2026/04/17

「細菌毒素を直接阻害」する新戦略、ガス壊疽治療の未来を切り拓く

学校法人 順天堂 

― 致死性毒素を標的とした治療法開発に道を拓く研究成果 ―

順天堂大学薬学部の竹原正也 准教授、山地俊之 教授ら、および徳島文理大学薬学部の永浜政博 教授、今川洋 教授らの共同研究グループは、ガス壊疽*¹の原因菌であるA型ウエルシュ菌が産生するα毒素*²を阻害する治療薬候補として、抗真菌薬のカスポファンギンを見いだしました。研究グループは米国食品医薬品局(FDA)承認薬ライブラリーを用いた薬剤スクリーニングにより、α毒素の活性を抑制する化合物を探索し、カスポファンギンが本毒素の細胞傷害作用を抑え、感染モデルマウスで生存率を改善し、さらに筋障害を軽減することを明らかにしました。本成果は、細菌毒素を標的とする新たな治療戦略を提示するものであり、ガス壊疽に対する迅速な治療法開発につながることが期待されます。本論文はCommunications Medicine誌のオンライン版に2026年4月16日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● FDA承認薬ライブラリーを用いた薬剤スクリーニングを実施
● 抗真菌薬カスポファンギンがウエルシュ菌α毒素を直接阻害することを発見
● 既存薬の再開発によるガス壊疽の新規治療法開発へ

背景
ガス壊疽は、外傷後などに発症する致死率の高い細菌感染症で、A型ウエルシュ菌の産生するα毒素が代表的な病原因子として知られています。現在の治療は抗菌薬投与、外科的処置、高圧酸素療法が中心ですが、病態の急速な進行を十分に抑えられない場合があります。α毒素は血管内皮細胞の傷害や免疫抑制などにより筋壊死を引き起こすことが知られており、本毒素を阻害する治療法の開発が強く求められてきました。しかし、既存薬の多くは細菌そのものを標的としており、毒素に対する阻害薬はほとんど実用化されていません。本研究では、既承認薬を活用したドラッグ・リポジショニング*³により、α毒素阻害薬を同定することを目的としました。
内容
本研究では、FDA承認薬764種を用いてα毒素のホスホリパーゼC(PLC)活性*⁴を阻害する化合物を網羅的にスクリーニングしました。その結果、21種の化合物がPLC活性を抑制しました。その後、二次スクリーニングとしてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた細胞傷害試験を行ったところ、抗真菌薬のミカファンギンおよびカスポファンギン*⁵がα毒素による細胞死を抑制することが分かりました。
また、マウスに精製α毒素を投与したモデルでは、カスポファンギンが致死率を顕著に低下させました。A型ウエルシュ菌感染モデルマウスにおいても、カスポファンギン投与により生存期間の延長と筋組織傷害の軽減が認められました。
さらに、分子ドッキングシミュレーションから、カスポファンギンはα毒素の基質結合部位近傍に結合し、毒素活性を阻害する可能性が示されました(図1)。これらの結果は、α毒素阻害がガス壊疽治療に有効であることを示唆しています。
今後の展開
本研究により、抗真菌薬として臨床使用されているカスポファンギンが、細菌毒素を直接阻害する新たな作用を持つことが明らかになりました。既承認薬を活用することで、開発コストや時間を大幅に短縮できる可能性があります。今後は、投与方法や投与量の最適化、既存抗菌薬との併用効果の検証を進め、臨床応用に向けた研究を行う予定です。本成果は、ガス壊疽のみならず、細菌毒素が関与する他の重篤な感染症に対する新規治療戦略の基盤となることが期待されます。

図1:抗真菌薬ミカファンギンおよびカスポファンギンがウエルシュ菌α毒素に結合する様子

α毒素は、ガス壊疽を引き起こすA型ウエルシュ菌の主要毒素である。本研究では、既存の抗真菌薬であるミカファンギン(黄色)およびカスポファンギン(オレンジ)が、この毒素に結合することをコンピュータ上でシミュレーションした。その結果、ミカファンギンはα毒素の深い空間にまっすぐ刺さるように結合し、高い親和性を示すのに対し、カスポファンギンはより浅い部分に柔軟にフィットする形で結合することが分かった。このように、両薬剤はα毒素に直接結合し、その毒性を阻害していることが予想される。
用語解説
*1 ガス壊疽: 筋組織の急速な壊死を特徴とする致死性の高い細菌感染症。
*2 α毒素: A型ウエルシュ菌が産生する主要な病原性因子である。PLC活性により、細胞膜を破壊する。
*3 ドラッグ・リポジショニング: 既存薬の新たな適応症を見いだす研究手法。
*4 PLC活性: 細胞膜のリン脂質を加水分解する活性。
*5ミカファンギン、カスポファンギン: 真菌の細胞壁合成を阻害するキャンディン系抗真菌薬。
原著論文
本研究はCommunications Medicine誌のオンライン版で(2026年4月16日付)先行公開されました。
タイトル: Repurposing caspofungin as a small-molecule inhibitor of Clostridium perfringens α-Toxin for treatment of gas gangrene
タイトル(日本語訳): ガス壊疽治療に向けた、ウエルシュ菌α毒素を標的とする低分子阻害剤としてのカスポファンギンの再活用
著者: Masaya Takehara, Yuta Homma, Tomoaki Ishihara, Yoshihiko Sakaguchi, Yusuke Kasai, Kanako Matsumoto, Katsuyuki Nakashima, Toshiyuki Yamaji, Yoshiyuki Tanaka, Hiroshi Imagawa, Masahiro Nagahama
著者(日本語表記): 竹原正也1)、本間悠太1)、石原知明2)、阪口義彦3)、葛西祐介4)、松本可南子3)、中島勝幸5)、山地俊之1)、田中好幸5)、今川洋4)、永浜政博3)
著者所属: 1)順天堂大学薬学部微生物・免疫学分野、2)長崎国際大学薬学部細胞生物薬学研究室、3)徳島文理大学薬学部微生物学教室、4)徳島文理大学薬学部薬品製造学教室、5)徳島文理大学薬学部薬品分析学教室
DOI: 10.1038/s43856-026-01503-y

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)JP22fk0108635、JP23fk0108635、JP24fk0108635、JP25fk0108728(竹原正也)、および公益信託 医用薬物研究奨励富岳基金(山地俊之)の支援を受けて実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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提供元:PRTIMES

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