2025/12/23

万能AIによるサステナブル材料設計

国立研究開発法人 理化学研究所 

2025年12月23日

理化学研究所

万能AIによるサステナブル材料設計

-分解性とタフさのトレードオフ解決に迫る新技術-

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター 環境代謝分析研究チームの倪 新宇 大学院生リサーチ・アソシエイト、天本 義史 客員研究員、菊地 淳 チームディレクターの研究チームは、独自に構築したマルチモーダル・マルチタスクの機械学習モデル[1]を用いて、生分解性プラスチックを体系的に解析し、微生物による分解プロセスとポリマー材料のタフさとの間に存在する潜在的な関係性を明らかにしました。

今後、「万能AI」ともいえる本機械学習モデルを活用することで、重要な生分解性プラスチックの構造と物性の関係を高精度に捉えるだけでなく、材料性能のバランスに影響を及ぼす階層的特徴を解明し、サステナブル材料の合理的設計に向けて実践的な指針づくりに役立つことが期待されます。

生分解性プラスチックは、「使用時のタフさが必要だが、不意に海洋流出した際には微生物分解してほしい」というトレードオフの課題を抱えています。この課題を解決するために、本研究では、材料が分子スケールにおいて分解性と力学特性[2]にどのような関連性を示すのかに着目しました。さまざまな核磁気共鳴(NMR)[3]技術を用いて、生分解性プラスチックの化学構造と分子運動を「健康診断」のように詳しく調べ、「万能AI」を組み合わせることで、分解性や力学特性を左右する重要な要因を抽出しました。

この結果、分子構造、熱特性、さらには複数のNMR由来の動的情報を統合することで、分子鎖の柔軟性、セグメント運動性[4]、局所的な分子構造といった多数の特性が、分解速度と靭性(じんせい)の双方を規定する主要因であることを明らかにしました。これら分子レベルの構造・動的特性こそが「分解性―タフさ」のトレードオフを決定づける鍵であることが示されました。

本研究は、科学雑誌『Sustainable Materials and Technologies』オンライン版(12月5日付)に掲載されました。

「万能AI」(複数モーダル・タスクを学習)によるサステナブル材料設計

背景

気候変動、資源循環の不均衡、そしてプラスチック汚染といった問題は今、地球に大きな負荷を与えています。低炭素で環境に優しい社会を実現するため、世界では循環型経済やグリーン材料の開発が進められています。その中でも、自然環境で分解される生分解性プラスチックは有望な選択肢です。しかし、この材料には分解性とタフさにトレードオフの課題があります。このバランスをどう取るかが、材料設計の大きなテーマとなっています。

生分解性プラスチックの内部構造はとても複雑で、分子の並び方や結晶構造、熱的特性などが分解性と力学特性に深く関わっています。従来の試行錯誤型の開発では、こうしたマルチタスクの要素を正確に見極めることが難しい場合があります。そこで、引張試験、DSC(示差走査熱量測定)[5]、1D/2D-NMR[6]、時間領域核磁気共鳴法(TD-NMR)[7]といった複数の計測技術に加えて、RDKit分子記述子[8]のような多要素を捉えるマルチモーダル解析技術が有用です。特にNMRは"材料内部の健康診断"のように、分子運動性や高次構造と局所構造とを可視化でき、材料がなぜ柔らかくなるのか、なぜ壊れるのかを理解する大きな助けとなります。これらの手法により、材料の多角的な振る舞いの情報を数値化することができます。

菊地チームディレクターらはこれまで、材料のNMR分子運動性情報とAIを組み合わせた、最適化技術を報告してきました注1)。本研究ではさらに、「万能AI」としてマルチモーダル・マルチタスクの機械学習に着目し、化学構造、スペクトル情報、熱特性、分子運動といった多様なデータから、材料の強度や分解速度を左右する重要なポイントを抽出することを目指しました。

研究手法と成果

菊地チームディレクターらはこれまで、理研横浜地区(横浜市鶴見区)に隣接した鶴見川河口水の多様な天然の微生物叢(びせいぶつそう)を用いて、生分解性プラスチックの迅速評価法を構築してきました注2)。この蓄積を生かし、今回は段階的な分解実験を行い、河口水に各サンプルを浸した後4日・8日・16日・30日の各時点で材料の重量変化を記録しました。さらに、材料内部で起こる微細な変化を捉えるために複数の先端分析技術を組み合わせて解析しました。TD-NMRにより分子鎖の運動性を測定し、2D-NMR(パルスシーケンスHSQC[6]およびJ-Res[6])では官能基などの局所的な化学構造を解析し、DSCにより融解挙動や結晶性を評価した一方、計測値以外のモダリティー情報としてRDKit分子記述子も抽出しました。これらの多階層データは、材料内部の状態変化を包括的に把握するための基盤となりました。

得られた多種多様なデータを統合し、研究チームはマルチモーダル・マルチタスクの機械学習モデルを構築しました。このモデルは、NMR、熱分析、分子構造など異なる情報源を同時に学習し、分解速度、靭性、弾性など複数の力学特性を一度に予測できるよう設計されています。これにより、材料の性能をより正確に推定するだけでなく、異なるデータ間に潜む深い関係性を捉えることが可能となり、時間とともに変化する材料特性の全体像を描き出すことができました。

さらに、SHAP[9]を用いた説明可能AI解析により、モデルがどの特徴を重要視しているのかを詳細に明らかにしました(図1)。その結果、TD-NMRパルスシーケンスのうちDQ[7]やMSE[7]によって示される分子鎖の運動性が材料の分解挙動に強く影響することが分かりました。つまり、分子鎖がどれだけ動きやすいか(または動きにくいか)が、材料が「速く分解するのか」「高い靭性を維持できるのか」を大きく左右しているのです。言い換えれば、分子レベルの動的性質こそが材料性能のバランスを理解する上での重要な鍵となります。

図1 SHAPを用いたトレードオフ特性の探索と可視化

  • (上)マルチモーダル特徴量に基づくSHAP解析の結果を示しており、どの要因がポリマーの質量減少(分解性)および破断ひずみ(タフさ)に影響するかを明らかにしている。左の散布図は、各特徴がこれら二つの特性に与える影響の方向性を示している。パレート最適領域:左図の分解性(横軸)とタフさ(縦軸)を超越する領域(赤線を越えた赤点)。右の棒グラフは、モデルが最適解を繰り返し探索する過程で頻繁に選択された重要な特徴量を示す。ヤング率:材料の弾性。
  • (下)左はTD-NMRの各パルスシーケンスで捉えるポリマー高次構造を模式化している。右の模式図は、「タフさ」と「分解性」のバランス関係をてんびんの形で表現したものである。

さらに2D-NMRデータの主成分分析(PCA)[10]で次元削減した、局所的な化学構造情報から、主鎖炭素の配置、末端基の種類、柔軟な脂肪鎖ユニット[11]、非晶領域[12]の運動性などが、材料の分解速度や耐久性に大きな影響を与えることが明らかになりました(図2)。これらの構造的および動的特徴は、生分解性ポリマーごとの分解挙動の違いを説明し、今後「使用時はタフでありながら、不意に海洋流出した際に微生物分解する」サステナブル材料を設計するための具体的な指針を与えてくれます。

図2 マルチタスク特性を有するために重要な化学構造

元のNMRスペクトル(左モデル図)からPCAによって次元削減し、それらの重要特徴量を抽出する。さらに、これらの重要特徴量が具体的にどのような構造に由来するのかを明らかにするため、PCAローディング(因子負荷量)を用いて逆解析を行い、元のスペクトル上で対応する位置を特定することで、重要な特徴量の背後にある化学構造を理解することができる。δ(ケミカルシフト):NMRスペクトルでは、各官能基が化学的な環境の違いで観測周波数がずれるが、その周波数ずれを表す。ppm:ずれを元の周波数に対する百万分率で表した値。PHBH:生分解性ポリマー。1H:水素、13C:炭素、(α、β、γ-)CH・(β、γ、ε-)CH2・CH3・ωCH3:各脂肪鎖官能基。

今後の期待

材料情報学(MI)[13]やマルチタスク機械学習、高度な分析技術の発展により、材料開発はこれまでの「試して確かめる方法」から、「データを使って予測しながら設計する方法」へと移りつつあります。今後は、化学構造、分子運動、熱的特性、微生物との界面相互作用など、多様なデータを組み合わせることで、MIが材料配合の候補を自動で見つけ出し、特定の用途に最適な新しい生分解性ポリマーを提案できるようになります。このアプローチは開発スピードを大きく速めるだけでなく、より高性能で環境負荷の少ない材料設計にもつながります。また、MIの適用範囲は、生分解性プラスチックだけでなく、機能性高分子、複合材料、バイオマテリアルなど幅広い分野へ広がっていくと考えられます。

本研究で用いたマルチモーダルNMR解析、MIによる材料設計、微生物分解メカニズムの解析技術は、食品包装や使い捨てプラスチックの改良に役立つだけでなく、サステナビリティに関する基礎研究から、その成果の社会実装まで貢献できます。例えば、プラスチック界面の微生物群集を理解することで、それを応用した「微生物コミュニティのデザイン」が可能となり、水質浄化、排水処理、海洋環境の修復といった用途にもつながります注3、4)

一方で、研究チームはこれまで、NMRを基軸とした「環境代謝分析」から、自然環境中における資源循環の鍵プロセスを追跡してきました。例えば、炭素固定の観点から森林生態系は重要ですが、その分解者であるシロアリ共生系が窒素固定し注5)、森林バイオマスを土壌・河川流出させることや、こうした自然分解・人為的プロセスを経た河口底泥環境の「見える化」注6、7)、および人為的プロセスにより富栄養化した海水のNMR情報と、赤潮環境要因の可視化です注8)。加えて化石燃料由来の代表的プラスチックであるPE(ポリエチレン)研究でも、不意に沿岸流出し得るポリエチレンを魚類に摂食させても、代謝摂動の視点から見れば無害であることを可視化しました注9)

研究対象とする材料・資源の分解経路と微生物代謝の研究を組み合わせることで、地球上にすむ動物と人間、そして地球環境全体の「健康維持」を推進するワンヘルス(One Health)や持続可能な開発目標(SDGs)[14]の「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「12.つくる責任つかう責任」や、「14.海の豊かさを守ろう」などへの貢献が期待されます。今後は、「材料設計→環境モニタリング→生態系の制御」という流れの中で、これらの技術がより重要な役割を果たすと期待されます(図3)。

図3 「万能AI」のサステナブル社会への貢献

水資源は上流から分解物・廃棄物を河川流出させ、やがて沿岸を富栄養化させ得る。炭素資源のみならず、窒素やリン資源も人為的な資源利用・排出プロセスに左右されるため、サステナブル材料設計の社会需要性は高い。炭素循環の黄線上数値の単位は10億トンで1年当たりの数値。(Jブルークレジット認証申請の手引きver2.5、およびKuwae & Crooks(2021)を参考に、水循環の灰色線上数値はOki et al.(2019)などを参考に研究チームが作図)。

補足説明

  • 1.マルチモーダル・マルチタスクの機械学習モデル
    NMR([3]参照)の分子運動データや化学構造、熱特性、力学データなど、性質の異なる情報をまとめてAIに学ばせ、分解速度や靭性など複数の特性を同時に予測できる方法。材料ごとに別々の性質を個別に扱うのではなく、「多様な情報を一つのモデルで総合して理解する」ことができるため、複雑な振る舞いを持つ生分解性プラスチックの解析に非常に向いている。この手法を使うことで、材料の構造、動き、強さ、分解の関係をより正確に捉え、新しい素材設計の手がかりを得ることができる。
  • 2.力学特性
    材料が「どれくらい強いか」「どれくらい伸びるか」「どれくらい壊れにくいか」といった、外から力を加えたときの振る舞いを表す性質のこと。例えば、引っ張ったときにどれだけ伸びるかを示す伸び率、どれくらいの力で壊れるかを示す最大応力、そして素材の硬さを示すヤング率などが代表的である。生分解性プラスチックの場合、使用中は十分な強度や靭性が必要だが、環境中では最終的に分解してほしいという、相反する要求がある。そのため、力学特性が分解のどの段階で、どのように変化するのかを理解することがとても大切になる。本研究では、力学特性とNMRによる分子運動の情報を結び付けることで、「材料が弱くなる前に内部で何が起きているのか」を読み解くことを試みた。
  • 3.核磁気共鳴(NMR)
    材料の内部で分子がどのようにつながり、どのように動いているかを、材料を壊さずに調べられる分析方法。原子核にラジオ波を照射すると、周りの分子環境によって変化する小さな信号が返ってくる。この信号を読み取ることで、材料の構造や柔らかさ、分解の進み方など、目では見えない性質を知ることができる。本研究ではNMRを使い、生分解性プラスチックが環境中でどう変化していくのかを"内部から"理解するための重要な情報を得た。
  • 4.セグメント運動性
    高分子鎖の中のあるまとまった部分(セグメント)が運動する現象を指す。例えば、温度上昇に伴う非晶セグメント、あるいは溶媒に接した界面セグメントなどが運動性が変化しやすいことがある。
  • 5.DSC(示差走査熱量測定)
    物質の温度を変化させながら、試料と基準物質の間の熱の出入り(吸熱または発熱)の差を測定する技術。これにより、物質が加熱・冷却される過程で起こる融解やガラス転移(プラスチックを熱していくと、ある温度で突然柔らかく、ゴムのように弾力のある状態になる現象)、結晶化といった相転移(物質がある状態(相)から別の状態へ変わる現象。身近な例では、水が氷に変化(液体から固体)、水蒸気に変化(液体から気体)すること)や化学反応を捉えることができる。DSCはDifferential Scanning Calorimeterの略。
  • 6.1D/2D-NMR、HSQC、J-Res
    2D-NMR(2次元NMR)は、NMRの信号を縦と横の二つの方向に広げて表示することで、材料の中にある原子同士のつながりや、似た構造の違いを分かりやすく示してくれる測定方法。1次元のNMR(1D-NMR)では重なってしまう信号も、2D-NMRでは地図のように整理されるため、主鎖、側鎖、末端基などの化学構造を明確に区別できる。本研究では、HSQCやJ-Resなどの2D-NMRを使い、生分解性プラスチックが分解の途中でどの部分から変化し始めるのかを詳しく調べることができた。HSQCはHeteronuclear Single Quantum Coherence、J-ResはJ-Resolved spectroscopyの略で、今回用いた2D-NMRのパルスシーケンスである。
  • 7.時間領域核磁気共鳴法(TD-NMR)、DQ 、MSE
    時間領域核磁気共鳴法(TD-NMR)は、磁場の中で原子核を一度「励起させ」、その後落ち着いた状態に戻るまでの過程を時間の変化として観察する方法。原子核がどれくらいの速さで元の安定な状態に戻るかは、その周りにある分子がどれくらい動いているか、どれだけ固まっているかによって変わる。そのため、この手法を使うと、材料の「柔らかさ」や「硬さ」、内部での分子の動き方などを知ることができる。TD-NMRはサンプルを壊さず数分で測れる便利な方法で、医療のMRIと同じ原理が使われている。本研究では、1回の測定で幅広い分子運動を捉えることができるMSE(Magic Sandwich Echo)、DQ(Double Quantum)、MAPE(Magic-Angle Pulse Excitation)のパルスシーケンス(時系列のパルスプログラム)を使い、生分解性プラスチックの内部がどのように変化していくのかを詳しく調べた。TD-NMRはTime Domain Nuclear Magnetic Resonanceの略。
  • 8.RDKit分子記述子
    分子の形や大きさ、原子の並び方、親水性など、化学構造の特徴をコンピュータが扱える数値として表したもの。生分解性プラスチックのように、構造のわずかな違いが分解しやすさや強度に大きく影響する材料では、こうした分子記述子がとても役立つ。RDKitは多くの種類の記述子を自動で計算できるため、NMRや熱分析データと組み合わせてAIに学習させることで、「どんな構造が早く分解するのか」「どの部分が材料を硬くしているのか」といった関係をより正確につかむことができる。
  • 9.SHAP
    機械学習モデルの予測に対する各特徴量の寄与度を評価するための手法を指す。SHAPはSHapley Additive exPlanationsの略。
  • 10.主成分分析(PCA)
    たくさんの変数を「より少ない代表的な軸(主成分)」にまとめることで、データの特徴や違いを分かりやすくする統計手法。NMRや材料データのように多次元で複雑な情報を扱うとき、PCAは「どの要素が違いを生み出しているのか」を明確にするのに役立つ。主成分は、元の変数を組み合わせた新しい指標であり、データのばらつきを最もよく説明する方向を示している。
  • 11.脂肪鎖ユニット
    炭化水素鎖から構成される部分構造の総称。今回の研究の場合は生分解性ポリマーの一種「PHBH」中のβ/γ-CHユニットが柔軟であり、重要特徴量としてHSQCデータに投影されている。
  • 12.非晶領域
    プラスチックの中で分子の並び方がバラバラで、自由に動きやすい部分のこと。分子がきれいに整列している「結晶領域」と違い、非晶領域では分子鎖が緩く広がっているため、外から水が入りやすく、分解もこの部分から始まりやすくなる。その一方で、非晶領域が多い材料は柔らかく、引っ張っても破断しにくいといった特徴もある。本研究ではNMRやDSCを使って、この非晶領域が分解の進行とともにどのように変化するかを調べ、材料の柔らかさや壊れやすさに大きく影響していることを明らかにした。
  • 13.材料情報学(MI)
    AI・機械学習・データ科学を用いて、材料の構造と性能の関係を解析し、新しい材料の設計を効率化する学問分野。従来の試行錯誤型の開発とは異なり、大量のデータから「性能を決める特徴」や「最適な組成・構造」を見つけ出し、材料を"予測してからつくる"という新しい開発スタイルを可能にする。高分子、金属、セラミックス、ハイドロゲルなど幅広い材料に適用でき、開発の時間・コスト削減やSDGsに資する環境調和型材料の創出に貢献するとして、世界的に注目が高まっている。MIはMaterials Informaticsの略。
  • 14.持続可能な開発目標(SDGs)
    2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17の目標、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。

原論文情報

  • Xinyu Ni、Yoshifumi Amamoto、Jun Kikuchi, "Simultaneous multimodal and multitask strategies for diverse biodegradable polymers powered by NMR data science", Sustainable Materials and Technologies, 10.1016/j.susmat.2025.e01781

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 環境代謝分析研究チーム
チームディレクター 菊地 淳(キクチ・ジュン)
大学院生リサーチ・アソシエイト 倪 新宇(ニ・シンウ)
客員研究員 天本 義史(アマモト・ヨシフミ)

倪 新宇

発表者のコメント

生分解性ポリマーにおける「分解性とタフさのトレードオフ」をどう理解し、どう予測し、どう設計につなげるか――これが本研究の中心的なテーマでした。本研究では、NMR、熱分析、分子構造、バイオフィルムといった多様な情報源を統合するマルチモーダル解析と、分解速度・靭性・質量損失など複数の特性を同時に予測するマルチタスク機械学習を組み合わせることで、この難しいトレードオフの仕組みを総合的に捉える枠組みを構築しました。さらにSHAPを用いた可視化により、どの分子運動や構造が材料の性能を左右しているのかを明確に示すことができました。
博士課程の研究に取り組む中で、NMR・材料科学・機械学習という異なる分野を基礎から学ばなければなりませんでした。最初は不安も多くありましたが、日々の学際的なディスカッションを通じて、異なる専門知識がつながり、新しい理解が生まれることに研究の面白さを強く感じました。こうした議論の積み重ねがあったからこそ、マルチモーダル×マルチタスクという新しい視点を材料研究に応用し、論文として発展させることができました。
また、NMR、材料科学、AIの専門家である先生方には、初歩的な疑問にも丁寧に向き合い、研究の方向性を一緒に考えていただきました。異国での挑戦を温かく支えてくださったことに心より感謝申し上げます。本研究が、より持続可能で高性能な生分解性プラスチックの開発に貢献し、学際的研究の新しい可能性を示す一助となれば幸いです。(倪 新宇)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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