パワープロダクツ The Topics Hondaマリン事業60周年を機に報道関係者向け試乗会を開催
本田技研工業 株式会社Hondaマリン事業60周年を機に
報道関係者向け試乗会を開催
1964年に事業を開始したマリン事業が60周年を迎えたのを機に、Hondaは2月に販売を開始した船外機「BF350」の報道関係者向け試乗会を開催しました。
1964年、出力3馬力の4ストローク単気筒エンジン搭載の初代船外機・GB30発売から60年。ニューモデルBF350は、V型8気筒の排気量5000ccで出力350馬力。試乗会では、多くの報道関係者からBF350の力強さと快適性に好評の声をいただきました。
新開発のV型8気筒5000cc、350馬力エンジン!
Honda市販モデル初のV型8気筒エンジン搭載のBF3502024年2月に販売を開始したBF350は、Honda市販モデルとして初めてV型8気筒エンジンを搭載し、排気量5000cc、350馬力を発揮する船外機です。高出力・高い信頼性という性能をはじめ、静粛性や低燃費、高い環境性能を目指して開発をスタートさせたモデルです。
船外機とは、ボートに外付けするエンジンのこと。世界中で、レジャーをはじめ、フィッシング向け、漁業やタクシーボート、沿岸警備艇などに需要があるもので、世界の船外機産業は100億ドル(1ドル150円換算で1兆5000億円)市場といわれています。
開発者インタビュー:Honda市販初のV型8気筒エンジンを開発
Hondaのものづくり
今回開催された報道関係者向けの事業説明会&BF350試乗会は、陸上ではクルマやバイク、空にはHondaジェット、そして水上にHonda船外機と、地球上のありとあらゆる乗り物で、人々の生活を豊かにしよう、というHondaの理念の説明からスタートしました。
Hondaが船外機に4ストロークエンジンを採用した理由
最新型のV型8気筒エンジン搭載BF350(左)と、1964年にHondaが初めて発売した船外機GB30(右)
Hondaが4ストロークエンジンの船外機を開発した理由は、創業者・本田宗一郎の「水上を走るもの、水を汚すべからず」という理念からです。
これは、働く人を助けるために開発した機械が、その仕事場の環境を汚すことなどあってはならないという信念のもと、当時の船外機市場の99.9%を占めていて水中にオイルを輩出する2ストロークエンジンではなく、環境に優しい4ストロークエンジンを開発したのです。
2ストロークエンジンに対し、部品点数が多く、重量やコスト面で不利な4ストロークエンジンですが、Hondaはそこに敢えて挑戦。その後、世界の環境意識の変化もあり、今では世界中の船外機の約80%が4ストロークエンジンを採用しています。
4ストロークエンジンでの苦労と世の中の環境変化
1964年に市場参入したHonda独自の4ストローク船外機は、発売から1990年代半ばまでは、売れ行きが芳しくなく厳しい状況でした。しかし、世の中の環境意識の変化という追い風が、4ストロークエンジン船外機に脚光を浴びさせます。
その代表的なものが、ヨーロッパで発行された「ボーデン湖規制」です。これは、スイス・オーストリア・ドイツの3カ国にまたがるボーデン湖の水質改善と保全を目的とした規制で、1993年から湖上を航行する船のエンジンにも排出ガス規制が課せられることになり「世界一厳しい船外機の排出ガス規制」と言われていました。Hondaの「BF8B」はこの規制を1992年にクリアし、世界初の適合モデルとなりました。この規制を契機に、船外機市場は一気に4ストローク化へ加速。この時期、4ストローク船外機を販売していたHondaは、競合他社が4ストローク船外機の開発を急ぐ中、ラインアップを強化していったのです。
リーマンショックと船外機市場の鈍化
しかし、2008年のリーマンブラザースの経営破綻に端を発する、いわゆる「リーマンショック」によって、世界の船外機をはじめ、マリン市場や海運業界全体が苦境に陥りました。
Hondaの船外機も、年間生産台数が半数近くに激減。その後、2020年頃にはパンデミックの影響でパーソナルビークルとしてのボートレジャーが見直されたこともあって、リーマンショック以前のレベルにまで回復。現在に至っています。
市場の大型化ニーズに伴って新たに開発されたBF350
多基掛けでもスペースをとらないBF350
現在、世界の船外機市場は高出力・大排気量化に向かっています。BF350はV型8気筒5000ccで350馬力というハイパワーモデルながら、高い静粛性と低振動、クラストップレベルの燃費性能を実現しています。
また、ボートに船外機を2基や3基といった多基掛けを行う市場に対して、多基掛けの際にスペースを取らない様に、幅はV型6気筒エンジン搭載のBF250と同等のコンパクトさを実現しています。
さらにBF350は、高い環境性能と経済性も両立しています。
アメリカ・フロリダ半島南端のマイアミからバハマ諸島・グランドバハマの約230kmを往復するのに十分な航続距離を確保することをベンチマークに開発を進め、レギュラーガソリンに対応するとともに高い燃費性能で、トータルでの燃料コスト削減にも貢献しています。
新たなHonda船外機の未来
水上のカーボンニュートラルの実現は、Hondaマリン事業が果敢に取り組んでいる重要なテーマです。小型船舶向けには電動が最適と考え、2023年8月からは島根県松江市の堀川遊覧船において電動推進機プロトタイプでの実証実験を実施し、耐久性や市場性の検証などに取り組んでいます。
中大型船舶向けには、カーボンニュートラル燃料の活用や燃費性能のさらなる向上など様々な検討を通して、新たな時代に向けたカーボンニュートラル実現に挑戦しています。
また、Hondaは操船者の快適で簡便な操船を実現するための技術開発にも取り組んでいます。具体的には、船の前後左右を映すカメラで周囲の映像をディスプレイに表示し、船の挙動や周辺情報を瞬時に確認できるマルチビューカメラシステムと、これを応用した完全自動操船システム。初めて着桟する桟橋でもスムーズにアプローチし、操船者のストレスを軽減する自動着桟システム。車両でボートを輸送する際に自動操船でトレーラーに積載する自動トレーラーローディングシステムなどを通して、自由な移動の喜びの拡大も目指しています。これらの取り組みは、単なる環境負荷低減にとどまらず、持続可能な水上移動手段の未来を切り拓くものです。
マルチビューカメラシステムを使用して、離着桟時のストレスを軽減さらに、Hondaは船外機を生産している静岡県浜松市・細江船外機工場において、太陽光発電システムを2024年に導入し、2025年にはリチウムイオン蓄電池システムの稼働を予定しています。これにより、工場の電力需要の約50%を再生可能エネルギーで賄えるようになる見込みです。
Hondaマリン事業は、水上移動の新しい可能性を切り拓きながら、環境に配慮した製品づくりをこれからも追求し続けます。
それこそが、創業者が提唱した「水上を走るもの、水を汚すべからず」の理念を守ることにつながるからです。