【報告レポート】小児医学分野で活躍する研究者を対象に開催「2023年度小児医学川野賞贈呈式・記念講演会・助成研究成果発表会」

2024/03/28  公益財団法人 川野小児医学奨学財団 

~冒頭では選考委員・坂本穆彦先生(大森赤十字病院顧問)による講演も~

 小児医学研究者への研究助成や小児医学を志す医学生への奨学金給付などを行う公益財団法人川野小児医学奨学財団(所在地:埼玉県川越市、理事長:川野幸夫/株式会社ヤオコー代表取締役会長)は、2024年3月2日に2023年度小児医学川野賞贈呈式・記念講演会・助成研究成果発表会および講演会を開催しました。贈呈式の様子と、冒頭で行われた坂本穆彦先生(当財団選考委員、大森赤十字病院顧問、福島県立医科大学特任教授)による講演内容をご報告します。 なお、2023年度は、小児医学研究者3名に小児医学川野賞※を贈呈、49名に研究助成金を交付し、賞金と助成金の総額は7,448万円となります。



     (写真左から)竹内先生、菱木先生、           助成研究発表会の様子
        岡田先生、当財団理事長  

小児医学川野賞※について https://kawanozaidan.or.jp/prize/


この賞は、財団設立10周年を記念して、1999年に創設されました。優れた業績をあげ、学術の進歩に貢献した小児医学研究者を毎年表彰しています。“小児医学のさらなる発展を”との願いから、受賞後も小児医学への貢献が期待される55歳以下の研究者を対象としています。受賞者にはトロフィーと賞状、賞金100万円が贈呈されます。創設当初は基礎医学、臨床・社会医学の2分野からの選出でしたが、2019年からは基礎医学、臨床医学、社会医学の3分野にて選出をしています。2023年度までで受賞者は54名となり、歴代の受賞者は今まさに日本の小児医学界のリーダーとなられている方々ばかりです。

2023年度小児医学川野賞受賞者コメント


基礎医学分野

広島大学大学院医系科学研究科小児科学 教授 岡田 賢 先生
「先天性免疫異常症の病因病態解明」

小児医学川野賞(基礎医学分野)を受賞し、非常に光栄に感じています。約20年間にわたり取り組んできた先天性免疫異常症の基礎研究が、評価されたことを喜んでいます。今回の受賞を励みにして、今後も一層の研究活動に尽力し、小児医療の発展に寄与できればと考えています。

●臨床医学分野

千葉大学大学院医学研究院小児外科学 教授 菱木 知郎 先生
「小児肝腫瘍の予後改善と副作用軽減を目指した治療開発」

この度は名誉ある賞を頂き誠にありがとうございます。私は小児外科医として小児がんの診療と研究に取り組んでまいりました。今回その取り組みをご評価いただいたことはたいへん光栄です。今後も小児がんの診療と研究を通してお子さんたちの明るい未来に貢献できれば幸いです。

●社会医学分野
岡山医療センター新生児科・小児神経内科 臨床研究部副成育医療推進室長 竹内 章人 先生
「NICUを退院した児の発達・発育フォローアップに関わる疫学や新生児神経学」


栄誉ある小児医学川野賞をいただき大変光栄です。NICUを退院したお子さんたちのその後をサポートしていくための研究をご支援、ご指導いただいた皆様、ともに研究を行っていただいた共同研究者の方々に感謝申し上げます。こどもの発達ということを軸に社会のありようについても想いを巡らせながら、研究成果を社会に還元していけるように今後とも尽力していきたいと思います。


研究助成について https://kawanozaidan.or.jp/research_support/


 当財団では、小児疾患の原因究明・治療・予防などに関する研究の発展を支援するため、1990年から小児医学研究者に対して助成金の交付を行っています。2007年には、若手研究者の活躍を後押しするために40歳以下の研究者を対象とする若手枠も設けました。一般枠は1人300万円、若手枠は1人100万円を上限として、助成金を交付しています。一般枠交付者は毎年3月に研究の成果を口頭発表することとなっています。
 小児医学・医療に関する研究の幅が広がり続けているとともに、年々研究費の獲得が難しくなっていることもあり、事業開始から現在に至るまで、応募者数、交付者数は増え続けています。2023年度までで、交付人数はのべ700件以上、交付総額は10億円を超えました。

2023年度助成研究成果発表者一覧




講演


当財団選考委員の坂本穆彦先生は、東日本大震災による原発事故後に始まった福島県県民健康調査に長年に携わっています。月日が経過するにつれ、事故の影響に対する社会の関心の風化が案じられていますが、原発事故は忘れてはならない教訓です。そこで、この度「福島原発事故による小児甲状腺がん発生の危惧について―福島県県民健康調査が現在明らかにできたことー」と題して、ご講演いただきました。

タイトル「福島原発事故による小児甲状腺がん発生の危惧について」
演者:坂本穆彦(さかもと あつひこ)先生 大森赤十字病院顧問、福島県立医科大学特任教授
専門分野:腫瘍病理診断学・臨床細胞学
学会認定医、専門医等:医学博士、病理専門医・研修指導医(日本病理学会)
細胞診専門医・教育研修指導医(日本臨床細胞学会)、国際細胞診専門医(国際細胞アカデミー)
福島県県民健康調査甲状腺検査部門 病理診断コンセンサス会議議長・福島県立医科大学特任教授

●講演内容抜粋

 2011年3月に東日本大震災に続いて、東京電力福島第1原子力発電所事故が発生した。この事故によりI-131 を含む様々な放射性物質が環境中に飛散した。1964年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故では、周辺住民に小児甲状腺がんが多発し、がんによる死者もでた。このため福島でも小児の健康への影響が心配された。事故対策として福島県県民県健康調査というプロジェクトが直ちに立ち上げられた。私はそのひとつである甲状腺部門の病理診断コンセンサス会議議長に指名された。以後、今日に至るまで福島県立医大病院にて月に1~2回のペースでカンファレンスを開き、細胞診・組織診の最終診断作成にかかわっている。本プロジェクトのもとで行われた手術では、262人ががんであると組織学的に最終診断された。がんの組織型は、259人が乳頭がんであった。
 今までのところ、これらのがんが放射線によるものであるとの明らかな根拠は示されていない。他の原発事故や核爆発・核実験でのデータはいずれも高線量被曝によるものであり、福島の事例のような低線量被曝の影響を示すデータはない。つまり、低線量被曝に関しては対比すべきコントロール・データがないのが実情である。
 福島で、目に見えない放射線によるヒトへの影響を、可視的な“がん”を探し出すという立場で追い続ける中で、時折胸に去来する思いがある。それは、ヒトと同時に被曝したほかの動物や、あるいは植物にはどのような影響があるのだろうか、そしてそれを誰か別の専門家が本腰をいれて検討しているのだろうかということである。放射線による影響は全環境的に考慮しないと、本来の意味での住民の“安心”は得られないのではないだろうか。福島では原発周辺地域の立ち入り規制が徐々に解除されているが、帰還者はそれほど多くはない。事故から13年が経った今、なお道遠しと言わざるを得ない。

<財団概要>
財団名: 公益財団法人川野小児医学奨学財団
所在地: 〒350-1124 埼玉県川越市新宿町1-10-1
理事長: 川野 幸夫(株式会社ヤオコー 代表取締役会長)
事務局長: 川野 紘子
設立: 1989年12月25日
行政庁: 内閣府
URL: https://kawanozaidan.or.jp/
TEL: 049-247-1717
Mail: info@kawanozaidan.or.jp
事業内容: 研究助成/奨学金給付/小児医学川野賞/医学会助成
      小児医療施設支援/ドクターによる出前セミナー

他の画像

関連業界