(論文)マイナス金利政策の金利形成や貸出への影響
日本銀行マイナス金利政策の金利形成や貸出への影響
2024年12月20日
伊藤雄一郎*1
河西桂靖*2
幅俊介*3
要旨
本稿では、マイナス金利政策の導入が、わが国の金利形成や貸出に及ぼした影響について、先行研究を踏まえつつ考察を行った。マイナス金利政策は、名目金利の実効下限を低下させるとともに、投資家の利回り追求行動を促進し、短期金利だけでなく、長期金利も押し下げる効果があることが、先行研究では指摘されている。わが国やユーロ圏のデータをもとに検証を行ったところ、短期ゾーンに加えて、長めの年限で金利低下効果が大きかったことが確認された。次に、マイナス金利政策が貸出に及ぼす影響について、先行研究では、短期金利を操作する伝統的な金融政策と同様、緩和的な金融環境を創出し、貸出を増加させるとの見方がある一方、金融機関収益の悪化を通じて、却って金融仲介機能を阻害するとの見方(リバーサル・レート論)も存在する。この点、わが国の金融機関データを用いて検証を行うと、総資産に占める預金の比率が高く、マイナス金利政策の収益への影響が相対的に大きいとみられる先においても、政策導入後に貸出が減少する傾向は、確認されなかった。こうした結果が得られた背景には、日本銀行当座預金への階層構造の導入等によって、金融機関収益への影響が緩和され、金融機関のリスクテイク余力が維持されたことなどが影響した可能性が考えられる。
- JEL 分類番号
- C23、E43、E44、E52、G21
- キーワード
- マイナス金利政策、イールドカーブ、リバーサル・レート、貸出
本稿の作成に当たっては、長田充弘氏、開発壮平氏、須藤直氏、高橋耕史氏、土川顕氏、中島上智氏、長野哲平氏、平田渉氏、および日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。また、高野優太郎氏、平田篤己氏からは、本稿の作成過程においてご助力を頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者たち個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行企画局 E-mail : yuuichirou.itou@boj.or.jp
- *2日本銀行企画局 E-mail : yoshiyasu.kasai@boj.or.jp
- *3日本銀行企画局 E-mail : shunsuke.haba@boj.or.jp
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