2024/12/16

2024年度島津賞・島津奨励賞受賞者決定 -研究開発助成は23件を選定-

株式会社 島津製作所 

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2024年12月16日 | プレスリリース 2024年度島津賞・島津奨励賞受賞者決定 -研究開発助成は23件を選定-

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公益財団法人 島津科学技術振興財団(理事長 榊 裕之)は12月6日に開催した当財団理事会において、2024年度 島津賞受賞者1名、島津奨励賞受賞者3名、および研究開発助成金受領者(領域全般20名、新分野3名)を決定しましたのでお知らせいたします。

当財団は、科学技術に関する研究開発の助成および振興を図る目的で1980年に島津製作所の拠出資金により設立され、2012年4月に公益財団法人に移行しました。基本財産は約30億円です。
島津賞は、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において、著しい成果をあげた功労者』を表彰するものです。
島津奨励賞は2018年度に創設された顕彰事業であり、『科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において独創的成果をあげ、かつその研究の発展が期待される45歳以下の研究者』を表彰するものです。

また研究開発助成は、『主として科学計測に係る科学技術領域と新分野で、独創的研究を対象とし、国内の研究機関に所属する45歳以下の研究者』を助成するもので、 当財団では、“主として科学計測に係る科学技術領域”を【領域全般】と称しています。また【新分野】は、財団が毎年テーマを指定しており、今年度は『先進情報技術の研究分野、または先進情報技術やデータサイエンスを用いて科学的課題解決を目指す研究分野』をテーマとして募集しました。
今年度は、領域全般で20件、新分野で3件の総計23件を選出しました。採択となった研究は、いずれも先端技術に関するもので、今後その成果・発展が期待されます。

1.島津賞

当財団の推薦依頼学会に推薦依頼し、推挙された中から、当財団選考委員会および 理事会にて、受賞者1名を選出しました。受賞者には、表彰状・賞牌・副賞500万円を贈呈いたします。

受賞者

大阪大学 産業科学研究所
教授 永井 健治氏

受賞業績 蛍光/生物発光計測技術の開発による生命機能の解明研究
推薦学会 日本生物物理学会
受賞理由 生体分子や細胞が、体の中でどのように働くかの理解には、分子を発光させての観察が非常に有効であるが、蛍光イメージングは励起光の光毒性などの様々な弊害がある。永井氏は励起光を用いない生物発光で、その物理化学的性質を巧みに利用した改変により、独創的な発光性タンパク質を数多く開発してきた。中でも、高光度かつ様々な色に光る生物発光タンパク質やそれらに基づく発光バイオセンサーの開発は革新性が高く、生体分子から個体レベルまでの各階層におけるバイオイメージングへ応用されている。
加えて発光情報を最大限に活用するイメージング装置も多数開発し、特に多細胞システムのマクロ動態と生命システムを構成する個々の細胞のミクロ動態を同時観察可能なトランススケールスコープは、存在確率が0.1%に満たないユニークな特性を有する細胞が駆動する生命現象の解析を可能にし、従来看過されてきた希少な細胞に着眼することの重要性を浮き彫りにするなど、新しい研究分野を切り拓いた優れた研究業績を高く評価した。
研究内容

生命科学研究において広く普及している蛍光イメージング法では、顕微鏡に備わる対物レンズで励起光注1を試料上に集光することによって生じる蛍光シグナルを観察します。しかしながら、この試料上へ集光した励起光は、光毒性をはじめ細胞活動に様々な影響をもたらす場合があります。 また、細胞には蛍光性を有する分子が多数内在し、それらが放つ自家蛍光が明瞭な観察を妨げてしまいます。このような蛍光イメージングが内包する課題を解決する方法として永井氏は「生物発光」の利用に着眼しました。生物発光は、発光酵素(生物発光タンパク質注2)が発光基質分子を酸化することで生じる発光であり、励起光の照射が不要であるため、光毒性や自家蛍光などの問題が生じないと考えられます。しかしながら、蛍光と比較すると生物発光の発光強度は弱く発光色の種類も少ないためイメージングへの応用は限定的でした。そこで同氏は、生物発光タンパク質内にある発光団の励起状態のエネルギーを蛍光タンパク質注3の発色団に直接移動させる励起エネルギー移動注4を利用することで、発光反応の過程で熱として放出されるエネルギーを光に変換し、発光量を既存の生物発光タンパク質に比べて10倍以上増大したNano-lanternを開発しました。これにより、従来は麻酔で静置させ、数分のカメラ露光を要したマウス個体内のがん組織イメージングを、自由行動下でリアルタイムに行うことに成功しています。
また、蛍光波長の異なる様々な蛍光タンパク質と融合することでNano-lanternの多波長化も実現し、これらの遺伝子を細胞に導入することで、1細胞レベルの5色マルチカラーイメージングや1分子発光イメージングにも成功しました。さらに、Nano-lanternに基づくATP注5指示薬も開発し、自家蛍光が極めて強い葉緑体内で生じる光合成に依存したATP産生の可視化に成功し、ATPの合成速度が二つのフェーズから成ることを見出しました。加えて、細胞膜電位に応じて発光色が変化するLOTUS-Vも開発し、2色の光照射により神経の活動を操作しながら膜電位の変化を可視化することや、蛍光法で実現できなかったワイヤレスなライブ脳活動計測により、自由行動中にある複数のマウスの脳活動計測を行い、一次視覚野注6の神経活動が個体接触に応じて優位に上昇することを発見しています。
さらに、発光バクテリアの生物発光システムを改変して従来必要とされてきた発光基質分子の投与を必要としない5色の自動生物発光遺伝子システムNano-lantern-Xを開発し、発光バイオイメージングの応用範囲を大きく拡張しました。他方、誰でも簡便に操作が可能なオールインワン発光顕微鏡システムIXplore(TM) Live for Luminescenceを産学連携により開発してエビデント社から上市し、発光バイオイメージング法の普及に貢献しました。

用語解説

注1 励起光
この場合、蛍光体から蛍光を発生させるために観察対象に照射する、蛍光より波長の短い光のこと。蛍光体は励起光からエネルギーを吸収し、元の状態に戻るときに蛍光を発生する。

注2 生物発光タンパク質
ルシフェラーゼとも呼ばれ、発光基質分子であるルシフェリンが酸化する際に生じる化学エネルギーで光るタンパク質。生物発光タンパク質はホタルやキノコ、ヒカリコメツキムシ等の甲虫、クラゲやエビなどの海洋生物から得られ,蛍光タンパク質同様,レポーターアッセイ(遺伝子研究に用いられる)や機能性プローブ(特定のタンパク質に目印を付ける分子)の開発に利用されている。

注3 蛍光タンパク質
特定の波長の光(励起光)を吸収して蛍光を発するタンパク質のこと。蛍光タンパク質の代表的な例として、下村脩博士のノーベル賞受賞で有名な緑色蛍光タンパク質(GFP)がある。GFPの場合青色の光を吸収して緑色の蛍光を発する性質を持ち、光照射だけで蛍光を発する。従って、蛍光タンパク質の遺伝子を細胞に導入することで細胞に蛍光性を付与することが可能であり、この性質を利用して生命科学分野においてレポータアッセイや機能性プローブなど広く使われている。

注4 励起エネルギー移動
概ね10nm以内に近接した2個の発光団の間で生じる相互作用により、一方の励起エネルギーが他方に無輻射的(発光や発熱等を経由せず、直接)に移動する現象のこと。

注5 ATP
アデノシン三リン酸。筋肉の収縮など、エネルギーの貯蔵・利用にかかわる重要な生体分子。

注6 一次視覚野
ヒトの大脳皮質に位置し、視覚情報の初期処理を行い、物体の位置を特定する役割を担う脳部位。

受賞業績の概念図

2.島津奨励賞

当財団の推薦依頼学会および当財団関係者に推薦依頼し、推挙された中から、当財団選考委員会および理事会にて、受賞者3名を選出しました。受賞者には、表彰状・トロフィー・副賞100万円を贈呈いたします。

受賞者

埼玉大学 大学院理工学研究科
教授 豊田 正嗣氏

受賞業績 植物の機械刺激応答を可視化するリアルタイムイメージング技術の開発
推薦者 島津財団関係者
受賞理由 植物は、重力や接触、食害などの様々な機械刺激を感知し、適応しながら生存しているが、豊田氏は、超高感度発光測定装置や遠心顕微鏡、広視野・高感度イメージング技術などの独自のイメージング装置を開発し、植物の常識を覆すような反応をリアルタイムで可視化してきた。
これらの成果により、植物は、動物のような専用の感覚器や神経系とは異なる、動植物に共通して存在する因子であるカルシウムイオンによる信号伝達やグルタミン酸受容体などに、師管や原形質連絡のような植物独自の器官や構造を組み合わせることで、接触や食害など、様々な機械刺激を感知し、瞬時に情報処理していることを明らかにした。さらに、これらのリアルタイムイメージング技術を、オジギソウやハエトリソウのような敏感に動く植物の刺激応答、揮発性物質を用いた植物間コミュニケーションの研究にも応用し、植物の“長距離情報伝達”や“感覚”のような驚くべき能力を次々と解き明かし、生物学における新しい研究の潮流を生み出していることを評価した。

受賞者

理化学研究所 開拓研究本部
上級研究員 今田 裕氏

受賞業績 光融合プローブ顕微鏡技術の開発と分子系における量子変換の研究
推薦者 過年度島津賞受賞者
受賞理由 今田氏は、光を使った計測法の空間分解能の限界を克服するため、原子分解能を持つ走査プローブ顕微鏡(SPM)とナノ光学技術を融合させた独自の計測手法を開発した。この手法を用いて、原子・分子レベルで起こる様々な量子(光子・電子・プラズモン・分子振動・フォノン・スピン)間の変換現象の研究を精力的に展開している。これまでに発光やラマン散乱、励起子生成、分子間エネルギー移動、光電流生成といった現象を1分子レベルでかつ原子スケールの空間分解能で精査することに成功している。これらの研究成果は、エネルギー変換、分光計測、発光デバイス、受光デバイス、センサー、光触媒反応、化学分析など多岐にわたる応用分野の原理に関わるものである。このように従来の計測技術では到達し得なかった新たな計測領域を開拓し、次世代のエネルギー変換機能の創出に寄与する基盤を築いた。これら、これまでの業績だけでなく、同氏が築いた基盤が、量子変換研究の発展への寄与が期待されることを評価した。

受賞者

大阪公立大学 大学院医学研究科
准教授 植田 大樹氏

受賞業績 医用画像への科学計測としての人工知能の応用研究
推薦者 日本医学放射線学会
受賞理由 植田氏は、医療現場におけるAIを活用した画像診断支援の研究開発において、多くの成果を挙げている。特筆すべき成果として、MRI画像から脳動脈瘤を自動検出するAIシステムの開発が挙げられ、これは日本初の深層学習を用いた医療機器として承認を受けた。また、胸部レントゲン写真から肺がんを検出するAIも開発・実用化され、これら2つのシステムは現在500以上の医療機関で活用されている。
さらに、通常は専門的な検査が必要な心臓・肺機能の評価を、胸部レントゲン写真のみから可能にするAIシステムも開発。これにより、特殊な検査装置のない医療機関でも患者の状態評価が可能となった。加えて、レントゲン写真から生物学的年齢を推定し、慢性疾患のリスク評価を行うAIも開発。これらの研究は権威ある医学誌に掲載され、複数の賞を受賞している。
また、医療におけるAI活用における公平性の確保のための指針提言も行い、医療現場での実践的な活用に貢献する研究業績を評価した。

3.研究開発助成(23件)

応募のあった中から、当財団選考委員会および理事会にて研究開発助成金受領者を下記の通り選出しました。1件あたり100万円の研究開発助成金を授与いたします。科学計測に係わる領域を広く対象をしてとらえた「領域全般」への応募から20件を選定し、加えて、当財団が設定した科学計測に係わる領域で、今後重要となると考えられる新規な分野を対象として助成する「新分野」(今年度のテーマは、『先進情報技術の研究分野、または先進情報技術やデータサイエンスを用いて科学的課題解決を目指す研究分野』)への応募から3件を、それぞれ選定しました。採択となった研究は、いずれも先端技術に関するもので、今後その成果・発展が期待されます。

領域全般 20件(助成総額2,000万円)

研究者(五十音順)

研究題目

助成金額

1 大阪大学
大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻
准教授 市川 修平
光電子・発光超高速微視的分光による半導体キャリアダイナミクスの新計測 100万円
2 岡山大学
学術研究院ヘルスシステム統合科学学域 医療機器医用材料部門
准教授 王 璡
THz波顕微鏡システムを用いたがん細胞の電気的および機械的特性の解明 100万円
3 九州大学
大学院人文科学研究院 言語学講座
准教授 太田 真理
複数の脳領域を局所的に刺激可能な非侵襲的脳刺激装置の開発 100万円
4 九州大学
大学院理学研究院 化学部門
助教 桶谷 亮介
細胞群の分子変化を網羅的に捉える無標識時空間顕微分光法の開発 100万円
5 大阪大学
大学院基礎工学研究科 機能創成専攻
准教授 小野 尭生
超高感度グラフェンバイオセンサー確立に向けた表面電荷と形態の計測と制御 100万円
6 東北大学
大学院環境科学研究科 先端環境創成学専攻
助教 唐島田 龍之介
異核ランタニド-チアカリックスアレーン錯体の分離分析法の開発 100万円
7 国立がん研究センター
研究所 腫瘍免疫研究分野
研究員 熊谷 尚悟

T細胞誘導治療における分子機構解明のための新規科学計測技術の創出

100万円
8 群馬大学
生体調節研究所
講師 小松 哲郎
蛍光イメージングによる1細胞エピジェネティック計測系の確立 100万円
9 昭和大学
脳機能解析・デジタル医学研究所
所長 佐藤 洋輔
ガンマ波規則性解析およびAI活用による精密てんかん評価法の確立 100万円
10 量子科学技術研究開発機構
量子生命科学研究所 量子再生医工学研究チーム
主任研究員 嶋田 泰佑
オンチップイメージング計測による単一細胞薬剤応答モニタリング 100万円
11 京都大学
医学部附属病院
講師 志水 陽一
小動物~ヒト生体内での細胞追跡を可能とする PETイメージング法の開発 100万円
12 東京大学
生産技術研究所 物質・環境系部門
講師 塚本 孝政
グラフェン量子ドットを用いたナノクラスターの準均一系分光分析技術の開発 100万円
13 奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究科 物質創成科学領域
特任准教授 中内 大介
高感度センシングを目指した近赤外蛍光体およびシンチレーション検出器開発 100万円
14 東京大学
大学院理学系研究科 附属 原子核科学研究センター
特任研究員 中村 圭佑
量子重力探索に向けたデコヒーレンス時間の質量依存性の計測 100万円
15 大阪大学
大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻
准教授 三科 健
非線形フーリエ変換を用いた光センシング技術の創出 100万円
16 筑波大学
数理物質系 化学域
助教 宮川 晃尚
中空ナノ粒子による粒子浮揚に基づく微量計測法の開発 100万円
17 金沢大学
医薬保健研究域 薬学系
助教 宗兼 将之
動脈硬化プラークを検出可能な核医学診断用プローブの開発 100万円
18 産業技術総合研究所
エネルギー・環境領域 電池技術研究部門
主任研究員 山岸 裕史
全固体電池内部界面のイオンダイナミクスの高速オペランド観察法の開発 100万円
19 中央大学
理工学部 電気電子情報通信工学科
助教 李 恒
長波長光計測の光路解析による屋外利用可能な透視構造復元の実証 100万円
20 九州大学
大学院工学研究院 応用化学部門
助教 梁 逸偉
マイクロ流体を用いた単一生体粒子ダイナミクス計測法の開発 100万円

新分野 3件(助成総額300万円)

【今年度の募集テーマ】
『先進情報技術の研究分野、または先進情報技術やデータサイエンスを用いて科学的課題解決を目指す研究分野』

研究者(五十音順)

研究題目

助成金額

1 大阪大学
微生物病研究所 バイオインフォマティクスセンター
招へい准教授 神元 健児
in silico遺伝子摂動予測技術の開発 100万円
2 大阪大学
大学院医学系研究科 分子神経科学
准教授 辻岡 洋
メダカ近縁種のゲノム比較による再生能を規定する変異の解明 100万円
3 東京女子医科大学
医学部 画像診断学・核医学、循環器内科学分野 兼務
助教 山本 篤志
心筋再生医療による重症心不全治療戦略: PETとAIを用いたアプローチ 100万円

表彰式・研究開発助成金贈呈式、並びに受賞記念講演は、次の通り行います。

日 時 2025年2月18日(火)
次 第 表彰・贈呈式 13:30~14:30
島津賞、島津奨励賞受賞記念講演 14:40~16:10
場 所 ホテルオークラ京都(京都市中京区河原町御池)

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