2021年度の業績見通し、収益の増減予想は拮抗

2021/04/14  株式会社 帝国データバンク 

資金繰りの苦しさは「個人向けサービス業」で鮮明に

 国内景気は、新型コロナウイルスの影響により経済活動が左右される状況が続いている。緊急事態宣言は解除され、ワクチン接種や新しい生活様式に対応した需要創出など徐々に明るい兆しも見え始めているものの、一部地域では「まん延防止等重点措置」が適用されるなど、収束の時期は未だ鮮明には見えていない。一方で、2020年から延期となった東京五輪・パラリンピックの開催や5Gの本格的な普及などによる景気回復が期待されている。 そこで、帝国データバンクは、2021年度の業績見通しに関する企業の意識について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2021年3月調査とともに行った。


<調査結果(要旨)>

2021年度の業績見通しを「増収増益」とする企業は、前回調査(2020年3月)の2020年度見通しから13.9ポイント増加し、27.4%だった。一方、「減収減益」を見込む企業は同18.4ポイント減少の26.0%で、2021年度の業績見通しは増減が拮抗する結果となった。業種別でみると、増収増益では自動車・同部品関連の「輸送用機械・器具製造」が40.4%でトップ。減収減益では、2020年度は内食需要が活況だった総合スーパーを含む「各種商品小売」が最も高かった
2021年度業績見通しの上振れ材料は、新型コロナウイルスに関する「感染症の収束」が45.6%でトップ。次いで、「個人消費の回復」が前回調査より8.1ポイント増加の42.9%となった。以下、「公共事業の増加」「経済政策の拡大」「中国経済の成長」「米国経済の成長」が続いた。一方、下振れ材料においても「感染症の拡大」が54.7%で最も高く、「個人消費の一段の低迷」(35.4%)が続いている
2021年3月時点の企業の資金繰りについて尋ねたところ、資金繰りが「楽である」と感じている企業の合計は43.2%だった。「どちらでもない」が40.6%、「苦しい」の合計が13.6%となった。新型コロナウイルスに関連する特別融資によって資金調達ができているとの声が多くあがった一方で、小規模企業や特に「旅館・ホテル」「娯楽サービス」「飲食店」といった個人向けサービスの業種では、資金繰りの厳しさが目立っている


2021年度の業績見通し、収益の増減はそれぞれ拮抗する結果に

 2021年度(2021年4月決算~2022年3月決算)の業績見通し(売上高および経常利益)について尋ねたところ、「増収増益」と回答した企業は27.4%となり、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響が拡がり始めていた前回調査(2020年3月)の2020年度見通しから13.9ポイント増加した。一方、「減収減益」は同18.4ポイント減の26.0%と半減。2021年度の企業の業績見通しは「増収増益」と「減収減益」が拮抗する結果となった。

2020年度の実績見込み、2021年度の見通しについて

 業績見通しを業種別でみると、「増収増益」では自動車・同部品関連の「輸送用機械・器具製造」が40.4%でトップとなった。次いで、「飲食店」が39.0%で続いていたほか、「旅館・ホテル」など2020年度に大きく打撃を受けたサービス業が上位に並んだ。一方、「減収減益」では2020年度に活況な内食需要によって好調だった総合スーパーなどを含む「各種商品小売」が38.1%で最も高い。また、アパレル関連の「繊維・繊維製品・服飾品」における製造と卸売、公共工事に支えられ好調だった「建設」などが上位となった。


業種別の業績見通し

業績への上振れ・下振れ材料ともに新型コロナと個人消費の動向が左右

 2021年度の業績見通しを上振れさせる材料を尋ねたところ、新型コロナなどの「感染症の収束」が45.6%でトップだった。また「個人消費の回復」(42.9%)は、前回調査(2020年3月)より8.1ポイント増加した。次いで、「公共事業の増加」(20.9%)、財政・金融政策や成長戦略、規制緩和などの「経済政策の拡大」(18.2%)、「中国経済の成長」(14.9%)、「米国経済の成長」(14.0%)が続いている。上位の顔ぶれに大きな変化はみられないものの、個人消費の回復を上振れ材料と考える企業の増加が目立っている。

 一方、2021年度の業績見通しを下振れさせる材料では「感染症の拡大」(54.7%)が前回調査より減少したものの引き続き突出して高かった。次いで、「個人消費の一段の低迷」(35.4%)が3割台、「所得の減少」(25.5%)、「行動制限や外出自粛の実施・拡大」(23.9%)、「雇用の悪化」(21.1%)などが2割台で続いた。企業からは、「新型コロナに対するワクチン接種の効果と拡大抑制策により感染を防ぐ事ができれば、経済は立て直せると期待している」(食料・飲料卸売、北海道)や「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によってIT需要が増加している」(ソフト受託開発、東京都)といった前向きな声が聞かれた。一方で、下振れ材料として「樹脂、半導体関係の原材料不足が徐々に顕著になっているので、これが大きな問題になる可能性は高いと考える」(スポーツ用品卸売、愛知県)や「自動車のEV化が進むことで、部品点数の減少により受注が減少すると見込む」(鍛工品製造、広島県)、「半導体不足による製品供給の遅延が懸念される」(新車自動車小売、秋田県)などの意見がみられた。

2021年度業績見通しの上振れ材料・下振れ材料(複数回答)

2021年3月時点の資金繰り、「楽である」が43.2%に対して「苦しい」は13.6%に

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、国内景気や企業活動にさまざまな影響を及ぼした。そうしたなか企業の資金繰りに対しては、2020年3月から始まった政府系金融機関による実質無利子・無担保融資を皮切りに、同年5月には民間金融機関も対応を進めた。さらに、2021年3月には金融庁が新型コロナ関連融資の返済猶予対応を金融機関に要請するなど、資金繰り支援は現在も継続している。

 そこで、当調査を実施した2021年3月時点の資金繰り状況について尋ねたところ、「楽である」計(「非常に楽である」「楽である」「やや楽である」の合計)は43.2%となった。「どちらでもない」は40.6%で同じく4割台となり、「苦しい」計(「非常に苦しい」「苦しい」「やや苦しい」の合計)は13.6%だった。


2021年3月時点の資金繰り

 規模別でみると、大企業ほど資金繰りが「楽である」とする割合は高く、小規模企業を5.7ポイント上回った。一方で、大企業では資金繰りが「苦しい」企業 は7.9%となっているのに対して、中小企業では14.7%、さらに小規模企業では19.7%へと増加しており大企業を11.8ポイント上回る結果となった。


2021年3月時点の資金繰り状況 ~規模別~
 資金繰りが「苦しい」と感じている企業を業種別にみると、「旅館・ホテル」が40.6%で最も高く、「娯楽サービス」が35.8%、「飲食店」が27.1%と高くなっている。これらの業種からは、「雇用調整助成金の特例処置によって、新型コロナ緊急融資を受けた資金が潤沢にあり、概ね3カ月分の売り上げ相当の資金がある」(旅館、愛媛)のような、政策によって助かっているという意見が聞かれた。一方で、「新型コロナ融資の返済開始が近づいており、早く新型コロナから回復しない と一気に保有資金が底をついてしまう」

2021年3月時点の企業の資金繰り ~業種別~
(一般食堂、北海道)や「新型コロナ融資で何とか繋いでいるが、景気改善の兆しが見えないうちは余裕がない」(日本料理店、奈良県)、「税金の支払い猶予や返済融資など政策支援を受けてきたが、景気が良くなったわけではない現状、支払いが迫ってくる。資金繰りは仕事をして利益を生むしかない。これ以上の融資は受けられない」(映画・ビデオ制作、東京都)など、現状の厳しさを表す声も多くあげられた。


今後は資金繰りが苦しい個人向けサービス業に支援を

 国内景気は、下振れリスクを抱えながらも、ワクチン接種の本格的な開始による経済活動の正常化に向けた動きを受け、緩やかに上向いていくと見込まれる。新型コロナの動向次第ともいえる状況のなかで、2021年度業績見通しは増収増益と減収減益が拮抗する結果となった。上振れ・下振れ材料では、ともに新型コロナの影響をあげる企業の割合が最も高い。また、それにともなう個人消費の行方も注視する必要があろう。
 2021年3月時点の資金繰りについては、「楽である」「どちらともいえない」と回答した企業はそれぞれ4割超となり、「苦しい」と感じている企業は13.6%だった。規模別では、特に小規模企業で資金繰りが苦しいとした割合が高く、大企業との開きが大きい。資金繰りに関して特に苦境が目立っている旅館・ホテル、娯楽サービス、飲食店のような業種は、景気が回復した際に減少分を取り戻す「繰り延べ需要」が起きにくい。そのため、政府が進めている各種施策では、これらの業種や中小企業に対して、重点的な支援を行う必要性が一層強まっている。

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