リムパーザとアビラテロンの併用療法、転移性去勢抵抗性前立腺がんの一次治療において、標準治療との比較で病勢進行のリスクを34%低下

2022/02/22  アストラゼネカ 株式会社 

リムパーザとアビラテロンの併用療法、転移性去勢抵抗性前立腺がんの一次治療において、標準治療との比較で病勢進行のリスクを34%低下

公開日 2022年 2月 22日

本資料はアストラゼネカ英国本社が2022年2月14日に発信したプレスリリースを日本語に翻訳し、みなさまのご参考に提供するものです。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。

併用療法は、アビラテロン単独による治療との比較で高い忍容性を示し
患者さんのQOL維持を可能に

第Ⅲ相PROpel試験において、HRR遺伝子変異の有無にかかわらず
臨床的に意義のあるベネフィットが示された

アストラゼネカ(本社:英国ケンブリッジ、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot])およびMerck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A.(北米およびカナダ以外ではMSD)は、第Ⅲ相PROpel試験の良好な結果を発表しました。この試験では、リムパーザ(一般名:オラパリブ、以下「リムパーザ」)とアビラテロンの併用療法が、相同組換え修復(HRR)関連遺伝子変異の有無にかかわらず、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者さんに対する一次治療として、標準治療であるアビラテロンとの比較で、画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)の統計学的に有意で臨床的に意義のある延長を示しました。

本試験の詳細データは、2022年2月17日の米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表されています。

前立腺がんは男性では2番目に多いがんであり、2020年には約37万5,000人が死亡しています1。進行性前立腺がんの予後は特に悪く、5年生存率は依然として低いままです1-3。mCRPC患者さんの約半数は、積極的治療を1ラインしか受けておらず、その後の治療効果が減少しています4-7。HRR関連遺伝子変異は、mCRPC患者さんの約20~30%に発現します8

モントリオール大学医学センター泌尿器学科長、および泌尿生殖器がん研究所長で、PROpel試験の治験責任医師であるFred Saad教授は次のように述べています。「転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の予後は極めて悪く、多くの患者さんにとって、受けられる効果的な治療が1ラインしかありません。PROpel試験の結果、リムパーザとアビラテロンの併用療法がアビラテロンと比較して病勢進行を有意に8カ月以上遅らせることが示されたことから、この併用療法が承認されればmCRPCの新たな標準治療の選択肢となる可能性があります」。

アストラゼネカのエグゼクティブバイスプレジデント兼オンコロジーR&Dの責任者であるSusan Galbraithは次のように述べています。「このリムパーザの併用療法は、一次治療を受ける患者さんのQOLを維持しつつ、病勢進行までの期間を延長する可能性があります。実薬対照試験は厳しい基準を設定しており、HRR関連遺伝子変異の有無にかかわらず、mCRPC患者さんにおいて、リムパーザとアビラテロンの併用療法が標準治療との比較で有意な臨床的改善を示しており、PROpel試験の結果は注目に値します」。

MSD研究開発本部シニアバイスプレジデント兼グローバル臨床開発責任者でチーフメディカルオフィサーのRoy Baynes博士は次のように述べています。「PROpel試験の結果、転移性去勢抵抗性前立腺がんの一次治療において、リムパーザをアビラテロンとプレドニゾン(もしくはプレドニゾロン)に追加した併用療法により、バイオマーカーのステータスに関わらず、アビラテロンとプレドニゾン(もしくはプレドニゾロン)のみの場合と比較して、病勢進行または死亡リスクを3分の1低下させることが示されました。これらの重要な結果について、世界中の規制当局と検討できることを期待しています。本試験に参加している皆様、介護者や医療従事者の皆さんに感謝いたします」。

事前に規定した中間解析において、リムパーザとアビラテロンの併用療法は、アビラテロンと比較して、病勢進行または死亡リスクを34%低下させました(ハザード比[HR]0.66;95%信頼区間[CI]0.54-0.81; p<0.0001)。rPFS中央値は、アビラテロン単独で16.6カ月、リムパーザとアビラテロン併用で24.8カ月でした。

全生存期間(OS)についても、リムパーザとアビラテロン併用療法がアビラテロンとの比較で良好な傾向がみられましたが、このデータカットオフ時点では統計学的有意差に達していませんでした(イベント発現割合29%時点での解析)。PROpel試験は、引き続き重要な副次評価項目として全生存期間を評価します。

初回の後治療までの期間(TFST)、2回目の病勢進行までの期間(PFS2)、客観的奏効率(ORR)、ならびに前立腺特異抗原値および循環腫瘍細胞数などの有効性評価項目から得られた追加データは、全試験集団において、アビラテロンと比較したリムパーザとアビラテロン併用療法のベネフィットをさらに裏付けるものです。

リムパーザとアビラテロン併用療法の安全性および忍容性は、過去の臨床試験で観察されたものおよび個々の医薬品の既知のプロファイルと一致していました。リムパーザとアビラテロン併用療法による治療を受けた患者さんでは、アビラテロンの投与中止率の上昇は認められず、アビラテロンによる治療と比較して、健康関連QOL(FACT-P(がん治療の機能的評価)質問票)に対する有害な影響は認められませんでした。



最もよく認められた有害事象(AE)(患者さんの20%以上)は、貧血(45%)、悪心(28%)および疲労(28%)でした。グレード3以上の有害事象は、貧血(15%)、高血圧(4%)、尿路感染(2%)、疲労(1%)、食欲減退(1%)、嘔吐(1%)、無力症(1%)、背部痛(1%)、下痢(1%)でした。AEを発現したリムパーザとアビラテロンの併用療法群の患者さんの約86%が、データカットオフ時点で治療を継続していました。

独立データモニタリング委員会は、予定されていた中間解析において2021年9月に、PROpel試験が主要評価項目であるrPFSを満たすと結論付けました。

リムパーザは、HRR関連遺伝子変異を有するmCRPC患者さん(BRCA遺伝子変異陽性および他のHRR関連遺伝子変異)に対して米国で承認されており、EU、日本および中国では、BRCA変異を有するmCRPCを有する患者さんに対して承認されています。

以上

*****

転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)について
転移性前立腺がんは死亡率の高いがんです3。前立腺がんの進展は多くの場合、テストステロンを含むアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンにより促進されます9

男性ホルモンの作用を阻害するアンドロゲン除去療法を行ったにもかかわらず、前立腺がんが増殖し、他の部位に転移した場合、mCRPCと診断されます10。進行性前立腺がんの患者さんの約10~20%は5年以内に去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)へと進行し、そのうち84%以上の患者さんはCRPC診断時に転移を有しています10

また、CRPC診断時に転移のない患者さんであっても、そのうちの33%は2年以内に転移が確認されます11。タキサン系抗癌剤と新しいホルモン製剤(NHA)治療により、この10年間でmCRPC治療は進歩していますが、一次治療で奏効しない場合、二次治療で抗がん剤療法を行っても治療効果は著しく減少するため、この集団におけるアンメット・メディカル・ニーズは高いと考えられます10,12-14

PROpel試験について
PROpel試験は、一次治療として化学療法またはNHAによる治療歴のないmCRPC患者さんを対象に、アビラテロンに加えてリムパーザを投与した場合の有効性、安全性、忍容性をプラセボおよびアビラテロンとの併用と比較検討する無作為化二重盲検多施設共同第Ⅲ相試験です。

両治療群の患者さんには、プレドニゾンまたはプレドニゾロンのいずれかを1日2回投与します。主要評価項目はrPFSであり、副次評価項目にはOS、PFS2およびTFSTが含まれます。

さらなる情報については、ClinicalTrials.gov.をご覧ください。

リムパーザについて
リムパーザ(一般名:オラパリブ)はファーストインクラスのPARP阻害剤であり、BRCA1および/またはBRCA2遺伝子変異など、あるいは他の薬剤(NHAなど)により誘発される相同組換え修復(HRR)の欠損を有する細胞または腫瘍のDNA損傷応答(DDR)を阻害する最初の標的治療薬です。

リムパーザによるPARP阻害は、DNA一本鎖切断に結合するPARPと結合し、複製フォーク停止と崩壊を惹起することで、DNA二本鎖切断を起こしがん細胞を死滅させます。第Ⅲ相PROpel試験では、リムパーザはアンドロゲン受容体(AR)経路を標的とするNHAであるアビラテロンと併用されました。

アンドロゲン受容体シグナル伝達は、前立腺がんにおける腫瘍細胞の増殖と生き残りにかかわる転写プログラムに関与しています15,16。前臨床試験では、PARPシグナル伝達とAR経路との相互作用が確認されており、HRR欠損前立腺がんでもHRR欠損のない前立腺がんでも、アビラテロンと同様に、リムパーザとNHAの併用による抗腫瘍作用が報告されています17-19

PARP1タンパク質は、アンドロゲン受容体の転写活性に必要であることが報告されています。したがって、リムパーザでPARPを阻害すると、アンドロゲン受容体の標的遺伝子の発現が損なわれ、NHAの活性が高まる可能性があります15,18,20。また、アビラテロンは、HRR欠損を誘発し、PARP阻害に対する感受性を高める可能性のある一部のHRR遺伝子の転写を変化/阻害する可能性があると考えられています17,19,21,22

リムパーザは現在、DDR経路に欠陥や依存性があるPARP依存性の腫瘍タイプの治療薬として、多くの国で承認されています。また、リムパーザは白金製剤感受性再発卵巣がんの維持療法として承認されており、BRCA遺伝子変異陽性(BRCAm)および相同組換え欠損症(HRD)陽性進行卵巣がんの初回治療後の維持療法として、単剤療法およびベバシズマブとの併用療法が用いられています。

さらに、生殖細胞系列BRCAm、HER2陰性転移性乳がん(EUでは局所進行乳癌を含みます)、生殖細胞系列BRCAm転移性膵がん、およびHRR関連遺伝子変異陽性転移性去勢抵抗性前立腺がん(EUおよび日本ではBRCAmのみ)に対しても承認されています。

アストラゼネカとMSDが共同で開発と商業化を行っているリムパーザは、がん細胞のDDRを標的治療とした薬剤であり、アストラゼネカのポートフォリオを牽引する基盤となる薬剤です。

アストラゼネカとMSDのがん領域における戦略的提携について
2017年7月、英国アストラゼネカ社とMerck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A.(北米およびカナダ以外ではMSD)は、世界初のPARP阻害薬であるリムパーザおよび、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害薬であるコセルゴ(セルメチニブ)について、複数のがん種において共同開発・商業化するがん領域における世界的な戦略的提携を発表しました。

両社は、リムパーザおよびセルメチニブを他の可能性のある新薬との併用療法および単剤療法として共同開発します。なお、リムパーザおよびセルメチニブと、各々の会社が保有するPD-L1またはPD-1阻害薬との併用療法は各々の会社で開発します。

アストラゼネカにおけるオンコロジー領域について
アストラゼネカは、あらゆる種類のがんに対して治療法を提供するという高い目標を掲げ、がんとその発見にいたるまでの複雑さを科学に基づいて理解し、患者さんの人生を変革する医薬品の開発および提供を通じて、オンコロジー領域の変革をけん引していきます。

アストラゼネカは治療困難ながん種に注力しています。当社は持続的なイノベーションにより、医療活動および患者さんさんの医療経験を一変させる可能性のある、製薬業界でもっとも多様なポートフォリオと開発パイプラインを構築しています。

アストラゼネカはがん治療のパラダイムを再定義し、将来的にはがんによる死亡をなくすことをビジョンに掲げています。

アストラゼネカについて
アストラゼネカは、サイエンス志向のグローバルなバイオ・医薬品企業であり、主にオンコロジー、希少疾患、循環器・腎・代謝疾患、呼吸器・免疫疾患からなるバイオ・医薬品において、医療用医薬品の創薬、開発、製造およびマーケティング・営業活動に従事しています。英国ケンブリッジを本拠地として、当社は100カ国以上で事業を展開しており、その革新的な医薬品は世界中で多くの患者さんに使用されています。詳細についてはhttp://www.astrazeneca.com または、ツイッター @AstraZeneca (英語のみ)をフォローしてご覧ください。

References
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