ダイヤモンドNVセンターを用いたポータブルで低消費電力なパルス量子センサモジュールを開発 ~パルス法を用いた携帯可能なダイヤモンド量子センサの開発は世界初~

2024/03/29  日新電機 株式会社 

2024.03.29
ダイヤモンドNVセンターを用いたポータブルで低消費電力なパルス量子センサモジュールを開発 ~パルス法を用いた携帯可能なダイヤモンド量子センサの開発は世界初~

日新電機株式会社(本社:京都市右京区、社長:松下芳弘)は、ダイヤモンドNVセンターを用いたポータブルで低消費電力な量子センサモジュールの開発に2023年9月に成功しました。ノートパソコンのUSB3.0電源で4Wの低消費電力で動作する高感度化可能なパルス法を用いたポータブルサイズの量子センサモジュールは世界初で、ダイヤモンド量子センサの社会実装に貢献する成果です。

ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センターは生体などの微弱な磁場だけでなく、地磁気や周囲に強い磁場がある環境でも微小磁場を検出できる特徴があるため、脳磁計測やタンパク質の構造分析から車載センサまで幅広い応用が期待されています。さらに、他材料より長時間にわたって量子状態を保持できることから、量子暗号通信の中継器としての利用などさまざまな分野で注目されており、社会実装に向けコンパクトでポータブルな量子センサモジュールが求められています。

今回開発したパルス量子センサモジュールは、中核となるダイヤモンドNVセンターを、当社親会社である住友電気工業株式会社(本社:大阪市中央区、社長:井上治)独自の超高圧合成技術により製作した合成ダイヤモンドを用い、当社グループ会社の株式会社NHVコーポレーション(本社:京都市右京区、社長:重田悦雄)にて電子線照射処理を行うなどグループの技術を結集して高感度で磁気検出が可能なNVセンターを製作しました。また、ダイヤモンド基板のカット技術による光学系と、マイクロ波系の効率化を実現することでコンパクト化や低消費電力化を実現しています。主な特長は以下の通りです。

【パルス量子センサモジュールの特長】

1.コンパクト化と低消費電力の実現(PCのUSB電源で計測が可能)

光学系とマイクロ波系の効率向上によりセンサヘッドの小型化(5×10×20mm)を実現。それに伴いパルス量子センサモジュールをポータブルサイズ(120×120×210mm)にコンパクト化(世界初)。
用途開発のデモ機として、机上での量子操作の確認・計測のみならず、フィールドへ持ち出しての量子センシングやスピン操作も可能になります。

2.光学系の効率向上

ダイヤモンド基板をコーナーキューブ形状に加工することで、光電流を従来比2.1倍に向上。

3.低電力で駆動が可能

λ/4オープンスタブとλ/4変成器を用いたマイクロ波共振器により従来から約20dB低減したマイクロ波電力でもNVセンターを強力に磁気駆動が可能。

4.電子スピンを直接操作が可能

マイクロ波のON/OFFと 位相シフトを行うマイクロ波回路、マイクロ波を正確なタイミングで動作させるためのパルス生成デジタル回路を追加することで、ダイヤモンドNV中に量子の重ね合わせ状態を作り出すなど、電子スピンの直接操作することを可能にした。

5.高感度計測が可能

磁気や温度を測定する連続マイクロ波照射による光磁気共鳴法(Continuous Wave-Optically Detected Magnetic Resonance, CW-ODMR)に加えて、京都大学化学研究所との共同研究により、Rabi振動、Pulse-ODMR法、Ramsey法、Hahn-Echo法などの量子操作によるアンサンブルのダイヤモンド NVの評価や高感度計測を可能にした。

これらの技術成果を3月22~25日にかけて開催された「2024年第71回応用物理学会春季学術講演会」で報告しました。今後もダイヤモンド磁気センサの社会実装に向けて、さらなる研究と開発に励んでまいります。

左)ダイヤモンドNVが持つ電子スピンのRabi振動データ
右)今回開発したパルス量子センサモジュール

【仕様】

サイズ 120mm × 120mm × 210mm
重量 1.4kg
励起光 波長:515nm、出力:3mW
マイクロ波 2.5~3.1GHz、15dBm
量子操作 制御パルス数:32、
パルス幅:100nsec~、
位相:X(0°)、Y(90°)、mX(180°)、mY(270°)

当社グループは中長期計画「VISION2025」において、6つの成長戦略に取り組んでいます。本件は「DXの適用」に寄与する事業活動です。

当社グループは事業活動を通して、SDGsへの取り組みを強化しています。本件はSDGsの17の目標の内、下記の目標達成に関連する活動です。

7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに
9.産業と技術革新の基盤をつくろう

<参考>

【用語解説】

・6つの成長戦略

「環境配慮製品の拡大」「分散型エネルギー対応」「再生可能エネルギー対応」「DXの製品・事業への適用」「新興国環境対応需要の捕捉」「EV拡大に伴う事業拡大」

・ダイヤモンドNVセンター

ダイヤモンドの炭素(C)原子の代わりに窒素(N)と空孔(V)が隣り合ったペアとなる構造のこと。ピンクダイヤモンドにも含まれるこの構造は光とマイクロ波が相互作用をするため、センサや量子計算などのアプリケーションに有用です。

・USB3.0電源

USB 3.0はデータ通信速度を大幅に上げるだけでなく、給電能力も向上させています。これにより、装置に必要な電力をUSB経由で供給できます。

・CW-ODMR法(光磁気共鳴法:Continuous Wave-Optically Detected Magnetic Resonance)

物理学や生体医学などの分野で使用される技術で、マイクロ波を照射し続けながら光特性を測定することで、試料中の特殊構造(NVセンターなど)の電子スピン状態などを調査します。

・Rabi振動(ラビ振動)

電子などが持つ2つの状態のエネルギー差に共鳴する力(マイクロ波など)を加えることにより、2つの状態間を行ったり来たりさせる振動のことで、量子制御の基本となる現象です。

・Pulse-ODMR法(Pulse Optically Detected Magnetic Resonance)

マイクロ波をパルスで照射することにより、より高感度に電子スピンの状態を調査できるODMR法の一種です。

・Ramsey法(ラムゼイ法)

ラムゼイ干渉は、量子センシングにおいて基本的なプロトコルの一つで、量子ビットの重ね合わせ状態を利用して外場を評価する技術です。

・Hahn-Echo法(ハーンエコー法)

核磁気共鳴(NMR)や核磁気共鳴画像法(MRI)においても使用されるシーケンスの一つで、スピンダイナミクスの研究やMRI画像の取得において重要な手法です。

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