2024/12/19

ガザ地区:イスラエルによる攻撃、包囲、封鎖はガザの完全破壊──国境なき医師団報告書

国境なき医師団(MSF)日本 


イスラエル軍による14日間にわたる包囲直後のガザ市のシファ病院=2024年1月4日 (C) MSF

パレスチナ・ガザ地区で医療・人道援助活動を続ける国境なき医師団(MSF)はこのたび、報告書『Gaza: Life in Death Trap(ガザ・死の罠の中で生きる)』(英文)を公開、イスラエルによって14カ月にわたり繰り返される市民への攻撃、医療体制やインフラの破壊、息苦しいほどの包囲、人道援助の拒否、そのすべてがガザの市民生活の破壊だと指摘する。そしてMSFは、人命救助と人道援助の流れを可能にするため、全ての紛争当事者に対し即時停戦を改めて求める。イスラエルは、民間人を標的にした無差別攻撃を止め、その同盟国は、パレスチナ人の命と戦争のルールを守るために、遅滞ない行動が求められる。報告書掲載サイト:https://www.msf.or.jp/publication/pressreport/
明らかな民族浄化の兆候
今年初めにガザを訪れたMSFインターナショナル事務局長のクリストファー・ロックイヤーは、「人びとは、この世の終わりのような事態を必死に生き抜こうとしています。しかし、この壊滅状態に出口はありません。安全な場所はどこにもなく、命の保証がある人は誰ひとりいないのです」と危機感をあらわにする。

「ガザ北部で最近行われた攻撃は、イスラエル軍による戦争の残忍性を端的に示しています。パレスチナ人は強制的に避難させられ、閉じ込められ、爆撃をうける、これは明らかな民族浄化の兆候です。ガザで行われていることはジェノサイド(集団殺害)だと結論づける法律専門家や団体の数が増えていますが、MSFのチームが現場で目撃してきたことは、そうした見解と一致しています。それが意図的か否かを立証する法的権限はMSFにはありませんが、民族浄化の兆候と現在も続く破壊、つまり集団殺りく、心身への傷害、強制避難、包囲と砲撃下の耐え難い生活環境、を与えていることは否定の余地がありません」
医療にも向けられる攻撃と行き場のない患者
2023年10月7日、ハマスとその他の武装集団がイスラエルで恐ろしい攻撃を実行し、1200人が死亡、251人が人質となった。これに対し、イスラエル軍はガザの全住民を壊滅させようとしている。ガザ保健省によると、ガザではこれまでに8人のMSFスタッフを含む4万5000人超が殺害された。しかし医療体制の崩壊、病気の発生、食料・水・避難所の確保が極度に制限されたことなどの影響により、紛争関連の実際の死亡者数はるかに多いとみられる。国連は今年初め、がれきの下には1万人以上の遺体が埋まっていると推計した。イスラエル軍は、食料、水、医薬品といった必需品のガザ地区搬入を何度も阻止し、人道援助を妨害、拒否、遅らせている。ガザの全人口の90%にあたる190万人が強制的に避難させられ、その多くが何度も移動を余儀なくされてきた。

ガザにある36の病院は、現在半数以下しか機能しておらず、医療体制はがれきに埋もれたと言える。報告書がその対象期間とした2023年10月から2024年10月までの1年間に、MSFだけでも、空爆、砲撃、医療施設への襲撃や輸送隊への直接攻撃、イスラエル軍によるスタッフの恣意的拘束など、41件の攻撃や暴力被害に耐えてきた。MSFの医療関係者と患者は、17回にわたって病院や医療施設からの一時退避を余儀なくされ、文字通り命がけで逃げ出すことも少なくなかった。紛争当事者は医療施設の近くで戦闘を行っており、患者、世話人、医療スタッフを危険にさらしている。

ガザ市民の心身の健康被害は甚大で、ニーズは増え続けている。MSFが支援する施設では、暴力起因の診療を少なくとも2万7500件、外科手術を7500件行ってきたが、診療をうけられず医薬品が手に入らないなどの理由で外傷や慢性疾患が悪化する人びとがいる。イスラエルが強制する避難は、病気が急速に広まるような、極度に不衛生な生活環境に人びとを追いやっている。その結果、皮膚病、呼吸器感染症、下痢などの症例が増え、MSFも多くの患者を治療している。いずれも冬の気温が下がるにつれて増加すると予想されている。子どもは重要な予防接種を受けられず、はしかやポリオのような病気にかかりやすくなっている。MSFは栄養失調の症例数増加も確認しているが、ガザでは、治安の悪さと危険回避の手段がないため、完全な栄養失調のスクリーニングを実施することは不可能だ。

ガザでは医療の選択肢が減っていた上にイスラエルは医療搬送をさらに困難にしてきた。2024年5月初旬のラファ検問所閉鎖から9月までの間に、イスラエル当局がガザ外への医療搬送許可を出した患者は229人にとどまり、その割合は同期間に搬送が必要だった患者の1.6%に過ぎなかった。
過酷さ極まるガザ北部の状況
ガザ北部の状況は極めて悲惨だ。イスラエルによる最近の攻撃によって焦土と化し、広範囲で人口が減少、2000人近くが死亡したと報告されている。特にジャバリア・キャンプは、2024年10月6日以来、イスラエル軍に再び包囲されている。イスラエル当局は、北部に搬入する許可を与えた援助物資の量を大幅に減らしている。2024年10月、ガザ全域に届いた物資量は、前年同月に紛争が激化して以来最低を記録した。2023年10月7日以前は援助物資を積んだトラックが1日平均500台ガザに入ったが、今年10月の1日平均は37台と大幅に下回った。


ロックイヤーは、「ガザの医療スタッフは、1年余りにわたって、大規模な破壊、荒廃、人間性のはく奪をもたらすイスラエル軍の容赦ない軍事作戦を目の当たりにしてきました。パレスチナ人は自宅や病院のベッドで殺されています。危険で不衛生な場所へ繰り返し避難させられた人もいます。厳しい包囲と封鎖のなか、食料、清潔な水、医薬品、せっけんといった生活必需品さえ手に入れることはできないのです」と話す。
同盟国は集団殺害を防ぐ義務を果たせ
MSFは、各国、特にイスラエルの最も緊密な同盟国に対し、イスラエルへの無条件支援をやめ、ガザでの集団殺害を防ぐ義務を果たすよう求める。約1年前の1月26日、国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対し「ガザ地区のパレスチナ人の逆境に対処するため、急を要する生活インフラと人道援助の提供を可能にするための即時かつ効果的な措置」をとるよう命じた。しかしイスラエルは裁判所命令を順守するために意味のある行動をとっていない。それどころかイスラエルは、MSFやその他の人道援助団体が、包囲と砲撃の下に閉じ込められた人びとに援助を提供することを、積極的に妨害し続けている。

各国は、ガザ住民の苦しみを和らげ、地区全域で人道援助を大規模に拡大できるよう、影響力を行使しなければならない。占領国であるイスラエルには、人びとのニーズに対応するのに十分なレベルの人道援助を、迅速かつ妨げられることなく、安全に提供できるようにする責任がある。しかしイスラエルの封鎖と継続的な援助妨害によって、ガザの人びとが燃料、食料、水、医薬品などの必要物資を手に入れることは不可能に近い。同時に、イスラエルは、パレスチナ人に援助、医療、その他の重要なサービスを提供する最大の機関である国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を事実上禁止することを決定した。

MSFは、即時かつ持続的な停戦の呼びかけを繰り返す。ガザにおけるパレスチナ人の生活の全面的な破壊を止めなければならない。MSFはまた、ガザ北部の病院への支援と医療物資の輸送を可能にするため、北部への即時かつ安全なアクセスを求める。MSFはガザ中部と南部で救命医療を提供し続ける一方で、イスラエルに対し、ガザに対する包囲をやめ、ラファ検問所を含む主な陸上の検問地点の開放によって、人道・医療援助の規模拡大を図るよう要請する。

イスラエル軍のガザ攻撃が今日終わったとしても、破壊の規模やガザ全域で医療を提供することの難しさを考えれば、長期的な影響は前例のないものになるだろうとMSFは報告書で指摘する。おびただしい数の戦傷者が、感染症、身体の一部の切断、後遺症の危険にさらされ、その多くが何年ものリハビリを必要とする。極度の暴力、家族や家の喪失、度重なる強制移住、非人道的な生活環境によって心身にダメージが蓄積し、何世代にもわたって傷跡を残すことになるだろう。

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提供元:PRTIMES

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