2024/10/08

皮ふの免疫細胞が老化細胞を除去する新たなメカニズムを明らかに ~皮ふの免疫機能が老化を予防している可能性を発見、Cell誌へ掲載~

株式会社 資生堂 

 資生堂とマサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所(以下: CBRC)※1は、共同研究により新たな皮ふの免疫細胞の機能として、老化した線維芽細胞(老化細胞)を除去することと、そのメカニズムを発見しました。これまで老化細胞は、年齢とともに蓄積すると考えられていましたが、老齢の皮ふにおいても必ずしも老化細胞が多いわけではなく、免疫細胞の一種であるCytotoxic CD4+ T細胞 (以下: CD4 CTL)※2が老化細胞の蓄積抑制に強く関わっていることを明らかにしました。また、CD4 CTLが老化細胞の蓄積を抑えるメカニズムとして、老化細胞内で活性化したヒトサイトメガロウイルス(以下: HCMV) ※3の一部分(抗原)が老化細胞の表面に出現することで、それをCD4 CTLが認識し、老化細胞を選択的に除去していることを世界で初めて発見しました(図1)。
 資生堂は、「肌自らが持つ力で未来の肌悩みを未然に防ぐ」という考えのもと、30年以上前から肌の免疫機能に関する研究にCBRCと共に取り組み、常に進化を続けています。今後、本研究成果から皮ふに備わっている免疫を介して老化細胞の蓄積を抑えるような、革新的な価値開発を目指します。
 なお、本研究成果は2023年3月30日にCell誌※4に掲載されました。
※1 CBRC (Cutaneous Biology Research Center):1989 年に資生堂のサポートにより、ハーバード医科大学とマサチューセッツ総合病院が設立した皮ふ科学領域の先進的な研究開発をする総合研究所。資生堂からも研究員を派遣し、世界的な研究者とともに共同研究を行っている
※2 Cytotoxic CD4+ T細胞(CD4 CTL):T細胞の一種で、理想的な健康長寿のモデルとされる超長寿者に多い免疫細胞であることも知られている
※3ヒトの多くが幼少時に感染し、ほとんどが無症状で、生涯にわたって潜伏感染しているウイルス
※4生命科学分野において世界最高峰の学術雑誌

図1 CD4 CTLがHCMV を目印にして老化細胞を除去する(イメージ図)


《研究背景》
 老化細胞は、加齢とともに体内で徐々に増加し、慢性炎症状態を誘発、継続することで、老化や老化関連疾患を促進していると考えられています。しかし、ヒトのさまざまな臓器における老化細胞の蓄積の状況やそれを抑制するメカニズムはいまだ解明されていないことが多くあります。私たちは、皮ふの健康を保つためには、ヒトの皮ふにおける老化細胞除去の生理的なメカニズムを探ることが重要であると考え、本研究を進めました。

《発見1:老齢の皮ふでは、年齢とともに老化細胞は増加していない》
 最初に、ヒトの皮ふ組織において、加齢とともに老化細胞が蓄積されるかどうかを調査した結果、若齢の皮ふと老齢の皮ふを比べると、老化細胞が有意に増加していることがわかりました(図2)。一方で、老齢の皮ふだけで見てみると、50代から70代にかけて、加齢に伴って老化細胞は有意には増加していないことが分かりました(図3)。このことから、老齢における老化細胞の蓄積は、何らかの要因によって抑えられている可能性が示されました。

      図2 老化細胞は、老齢の皮ふに多い

図3 老齢の皮ふでは、老化細胞と年齢は相関しない


《発見2:免疫細胞の一種であるCD4 CTLが老化細胞を選択的に除去する 》
 老齢の皮ふにおいて老化細胞の蓄積を抑える要因を探ったところ、老齢の皮ふでは、免疫細胞の一種であるCD4 CTLが多いほど老化細胞が少なく、CD4 CTLが老化細胞の蓄積を抑えている可能性が示唆されました(図4)。そこで、実際にCD4 CTLが老化細胞を除去できるかどうかを調べるため、正常な線維芽細胞(正常細胞)と老化した線維芽細胞(老化細胞)をヒトの皮ふから分離した免疫細胞と共に培養したところ、CD4 CTLによって老化細胞が選択的に除去されることが確認されました(図5)。

図4 免疫細胞(CD4 CTL)が多い肌ほど、老化細胞は少ない

図5 免疫細胞(CD4 CTL)が、老化細胞を選択的に除去する


《発見3:ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)がCD4 CTLの老化細胞除去を助ける》
 次に、CD4 CTLがどのようなメカニズムで老化細胞だけを除去するのかを探った結果、老化細胞内に共生しているHCMVというウイルスの一部分(抗原)が老化細胞の表面に出現し、CD4 CTLがその抗原を目印として認識することで老化細胞を除去していることを発見しました(図6)。

              図6 老化細胞上ではHCMVが提示されている

 本研究により、皮ふの免疫細胞の新たな機能として、老化細胞の除去という働きを明らかにしました。今後はこれらの知見をもとに、皮ふにおける老化細胞の蓄積を防ぐ免疫細胞に着目し、老化に根本からアプローチする革新的な価値を創出します。

R&D戦略について:
本研究はR&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、血管やリンパ管、免疫、神経な ど、皮ふ内部の状態と肌との関連を明らかにする研究として進めました。
・2023 年統合レポート(ビューティーイノベーション)
https://corp.shiseido.com/report/jp/2023/message/cmio/?rt_pr=trr32
・キーワード
Skin Beauty INNOVATION、肌免疫


《資生堂における「肌の免疫」に関する研究の取り組み》
 資生堂は、30年以上にわたり肌の免疫機能に関する研究をCBRCと共に取り組んでいます。CBRCとの研究成果は1993年に「Nature」誌へ掲載されるなど、世界的にも非常に高い評価を得ています。資生堂の肌免疫研究は常に進化を続け、今回の免疫細胞の老化細胞除去メカニズムの発見により、革新的な肌免疫研究は、年齢にとらわれない肌本来の美しさを生み出すものへとさらに飛躍していきます。



Shiseido Innovation Conference 2023
12:15~肌の免疫研究の30年にわたる研究と最新知見(みらい開発研究所 加治屋 健太朗)
https://corp.shiseido.com/jp/rd/conference/?rt_pr=trr32

《参考:当社の過去の免疫に関する研究成果》
(1)「肌の免疫」に関する新たな皮膚生理学の分野を創出(1993年)
論文掲載科学雑誌Nature; 13 May, 1993
(2) 肌トラブルの新たなメカニズムを解明(2007年)
論文掲載科学雑誌J Invest Dermatol 2007; 127:362-371
(3) ランゲルハンス細胞に直接はたらきかけ「肌の免疫力」を高める複合成分の開発に成功(2014年)
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001651/1651_f1j63_jp.pdf?rt_pr=trr32
(4) 資生堂、加齢による皮膚免疫力変化のメカニズムの一端を解明(2020年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002984&rt_pr=trr32
論文掲載科学雑誌J Invest Dermatol 2020; 140:1327-1334
(5) 資生堂、男性ホルモンにより皮膚免疫が低下するメカニズムを解明(2020年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003031&rt_pr=trr32
(6) 細胞傷害性CD4+ T細胞がサイトメガロウイルス抗原を標的として老化細胞を除去する (2023年)
Cytotoxic CD4+ T cells eliminate senescent cells by targeting cytomegalovirus antigen、著者: Tatsuya Hasegawa, Tomonori Oka, Heehwa G. Son, Valeria S. Oliver-Garc?a, Marjan Azin, Thomas M.Eisenhaure, David J. Lieb, Nir Hacohen, and Shadmehr Demehri.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.02.033
(7) 資生堂、エクトインがメラトニン合成を促進し 肌の免疫機能強化へと導く可能性を発見(2023年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003680&rt_pr=trr32
(8) 資生堂、免疫機能が整っている人の肌は 睡眠の乱れによる影響を受けにくいことを発見(2023年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003696&rt_pr=trr32


▼ ニュースリリース
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003896&rt_pr=trr32

▼ 資生堂 企業情報
https://corp.shiseido.com/?rt_pr=trr32

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提供元:PRTIMES

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