森林環境が児童に与える心理効果の検証

2021/08/04  株式会社 電通サイエンスジャム 

「長野県信濃町親子森林セラピープログラム効果調査」結果報告

長野県信濃町(町長横川正知)、しなの町Woods-Life Community(長野県上水内郡信濃町、代表鹿島岐子)、株式会社電通サイエンスジャム(東京都港区、代表取締役社長 志村武彦)、株式会社さとゆめ(東京都千代田区、代表取締役社長嶋田俊平)は、令和2年度林野庁森林サービス産業事業の調査事業および公益社団法人国土緑化推進機構 緑と水のファンド助成事業の一環として、Momo統合医療研究所(東京都新宿区) 医師・医学博士 木村理砂、慶應義塾大学理工学部(神奈川県横浜市) 満倉靖恵教授の監修の下、森林環境における親子向けの保養プログラムが子供(小学生)のメンタルヘルスに与える影響について調査を実施しました。結果、森林で過ごすことで子供でもストレスを軽減する効果がある可能性が示唆されました。




【調査概要】

■概要:
本調査では、長野県上水内郡信濃町でのモニターツアープログラムとして、森林散策(親子別)、親子アクティビティを行った際の、児童の感情変化を脳波計測による感性把握技術を用いて計測しました。

自然体験のような活動を伴う学習は、児童に自然との関わりだけでなく、体験を通じて触れ合う人々との関わりも深くなり、児童の社会性や豊かな人間性を育むうえで非常に重要であると考えられています。一方で、児童のアンケート調査や聞き取り調査だけでは、体験中の心理状態を詳細に知ることは難しく、その効果には未知数の部分が存在しています。また2020年は、新型コロナウイルスの影響によりオンライン授業が推進され、児童が外出する機会や親子で外でアクティビティを行う時間も減っており、情勢による児童のストレスも大きくなっていると考えられます。そこで本調査では、児童が森林散策と親子アクティビティに参加した際の脳波を計測し、感情の変化を評価することで、自然体験の効果を調査しました。

■調査内容
・検証実施日 2020年10月17日~18日
・検証実施場所 長野県上水内郡信濃町

・調査対象者 小学生児童 男女6名

・アクティビティ1 森林散策(参加者 6名):両親と離れた環境で森林セラピーガイドによる森林散策ツアー
・アクティビティ2 キャンドル制作(参加者 5名):両親とアロマキャンドルを制作する体験
           乗馬体験(参加者 1名):両親と馬のブラッシング、餌やり、乗馬を体験

※今回、親子で体験するアクティビティ2は児童が選択し実施したため、人数に偏りがあります。

・使用機材 感性アナライザ(株式会社 電通サイエンスジャム)
・調査方法 各アクティビティの前後に脳波計による感性計測を行ない、
        アクティビティを通じて児童の感性がどのように変化したかを計測しました。

■脳波による評価方法
バンド型の脳波計測器と感性アナライザ

DSJが開発した脳波から感性へ変換するアルゴリズムにより、ストレス度、集中度、好き度、興味度、ワクワク度を0-100の数値として測定し、リアルタイムに感性変化を評価することが可能です。脳波計は装着しやすいバンド型で、ワイヤレスでの計測が可能であるため、対象者に大きな負荷をかけず、様々な場面で脳波計測を実施することが可能となります。

リアルタイムで感性を数値化


■調査結果
以下のグラフは、各感性指標値のアクティビティ体験前を100%とし、前後の変化率を参加者総平均で算出しました。

共通項として、興味度・ワクワク度の上昇、ストレス度の減少が見られます。
森林散策はストレス度の減少がキャンドル制作より5%以上も大きく表れており、心理的な負荷が森林散策を通じて、より取り除かれたと推定されます。
キャンドル制作は好き度・興味度の増加が森林散策より大きく、親子での体験を通して制作体験に関する関心が強くなったものと推定されます。※乗馬体験は1名のみの結果のため、個別に後述します。


■個人ごとの調査結果
1.森林散策について
以下のグラフは、各感性指標値のアクティビティ体験前の状態を100%とした際の、アクティビティ後の各児童の変化率になります。

ストレス度は個別に見ても、全員が減少傾向にあり、森林セラピーの効果として心理的負荷の低減が見られます。また、集中度が上昇する児童や、ワクワク度が上昇する児童など、体験内容に対する反応の個人差も見ることができ、これらの結果から児童の好む場所や集中度が上昇するシーンなど児童ごとの特性を見ることも出来ます。


2.キャンドル制作について(5名のみ体験)
キャンドル制作では、好き度の上昇、ストレス度の低減が共通しています。事前の計測時は両親がいない環境での計測だったため、両親と一緒の体験ということで森林散策では見られなかった好き度の上昇が現れたと思われます。また、森林散策では現れなかった興味度の上昇や集中度の上昇が表れる児童もおり、両親がいることによって体験が促進される可能性を示唆しています。


3.乗馬体験(1名のみ体験)
乗馬体験でも同様にストレス度の減少を確認することができました。集中度の上昇は森林散策時よりも大きく、
キャンドル制作と同様、そのままで体験を促進している可能性が示唆されます。


■調査結果全体のまとめ
・長野県の森林に囲まれた環境でのアクティビティがストレス低減効果を生む可能性がある。
・児童の感性反応を追うことで各児童の特性を知ることが出来る。
・親子でのアクティビティはストレスを減少させ、体験への興味を強化させる可能性がある。

■専門家によるデータの考察 Momo統合医療研究所 医師・医学博士 木村理砂先生
・本調査は少ないN数ではありますが、自然体験の効果を感性アナライザ(脳波)を用いて数値化したこと、また、親子を対象にプログラムを実施する上でモデルケースの位置付けとして先行性があると考えます。親子一緒に自然体験をする事による安心感が興味度や集中度を高めていました。
一方で親子別々に自然体験をする事で、子供にとっては自立心や積極性が高まり、親にとってはセルフケアとしての時間や場の確保が可能となった印象があります。

・ストレス度はほぼ全ての参加者に共通して減少が見られ、特に森林セラピーでは平均10%減少しており、自然体験は子供のストレス度を下げる可能性が示唆されました。

・興味度やワクワク度も個別の差はあるものの、森林セラピー、親子アクティビティ共に上昇の傾向を示しており、先行研究よりこれらの向上は知的生産性の向上とも関連する可能性があり、森林環境における学習効果等についても今後調査が期待されます。

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