脳科学作業部会(第8回)議事録

2024/07/17  文部科学省 

脳科学作業部会(第8回)議事録

1.日時

令和6年5月31日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

WEB開催

3.出席者

委員

加藤主査、風間副主査、小板橋委員、鈴木(大)委員、鈴木(貴)委員、塚原委員、中山委員、疋田委員、前川委員、牧之段委員、松本委員、渡部委員

外部有識者

影山センター長(理化学研究所 脳神経科学研究センター)、尾崎特任教授(名古屋大学大学院医学系研究科 精神疾患病態解明学)、服部教授(順天堂大学大学院医学研究科)

文部科学省

釜井ライフサイエンス課長、吉田ライフサイエンス課課長補佐

4.議事録

【吉田課長補佐】 定刻になりましたので、ただいまより第8回脳科学作業部会を開会いたします。本日は御多忙のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日は、ウェブ会議システムによる開催とし、報道関係者と一般の関係者の方にも傍聴いただいておりますので、あらかじめ御了承いただきますようお願い申し上げます。
続きまして、委員の出欠でございます。本日は、磯部委員、大武委員、坂内委員が御欠席と伺っておりますが、定足数である過半数に達していることを御報告いたします。
続きまして、ウェブ会議システムの留意事項でございます。会議の円滑な運営のため、通常はマイクとビデオをオフにしていただき、委員の先生方におかれましては、質疑応答の時間になりましたらビデオをオンにしてください。御発言される際には挙手ボタンを押していただき、主査が発言者を指名いたしますので、その後、マイクをオンにしてくださいますようお願いいたします。御発言が難しい場合は、御意見をチャットにしてお送りいただけましたら、主査もしくは事務局より代読させていただきますので、御活用ください。
その他、システムの不備等発生いたしましたら、随時お知らせいただきますよう、よろしくお願いいたします。ウェブ会議システムの音声が切れてしまった場合には、事務局より、事前にいただいておりますお電話番号に御連絡させていただきます。御不便をおかけすることがあるかもしれませんが、何とぞ御理解いただけますと幸いでございます。
それでは、以降の進行は加藤主査にお願いいたします。加藤主査、よろしくお願いいたします。
【加藤主査】 それでは、これから議事に入りたいと思います。
まずは本日の議事及び配付資料につきまして、事務局から御説明お願いできますでしょうか。
【吉田課長補佐】 それでは、画面を共有させていただきます。議事次第を投影させていただいてございます。
本日の議題は3点ございます。まず議題(1)は、「脳神経科学統合プログラム」中核拠点についてです。昨年6月に本作業部会で取りまとめた中間取りまとめを踏まえまして、令和6年度より、脳神経科学統合プログラムを開始いたしました。本年2月に中核拠点として採択されました理化学研究所の影山センター長より、中核拠点の取組について御説明をいただきたいと思います。
議題2は、脳科学研究における産業との連携状況についてです。名古屋大学の尾崎先生、順天堂大学の服部先生より御説明をいただきたいと思います。
議題3は、「脳神経科学統合プログラム」における産業連携の在り方についてです。中間取りまとめにも記載がございますが、今後の「脳神経科学統合プログラム」の推進に当たり、産学連携の促進は重要な観点になると考えてございます。そのための仕組み等について御議論いただきたいと思います。
本日の議題は、以上3点でございます。
配付資料については、議事次第の2ページ目以降に記載されているとおりとなります。資料番号は議事に対応した形になっておりますが、過不足等ございましたら、議事の途中でも構いませんので、事務局まで御連絡ください。
事務局からの説明は以上でございます。
【加藤主査】 ありがとうございます。
それでは、最初の議題に移りたいと思います。最初の議題は、「脳神経科学統合プログラム」中核拠点についてということで、理化学研究所脳神経科学研究センターのセンター長である影山龍一郎先生にお話をいただきたいと思います。
影山先生、よろしくお願いします。
【影山センター長】 加藤先生、どうもありがとうございます。それでは、資料を共有させていただきます。
理化学研究所脳神経科学研究センターの影山です。それでは、お時間いただきまして、「脳神経科学統合プログラム」中核拠点としての活動内容について、御紹介させていただきます。
研究の題目は、「脳データ統合プラットフォームの開発と活用による脳機能と疾患病態の解明」というものです。プロジェクトリーダーが私で、副プロジェクトリーダーは下郡、上口です。分担機関は右側に記載のとおりでございます。
まず、脳科学は、人間、ヒトを理解するための総合科学でして、現在は主にこの2つの方向からの研究が進められていると思います。1つは脳の構造を明らかにしようというもので、神経回路レベルや神経細胞、シナプス、分子レベルの構造解析が進められています。
もう1つの方向性は、脳は多彩な機能を発揮します。社会性、内省、推察等々ですが、このとき、どの神経細胞、どの神経回路が働いているのかを明らかにしようという、そういう方向性です。
この2つの方向性の研究が主に進められていますが、この間にはまだ残念ながら大きなギャップがございます。それぞれの方向性の研究をさらに進めて、最終的にはデジタル空間でこのギャップを埋めていくということが非常に大事だろうと考えています。
これが可能になりますと、精神・神経疾患の診断・治療法・創薬シーズの創出や、ウエルビーイングな社会への貢献、ひいては現代の社会的・国民的課題の解決につながるということが期待されます。
これは、昨年度終了しました2つの国家プロジェクト、「革新脳」と「国際脳」から、今回の脳統合プログラムにどのようにつながっていくかというのを示した図でございます。
「革新脳」におきましては、マーモセットの全脳マップが完成しまして、詳細な遺伝子発現やトレーサーマッピングのデータがデータベースとしてつくられました。
一方、「国際脳」におきましては、ヒト精神・神経疾患、特にFMRIの画像データがデータベースとして蓄積されまして、疾患特異的なFMRIシグナルパターンというものも同定されております。
この2種類のデータベースの間には、まだ大きなギャップがございまして、これを統合していく必要があるだろうと。データベースを統合し、多次元のデータをつなぎ、脳機能をマッピング・シミュレーションする、いわゆる「デジタル脳」を構築していくことが大事であるというふうに考えております。
ここでいう「デジタル脳」ですけども、右下にありますように、デジタル空間内で脳の解剖学・生理学データを統合し、数理モデルとして再構築して、ヒトの脳の特定機能や病態を再現するためのプラットフォーム「脳データ統合プラットフォーム」をつくるということを意味しております。
それを実現するために、この中核拠点の役割として、こういうものを考えております。
統括機能と研究開発推進機能を併せ持ち、ほかの機関、個別課題とも連携して、基礎研究の成果を臨床応用につなげるということが、最も重要な役割であります。
より詳細な役割を、下に列挙しております。
個別課題を含め、中核拠点内外における異分野連携、ドライとウェット、基礎と臨床の連携の強化。また、中核拠点が整備・保有する研究基盤、モデル動物、解析技術を生かした個別課題への支援。統合データベースの整備運用とデジタル脳の開発。それを使って精神疾患や神経疾患への臨床応用可能な成果の創出。また、研究成果全体の取りまとめと、国内外への情報発信。研究成果の実用化支援、産業界のニーズを取り込む窓口の役割と、コンソーシアムの体制構築。国際連携活動の推進。ヒトデータの収集・共有やデータの管理・公開等に伴う倫理的問題への対応等があるかと思います。
これらの役割を果たしていくために、現在このような研究連携体制をつくっております。
まず、5つの研究グループによって、研究を推進していきます。グループの1つ目、一番下側ですが、革新的技術・研究基盤。このグループは、脳活動データ取得など、革新的解析を可能にする技術を開発して、各種データをデータベース化して共有し、研究開発の効率化を目指して、ほかのグループの研究を支えます。
2つ目のグループは神経疾患メカニズムのグループでございまして、ここでは主にフォワードトランスレーショナルな研究を進めていきます。既に「革新脳」におきまして、神経変性疾患のマーモセットモデルが多数つくられております。それらを詳細に解析することで、ヒトの神経疾患のメカニズムを理解するという研究グループです。
3つ目の研究グループ、左側ですが、ヒト脳機能ダイナミクスと精神疾患で、ここでは主にリバーストランスレーショナルな研究を進めていきます。
「国際脳」の研究から、既に人の脳の多階層データベースがつくられております。これを充実化するとともに、いろいろなヒト疾患特異的な所見が見つかっているわけですが、そのメカニズムを理解するために、マウスを中心としたモデル動物を使って研究を進めて、メカニズムの理解につなげていきます。これが3つ目のグループです。
4つ目のグループはデジタル脳開発で、全てのグループとの連携によって、様々なデータ、脳の解剖学・生理学データを統合し、数理モデルとして再構築するデジタル脳の開発を目指します。
5つ目のグループは臨床トランスレーションで、新規標的の同定や高精度診断法の開発を通じ、治療法の実用化を促進します。脳科学と医療の連携と、創薬の可能性を生み出します。
6つ目が統括チームでございまして、この5つの研究チームの連携を推進してまいりますと同時に、創薬コンソーシアムを設置・運営することで、創薬シーズを製薬企業に導出していくということを行います。
続きまして、それぞれのグループの活動内容について、もう少し詳しく御紹介いたします。
まず、1つ目のグループ、革新的技術・研究基盤構築のグループで、グループ長は村山、下郡です。
ここでは、マウスで行ってきた高精度な各種実験を霊長類でも行えるように、中核機関と個別班を支援します。
また、脳コネクトームMRIデータをげっ歯類で取得して、非ヒト霊長類や、ヒトの脳コネクトームMRIデータとの種間・モダリティ間トランスレーション技術基盤を支援します。
具体的には、新規プローブの開発と提供、またウイルスベクターの開発、顕微鏡技術の開発、マッピング関連種間比較技術の開発をし、これをほかのグループに提供します。また、マーモセットも研究のために提供して、ほかのグループの研究の支援を行います。
ほかのグループから得られましたデータを提供していただいて、それをデータベースとして蓄積し、これらのデータはデジタル脳開発に有効に活用していただきます。
2つ目の研究グループは神経疾患メカニズムでグループ長は花川、上口です。
ここでは、革新脳マーモセット研究と国際脳コホート研究から発展した統合データベースを基盤とする、神経変性疾患の研究支援を担います。
「革新脳」におきまして、既にマーモセットで神経疾患のモデルがつくられております。遺伝子変異を導入することで、パーキンソン病やアルツハイマー病、また現在、前頭側頭葉変性症のモデルマーモセットを作成中でございます。
それに加えまして、接種モデル、これは患者さん由来の病変を接種することで、神経変性が伝播するという動物モデルです。これらの動物モデルを詳細に解析すると同時に、「国際脳」でこれらのデータベースがつくられてきました。国際脳神経疾患データベースと、ヒト摘出脳の組織データベースです。これらの解析結果をそれぞれ統合することで、神経疾患の統合研究プラットフォームの構築につなげていきたいと考えております。この成果は、デジタル脳の開発にも貢献できると考えられます。
3つ目のグループは、ヒト脳機能ダイナミクスと精神疾患で、グループ長は笠井、松崎です。
ここでは、個別重点課題群のデータ収集を統括して、ヒト脳機能・精神疾患多階層統合データベースを作成し、ヒトのサブデータベースとマウスのサブデータベース間をトランスレーションし、ヒト脳機能発達ダイナミクスと、その不調としての精神疾患の脳病態の解明を目指します。また、これらのデータを提供することで、デジタル脳の開発に貢献します。
既に「国際脳」におきまして、ヒトの脳機能・精神疾患多階層統合データベースが作られております。ここにはMRIやEEG、ゲノム、エピゲノムの情報が含まれております。
このときの測定方法、計測ガイドラインを、個別重点課題の先生方にも提供することで、同じプロトコールで集めたデータを提供していただいて、このデータベースの充実化を図ります。
ここで疾患特異的な所見というのが得られているわけですが、ヒトではそれ以上詳しい解析ができませんので、主にマウスを使って詳細な解析をし、それをトランスレーションすることで、ヒトの脳機能ダイナミクスの解明に役立てていきます。
これらのデータはデジタル脳開発に貢献しますし、また、治療法や創薬シーズにも貢献できると考えております。
4つ目のグループはデジタル脳開発で、グループ長は銅谷、磯村です。
ここでは、デジタル脳構築ソフトウエアを開発・公開して、脳データ統合プラットフォームとしての運用を目指します。
このグループは、主に3つのテーマの研究を進めていく予定です。1つは、ベイズ推定と強化学習の神経機構というもので、マーモセットの皮質・皮質下コネクトームのデータや、広視野2光子顕微鏡のカルシウムイメージングのデータを使うことで、多領野/多層の興奮/抑制性ニューロンの集団モデルや、不確かな感覚刺激からの状態推定モデル、確率的な報酬の下での行動選択モデルをつくり、予測モデルの学習機構の研究を進めます。
2つ目のテーマは神経変性疾患に関するもので、マーモセットの空間トランスクリプトームデータや、ヒト死後脳組織解析データ、ヒトMRI構造/機能結合データや、モデルマーモセット行動計測データを使うことで、末梢神経-中枢に至る回路モデルの構築、変性たんぱく質伝播予測モデル、回路病態進行予測モデルや、薬理操作による病態進行変化の予測モデルをつくります。
3つ目のテーマは精神疾患に関するもので、ヒトMRI、EEG、ゲノム、エピゲノム、マーモセットのECoGのデータや、遺伝子/光遺伝学/薬理操作マウスのデータを使うことで、大脳皮質-基底核の回路モデル、知覚/行動変容の再現モデル、薬理操作等による病態変化の予測モデルの構築を目指します。
5つ目のグループは臨床トランスレーションで、グループ長は岩坪、高田です。
認知症性の疾患等の病因メカニズムに即した新規標的のエビデンスを樹立し、治療シーズ実用化に向けた橋渡しを担います。
新規の高精度診断法を開発し、中核拠点、重点公募研究で見いだされたシーズの臨床トランスレーションも推進します。
橋渡し研究で得られたデータを蓄積し、デジタル脳グループと共有することによって、in silicoの病態モデルの確立を目指します。
治療シーズとしては、たんぱく質の蓄積制御に関わる因子や病因分子の排出促進に関わる因子、また、神経回路の修復に関わる因子に注目する予定です。
一方、診断シーズに関しましては、PETプローブの開発や遺伝子バイオマーカー、血液超高感度バイオマーカーの開発を目指しております。
これらの成果から、脳病態の統合的理解とデジタル病態脳の確立につながることが期待できます。
続きまして、6番目のグループは統括チームでございまして、まず、グループ内の連携支援体制ですが、研究プロジェクトの統括・連携促進と運営推進事務は、理研が担当します。一方、ヒト脳データベース運用推進、及び国際対応に関する包括的な事務支援は、生理研が対応します。また、倫理支援はNCNPが担当しています。
これらの統括チームは、5つの研究グループや個別重点研究課題、また研究実用化支援班と連携を進めてまいります。
プログラム全体の推進や課題間連携に係る対応として、中核拠点連携会議を現在定期的に開催しております。また適宜、データベース検討委員会や倫理ワーキンググループを開催しております。
続いて、統括チームのプログラム外へ向けた取組ですが、3つございます。
1つ目はアウトリーチで、ウェブサイト・SNSを介した情報発信、公開シンポジウムの企画を行います。2つ目、産学連携ですが、産業界のニーズを取り込む窓口の役割と、コンソーシアムの体制構築。理研創薬医療技術基盤プログラム、これを「DNP」と略称で呼んでおりますが、これは基礎研究の成果を創薬につなげるということを担っています。このDNPや研究実用化支援班と連携した、社会実装の支援を行います。
3つ目として国際連携で、国際対応の意思決定会議体「脳科学研究に関する国際協力推進会議」の運営と、International Brain Initiative(IBI)等における国際連携活動の支援を行います。
続きまして、共有プラットフォーム導入状況、これは中核拠点内でデータの共有化を推進するために、現在リポジトリシステムの導入を進めております。
これが進みますと、データの標準化と整合性が可能になります。画像データ、遺伝子データ、行動データなど、様々な形式のデータが存在しますが、リポジトリシステムを使用することで、これらのデータが標準化された形式で保存されまして、研究者間での比較や組合せが容易になります。その結果、実験の再現性が向上し、研究が加速、資源の有効活用、コラボレーションの促進といったことが進むというふうに期待しております。
続きまして、「革新脳」と「国際脳」で整備されてきたデータベースの今後ですけども、まず「革新脳」におきましては、マーモセットの脳の遺伝子発現やトレーサーのデータが蓄積したデータベースがつくられました。また、「国際脳」ではヒトの脳のデータベースがつくられています。また、IBISSのデータベースもございまして、これらのデータベースを統合していくことが非常に大事になると考えております。
そのために、統一メタデータのスキーマの策定と、統一データ取得プロトコールの策定が必要になります。これによって、異なるデータソースからの情報を統一的な形式で管理して、種間比較が可能なメタデータスキーマが完成すると。その研究を進めることで、脳データ統合プラットフォームの開発につなげていく必要があると考えております。
これは、期待される成果と将来展望です。中核拠点内の5つの研究グループと、それから今後採択される個別重点研究課題との連携を推進することで、6年後にどういうことが可能になるかですが、限定した領域/回路ではありますけれども、脳データ統合プラットフォーム、いわゆるデジタル脳がつくられるということを目指しております。
これを将来展望としてさらに発展させることで、疾患研究で得られたバイオマーカーをデジタル脳と組み合わせて、新たな薬効評価プラットフォームを構築し、治療法の選択や新薬開発に寄与する可能性があるといったことが期待できます。
これは、より具体的な6年後の目標を示しております。脳データ統合プラットフォーム(デジタル脳)の開発と運用、ベイズ推定や強化学習の具体的なメカニズムの解明。これらのデータベースを運用することで、精神疾患の一部の病態に関しては、神経回路モデルによって再現できて、また、選択的な活動操作が病態に与える影響を予測できるようになるだろうということを期待しております。
また、変性たんぱく質がどのように伝播するか、その発症と病態進行の再現、並びに病因たんぱく質の制御によって、長期効果の予測モデルを構築するといったことが可能になると期待しております。
また、新たなバイオマーカーやプローブといった診断方法の開発や、新たな治療方法の開発といった、新たな診断・治療法の開発に貢献できるということが期待されます。
最後、研究開発のロードマップですが、ツール開発し、プラットフォームの運用ですけども、5年目、6年目あたりにテスト運用を公開したいと考えております。
これを運用することで、脳機能や神経変性、精神疾患に関してシミュレーションすることで、機能検証や介入法の探索・検証、診断・治療シーズの臨床トランスレーションが行われるということを期待しております。
私からの発表は以上です。どうも御清聴ありがとうございました。
【加藤主査】 影山先生、どうもありがとうございました。
ただいまの御発表につきまして、御質問、御意見などございましたら、いただければと思います。委員の先生方、マイクをオンにしてお話しいただくか、「手を挙げる」機能を使っていただくか、していただければと思いますが、いかがでしょうか。
では、すみません、私から1つお伺いしたいんですけれども、この5つのグループに分かれているということなんですが、2番の神経疾患メカニズムのフォワードトランスレーション、3の精神疾患のところがリバーストランスレーションというふうに、かなり明確な位置づけがなされていて、これは神経疾患と精神疾患用の研究のステージが違うということで、戦略をちょっと変えるというような位置づけになるのでしょうか。
【影山センター長】 どうもありがとうございます。2番のほうは、既にマーモセットのモデルが多数つくられておりますので、それを詳細に解析することで、ヒトの神経疾患のメカニズムや新たな診断・治療法の開発につなげられるというふうに考えています。
一方、精神疾患のほうは、本当に的確な動物モデルというのはございません。一方、「国際脳」のほうから、ヒトの疾患特異的な所見というのが多数集められています。
その所見に当たるような、レアバリアントの遺伝子改変マウスというのが多数開発されていますので、その所見に注目してマウスの実験を行うと、そのデータをまたトランスレーションして、ヒトの所見の理解につなげていくという、そういうストラテジーを考えています。
これは、あえてそういうふうに名称を変えていますが、どちらも動物をかなり使って、ヒトの疾患の理解につなげていくということになります。
【加藤主査】 ありがとうございます。そうしますと、マーモセットの精神疾患モデルはつくらないという理解でよろしいでしょうか。
【影山センター長】 遺伝子変異、明確な、こういう遺伝子を変異すればできるというのがあれば、ぜひつくりたいと考えています。が、現状ではなかなかそれが難しいということなので、今は神経変性疾患のほうに注力して、作出と解析を行う予定にしております。
【加藤主査】 ありがとうございます。
ほかにございますでしょうか。
すみません、ちょっとだけ追加なんですけれども、デジタル脳のところには精神疾患のマーモセットモデルのECoG、皮質脳波の話が出てきていたんですけれども、この辺はどのような戦略になっているのでしょう。
【影山センター長】 精神疾患のほうですか。
【加藤主査】 デジタル脳の中にはマーモセットの皮質脳波の話が入っていたので……。
【影山センター長】 そうですね。一応、精神疾患は主に統合失調症と自閉症に着目して研究を進める予定にしているのですが、統合失調症に関してはD2受容体の関与とかが言われていまして、そういったところに着目するとマーモセットを使った解析もできますので、マウスをまずは当面使いますけれども、マウスでかなり明らかになってくれば、マーモセットを使った研究も進めていきたいと考えております。
【加藤主査】 ありがとうございます。
御質問、御意見いかがでしょうか。
どうぞ。
【服部教授】 影山先生、すみません、僕自身の考えをちょっとお伝えしたいのですが、今の神経疾患と変性疾患というところをむしろ分けずに、例えば僕が研究しているパーキンソン病は、うつを伴ったり、あるいは精神発達障害があって、その後にパーキンソン病を発症するということがあるので、その辺の情報をどこかで共有できるようなシステム構築というのも必要なのではないのかと思っております。
以上です。
【影山センター長】 どうもありがとうございます。非常に重要な御指摘だと思います。
現在、マーモセットでパーキンソン病のモデルはできていますが、残念ながら認知症とかそういうところのまだ異常は見られていません。運動障害は見られているのですが。
ですから、どこまでヒトに当てはめて使えるか分かりませんけども、ヒトのパーキンソンとかでのうつ症状とか、そういうのは2番のグループに限らずに、3番のグループともぜひ連携を深めて、成果を上げていきたいと考えています。どうもありがとうございます。
【服部教授】 ありがとうございます。
【加藤主査】 ほかに御質問いかがでしょうか。
鈴木貴之委員、お願いします。
【鈴木(貴)委員】 東京大学の鈴木と申します。御説明どうもありがとうございました。
私は人文科学の研究者ですので、どちらかというと脳科学研究の外部からのコメント、あるいはお願いという形になりますが、これは非常に野心的な研究プログラムで、ぜひ成果を期待したいのですが、他方で、一般の人からするとかなり過剰な期待が生じるというようなことも多分あって、例えば6年間の研究で、かなり多くの精神疾患の治療法が確立されるというような期待を抱くであるとか、あるいは、かなり単純化した誤解、例えばある精神疾患がこういうメカニズムで生じるというようなことに関して、非常に単純化した誤解が生じるというようなこともあると思うんです。
そういった意味では、アウトリーチのお話をされていましたけれども、最近では科学コミュニケーションの専門家がかなりいらっしゃって、そういった誤解をどう避けるかということに関していろいろノウハウがあると思いますので、ぜひそういったことを取り入れていっていただければいいかなと思います。
それに関連して、例えばデジタル脳開発というようなことも、かなり極端な、1人の人間の脳をコンピューター上でつくるというようなことをやろうとしているというふうに誤解されると、倫理的な批判とかが生じるかと思うのですが、むしろ、もうちょっと大規模な数理モデルをつくろうという、まずはそれをやろうということだと思いますので、例えばそういうところとかも、不要な誤解が生じないように広報していただければよいのではないかと思います。
【影山センター長】 どうもありがとうございます。それも大変重要なことで、あまり宣伝し過ぎると、本当に過剰な期待を抱かせてしまうという問題点がありまして、デジタル脳に関しても、ある限定した脳機能、脳回路に関してデジタル上で再現するというふうに言っているんですけど、あまり独り歩きしないように注意する必要はあるかと思います。
あと、治療法の応用も、基礎的に治療法の提案ができたとしても、それが本当に臨床につながるのは、まだまだ何年も先のことで、ここで計画しているのはあくまで非臨床実験ですので、ここでうまくいけば、次にようやく臨床研究に入るという、その前段階のものですので、そういうところはできるだけ気をつけて、アウトリーチ等での活動では注意していきたいと思います。どうもありがとうございました。
【鈴木(貴)委員】 どうもありがとうございました。
【加藤主査】 ありがとうございます。
では尾崎先生、お願いします。
【尾崎特任教授】 発表者の尾崎でございますが、服部先生も御質問されていたので、私からも少し御質問差し上げたいと思います。
先ほど加藤主査が御指摘といいますか、確認されていたのですが、精神疾患にアプローチする場合、マーモセットの精神疾患モデルができていないので、認知症とは異なるという話が出ていました。私も前回の「革新脳」にも参加していたものですから、MeCP2のモデルマーモセットはできているように伺っていたと思います。
【影山センター長】 そうですね、MeCP2はできていますので。ただ、自閉症のモデルとしてどこまでいいのかというのはなかなか難しいのですが、MeCP2のヒト疾患のモデルにはなると思います。
【尾崎特任教授】 はい。MeCP2の機能喪失バリアントはレット症候群の原因バリアントですけれども、表現型として自閉スペクトラム症と同様の特性を示すことは確かです。また、先ほど鈴木先生から、なかなか社会実装には行っていないのではないかという話なんですけども、2023年、レット症候群の治療薬としてTrofinetideがFDAに承認されました。Trofinetide はmTORの上流にあるIGF1受容体の活性化をもたらすのですが、ドラッグロス、即ち日本で上市される可能性が極めて低い。レット症候群の当事者会の方からも、どうなっているんだと言われています。そういう意味では、日本で創薬シーズを見出すことが必要ではないかと思うのですが、そこら辺いかがでしょうか。
それから、MeCP2の機能喪失バリアントは、先ほどの服部先生の御指摘じゃないですが、運動系も巻き込み、錐体外路症状も出ます。したがって変性疾患にも関わるような回路も障害されてますし、呼吸障害とかてんかんとか、様々な疾患のモデルだと思うのですが、いかがでしょうか。
【影山センター長】 そうですね、マーモセットで現在得られているのは、ほとんどがホモの変異体なんです。ヘテロの変異体がなかなか得られにくいということがあって、ヒトの疾患モデルとして、疾患モデルにはなっているんですけども、なかなか、ヒトとしっかり表現型を合わせるのが難しいという問題点がございます。
ただ、新たな治療法をどういうふうに開発して、本当に臨床につなげていくかというのは非常に大事な問題点でございまして、この我々のプログラムの中ではあくまで基礎研究というところで、それを製薬企業に導出して、非臨床試験のあたりまで一緒にやれればいいかなと思っていますが、それが本当に実際にどういうふうに、次の臨床、治験の1、2、3相に結びつくのかというのは、また別の問題点でありまして、このプログラムの中ではなかなか対応し切れないところがございますけども、そこはぜひ先生方と一緒に、その問題点をどういうふうに克服するのかというのは考えていきたいと思います。
【尾崎特任教授】 ありがとうございます。
【加藤主査】 ありがとうございます。
それでは、渡部委員、お願いします。
【渡部委員】 渡部です。中核拠点、今までの「革新脳」「国際脳」を含めて下支えして、かつ、フラッグシップとして進めていく、重要な位置づけだと思いました。それをすごく分かりやすく整理していただいて、とても理解が進んで、よかったと思います。
質問したかったのはマーモセットについてなんですけれども、先ほどだいぶ質疑で出たとは思うのですが、実際にこの中核拠点のほうでマーモセットの疾患モデル、それぞれ、変性疾患にしても精神疾患にしても、どのぐらいの規模感で作製して維持していくのかなというところが少し気になったんですけれども、そこについて教えていただけますでしょうか。
【影山センター長】 どうもありがとうございます。一応、理研CBS内にも独自に遺伝子改変マーモセットをつくる体制はつくっておりまして、今、アルツハイマー病モデルの新たな作出とか、それから、先ほど少し御紹介しましたけども、前頭側頭葉変性症のモデルをつくったり、今しているところです。
これをどこまで広げられるかというのは、まだ今、動かしているところですので、年間、何ラインぐらいできるかというのは、ちょっとまだはっきり、確かなお答えはできないんですけども、体制としては動いていますので、例えばMeCP2などの改変マウスをつくったり、パーキンソン病もつくったりしていますので、そういう体制としては整っていまして、ほかのグループからの要望があれば、それにもできるだけ応えていきたいとは考えています。
ちょっと今、どこまで答えられるか、すみません、確かなお答えができないのは申し訳ないんですけども、そういう体制づくりはしているところです。
【渡部委員】 ありがとうございました。
【影山センター長】 実中研とも、ぜひ一緒に、そういう面では協力し合って進めていきたいと考えています。
【加藤主査】 よろしいでしょうか。今のマーモセットの話ですけれども、中核拠点には、つくるということも期待されるかとは思うのですが、個別課題の支援という使命を考えますと、行動解析のプラットフォームとかの整備といった点にも、コミュニティーからは期待がかかるところかと思うんですけれども、その辺はいかがでしょうか。
【影山センター長】 そうですね、そこも今、行動を自動的に解析できるようなシステムをつくったりしています。このシステムをどこまでほかの大学の先生方に広げられるかというところも、予算と場所の問題があってなかなか難しいかもしれないのですが、現在は共創ラボというシステムをCBSのほうでスタートしておりまして、できれば個別研究課題の先生方で、一緒にやればすばらしい成果が出そうだということが見えてくれば、ぜひこちらのCBSのほうに来ていただいて、CBSのリソース、設備を使って一緒に研究を進めるということも、現在考えております。そういうのも研究を進めていく上では大事かなと思います。
【加藤主査】 どうもありがとうございました。
それでは、影山先生、どうもありがとうございました。
【影山センター長】 どうもありがとうございました。
【加藤主査】 それでは、次の議題に移らせていただきます。次の議題は、脳科学研究における産業との連携状況についてということで、お二人の先生からお話を伺いたいと思います。
まずは、名古屋大学大学院医学系研究科精神疾患病態解明学特任教授の尾崎紀夫先生、よろしくお願いします。
【尾崎特任教授】 尾崎でございます。御紹介ありがとうございました。
それでは、早速始めたいと思います。私のほうからは、先ほど、一般の方という話も出ておりましたけど、やはり最終的な社会実装になると、治療薬のユーザーは当事者の方々ですので、その方々のニーズを踏まえながら、産官学連携の在り方についてお話を差し上げたいと思います。
まずは、その当事者の方々の研究に対する御要望の調査というのを、AMEDの支援を受けましてやってまいりました。
1,022名の当事者御家族の方々の思いはいろいろあるんですけど、そのうちのトップスリー、まずは精神・神経疾患の病態を解明してほしい、7割以上。2番がほぼ同じ70%で、新しい治療法の開発であって、効果が高く副作用の少ない薬の開発ということになっております。したがって、今日のこの脳神経科学統合プログラムの中でどういうふうに検討していくか、非常に重要だろうと思うんです。
個別的には、夏苅郁子先生、この方は、御本人のお母様が統合失調症で、お子様の頃、その方がどういうふうに思っておられたかということなんですが、100人の理解者・支援者はとてもありがたいけれども、それよりも母を治してくれる1錠の薬が欲しいというのが本当の願いであったと。あるいは、原因が分からない精神疾患ゆえに、偏見は解消されていないと。
当事者・家族としては、創薬への期待を諦めるわけにはいきません。さらに、この間も統合失調症学会でおっしゃっていましたけども、創薬を望む当事者・家族は、産学連携で研究を進めることをお願いしたいというふうにおっしゃっていただいています。これが当事者・家族の思いでございます。
AMEDの支援を受けまして、これまでこのような研究をして、産学連携に少しずつつながりつつあるというのをお伝えします。
統合失調症のゲノム解析から、ARHGAP10遺伝子にリスクバリアントが見つかりました。その中のお一方、この方は片アレルが欠失、ほとんどARHGAP10の働きがない。もう片アレルもアミノ酸置換を起こして、活性型のRhoAとの結合能が落ちてしまう。この方は非常に治療に難渋するような統合失調症の方でございます。
この方からiPS細胞を樹立させていただいて、誘導したドパミン神経の突起伸長が非常に悪く、同じモデルマウスでもその表現型は確認しました。またモデルマウスでは視覚弁別障害やスパイン密度の減少があるというようなことを確認しました。バリアントによりARHGAP10が有するRho-kinaseの不活化機能が損なわれていると推測して、Rho-kinaseの阻害薬が効くのではないかと考え、Rho-kinaseの阻害薬を添加したところ、iPS細胞由来ドパミン神経の突起伸長の低下やモデルマウスの視覚弁別障害は改善しました。
とはいえ、非常にレアなバリアントでございますので、ほかのモデル型では如何なのかということで、例えばメタンフェタミンによるドパミン仮説モデルでも検証いたしますと、先ほどの視覚弁別試験が、ファスジル、これはRho-kinaseの阻害薬の中で、既にヒトでくも膜下出血の後の血管れん縮に使われている、旭化成さんがつくった薬剤であります。これを投与しますと、メタンフェタミンモデルマウスの視覚弁別障害が改善をする。
それから、このモデルマウス脳の中のC-Fos発現が過剰活性化していたんですけれども、です、ファスジルにより改善をする。さらに、ARHGAP10の下流にありますMYPTのリン酸化亢進も、ファスジルにより改善するということを確認しております。
かつまた、ほかのモデル型であるグルタミン酸仮説、MK-801処置マウスでの様々な表現型も同じくファスジルにより正常化するというようなことを確認しました。これらの結果をもとに特許化いたしまして、現在、産学連携創薬へということで、複数のコンパウンドのスクリーニングに入っております。詳細は守秘義務があるのでお話し出来ないのですが、こういったふうに進めてまいりました。
一方、産業界からどのような期待があるのかというのを、脳科学関連学会連合の産学連携諮問委員会において確認をさせていただきました。
創薬シーズの探索においては、ゲノム情報を活用した創薬がオールジャパン体制で進むと良い。病態研究にも産業界は取り組んでいるところもあるので、そこも協働できる体制が必要なのではないか。と同時に、創薬シーズから承認プロセスの間において、精神疾患の層別化が難しいということで、客観的指標の確立と、それによる承認のための層別化のバイオマーカーが必要ではないかという御意見を、2022年の8月にいただいております。
その直後ぐらいの本作業部会で、製薬協の塚原研究開発委員会副委員長も、やはりバイオマーカー、層別化のマーカーが必要ではないかというふうにおっしゃっていました。
診断評価に有用な客観的な指標が、今のところ精神疾患はございません。しかも、他疾患と連続性のあるスペクトラムですので、その中からいかに層別化バイオマーカーを抽出して、それに合った創薬というのが、社会実装には必要だろうということになります。
今までゲノム情報を使ってきたのですが、それ以外に表現型としてどういうのが、ということになるんですけども、例えば睡眠障害は、精神疾患あるいは神経変性疾患、広範に起こる症状です。
先ほど服部先生から御指摘がありましたレビー小体型の認知症、レビー小体病と言ってもいいのですが、REM睡眠の行動障害、これはレムのときに、本来なら筋緊張が落ちるのですが、それが落ちない、REM without Atoniaというようなことが起こります。認知機能障害や運動系症状の出現のかなり前に起こります。そのときにうつ病様の症状も生じます。
うつ病と思われている患者の中から、REM without Atoniaを呈する患者を同定して、レビー小体病の前駆状態と分かり、うつ病段階で先制医療に持っていくということも重要かなと思います。
しかも、睡眠障害は精神症状の中で唯一客観的な検査所見が取得可能です。こういった客観的な評価でも、ASDでも頻発し、かつまた中核症状との関連というのも、去年、論文化されておったりします。
あるいは、統合失調症の発症前、いわゆるアットリスクの段階で生じており、かつまた、それが発症の誘発因子であるとか、あるいは早期から慢性期までこれも存在して、発症予防上の治療標的であるというようなことが、複数の論文でこれまで言われてまいりました。
ただし、ここで気をつけなきゃいけないのは、客観的な検査所見が得られるのですが、御本人の主観であくまで診断はしていることが多いのが実情でございます。自覚的には4時間しか眠れなかったとおっしゃっている方が、検査所見上では6時間眠れているといったことがよく起こります。例えば我々のところでは、中途覚醒をよく起こすようなうつ病、双極症の方の睡眠の客観的な評価と自覚的な評価を引き比べますと、抑うつ状態が強いと、どうも中途覚醒を過剰に評価してしまう。途中で目が覚めて悶々としていたとおっしゃっているんですけども、検査上では結構眠れているということもあり得ます。
しかし、病院で睡眠ポリグラフ(PSG)のために多くのセンサー等を装着すると、通常の睡眠環境とかなり異なってしまってなかなか眠れないと。ましてや早期の検出、予防治療経過の観察には不適であります。
我々産学連携で、実施してまいりましたこととして、ウェアラブルデバイスの開発をやってまいりました。その中の一つがこれでございまして、脳波としては1チャンネルです。無拘束・在宅で、通常の睡眠環境と同じ条件で反復の経過記録が確認できます。これを、精神・神経疾患の方を対象にして、ゴールドスタンダードであるPSGとの併存妥当性の確認をして、特許化しております。こういったものも産学連携で取り組んでまいりました。
配布資料にもつけておりますけれども、これを活用することで、うつ病と思われていた方だがレビー小体病の始まりかけではないか、あるいは、うつ病や精神疾患の方々の経過を追うというようなこともできると。
このほかにもFitbit等の加速度センサーを主としたウェアラブルデバイスでは、精神疾患の患者さんの場合は、途中でちょっとだけ目が覚める微小覚醒が頻発しやすいので、それをなかなかうまく検知してくれないということも、PSGとの比較を患者さん対象で確認しています。
また、先ほどの簡易脳波計を用いたものを実際に患者さんで使ってというものをやっていくということをやっております。
これは市販後調査というか、市販後の段階での産学連携でございますけれども、睡眠薬の中のオレキシン受容体ブロッカーであるレンボレキサント、これはエーザイさんがつくられたわけですけども、在宅で普段の睡眠環境での、しかも長期間でのデータを、先ほどの、簡易脳波計で確認をして、つい先頃、論文化しております。こういった形での産学連携もございます。
ちなみに、これはまだ今現在、論文投稿中なのであれですけども、脳のグリンファティックシステム、脳の中から老廃物を除去するシステムですが、これをMRIである程度測定することができるということで、これも加味した検討をしております。
あるいは、もう一度当事者の声に戻らせていただきますけれども、これは556名の当事者の方々に、2013年、薬を飲むことで可能になったことと諦めたことという調査がされています。病気の治療、人付き合い、近距離の外出、緑のところは可能になったこととしておっしゃっているのですが、一方で、就職を諦める方が3割以上。車の運転を諦める方がほぼ同数ぐらいでいらっしゃいます。なかなか車の運転ができない状況で、就職できないことも多いんです。あるいは出産・育児も諦める、こういう方が2割ぐらい。その結果、結婚を諦める方が半分弱いらっしゃる。これが実情でございます。
私は、当事者の方々に、症状があっても生活ができていればいいよ、幻聴があってもきちんと生活できていればと申し上げているのですが、逆の言い方をすると、症状がよくなっても、出産・育児も車の運転も就職も、あるいは結婚もできなくなっているのではしようがないわけです。
実際に、双極症の方の会、加藤主査も関わっていらっしゃる会で話したときに、こういう声を聞きました。数年間、双極症の再発はないんですけれども、主治医から、車の注意書きで運転してはいけないとなっているので、運転は許可できないと言われていると。最近、母が病気になって、通院でどうしても必要なんですけれども、いつまで私は運転できないんでしょうか。あるいは、同じ会の方から、精神疾患でも出産できるという事実をもっと周知させたいと思いますと、こういう声も伺っております。
そういう中、我々産学連携で、車の運転の技能を評価するという系を確認しまして、最終的にこれは産学連携で進めましたけども、一方でPMDAとも連携をしながら、行政や企業が向精神薬を評価するためのガイドラインにもつながったことでございます。
【加藤主査】 すみません、時間が迫っておりますので、まとめていただければと思います。
【尾崎特任教授】 では、もうまとめに入りたいと思います。
最終的に私から申し上げたかったこととしては、ここになります。層別化法、あるいは治療薬の開発には、産学連携は不可欠でございます。開発のノウハウ、機器、化合物のライブラリといったものは、やはり産業界から得ないとどうしようもありません。そのための連携を促進する行政のサポート(資金や枠組み等)が必須というふうに考えております。
こういった産業界からのニーズを踏まえた目標セット、バックキャストで取り組むことで、シーズ段階から実装までの複数ステップの障壁をいかに乗り越えるかというふうに思います。
そのためには、ファンディングエージェンシーによる伴走支援強化、それから多様なモダリティに関わる研究者、臨床医、企業との連携が必須でございます。
そのためにも、文科省におかれましては、厚労省、PMDA、経産省といった他省庁との連携をしていただければと思っています。
それから、知財や薬事、契約に関するサポート、PMDAとの相談というのをお話ししましたけども、橋渡し等によるサポートが不可欠でございます。
それから、層別化法・治療法などを社会実装した際のユーザーである当事者を意識する。すなわちPPIの重要性というのを重視していただければと思います。
人材育成、ちょっとお時間の関係でお話ししませんでしたけど、こういったプログラムの重要性、極めて重要でございます。文科省の支援を、ここら辺を今後も続けていただければと思います。
その他、参考資料をつけておきましたので、また御覧をいただければと思います。
すみません、少し時間が延びてしまいました。申し訳ございません。以上でございます。
【加藤主査】 尾崎先生、どうもありがとうございました。
それでは、ただいまの御発表につきまして、御意見、御質問をいただければと思います。いかがでしょうか。
御発言の中で、塚原委員のお話が引用されておりましたけれども、塚原委員、お願いします。
【塚原委員】 どうもありがとうございます。尾崎先生、リファーをしていただきまして恐縮でございます。
先生がおっしゃるとおりだと思うんです。例えば、3ページ目にございましたARHGAP10バリアントの話がありましたけれども、製薬会社のニーズというか、この脳疾患の領域の難しさは、何といっても薬ができないことです。要するに成功確率が非常に低いということで、これはもう御承知のとおりかと思います。
そこをどうするのかということで、これは、私たちはやはり起点をヒューマンバイオロジーに求めることが肝要であると。むしろ必須であるということですね。
先ほどの3ページ目にあったように、ゲノムの変異があって、それを使ったモデルをつくって、そのフェノタイプ自身は疾患そのものではないけれども、きちっとそのモリキュールの異常を表していると。そういう確固たる自信が持てるわけですよね。
そういうものを使って化合物のスクリーニングをしていくし、その後の評価もしていくという、この考え方、リバーストランスレーションと言うのが正しいかどうか分からないんですけれども、やはり、ヒューマンバイオロジーに起点を求めるということだと思います。
これがなぜ、当たり前に聞こえるかもしれないけれどもそうじゃないかというと、以前はノックアウトマウスのフェノタイプというのに、ノックアウトマウスの技術ができて、そのフェノタイプから薬ができるというふうに、やっぱり画期的な技術でしたから、リバースジェネティックスの手法が非常にはやったわけです。
ところが、そこからは薬ができなかった。なぜならマウスと人間は違うからということで、それでiPS細胞という画期的な技術や、次世代シーケンサーの登場、そして最近だとゲノム編集ということで、この3つがやはり現在創薬の三種の神器のような感じだと思うんです。なので、先生が今日御発表されたような創薬の手法ができるようになったというふうに考えます。
これはがんの世界だと、がんゲノムが分かって、薬につながって、そこでもう明らかなイノベーションが起きましたけど、脳神経の分野だと、まだそこまでは行っていないと思うんです。
だけれども、やはり我々が信じるべきはヒューマンエビデンスであって、それが創薬の成功確率を上げることであるし、その考え自体が、だからバイオマーカーが重要だとか、だから客観的指標が重要だとか、薬は分子ですので、分子で正しいターゲットを選ぶことが重要だとか、全てにつながってくるというふうに考えております。
また、いろいろディスカッションをさせていただければと思います。どうもありがとうございました。
【尾崎特任教授】 大変ありがたいコメントをありがとうございました。
【加藤主査】 ありがとうございました。
それでは、前川委員、お願いします。
【前川委員】 患者様の思いですとか治療法の開発の現状ですとか、教えていただいてありがとうございました。大変勉強になりました。
私の質問としては、今の御質問にもあったことだと思うんですけども、社会実装を考えた研究開発ということですけども、社会実装に持っていきやすいような分野とそうでない分野とあって、例えば脳波とかアプリとか画像とか、そういうものは社会実装に持っていきやすいと思うんですけど、先ほど先生がおっしゃっていたみたいに、やはり一粒のお薬、本当に効くお薬をつくるというのは本当に難しいかなと、実感として感じるのですが、先生はそのお薬を開発されているということで、本当に産学連携に結びつけるためには、どういうコツというか、ものがあるのかなというのを教えていただければと思いました。
【尾崎特任教授】 ありがとうございます。参考資料のほうにもちょっとつけておいたものの中に、28枚目ですかね、企業さんのニーズというのを、やはりこちらのほうが十分分かりながら――途中でも言っておりましたけども、こちらがやるべきことを設定していくと。要するに、バックキャストでないと産学連携が円滑に進まないと思います。
これが我々のほうから、専ら「これでどうでしょうか」というのではなくて、やはり企業ニーズに合ったものが。それは当事者ニーズと同じことだと思うんですよね。先ほど塚原委員からもお話がありましたけども、それがやはり分からないとどうしようもない。
我々のほうは、じゃあ何が提供できるのかということになると思うんですよね。そこのすり合わせというのが極めて重要だと思いますが、それからもう一つ、どこからスタートするというときに、時間の関係で少し飛ばしちゃったんですけども、レアバリアントからスタートすると。一部の患者から出発するのだけども、それがいかにレアバリアント間の共通項としてほかのものに外挿できるかというようなことを考えていくと。
一方で、レアバリアントにより希少疾患の治療薬において、先ほど少し言いましたけどドラッグロスという非常に大きな問題が起きているということは、PMDAの藤原理事長も御指摘で、まさにその例がレット症候群の治療薬Trofinetideで起こっており、当事者会の方は非常にお困りです。こういった希少疾患の治療薬は、日本でもやっぱりつくっていかないとどうしようもないだろうと思われます。そんなふうに思っております。
またTrofinetideは、レット症候群以外にも治療薬として使える可能性も、mTORの上流、IGF1の受容体の活性化ですから、いろいろ言われていますので、そういったところからと思っています。
以上ですが、いかがでしょうか。
【前川委員】 ありがとうございました。
【加藤主査】 ほかにございますでしょうか。
そうしましたら、私から1つですが、先生はヒトの死後脳の研究の人材育成など、多分野の人材を育成してこられたと思うんですけれども、先ほど時間の関係で飛ばしていただいてしまったんですが、産業連携に関わるような人材の育成ということに関しては、どういう方策があり得るかということを、ちょっと教えていただけますでしょうか。
【尾崎特任教授】 ありがとうございました。少し時間の関係で飛ばしちゃったんですけど、実際に産学連携の研究に若手の人が参加してもらって、オンザジョブ・トレーニングという形になるのかなと思います。
その中で、先ほど申し上げたような企業の方のニーズとかというのを知る、その辺が非常に重要だなというふうに思っておりますが、いかがでしょうか。
【加藤主査】 大変勉強になりました。
それでは、尾崎先生、どうもありがとうございました。
【尾崎特任教授】 すみません、時間の関係で。申し訳ございません。
【加藤主査】 それでは次に、順天堂大学脳神経内科の教授でいらっしゃいます服部信孝先生にお話をいただきたいと思います。
服部先生、よろしくお願いします。
【服部教授】 では、早速始めさせていただきます。順天堂大学の服部でございます。
ここに示しておりますのは、私が推進してきた企業との寄附講座・共同研究講座です。順天堂は年間3,000万で3年間、9,000万で設置することが条件になっております。現在は、ほとんど共同研究講座です。それぞれ、今、尾崎先生や議論にございました、メーカーのニーズに合わせた共同研究講座を進めております。
ドライラボ、アプリとか、先ほど前川先生御指摘のとおりで、ここの社会実装化、最終的なアプリを世の中に出す、あるいはシステムを社会実装化の直前までは現在行っていますけれども、特に創薬は全く難しい状況でございます。
今の人材育成もそうですけれども、全ての共同研究講座設置に関しては、私自らが交渉を行っております。そして、自分のデータを説明して、かつ、どういうメリットがあるかということを説明しながら、ここまで共同研究を進めてまいりました。
しかしながら、各メーカーの在り方として、方向性、例えば現在進めている協和キリンは、パーキンソン病の創薬開発をやると設置当初は言っていましたが、会社の方針で急遽、もう中枢神経系はあまり力を入れないというようなこともありますし、今現在丁度、日本神経学会学術集会が開催されてますが、第一三共がパーキンソン病の核酸治療をやると言って来ました。第一三共は元々、がんをメインにやっていますが、今後、中枢神経系に開発を進めていきたいので意見聞かせてくれという話がありました。でもいざ進めるとなると実現までには、多くのステップを踏まないとならずすごく時間がかかります。
そういったこともあって、私自らパーキンソンラボというジョイントベンチャーを立ち上げました。しかしながら、そんな大きいジョイントベンチャーではございませんので、メインはやはりAIとかアプリ、こういったところで活動しております。
さらに、慶應大学の前教授の坪田先生がつくられたベンチャーの坪田ラボとバイオレットライトを使った治療とか、ゼブラホールディングと書字障害をデジタルボールペンで診断する技術開発など進めておりますが、創薬以外の開発には比較的早く進みますが、創薬となるとかなり時間がかかります。
それでは本題に移させてもらいます。現在、パーキンソン病はかなり増えております。年々増えて、2040年には1,400万人に達するということが言われています。
簡単に言いますとドパミン神経細胞が低下するのですが、ドパミン神経細胞だけではないと。セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリンと多岐にわたって低下するということが分かっております。
ドーパミンが低下しますので運動障害を来すのですが、先ほどの尾崎先生のお話にもありました、レム睡眠時行動異常症、便秘、嗅覚低下など、非運動症状が前駆症状として認められます。
昨今、市場に出てまいりましたアルツハイマーの治療薬レカネマブはまさしく早期治療薬で、よって、神経変性疾患に共通しているのは、早期診断開発及び早期治療介入、これが一番いいというのは全ての疾患で言われております。
さらに、パーキンソン病一つ取っても、多数の遺伝子が関与しています。1つではないので、Parkinson’s diseaseというよりもParkinson’s diseasesと複数形で言ったほうが適切であると言われております。
今後、層別化というのがすごく重要になってきて、それができるとプレシジョンメディスンが可能になると考えております。そして病態のターゲットを、神経炎症、ミトコンドリア、リソソーム、そして昨今言われているプリオンたんぱく様に伝播するということが重要なメカニズムの課題と言えます。
特に我々が中心になって進めておりますパーキンソン病の病理では、このαシヌクレインというのが重要で、この遺伝子のコピーが増えるだけでもパーキンソン病になるということが明らかになっております。ここでは省略しますが、いわゆる遺伝子が余計に存在するという人はパーキンソン病になりやすい、遺伝子のコピー数が多い遺伝性パーキンソン病なのですが、このように、コピー数が多いタイプのみならず、missenseがあってパーキンソン病になりますし、正常なコピー数では孤発型パーキンソン病の病態ですし、コピー数が3個あるとパーキンソン病あるいは認知症を伴うし、コピー数が4つあるとシビアな認知症を伴うことが分かっています。つまり、臨床症状はシヌクレイン遺伝子のコピー数に依存するということが分かってまいりました。
よって、単純に考えれば、こういったタイプの遺伝性パーキンソン病に関しては、核酸治療は恐らく有効であるということが考えられます。
昨日もメーカーと議論して、全てのパーキンソン病でアンチセンスオリゴ、そういった技術を使ってのノックダウンがいいのではないかという提案をして来ましたが、それは意味を成さないと思っていて、さらに、私どもが力を入れている若年性パーキンソン病の原因遺伝子パーキンは常染色体潜性遺伝型ですので、機能喪失によって疾患を発症することが予想されます。よって単純に考えると遺伝子を補充すればいいと言うことになります。これは某国内大手メーカーとずっと議論してきて、単純に遺伝子治療すればいいと思い込んでおります。しかしながら、単純に補充すれば良いと言うわけでなく、過剰発現になると細胞死が起こるということが、多くのラボからも報告があるのです。よって、人にどのくらいの量を入れたらいいのか、発現させたらいいのかというのは全く分からないのです。そういったことから、AAVを入れた遺伝子治療は、大手国内メーカーは勇気ある判断で中止しております。
こういった臨床の研究者、アカデミアとメーカーが十分議論するということが、日本では十分でないというふうに考えております。
先ほど議論にもありました、がんではTMN、腫瘍のレベル、それからリンパ節、そして転移と。一方、アルツハイマー病でも、生物学的バイオマーカー、Aβ、リン酸化タウ、そしてニューロフィラメント。パーキンソン病でもシヌクレイン、それから遺伝子アンカーということで盛んに言われております。
様々な臨床マーカーとしての、嗅覚、レム睡眠行動異常症、画像、それから最近ではコロン、スキン、皮膚、それから大腸バイオプシーしてシヌクレインがあるかどうか。液性バイオマーカーとしては、髄液、唾液、尿、血清、血漿、それから次世代シーケンサー、先ほど言いましたレム睡眠時行動異常症、25%が神経変性疾患に移行します。5年で41%が移行しますので、このレム睡眠行動異常症RPDをターゲットにしたコホートが、今現在、オールジャパンで進んでおります。
パーキンソン病は、運動症状を呈する疾患ですが、進行すると認知症も伴います。パーキンソン病になるとアルツハイマー病病理を呈しやすいということも分かっておりますので、言い換えると、パーキンソン病はアルツハイマー病のリスク群であるという捉え方ができるということも、さんざんメーカーさんにはお話ししております。
そこで、早期診断のために、異常シヌクレインがあって、そこにリコンビナントの正常シヌクレインとただ混ぜるだけで、異常シヌクレインがあると、このリコンビナントのシヌクレインがβシート構造を取ります。そうするとこれを増幅しますので、簡単に言うとタンパクPCRという言い方ができます。この増幅されたβシートをターゲットにチオフラビンが結合しますので、蛍光強度として確認することができます。
髄液での異常シヌクレインシードを測定出来る方法が、「Lancet Neurology」に昨年4月、発表されました。1か月遅れで我々のグループにより同じく血液で診断できる方法を「Nature Medicine」に発表することができました。我々は免疫沈降することによって血液中に存在する異常シヌクレインシードを濃縮して血液サンプルで診断できること可能しました。この方法ですと結果が出るのに、120時間かかるのですが、これを現在、武田薬品工業と、検査時間の短縮を目指して化学化合物のスクリーニングを行っております。先に発表された髄液で検査できる検査を、血液で可能とした検査に開発出来たことは大きな進歩と言えます。これが血液検査が実現すれば、人間ドックでもリスクの高い人たちをスクリーニング出来ると言えます。
パーキンソン病、それからレビー小体型認知症は、ゆっくり進行しますけれども、多系統萎縮症は進行が早いという特徴がございます。同じαシヌクレインというたんぱくで起こる病気です。
そして我々、今度は細胞アッセイ系を使うことによって、概略だけお話ししますけれども、シヌクレインの構造が違うということが分かってまいりました。パーキンソン病のシードは紐型になりますし、多系統萎縮症は高密度封入体型になりますし、それからdementia with lewy body、レビー小体型認知症では中密度封入体型になることを見出しました。これは超解像度蛍光顕微鏡の像ですけれども、このような方法を使えば、疾患の鑑別ができるということが分かってまいりました。
そういう中で、ジャパンPPMIのハイリスクであるRBDをターゲットにして、今後研究を進める必要があります。その生物学的バイオマーカーによれば、症状があった段階で診断をつけるわけですが、IP/RT-QUIC等による生物学的マーカーを検査をすることで同定できれば、生物学的ステージ1は、今後Hoehn and Yahrでゼロとなり、症状がない段階でも診断できることになります。
もう一つ、Gアンカー遺伝子では、ゴーシェ病の遺伝子GBA1が日本人では何と28倍のオッズ比で、通常のパーキンソン病の中にあっても13%存在します。よって、このGBA1をターゲットにすべきだということを、常々僕はメーカーさんにお話ししております。
一方治療戦略ですが、腸管からシヌクレインが生まれて、それが脳に入っていくということで、腸内細菌が怪しいということが言われています。
そこで、これはベンチャーですけれども、メタジェンセラピューティクス社と便の移植療法、いわゆる腸内細菌移植療法が、今年始まります。そこで、先ほどお話ししたジョイントベンチャーを立ち上げました。
こういったことを、予防、診療、治療、介護まで全て患者さんの為にを合い言葉にジョイントベンチャーを立ち上げました。私はファウンダーサイエンティストとして参加しております。
一つ、AMED主体でオープンイノベーションを推進してきたGAPFREEと言う課題があります。先ほど尾崎先生もGAPFREEいついてお話しされていましたけれども、小野薬品、武田、ヤンセンと、共同研究を行いました。これは特にiPSの専門家である赤松先生が代表として進めたのですが、なかなか前に進みません。この辺は、やっぱりAMEDの強力なサポートがないと、社会実装までは到達できないと言えます。iPSそのものの質、いわゆる評価といったところも問題になりますし、こういったところをぜひ産学官の連携で進めていただきたいというふうに思っております。
知財出願、これは先ほどお話がございました。問題点です。患者データ取扱いに関する詳細なルール。メーカーさんも患者サンプルを使えるようなシステムが必要であると言えます。なるべく早い段階での共同研究開発が必要ですし、チーム内での情報・秘密保持の上で進める必要があります。
そこで今、大学でいろんな産学連携のシステムづくりをしておりますけれども、GAUDIという産学連携の部署をつくりました。社会実装をするためには、もう一つやはりハードルがあるということで、現在、イノベーションシステムをつくるためのベンチャーキャピタル、なかなか大学も投資するのが難しい部分もあって、こういったことをやはりAMED、製薬会社とのマッチングシステム、こういったことが必要なのかなと思っております。
そこでさらにボリュームを上げるために、GAUDI・エンタープライズ機構ということで、事業化、知財戦略といった部分をマネジメントしていくというのが、今後の計画です。
ちょっと駆け足でしたけれども、私のプレゼンテーションを終わりにさせていただきます。
【加藤主査】 服部先生、どうもありがとうございました。
それでは、ただいまのお話につきまして、議論に移りたいと思います。
小板橋委員、お願いします。
【小板橋委員】 ありがとうございます。非常にエキサイティングな結果が出ていることをお伺いして、大変興奮しております。
αシヌクレイン病として、パーキンソン病や多系統萎縮症がまとめられるというところまでお伺いしていたんですけれども、シートの形態の違いで分けられるというようなお話は今回初めてお伺いしました。かつ、それぞれの構造に対する抗体もつくれているというお話で、すばらしい成果だと思ってお伺いしておりました。
幾つか細かい質問なんですけれども、このシートの形態の違いというのは、何がそれを制御するというか、何でそういう違いがでるかというところと、あとこれ、αシヌクレインは神経細胞の中を移動しているというふうにお伺いしていたので、抗体をつくられたとして、それが作用できるのか、除去につながるのかというところと、あと、血中のシヌクレイン、髄液ではないところで、評価系を構築されているというのもすばらしいと思ったんですけれど、血中と神経細胞の中での濃度との関係性ですかね、その辺りもお伺いさせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【服部教授】 これは大変重要な御指摘で、一つ我々が考えているのは、中外製薬と共同研究を進めていこうというふうに考えています。
それが1点と、それからもう一つは、今、シヌクレインの脳のイメージングというのも行われているのですが、脳と消化管の連携が問題になっていますので全身病としてのイメージングが重要と考えます。
もし消化管がターゲットとすれば、そこをターゲットにした治療をすれば、脳に入るシヌクレインを取り押さえることができるというのを今考えています。脳の病気の創薬は脳だけという考えではなくて、消化管を介した治療が可能であれば、消化管に治療が届けさえあれば治療可能という考え方もあります。なので、創薬は必ずしも脳血液関門の通過を考えなくても良いと言うことになります。消化管をターゲットにすることもやらないといけないということで、全てのアプローチをするというのが、僕のこの病気に対しての取組でございます。
あと、何でしたっけ。
【小板橋委員】 シート構造の違いが何に由来するかという点です。
【服部教授】 すみません、もう一度。
【小板橋委員】 ごめんなさい、シート構造の違いが、パーキンソン病や多系統で異なるというお話だったと思いますが。
【服部教授】 これは、何でこういうことが起こるかはよく分かりません。
もう一つ重要なことは、パーキンソン病と診断されたら、次の進行ステップは認知症に移行する可能性があると言うことになります。シヌクレイン構造の変化が認知症型に関わるのであれば、認知症にならない治療法を開発すれば、パーキンソン病の状態で一生を終えることができるというのが、僕の今のコンセプトです。
【小板橋委員】 大変エキサイティングで面白い研究をされていて、興奮しました。
ごめんなさい、もう一点だけお伺いしたいんですが、同じ抗体薬だったり、海外でも開発があるかなというふうに思うんですが、その辺りの現状もお伺いさせていただけますでしょうか。治療薬としての開発、海外動向に関して。
【服部教授】 シヌクレインを標的とした治療として僕らは今、液相分離システムからオートファジーの関与、凝集抑制、細胞から異常シヌクレインが細胞外に出ていくのを抑制する、出てきたシヌクレインを取り込みされないように抑制するというのが治療開発の戦略です。それから、異常シヌクレインの凝集を抑制するステップを抑制できれば進行阻止可能な疾患修飾の開発も実現すると考えている。
海外で幾つかの抗体が開発されていて、すごく重症度が高くて、早期に投与した場合は、ちょっといいかもしれないとの報告もあります。ただし、我々のこの技術というのは、順天堂しか今持っていないので、それで今、いろんなメーカーに僕が営業に出ていって、こういうのをやるからやらないかと言ってます。しかし、一番の問題は、メーカーさんが臨床を知らない、現場を知らないことが問題だと思っていますし、現状すらよく分からないのが現実です。加えて勉強もあんまりしていないなど、メーカーさんと話しても前に進まないことが多いです。
なので、僕は今、結構メーカーさんとはかなり厳しく、かつ、日本から世界にということを強調して、いろんな活動をしております。こういったところをぜひAMEDがサポートして頂けると有り難いです。
手前みそですけど、私、多分、世界一パーキンソン病患者さんを診ております。臨床の現場にも出ていますし、研究の陣頭指揮もフルにやって、アクティビティーを、年々、年を取るたびに上がってきちゃっているのかもしれないので、よろしくお願いいたします。
【小板橋委員】 すばらしい成果だと思いますので、ぜひ実用化に向かって。本当におっしゃるとおりだと思います。ありがとうございます。すみません、長くなってしまいました。
【加藤主査】 ありがとうございます。
ほかに御質問、御議論ございますでしょうか。いかがでしょうか。
じゃあ、私から一つお伺いしたいんですけれども、先生の発表の最初のほうで、メーカーとの話合いではスピード感がないというようなお話があったんですけれども、私など、メーカーは非常にマイルストーンがしっかりしていて、続ける続けないのディシジョンとかがすごく早いというふうな印象を持っていたんですけれども、やはり先生の研究室のスピードが速いので、そのように感じるということなのか、一般論的にそうなのかという、その辺はどのようにお考えでしょうか。
【服部教授】 基本的に、メーカーが何かをやり始めるマイルストーンははっきりしていますけれども、例えば加藤先生の研究に対して、メーカーさんが一緒に薬の開発をしましょうといったときには、まず同じテーブルに座る、次に開発の部長クラスと話をする、更に役員と話をするなど前に進まないのが現状です。さらに役員会を通さないといけない、など共同研究講座を設立するのに、全くスピード感はないと言えます。
もちろん、共同研究講座が設置出来れば、定期的にミーティングしながら研究データを進めるんですけれども、基本的にメーカーさんが患者さんのデータを取りたいので、我々と共同研究しているというのが、割と多いですよね。
我々はどっちかというと創薬につなげたいというのがあるので、それに対してはどうしても、創薬の専門家である製薬メーカーとのつながりというのはすごく強い、強くないと進められないというのがあります。
【加藤主査】 どうもありがとうございます。
よろしいでしょうか。
それでは、服部先生、どうもありがとうございました。
それでは、次の議題に移らせていただきたいと思います。次の議題は、「脳神経科学統合プログラム」における産学連携の在り方についてであります。
これに関しましては、事務局から、まず御説明をお願いしたいと思います。
【吉田課長補佐】 事務局でございます。資料3でございます。「脳神経科学統合プログラム」における産業連携の在り方についてということでございます。
今し方、尾崎先生、服部先生、説明いただきまして誠にありがとうございました。昨年6月に本作業部会で取りまとめいたしました、「今後の脳科学研究の方向性について 中間取りまとめ」におきましても、今後の「脳神経科学統合プログラム」の推進に当たりまして、産学連携、しっかりやっていくということの必要性は挙げているところでございます。
特にこの2つ、2項目書いてございますけれども、事務局として、以下、重要と考えてございます。1つ目といたしまして、非競争領域において、単独では難しい共通課題に関して、アカデミアと産業界が早い段階から連携して取り組むこと。また、疾患の診断・治療につなげることを念頭に置き、基礎研究においても、今、先生方からいろいろ御説明いただきましたけれども、企業のニーズを取り込んだ上で研究を実施していくということを重要と考えてございます。
こちら、青字でも書いてございますけれども、すみません、また塚原先生の資料を引用させていただいてございますが、製薬協のほうからもニーズのほうを示していただいているところでございます。
例えば、今、説明の中でもありましたが、バイオマーカーの探索ですとか病態の解明、それから疾患モデル動物の高度化、データベース、バンク等の整備など、アカデミアに対していろいろとニーズはあるかと存じます。
このプログラムにおきまして、今後、より実効性を持って産学の連携がなされるよう、本日の作業部会の場において御議論をいただきたいと思ってございます。
具体的な論点といたしまして4点、示させていただいてございます。
1つ目ですけれども、「脳神経科学統合プログラム」、5つの領域を立てさせていただいてございます。その中で、特に産学連携に取り組むことが有効である領域、研究課題についてということで御議論いただきたいなと思います。
また、具体的に産学連携を促すというところで、共同研究というところもそうですけれども、その実施を促す仕組みですとか場づくりというところも重要な観点なのではないかと思ってございます。
また、本日も御発表いただきましたけれども、中核拠点ですとか、今後公募を予定してございますが、この「脳神経科学統合プログラム」の伴走支援を行うような支援班を、今後募集を予定してございます。そういったところに求める役割について、御議論いただきたいなと思います。
また、こちらも中間取りまとめのほうでも書いているところでございますけれども、産学官コンソーシアムといったところに求める役割ですとか在り方についても、御意見をいただきたいと思ってございます。
簡単でございますが、事務局からの説明は以上でございます。
【加藤主査】 どうもありがとうございます。
この順番で進めるというよりは、全て相互に関係しているので、一体として議論していってもいいのかなというふうには思いますので、どんな観点でも結構ですので、御意見、御議論いただければと思います。いかがでしょうか。
それでは、まず小板橋委員からお願いします。
【小板橋委員】 今日のお話をお伺いしていると、大分出口に近づいているパーキンはじめ神経変性疾患に関しては、産学連携、すごく大事だと思うんですけれども、やはり精神疾患って、尾崎先生の発表の中でもあったかと思いますが、主観と客観がまだ大きく乖離していて、この主観の部分をどう評価していくかというところがとても大事なのではないかと個人的に考えておりまして、尾崎先生がおっしゃっていたように、当事者、患者さんをさらに取り込んだ形で、患者さんの実際の困り事、外から見る症状ではなくて、内面的な困り事を研究課題に取り組んでいくことが大事なのではないかなと思っていて、産学だけでなくて、当事者も取り込む形というのをぜひ検討いただけたらと思います。
以上です。
【加藤主査】 ありがとうございます。
今の御意見に関して、何か追加の御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
そうしましたら、産業界の立場から、ぜひここは塚原委員にコメント、御意見いただければと思いますけれども、いかがでしょうか。
【塚原委員】 ありがとうございます。産業界を代表してというのもはばかるわけなんですけれども、本日の主題、この論点は極めて重要だと思うんです。
なぜかというと、産学連携の重要性というのはずっと語られていることでございまして、そして、様々な形で、もういろんなことが試されていると思うんですよね。その中で、うまくいったり、あんまりうまくいってなかったりとか、様々な御経験を先生方もされていると思います。
その上で、新たにどんな産学連携がいいのかなというのは、本当に私も分からなくて、重要だということは分かっているのですが、いろいろなものを自分でも主導してきたりして、本当にそれが何かなというのは、ぜひ継続的に議論をしていきたいなと思うんですけど、ちょっと思うのは、例えば「コンソーシアム」という言葉がよく出てきます。あと「非競争領域」ですね。この2つの言葉というのは多用されている気がします。だけど、その実態が何かというのは、非常に何となくぼやっとしているなという印象です。
まず、非競争領域というのはどこからのことなのかということで、これは民間企業、我々なので、競争して何ぼなんですよね。それで、非競争領域というのは本当に、お互いに会社同士で協力する部分って、経験からいくと極めて難しいなという気がしております。
何としても薬をつくるんだという、そういう強い思いがないと創薬ってできないので、そこが起点となると思うんです。それはもう患者様の本当に必要な願い、それを聞いて、それを実現するという、このサイクル以外にはないと思うので、それをいかに実現させるかということに集中したいなというのが、恐らく企業側はそうだし、今日のお話の中で、先生方もそうなんだと思うんです。それをいかにうまく行かせるかということだと思います。
コンソーシアムも、何となく集まるんですけど、私の経験では、例えば企業同士でいろんな会話をしているかというと、ほとんどそれはないような気もしているんです。
だから、ここら辺は、本当に在り方としてはどういうものがいいのかというのは、考えていく必要があるかなと思います。
まず、それをコメントいたします。
【加藤主査】 ありがとうございます。
それでは、服部先生、お願いします。
【服部教授】 今の塚原委員のコメントどおりで、非競争領域ってそもそもなかなか難しくて、例えば我々、シヌクレイン抗体療法をやるときに、一斉にやってくれるところ、まずはマッチングでお願いします。それぞれが手を挙げます。でもそれぞれが「おたくがやるならうちはやらない」というスタンスになってしまうので。例えば、エーザイのレカネマブはバイオジェンとエーザイが連携を取れました。それは国が違うからなんだろうと思うんです。
なので、例えば国内メーカーでも、ある程度協力しながらできるようなシステム構築というのをしていかないと、日本はいつまでたっても、オープンイノベーションというのは名ばかりで、絵に描いた餅のままで全然前に進まないんじゃないのかなというのは、僕がずっと創薬に関して、いろいろな人と、外資系ともお話しさせてもらったり、いろいろしても、なかなかそこは難しいというふうに思っています。
【加藤主査】 ありがとうございます。
尾崎先生、お願いします。
【尾崎特任教授】 私も、非競争領域のところでの、企業の方、複数の企業との連携というのを、前のGAPFREE、現在のGAPFREE、ともにやってまいりました。
その際、先ほど塚原委員からお話がありました、どうしても企業間ではコンペティティブ、特に同業の、同じようなモダリティをされている製薬メーカーの間では、私も実感をしています。
しかしながらモダリティの異なる、例えば脳波を解析するのに非常にたけたAIの会社さんと製薬企業さんの間では、そこはコンペティティブではなくなるので、モダリティが異なると、そこら辺は割とスムーズではないかなというのが、経験上感じているところです。
以上です。
【加藤主査】 ありがとうございます。
それでは、影山先生、お願いします。
【影山センター長】 どうもありがとうございます。コンソーシアムで本当に意味のあるものができるかどうかという点に関してなんですけど、そこの問題点は私たちも感じていまして、私もいろんな製薬会社の方とお話しする機会があったんですけど、まず、認知症とかそういう大きな病気になると、そもそも日本の会社はなかなか手が出せませんというのは、正直に言われますね。
3相になると数百億から1,000億を超えるような莫大なお金がかかるので、たとえ1相、2相でいい成果が出ても、3相で沈没したらどうしようもないということなので、だからもう、よっぽどいい成果を出してもらわないとなかなか手が出せませんというのは、正直に言われました。
あと、共同研究はある程度やっていただけるところはありそうなのですが、本当にそれが創薬につながりそうかとなると、先ほど塚原委員も言われていたように、ヒトのデータが絶対に欲しいということで、そうすると、iPS細胞でもやっぱり不十分なんです。それがiPS細胞で効いても、本当にヒトの認知症に効くのかと言われると、やっぱり証拠がないので。
それを突き詰めていくと、もう研究者側のほうで1相・2相ぐらいまでやって、しっかりしたデータを出さないと、製薬企業はなかなか乗ってくれないのかなという、そういう印象すら持っているんですけど、1相・2相といってもやっぱり数十億はかかるので、本当のところ、どうやって創薬につなげていくのかというところが、私たちもいろいろ考えてはいるんですけど、まだ正直見えていないというのが現状なんです。
そこを、もし塚原委員とか、服部先生もいろいろ苦労されているというお話を先ほどされていたので、どういうふうにやれば、その問題点を乗り越えていけるのかというところのお考えがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。
【加藤主査】 ありがとうございます。
塚原委員、お願いします。
【塚原委員】 先生のお考えも、本当にそのとおりだと思うんです。恐らく、だからこそ欧米ではベンチャーをつくって、前臨床からフェーズ1、そしてフェーズ2ぐらいまではそこに投資を呼び込んで、ある疾患、あるターゲットに絞って、そこはその仕組みで持っていって、うまくいってPoCが取れたぐらいのところで、メガファーマが入ってくるというような仕組みができたんだと思うんです。
なので、そこはやはり、欧米ですと大学の先生が、御自身で開発された技術や、見つけたターゲット等ですぐ起業をしてしまって、そこで本当にたくさんのお金が集まるので、それでベンチャーキャピタルの指導を受けながら持っていくという、これが出来上がっている。それを日本にどうやってつくるかというところに、やはりなっていくのかなというふうに思います。
【影山センター長】 どうもありがとうございます。まさに私も同感で、欧米だと比較的簡単にベンチャーを立ち上げて、そこにいっぱい投資がなされて、1相・2相の試験ができるんですけど、日本ではなかなか難しいのかなという気がしています。
私の知り合いの方も、結局アメリカにベンチャーをつくって、そこで臨床試験をやるというふうに言われていました。日本ではちょっと難しいと言われましたので、そこをどういうふうに乗り越えていくべきなのかなというのは物すごく切実に思っています。ありがとうございます。
【加藤主査】 それでは、服部先生、お願いします。
【服部教授】 昨日もメーカーさんと話をしていると、教科書上のことしかよく分かっていなくて、現状がどうなっているのかということを十分理解できていないと。
一つ、ベンチャー立ち上げのためにも、AMED主導で、まずはメーカーとアカデミアの勉強会。どういうことが今、科学として求められているのか。もちろん製薬業界もそれは勉強しているんですけど、パブリケーションされたデータしか勉強していないので、いわゆるアンパブリッシュデータも含めた、何かコンフィデンシャルな会を行うと。
もちろん、書面で誓約を取ってということになるとは思いますけれども、そういうのを積極的にやっていかないと、なかなか、日本のオープンイノベーションというのはクローズクローズの中で行われてしまっていて、アカデミアもそうですけど、共同研究をどんどん進める、産学との連携も、メーカーさん同士も勉強に来てくださいというのを、何かAMEDで計画してもらえると、その中で共創的に、お互い技術開発につなげていくなり、アイデアを持ったらそれを前に進めるというのはいかがでしょうか。
【加藤主査】 先ほどの塚原委員のお話ですと、アカデミア側からスタートアップ、企業を立ち上げて、フェーズ1、フェーズ2が終わったところで大企業に持っていくというふうに、アカデミア側が出ていかなければならないんじゃないかというような御意見でしたが、服部先生の御意見としては、むしろメーカー側がもう少しアカデミアの情報を探るような試みもしたほうがいいんじゃないかということで、両側からの御意見をいただいたんですけど、塚原委員、いかがでしょうか。
【塚原委員】 先生がというか、先生方が開発された技術やターゲットを基にベンチャー、スタートアップをつくるという意味でございまして、多くの場合、例えばチーフサイエンティフィックオフィサーとか、様々な形で参画をされるというのが多いんじゃないかと思うんです。
そこで日本に足りないのは、やっぱり起業家というか、例えばCEOになるような、そっちのビジネスのマネジメントができる人材というのが少ないので、そこは、製薬会社ということではないですけれども、様々な形でのビジネスオーナーが、もっともっと育ってくる必要があるんじゃないかなというふうに考えます。
【加藤主査】 服部先生、いかがでしょうか。
【服部教授】 もちろん、起業するという教育はすごく重要で、ベンチャーを立ち上げて、ベンチャーキャピタルからお金を集めて、さらに研究を進めると。
ただ現実的に、日本のベンチャーの成功率を見るとかなり厳しい状況で、そこを、例えばアプリとか、そういった比較的投資が少ない場合は割とやりやすいと思うんですけれども、やはり我々、統合脳という考え方でいけば、当然、創薬、難病を何とかしたいということで考えたときに、情報を共有できるシステムというのはまずは必要で、その上で、賛同を得られたら研究者が企業を起こす。別にメーカーが価値があると思っても投資しなくても、ほかの起業家から見れば投資する意味があるというふうに判断されれば、お金は集まると思うんですけれども。当然、ベンチャーという考えを、このAMEDを通じて起業家をつくると。慶應の坪田先生なんかはいい例だと僕は思っていて、教授をやりながら、教育もしながら、研究もしながら、企業も起こすという。
ただ、なかなかやっぱり苦戦しているところを見ると、そういったバックアップ体制とか、その次の展開をやはりする必要があるのかなというふうに思っています。
長くなりました。以上です。
【塚原委員】 ありがとうございました。もう1ついいですか。服部先生の言われたことで一つ、そうだなと思ったのは、やっぱり勉強しなきゃいけないと思うんですよ。それと、やっぱり米国のベンチャーも米国内で閉じているわけではなくて、国際競争にさらされた上でのベンチャーなので、我々もそういう目でウオッチをしております。
そういう意味では、ベンチャーに限らずですけれども、日本で様々なプロジェクトや研究団体があって、それが提案をされてくるんですけど、そこに何かうまいこと海外の目を入れるといいますか、そういうことができると、いわゆる国際社会の中で勝ち抜けるような、本当に薬として最後まで行けるような、そういう発見や、そういったものであるというようなことを、一つまた考えながら進めていけるのかなと思うので、この「脳神経科学統合プログラム」で、何かそういう海外の目というか、国際的な視点もしくはレベリングみたいなものをうまく取り入れていけるとよいのかなというふうに、ちょっと考えております。
以上です。
【加藤主査】 ありがとうございます。
これまでの議論を本日の論点につなげますと、産学連携による共同研究の仕組みを促すために何ができるかということに関しては、一つはスタートアップ支援ということとか、あるいは、日本の脳研究の成果を国際的に広げていくような枠組みであるとか、企業とアカデミアの間での情報交換の会のようなものとか、そういった具体的なことがあり得るのかなとは感じたんですけれども、支援班をつくるとか、中核拠点の役割とか、そういうファンディングの枠組みとしてできることに関して、何か御意見などいただければと思うのですが、いかがでしょうか。
作業部会にも関わられた渡部先生あたり、いかがですか。すみません、当ててしまって。
【渡部委員】 ありがとうございます。そうですね、今の先生方の議論を踏まえると、なかなか、どこに関しても状況は簡単ではないということなのかなとは思うんですけれども、やはりメガファーマは縛りが大きいので、ベンチャーに期待しようという形になってしまったのかなと思うんですが、とはいえ、やっぱり確実に産学連携の枠組みというのは必要なんだろうなと思うんです。その中で、服部先生がおっしゃっていたみたいに、企業は途中で方針が変わって、続けていたものがぴたっと止められてしまうということを、実際に私自身も見聞きしますので、そういった、例えば中長期でのプランというか方向性はフィックスしてもらうみたいなことができるだけでも、大分連携が進むのかなというふうに思いました。
なので、中核拠点や支援班が、ファンディングのシステムはともかく、どういう役割を担うといいのかという意味では、そういう橋渡しをするときに、ある程度長期の目線で、そこに関して、なるべく深掘りをして、コンセンサスをきちんと明らかに取っておくというのは、一つ大切なことかなと思いました。
私からは以上です。
【加藤主査】 ありがとうございます。
ほかに御意見ございますでしょうか。
尾崎先生、お願いします。
【尾崎特任教授】 何度もすみません。先ほど少しお話ししたPMDAとの相談というのは、非常にこれがストレスフルでございまして、PMDA相談等の薬事関連の支援を、今のところ、私どものところは橋渡しのサポートを得てやっているんですけども、そこら辺が支援班として、この「脳神経科学統合プログラム」の中で行われるというのは、想定はされていらっしゃるのでしょうか。
【加藤主査】 これはライフ課から御発言いただけますでしょうか。
【吉田課長補佐】 事務局でございます。どのようなことを支援班にやっていただくかというところ、今まさに検討しているところでございます。
ただ、PMDAの相談というところで、この「脳神経科学統合プログラム」のスポットが割と基礎寄りというところでございますので、そこまでを支援の対象に入れるかどうかというのは、検討してまいりたいと思います。
以上でございます。
【尾崎特任教授】 ぜひ御検討いただければと思います。経験上、非常にストレスフルです。
【加藤主査】 ありがとうございました。
それでは、最後に全体を通して、何か御意見などございますでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは、事務局にお返しします。
【吉田課長補佐】 事務局でございますが、大変有意義な御議論をいただきまして、誠にありがとうございました。
本日御議論いただきました産学連携に向けた内容というところに関しまして、今後のプログラムの実施に当たり、我々としても検討をさせていただきたいと思います。誠にありがとうございました。
【釜井課長】 文部科学省のライフサイエンス課長の釜井でございます。加藤主査含めて、今日は先生方、大変貴重な議論をいただきまして、本当にありがとうございます。私も最後だけ発言させていただければと思うのですが、今日いただいた御指摘を踏まえて、脳科学、脳神経科学は非常に重要な分野でございますので、しっかり来年度も含めた概算要求についても、検討をしていければというふうに思います。
塚原先生、それから服部先生からも御指摘ありましたとおり、産学の連携の在り方という点で、正直、私どものほうも非常に悩みながらやっているところでございます。
私のほうも、着任してから製薬企業のほうにも何度も足を運んで、非公式の意見交換もいたしておりますし、御承知のとおり、厚労省事業と連携での交流会というのもやってきているところでございます。
今日は競争領域、それからコンソーシアムとはみたいな話もございましたけれども、私も同じように実感として、今、創薬のほうの開発の取組とかで見ますと、やっぱりもう、できるところからどんどん、競争領域、非競争領域に限らずやってきてしまっているというふうなのがあって、それがむしろスピーディーなんじゃないかというふうなことも考えてはございます。
あと、今日もスタートアップ、ベンチャーの話がありまして、やっぱり国際的な潮流でも、スタートアップの力を借りないとというところが全体的な潮流だとは思います。
この点は、私どものほうも、別の事業でございますけれども、医療系スタートアップという事業を令和5年度の補正で立ち上げましたし、あとは御承知のとおり、創薬ベンチャーエコシステム事業というのが、経済産業省のほうで3,500億の基金がございます。
今、経産省におきましても、創薬ベンチャーエコシステム事業のほう、弾力化という形でやっておりますし、あとは、先生方御承知のとおり、来年度からAMEDの第3期が始まろうとしておりまして、そういう中で、関係省も含めまして、事業をどういうふうにつないでいくかという点で、いろいろ今、議論をしているところでございますので、そういう取組がもしかしたら突破口になるかもしれないなと思っていますので、引き続き、こちらのほうも頑張っていければなというふうに思います。
その中で、服部先生のほうから御指摘がありましたGAPFREE、私、実は令和元年度から2年間、AMEDにいたときにGAPFREEを担当している部長も代行していたときがありまして、逆に言えば、そういう課題があるのであれば、我々のほうとして持ち帰って、それを厚労省にということもできると思いますし、あるいは、尾崎先生のほうから御指摘のありましたPMDAは、今、藤原理事長が大分本当に御尽力されていまして、薬事戦略相談とかそういったものを含めて、かなり充実してきているとは思いますけれども、なおもそういうふうな課題があるのであれば、今、私どもと厚労省は、経産省のほうと非常にいい関係でやらせていただいていますので、ぜひ解決に向けて、一丸となって、ライフ課のほうとしてもやっていければと思います。
今日は本当に大変有意義な御議論を賜りまして、ありがとうございました。また今後とも、よろしくお願いいたします。
進行のほう、戻します。
【吉田課長補佐】 事務的な連絡ですけれども、本日の議事録につきましては、事務局のほうで案を作成いたしまして、皆様にお諮りいたします。主査の御確認を得た後に、ホームページのほうで公開させていただきますので、よろしくお願いいたします。
また、次回の作業部会の日程につきましては、現時点で未定でございます。また開催をする際に、改めて日程調整をさせていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、加藤先生、お願いいたします。
【加藤主査】 本日は、大変活発な御議論をいただきまして、どうもありがとうございました。本日の脳科学作業部会はこれにて閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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研究振興局ライフサイエンス課