2025/01/09

可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)に関する共同研究論文掲載のお知らせ

株式会社 ティムス 

2025 年 1 月9日
株式会社ティムス

可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)に関する共同研究論文掲載のお知らせ

株式会社ティムス(以下「当社」)は、研究開発機能の向上を図るべく 2023 年4月より国立学校法人東京農工大学(学長:千葉 一裕、以下「東京農工大学」)に、共同研究講座を開設しております。今般、東京農工大学、分子機能研究所(代表:辻 一徳)および当社の研究グループにより、当社が開発中の JX10/TMS-007 及び TMS-008 の標的タンパクの一つである可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)の制御機構の一端を解明する研究成果に関する論文が、International Journal of Molecular Sciences に掲載されましたことをお知らせいたします。

以上

【配信先】文部科学記者会、科学記者会、府中市政記者クラブ

2025 年 1 月 9 日
国立大学法人東京農工大学
株式会社ティムス
分子機能研究所

生理活性脂質によるドメイン内アロステリック制御が
炎症関連酵素の活性調節に関わることを発見


国立大学法人東京農工大学大学院農学府応用生命化学専攻修士課程 2 年生の松村信氏、同 信太綾乃氏、同大学大学院農学研究院応用生命化学部門 鈴木絵里子教授らのグループは、炎症制御に関わる酵素である可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH(1))が、その基質分子である生理活性脂質によりドメイン内アロステリック制御を受けることを発見しました。炎症は、外的な刺激に応答して、体を守るための生体防御反応であり、脂質代謝は炎症における司令塔となる免疫細胞の活性化や、化学メディエーターの生体内レベルの調節を介して、炎症制御に深く関わっています。本研究は、生体内の脂質代謝と炎症制御を結ぶ複雑なメカニズムを解き明かす鍵となることが期待されます。

本研究成果は、International Journal of Molecular Sciences Special issue (The Role of Enzymes in Metabolic Processes)として、12 17 日付で先行公開されました。

論文タイトル:Intradomain Allosteric Regulation of Soluble Epoxide Hydrolase by Its Substrates

URLhttps://www.mdpi.com/1422-0067/25/24/13496

背景:可溶性エポキシドヒドロラーゼ(soluble epoxide hydrolase; sEH)は、生体内の炎症制御に関わる酵素であり、C 末端領域にエポキシドヒドロラーゼ活性 (C-EH)、N 末端領域にホスファターゼ活性 (N-phos)を持ちます。sEH は、現在急性期脳梗塞を対象に医薬開発が進められている真菌由来の生理活性物質の抗炎症の作用標的分子として同定されました。C-EH はエポキシエイコサトリエン酸 (EET(2))などの生理活性エポキシ脂肪酸を加水分解します。一方、N-phos はリゾホスファチジン酸 (LPA(3))などのシグナル伝達分子を含む脂質リン酸モノエステルを加水分解します。それぞれの基質は構造的に類似し、炎症制御という観点で機能的にも類似しているものの、一つの分子内に二つの酵素活性を有することの意味は未解明でした。

研究体制:本研究は、東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の鈴木絵里子教授らの研究グループと株式会社ティムス研究開発部門および分子機能研究所の共同で行われました。

研究成果:今回松村信氏、信太綾乃氏らは、速度論的解析およびドッキングシミュレーションにより、sEH のC-EH と N-phos 活性が互いの基質によってアロステリック制御(4)を受けることを示しました。具体的には、C-EH は EET などの抗炎症性エポキシ脂肪酸の加水分解を触媒しますが、この活性は N-phos の基質であるLPA によってアロステリック制御を受け、LPA などの脂質リン酸エステルを加水分解する N-phos は、C-EHの基質EET によってアロステリックな制御を受けることを見出しました。この結果は、sEH はエポキシ脂肪酸と脂質リン酸エステルという2 系統の生理活性脂質により相互の調節を受け、この機序が巧妙な炎症の制御に関連することを示唆しています。この研究により、創薬標的として注目されているsEH の制御機序の一端が明らかとなり、本酵素の複雑な調節機構の解明に一歩近づくとともに、医薬品開発へ貢献するものと期待されます。

今後の展開:今回の成果を基盤としてsEH の生理機能の解析を継続するとともに、これらのアロステリック制御知見を踏まえたsEH 阻害剤の探索研究など、医薬品開発を視野に入れた研究を推進します。

用語解説:
(1)sEH
哺乳類では、肝臓・脳・腎臓に高発現し、広範な炎症調節に関わる酵素。

(2)EET
血管拡張作用や抗炎症作用、血液線溶作用などを持つ生理活性物質。

(3)LPA
リン酸-グリセロール-脂肪酸という構造をもつリン脂質であり、細胞増殖、血小板凝集、平滑筋収縮など非常に多岐にわたる薬理的作用を持つ。

(4)アロステリック制御
ある分子が酵素の活性部位以外の場所に結合し、構造変化を促すことで酵素活性や機能を変化させること。

(5)CPK 配色
分子模型における元素の配色法。白色は水素、黒色は炭素、赤色は酸素を表す。

図1.炎症関連酵素である可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)の構造と機能。sEH は、C 末端、N 末端に異なる酵素活性を有する

図2.N-phos および C-EH ドメインにおける潜在的なアロステリック部位をコンピュータで予測した結果。(A) LPA (18:1) (1)と複合体化した N-phos モノマーと試験化合物 2, 3, 4, 5 の触媒部位における結合に関する全てのドッキングモードの重ね合わせ。(B) trans-14,15-EET(2)と複合体化した C-EH モノマーと試験化合物1, 3, 4, 5 の触媒部位での結合に関するすべてのドッキングモードの重ね合わせ。(A)と(B)において、LPA (18:1)及び trans-14,15-EET は CPK 配色(5)で球として表されている。試験化合物はCPK 配色の管で表されている。マゼンタ色の球体=Mg2+イオン。(C)ドッキングシミュレーションに用いた化合物リスト。 N-phos ドメインには表記の LPA および EET 分子種に対する 3 か所の結合部位が、C-EH ドメインには表記のEET および LPA 分子種に対する 1 か所の結合部位が予測され、速度論的解析の確からしさを裏付ける結果となった。(Int. J. Mol. Sci.2024, 25(24), 13496 を基に作成)

◆研究に関する問い合わせ
東京農工大学大学院農学研究院
応用生命化学部門 教授
鈴木 絵里子(すずき えりこ)
TEL/FAX:042-367-5724 E-mail:ersuzuki@cc.tuat.ac.jp

◆報道に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学総務課広報室
TEL/FAX:042-367-5930
E-mail:koho2@cc.tuat.ac.jp

株式会社ティムス広報・IR 担当
E-mail:ir@tms-japan.co.jp

分子機能研究所 広報担当
TEL/FAX:048-956-6985
E-mail:support@molfunction.com

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