スペクトラム社の超高速デジタイザが最大規模の国際プロジェクトにおけるニュートリノの識別に導入
Spectrum Instrumentation GmbH世界最大規模の液体ニュートリノ検出器がスペクトラム社のADCカードを採用
デジタイザなどの計測機器メーカであるスペクトラム・インスツルメンテーション社(本社ドイツ・グロースハンスドルフ/以下、スペクトラム社)は、世界最大規模の液体ニュートリノ検出器であるJUNOが、スペクトラム社のADCカードを採用したことを発表しました。最近まで、ニュートリノ粒子には質量がないと考えられていましたが、今日では、非常に小さな質量を持ち、相互に切り替わることのできる3種類の「flavors」が存在するという理論が確立されています。「幽霊粒子」と呼ばれることもあるニュートリノは、通常、一般的な物質の大半を妨害も検出もされることなく透過するため、研究が非常に困難です。そのため、ニュートリノを捉えるためには、特殊な検出器を構築する必要があります。最新の検出器「JUNO」は、中国の江門市にある地下750メートルに設置されており、17カ国から集まった74の大学や国立研究所に所属する科学者730名の力を結集した4億ユーロ規模のプロジェクトにより実現されました。この検出器の核となる液体シンチレータを開発するために、スペクトラム社の超高速デジタイザカードが使用されています。
JUNOは、研究対象となるニュートリノを供給する既設の原子炉8基の中間に正確に配置されています。その中心には、内径34.5メートルの巨大な高透過性アクリル球があり、内部は特別に開発された2万トンの油状の物質で満たされています。この液体シンチレータはニュートリノとの相互作用によって光子を生成し、容積3万5,000トンの大規模な水槽に収容されます。生成された光子は、アクリル球を囲む約4万5,000個の光電子増倍管(PMT)アレイによって検出されます。ミュンヘン工科大学(TUM)およびマインツ市のヨハネス・グーテンベルク大学のチームは、高度なデータ収集が必要となる液体シンチレータの特性評価のために、スペクトラム社のM4i.2212デジタイザカードを用いた先進的な実験室規模の実験を行っています。JUNO検出器が2024年末に稼働を開始すると、人類が建造した最大のニュートリノ検出器となります。この検出器により、捉えにくい「幽霊粒子」の相互作用および特性に関する知識が大幅に向上します。
JUNOの主要検出器は専用実験施設の地下750メートルに設置されています。
写真には、(まだ空の状態の)検出器用の水槽と中央の足場が写っています。この球体内部には、直径34.5メートルのアクリル球が設置され、液体シンチレータで満たされています。白いカバーは、繊細な部品を取り付け作業から保護するためのものです。
ニュートリノの検出
中央のアクリル球には液体シンチレータが入っており、水の層がその周囲を取り囲んでいます。液体シンチレータおよび水は放射性物質を含む可能性があるため、超高純度でなければなりません。指紋の汗による汚染でさえプロジェクト全体を損なう恐れがあるため、建設中の作業員は、手袋を二重で着用しなければなりませんでした。さらに、検出器は周囲の放射線から遮蔽するため、地下750メートルに掘られた特別な空間に設置されています。
ニュートリノが液体シンチレータ(LS)と相互作用すると、この物質の分子との相互作用のエネルギーが蓄積されます。蓄積エネルギーは、LSの非常に高い光出力(通常、10,000光子/MeV以上)により、正確な測定が可能になります。また、ニュートリノの入射方向も再構成できれば、非常に有益な情報を得ることができます。物理学者はこの情報を得るために、ニュートリノが最初に水を通過した際に発生する、微弱ではあるものの方向性を持つチェレンコフ光を組み合わせて用います。
ミュンヘンおよびマインツで現在進められている液体シンチレータ開発の目的は、優勢なシンチレーション光から高速であるものの微弱なチェレンコフ光を分離し、エネルギーと方向性の同時再構築を可能とすることです。このために、ハンス・シュタイガー博士のチームは、光収集機能と時間分解能を強化した精密な卓上実験をいくつか構築しました。
遅い液体シンチレーション混合物における典型的な光放出運動。
時間内に鋭いピークとして現れるチェレンコフ光(赤線)の後に、より遅いシンチレーション光の減衰(緑線)が続きます。
プロジェクトを主導するハンス・シュタイガー博士は、以下のように述べています。
「スペクトラム社のデジタイザカードを選んだ理由は、最先端の性能を提供してくれる一方で、競合製品とは異なり、価格が手ごろでカスタマイズも必要がない点です。スペクトラム社のモジュール式アプローチにより、カードに求める機能を正確に指定でき、妥協したり、不要な機能に資金を浪費したりすることもありませんでした。特に気に入っているのは、これらのカードが標準のPCIe製品である点で、追加資金を得た際に標準的なコンピュータシャーシでシステムを拡張できることです。我々は、大規模な長期国際プロジェクトに参加している大学として、信頼性の高い部品が必要ですが、スペクトラム社の5年保証は、安心です」
JUNOの成果は天文学の研究をも後押しする
事象の再構築に関する研究に加えて、チームはJUNOのキャリブレーションプロジェクトにも貢献しています。これは、エネルギーおよび入射方向が事前に決定されている放射性ガンマ線および中性子源を使用して、検出器の材料の特性評価を行うものです。TUMグループに所属する博士課程の学生であるメイシュ・ルー氏は次のように指摘しています。
「液体シンチレータの特性評価は、ピコ秒単位の時間枠で作業できる超高速デジタイザカードがあってこそ可能となります。また、5VのダイナミックレンジはPMTで生じる3Vパルスを容易に処理できることを意味しており、通常1Vである他社製品よりもはるかに優れています」
また、マインツ市で研究に従事するマニュエル・ベールズ氏は以下のように付け加えています。
「スペクトラム社は、我々のプロジェクトに最適なソリューションを見つける手助けや、発生した問題の解決に同社エンジニアとの直接通話を提供してくれるなど、非常に協力的であり続けてくれています。我々をはじめ多くの大学における基礎研究を支援することに取り組んでくれることは素晴らしいことです」
グラフでは、チェレンコフ放射により最初のパルスが発生し、エネルギー情報を示すシンチレーション信号がその後に続いています。これは2ナノ秒にも満たない間に起こっている現象です。この情報を組み合わせることで、粒子の種類やその粒子がどこから来たのかを特定することができます。粒子は、中国の原子炉の1つ、太陽、地球の中心部、あるいは深宇宙から飛来したのかもしれません。
スペクトラム社のM4i.2212-x8 PCIeデジタイザ
4チャンネル、1.25GS/sのサンプリングレート
シュタイガー博士は次のように説明しています。
「これまでのシンチレーション検出器では、ニュートリノがどこから飛来したのかを正確に知る術はありませんでした。今回、まったく新しい研究分野が広がります。たとえば、死にゆく恒星、いわゆる超新星が、大量のニュートリノを宇宙に放出しているとしましょう。現在の我々は、ニュートリノを観測できるだけでなく、この爆発が宇宙のどの地点で起こったのか高い精度で再構築することもできます。実質的に、さまざまなニュートリノの発生源を観測する望遠鏡を手に入れたため、その発生プロセスへの理解が深まります。スペクトル全域での光を検出することにより、高精度の統計、エネルギー分解能、方向性を備えた重力波、そして今やニュートリノさえ検出できるようになったことで、マルチメッセンジャー天文学の新時代が始まります」
スペクトラム・インスツルメンテーション社(Spectrum Instrumentation)について
1989年に創業したスペクトラム社(CEO 兼 創業者Gisela Hassler)は、モジュラー設計を利用することでデジタイザ製品および波形発生器製品をPCカード(PCIeおよびPXIe)やスタンドアローンのEthernetユニット(LXI)として幅広く生み出しています。スペクトラム社は30年間に、トップブランドの業界リーダーやほとんどすべての一流大学を含む、世界中のお客様に製品をご利用いただいています。当社はドイツのハンブルク近郊に本社を構えており、5年保証と設計エンジニアやローカルパートナーによる優れたサポートを提供しております。スペクトラム社の詳細については、https://www.spectrum-instrumentation.comをご確認ください。
提供元:PRTIMES