2023/07/05

【武蔵野美術大学 美術館・図書館】展覧会「大浦一志ー雲仙普賢岳/記憶の地層」開催について

学校法人 武蔵野美術大学 

武蔵野美術大学 美術館・図書館では展覧会「大浦一志ー雲仙普賢岳/記憶の地層」を開催します。本展は、本学共通絵画研究室で絵画表現を通し美術・デザインにおける「造形の基礎とは何か」を考える実技授業に長年携わってきた大浦一志(おおうら・かずし)の退任記念展です。 1991年6月3日に発生し、多くの人命を奪った長崎県雲仙普賢岳の大火砕流。この自然災害によって殉職した新聞記者のカメラに残った1枚の写真に突き動かされ、大浦は30年にわたり被災地域と東京を往還し、灰土に埋もれた民家跡から被災物を掘り起こし、噴火後の自然を記録し続けてきました。自身の身体を通して「自然の脅威と人間の営み」に向き合う、大浦のフィールドワークを紹介します。



大浦一志ー雲仙普賢岳/記憶の地層

https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20680/

会期:2023年9月4日(月)- 10月1日(日)
会場:美術館展示室1・2、アトリウム1・2
時間:11:00 - 19:00(土・日曜日、祝日は10:00 - 17:00)
休館日:水曜日
入館料:無料
主催:武蔵野美術大学 美術館・図書館
協力:武蔵野美術大学共通絵画研究室

本展の概要


 本展では、大浦のこれまでの活動のうち、主に、初めて雲仙普賢岳噴火の被災地域を訪れた1992年以降の作品および同地域でのフィールドワークに焦点を当てて展観します。
 長崎県島原半島の中央に位置する雲仙普賢岳は1990年11月17日、「島原大変」と呼ばれる1792年(寛政4年)の大噴火以来、198年ぶりに噴火活動を再開しました。1995年2月まで続いた噴火活動は、幾度にもわたり火砕流と土石流を引き起こし、地域一帯に甚大な被害を与えました。中でも1991年6月3日に発生した大火砕流は、報道関係者や地元消防団員など43人もの死者・行方不明者を出した大惨事となりました。大浦は、この火砕流で亡くなった日本経済新聞の黒田耕一記者のカメラに残された「襲いかかる火砕流」の写真を同年6月6日の朝刊紙面で目にし、大きな衝撃を受けました。

日常、私の内にくすぶりつづけていた「おまえは何を見ているのか」という私自身への問いが、必然的にこの一枚の写真へと、そしてその写真の元へ、自然のエネルギーにのみ込まれ為す術のない人間の営みの「今」を、現実の自然を見なければと……「普賢岳」へ向かわせた。(1998年「第27回現代日本美術展」カタログ挨拶文より)

 そして翌1992年、大浦は初めて島原を訪れます。この時の動機を、「情報化社会に突入した時代の中で、“実像としての現実”を自らの肉体で受け止めることが必要だった」と大浦は語ります。以降、今日に至るまで30年間東京の自宅と被災地を往還し続け、その回数は50回以上に及びます。本展では火砕流による熱風で焼失した民家跡から掘り出した「玄関扉」「軽トラック」をはじめ、1990年代から2000年代にかけて制作した作品群、2010年代以降被災地で展開してきた発掘プロジェクトの様子などを、大浦の手記や記録写真・映像と合わせて展示します。雲仙普賢岳の噴火という「自然の圧倒的なエネルギー」に、自らの身体を通して向き合い、生きることのリアリティを問い続けてきた大浦の活動を通観する機会とします。




主な作品紹介



「写真とFRP」シリーズ(1993年~)
被災地で撮影した写真を現地の灰土ともどもFRPで固めた作品群による初期のシリーズです。作家自身の思考の痕跡(メモ)が二重露光により内包されており、虚実の曖昧な「イメージ」に対して、生身の体験を持ち込もうとする作家の試行錯誤が伺えます。

「物質」シリーズ(1992年~)
被災民家跡から1995年に掘り起こした「玄関扉」と1998年に掘り起こした「軽トラック」(図版1)などを展示します。焼失した民家跡に「玄関扉」のみが立つ光景は大浦に強い印象を与え、「写真とFRP」シリーズでもモチーフとして繰り返し登場します。また、これら被災物の発掘が、その後の「分身」シリーズや「発掘プロジェクト」へと展開されます。


「分身」シリーズ(2002年~)
島原での活動中に書き溜めてきた「言葉の記録」をまとめた紙束(記録文)を、被災地の地中に埋め、再訪時に掘り出したものです。紙束が地中に埋まっていた期間がタイトルとなっています。地中に埋まる記録文を掘り出す作業は、「過去の自身の記憶を掘り起こすようだった」と大浦は語っています。





重層・発掘プロジェクト2011- 2015(2011~2015年)
被災民家跡、発掘プロジェクト2016(2016年)
復興工事の進行とともに多くの被災遺物が地中に埋没していく中、2011年からは砂防指定地域に埋まろうとする被災民家跡の発掘を始めます。大浦は発掘作業の様子をビデオテープに記録しており(図版7)、また南島原市教育委員会の主催する「雲仙普賢岳 災害遺構検出事業」との合同発掘となった雲仙普賢岳「被災民家跡、発掘プロジェクト2016」では、2016年6月から8月の間、発掘作業の様子がインターネットでライブ配信されました。本展では、2011年から2016年にかけてのプロジェクトに加え、2022年までの記録映像を会場で上映します。発掘現場で大浦が見た風景、過ごした時間を身近に感じていただける機会となるでしょう。


「埋葬・発掘」シリーズ(2018年~)
被災民家の発掘跡地と定点観測のために建てた3階建ての足場(図版4)との間に、発掘作業時に撮影した写真を「埋葬」し、再訪時に「発掘」した作品です。一方向的な時間の積層に対して、繰り返し「埋める」「掘り起こす」という行為を加えることが、大浦独自の自然との対峙方法と言えるのかもしれません。

関連イベント


アーティストトーク
日時:2023年9月9日(土) 15:30-17:00
出演:大浦一志
会場:武蔵野美術大学 美術館ホール

特別対談
日時:2023年9月16日(土) 15:30-17:00
出演:大浦一志、椹木野衣(美術評論家、多摩美術大学教授)
会場:武蔵野美術大学 美術館ホール

作家紹介



大浦一志(おおうら・かずし)
1953年、兵庫県生まれ。1975年、武蔵野美術短期大学専攻科デザイン専攻商業デザインコース修了。トラック運転手、NHKサービスセンターデザイン室、勝井三雄デザイン事務所を経て1980年よりフリーのグラフィックデザイナーとして活動。一方で、写真を媒介に身辺の事物に眼差しを重ね、「見ること」の深さを問う作品制作を展開してきた。1992年以降、30年にわたり東京の自宅と長崎県南島原市を往還しながら、被災物の掘出しや採取、定点観測によるフィールドワーク「普賢岳プロジェクト」を行い、自らの身体を通し自然と人間の営みの関わりを探り続けている。1997年第26回現代日本美術展毎日現代美術大賞を受賞。2003年より本学共通絵画研究室教授。

提供元:PRTIMES

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