世界初、光ネットワーク全長を”診る”機能を通信用デジタル信号処理チップへ搭載
NTT 株式会社~専用測定器なしで光トランシーバが“自ら異常を見つける”時代へ~
発表のポイント:
- 通信しながら光ネットワーク全長を可視化する機能を、独自技術により計算処理量を従来比100分の1に削減することで、世界で初めて通信用デジタル信号処理(DSP: Digital Signal Processor)チップに搭載
- 本技術により、これまで専用測定器が必要だった光ネットワークの異常箇所の特定を、受信端の小型光トランシーバのみで1,000 km超にわたり自動で実現
- AI時代を支える光ネットワークをエンドツーエンドで常時監視できるようになり、運用保守を大幅に効率化
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、光ネットワークの受信端に設置される小型光トランシーバのみを用い、通信しながら光ネットワーク全長の状態を可視化する機能を、世界で初めて通信用DSPチップに搭載しました。本技術により、AI時代を支える光ネットワークをエンドツーエンドで常時監視でき、運用保守が大幅に効率化します。
本成果は、2026年3月15日から3月19日に米国カリフォルニア州ロサンゼルスで開催された光通信技術に関する国際会議OFC2026(The Optical Fiber Communication Conference and Exhibition)の最難関発表セッションであるポストデッドライン論文[1]として採択・発表されました。
1.背景
近年、AI需要の急拡大に伴い、データセンタ間光ネットワークや基幹光ネットワークの大容量化・広域化が加速しています。NTTグループが展開を進めるIOWN APN(All-Photonics Network)(※1)もこの潮流を支える次世代インフラであり、光電融合デバイス技術(※2)を活用することで大容量・低遅延・低消費電力な通信を実現します。こうした大容量光ネットワークの拡大に伴い、その安定運用の重要性もこれまで以上に高まっています。
光ネットワークを安定的に運用するためには、光信号パワーを光ネットワーク全長にわたって把握し、異常な損失箇所を早期に発見・特定することが重要です。従来、このような把握にはOTDR (Optical Time Domain Reflectometer)(※3)などの専用測定器による測定作業が必要であり、運用保守のコストがかかるうえ、通信サービスを提供しながら常時エンドツーエンドに監視することは困難でした。これに対し、NTTはこれまで、測定器を用いずに、光トランシーバで受信される通信信号のみから光ネットワーク全長の光信号パワーを可視化する技術を開発してきました[2,3,4]。しかし、本技術には莫大な計算リソースが必要とされるため、これまでの実証は外部計算機等を用いた原理実証にとどまっており、本技術を実際の光ネットワークに広く導入するためには、商用の光トランシーバへの搭載が不可欠でした。
図1. 本成果: 通信用DSPチップによる1000 km超の光ネットワーク全長の可視化
2.本研究の成果
本研究では、世界で初めて光ネットワーク全長を可視化する機能を、光トランシーバ内部の通信用DSPチップ[5](コヒーレントDSP、※4)上に搭載し、動作実証に成功しました(図1)。新たに開発した独自技術により可視化に必要な計算処理量を従来比100分の1に削減することで、消費電力・実装面積の制限が厳しい通信用DSPおよび、小型光トランシーバへの搭載が可能となりました。その結果、光ネットワークの異常箇所を特定できる世界初の光トランシーバを実現しました。本技術による測定結果は、専用測定器(OTDR)による測定結果と良好に一致しており、異常箇所の特定に十分な精度をもつことが確認されました。
図2. 本実験で使用した800GコヒーレントDSPチップ (NTTイノベーティブデバイス社製[5])
3.実験の概要
NTTは、本ネットワーク可視化技術をNTTイノベーティブデバイス社製の通信用DSPチップ[5] (図2)に実装しました。本DSPを搭載した小型プラガブル光トランシーバ(OSFP: Octal Small Form Factor Pluggable)(※5)により、標準的な通信信号(800ZR+/400ZR+(※6))を受信・処理するだけで、最大1,005 kmに及ぶ光ネットワークにおける複数の光パワー異常を位置特定できることを実証しました(図1)。また、他社製の光トランシーバからの送信信号を受信した場合にも本技術が正常に動作し、マルチベンダ環境を含む実際の光ネットワーク環境への適用が可能であることを確認しました。さらに、本技術による測定中に通信品質・消費電力への影響がないことを確認しており、通信しながら光ネットワーク全長にわたって分布的にモニタリングが可能であることを実証しました。
4.今後の展開
本成果では、世界で初めて通信しながら光ネットワーク全長を可視化する機能を通信用DSPチップと小型光トランシーバに搭載しました。これは従来の光トランシーバにない革新的な機能であり、光トランシーバが"自ら異常を見つける"ことで、光ネットワークの運用保守に大幅な効率化をもたらします。
NTTは今後、IOWN APNをはじめとした光ネットワークへの本技術の実装を進め、AI時代を支える大容量光ネットワークの常時監視と自律運用の実現に向けた研究開発を加速していきます。
その他
本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の助成事業「光ネットワークの低消費電力化に向けた小型低電力波長変換・フォーマット変換技術に関する研究開発プロジェクト」(JPJ012368G60201)により得られたものです。
関連発表
[1] T. Sasai, Y. Nakajima, M. Takahashi, R. Kaneko, M. Nakamura, A. Matsushita, F. Hamaoka, E. Yamazaki “First Coherent DSP and Pluggable Transceiver Capable of Distance-Resolved, Longitudinal Power Monitoring,” Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC) 2026, Los Angeles, USA, Th4B.4, 2026.
[2] 2024年8月20日「光ファイバ伝送路の状態を測定器なしでエンドツーエンドに可視化できる技術を開発し、世界初、世界最高精度でのフィールド実証に成功 ~光ネットワークのデジタルツインの実現へ前進、迅速な光接続/保守が可能に~」
[3] 2025年3月31日「オープン仕様に基づくIOWN APNにおいて1Tbps級光ネットワークの自動設定を実現 ~光波長回線をオンデマンドに即時に提供する技術をOFC2025で実演~」
[4] 2024年3月26日「光電融合技術とオープン標準を用いた複数社製品による400Gbps/800Gbps IOWN APNをOFC2024で動態展示 ~光のまま低遅延・低電力で分散型データセンタを接続~」
[5] NTTイノベーティブデバイス株式会社 800G低消費電力コヒーレント DSP ExaSPEED 800
【用語解説】
※1. IOWN APN(All-Photonics Network):端末からネットワークまで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、エンド・ツー・エンドでの光波長パスを提供することで、圧倒的な低消費電力、高速大容量、低遅延伝送を実現する革新的光ネットワーク。
https://group.ntt/jp/group/iown/function/apn.html
※2. 光電融合デバイス技術:光と電気の機能を一体化することで、大容量・低遅延・低消費電力な信号処理・伝送を可能にする、IOWN構想を支える基盤技術。本成果におけるコヒーレントDSPチップはその中核を担う一例である。
https://www.rd.ntt/iown_tech/post_6.html
※3. OTDR (Optical time domain reflectometer):光ファイバの片端から試験光を入射し、光ファイバ内で光が反射して戻ってくるまでの時間を計測することで、光ファイバの損失を分布的に測定する機器。
※4. コヒーレントDSP:光通信で送られてきた信号を電子的に処理し、光の振幅や位相などに含まれる情報を高精度に復元することで、データを正しく取り出すためのデジタル信号処理チップ。
※5. OSFP (Octal Small Form Factor Pluggable):通信装置のポートに着脱可能な小型光トランシーバモジュールの形状に関する業界標準規格の一つ。
※6. 800ZR+/400ZR+:OIF、OpenZR+ MSA、OpenROADMなどで定められる、データセンタ間や都市間などの長距離・大容量通信向けの800Gbps/400Gbps級光通信方式の仕様。
提供元:PRTIMES