飛躍をもたらし、科学史に刻まれる数々の業績につながったのだとしたら、これ以上の喜びはありません。
朝日新聞文化財団が自然科学や人文分野の傑出した業績に贈らせていただいている朝日賞では、1987年度に小柴昌俊博士らによるカミオカンデでの超新星ニュートリノの検出や、1998年度には戸塚洋二博士らによるスーパーカミオカンデでのニュートリノに質量があることの発見に対し、それぞれ賞を贈らせていただきました。梶田隆章博士には2017年度から同賞の選考委員も務めていただいております。
朝日新聞社は2029年に創刊150年を迎えます。社会のさまざまなステークホルダーとこれまで以上に協力・連携し、つながりを深めることで、メディア企業としての責任を果たしていく所存です。70年以上前から続く「朝日の小屋」のご縁を今後も大切にし、さらに次の時代へとつなげていきたいと考えております。
最後になりますが、記念碑の建設に尽力された乗鞍観測所や宇宙線研究所の皆さま、およびご協力いただいた皆さまに厚く御礼を申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。

2004年8月
朝日新聞社代表取締役社長 角田克

東京大学宇宙線研究所のプレスリリースはこちら

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