コロナ禍での大幅減、企業倒産「歴史的低水準」背景は 

2021/12/08  株式会社 帝国データバンク 

倒産リスクはリーマン・ショック並みの水準に、「破たん懸念企業」全国30万社に上る可能性

新型コロナウイルスの感染が国内で猛威を振るってから、間もなく2年。感染対策として打ち出された緊急事態宣言などの人流抑制策は、国内の感染拡大を抑え込んだ一方で、旅館・ホテルや旅行会社をはじめとする観光業界、時短営業や外出自粛の影響を受けた飲食店をなどの対面サービス産業を直撃し、関連産業を含めて経営体力に乏しい中小企業で倒産が相次ぐとみられていた。 ところが、足元の企業倒産件数は前年同月を大きく割り込む水準が続いている。このペースで推移した場合、2021年の倒産件数は6000件を下回る可能性が高い。年間倒産件数が5000件台となれば、1966年(5919件)以来55年ぶりとなる「歴史的低水準」となる。


<何が起きているのか>

倒産件数は歴史的低水準、55年ぶり5000件台の可能性も
各種政策が資金繰りに寄与、必要な「キャッシュ」が各企業に行きわたっている
しかし、倒産リスクはリーマン・ショック並の水準で推移。経営破たんが懸念される企業、全国で30万社に上る可能性もある


全国企業倒産 推移(1965年~)
企業のキャッシュ、月商の約3カ月分を確保 良好な資金調達環境が背景に
2020年にはじまったコロナ禍は、リーマン・ショックや東日本大震災以上の経済的インパクトをもたらした。それにもかかわらず倒産が大幅に減少している背景には、多くの企業に資金が供給され、“キャッシュ不足”による決済難や、運転資金不足による事業行き詰まりなどを回避できたことが大きい。

企業の財務データをみると、企業が持つ現預金の余力を示す「現預金手持日数」は全産業で平均104.02日分だった。月商に対する借入金の水準も、前年の4.40倍から5.41倍と拡大し、いずれも2008・11年度を上回る水準だった。予防的な動きも含め、企業が金融機関から積極的に借り入れを行いコロナ禍における不測の事態に備えてきた点が要因として挙げられる。こうした潤沢なキャッシュの確保も背景に、21年3月に企業約1万社を対象に行ったアンケート調査では、20年度末時点で資金繰りが「楽である」と答えた割合が全体の約4割を占めた。旅館・ホテルや娯楽サービスなど、当時先行きの見通しが立たなかった業界では資金繰りが「厳しい」と答えた割合が高かったが、全体では資金繰りに関して大きな支障はみられなかった*1。

こうした状況は、政府による中小企業への迅速な資金供給策、いわゆる「ゼロゼロ融資」のほか、日銀のコロナ資金繰り対策(通称「コロナオペ」)などで、金融機関による積極的なリスクマネー供給を可能にした金融政策が功を奏したとみる。実際に、帝国データバンクの調査では企業から見た金融機関の貸し出し態度を指標化したところ(融資姿勢DI)、コロナ禍直後(2020年6月調査)は全企業平均で58.9となり、判断基準の50を大きく上回った。なかでも、中小・小規模企業ではリーマン・ショック以降で最も高い水準を記録しており、金融機関が企業活動に必要な資金を供給し、資金面による企業の先行き懸念を大きく和らげることに成功したといえる。


倒産リスクはリーマン・ショック並の水準 「破たん懸念企業」全国30万社超に上る可能性
ただし、企業の倒産リスク自体が低下しているわけではない。コロナ禍以降、企業の財務不健全化リスクが急激に上昇しており、その状況はリーマン・ショック当時に迫るなど、近時の倒産動向とは異なる傾向を見せている。

帝国データバンクが保有する財務データを基に、日本企業の経営破たんリスクをインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR、利払い負担に対する利益の比率)*2を用いて分析した。過去3年にわたってICRが1を下回る状態=利益から債務利払いが不能の状態が続いている企業を「経営破たん懸念企業*3」と定義し、全体に占める割合を算出すると、2020年度で7.36%に上った。全国の企業数が約400万社あるとされるなか、推計で約30万社が慢性的な経営の限界に陥っている可能性がある。

リーマン・ショック後以降の推移をみると、2009年度以降急激に上昇し、東日本大震災後の2011年度は10.18%を記録した。しかし、以降は金融円滑化法の施行・延長に加え、強力な金融緩和政策も重なって、16年度には5.44%まで低下した。以降は、金融円滑化法の実質的な終了もあって割合が上昇していたものの、それでも6%台にとどまっていた。しかし、2020年度は7%台と1年間で1.3ポイントも上昇した。この上昇幅はリーマン・ショック後の08→09年度(+1.4pt)に並んでおり、倒産件数急減の一方で企業の倒産リスクが急激に高まっている状況が分かる。

債務が膨張するなか、「稼ぐ力」で返済困難な企業で倒産が増加する恐れ
2021年度も「経営破たん懸念企業」の割合は高止まりしており、11月時点で7.65%の企業が利払い不能となっており、20年度よりも高い水準で推移している。現在は、コロナ制度融資による資金供給に加えて元本据え置き(リスケ)など、手厚い金融支援が続いている。今後は経済正常化に向けて企業財務の健全化も求められるなかで、企業の稼ぐ力をはるかに上回る過剰債務を抱えた「継続困難企業」が続出し、中長期的に倒産として顕在化する可能性は高い。

[注1] 帝国データバンク「2021年度の業績見通しに関する企業の意識調査」(2021年4月14日)
[注2] インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料)
企業の借入金等の支払い能力を測る指標。ICR比率が1を下回ると、利息支払い能力の観点から懸念があるとされる
[注3] 破たん懸念企業 国際決済銀行(BIS)の「ゾンビ企業」基準に準じ、設立10年以上かつ、3年以上連続してICRが1を下回る企業を定義した

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