【記者会見】小枝審議委員(福岡、5月21日分)
日本銀行12026年5月22日
日本銀行
小枝審議委員記者会見
――2026年5月21日(木)午後2時30分から約30分
於 福岡市
(問)
二点質問をお願い致します。まず本日の金融経済懇談会、どのような意見交換が行われたのか、その内容を教えてください。
もう一点は福岡県の経済についてどのようにご覧になっておられるのか、そのご認識についてお伺いできればと思います。
(答)
それでは、初めの金融懇談会での意見交換の内容についてです。本日の懇談会では、福岡県の行政や経済界、金融界を代表する方々から地域経済の現状や直面する課題などに関するお話や、日本銀行の金融政策運営に関するご意見を伺うことができ、大変有意義な意見交換ができたと思います。懇談会にご出席頂いた皆さま方には、この場をお借りして改めて御礼申し上げたいと思います。懇談会の内容の全てをご紹介することはできませんが、席上で様々なご意見を頂きましたので、整理して申し上げます。まず、中東情勢を受けての県内状況です。今のところ大きな影響は出ていないと聞かれるものの、行政や金融機関では相談窓口を設けて対応を進めているとの話が聞かれました。県内の景気は全体としては緩やかに成長しているといった話も聞かれました。また、福岡県経済の特徴についても懇談がなされました。例えば、スタートアップに関するお話も聞かれまして、その環境作りにおける行政や金融の役割についても言及がなされました。最後に、日本銀行に関しては、厳しい局面にある中で金融政策の影響を丁寧に見極めながら、適切な政策運営を期待しているとのご意見がございました。日本銀行と致しましては、福岡支店を通じて福岡県の金融経済情勢の把握に努め、福岡県経済を支えておられる関係者のご努力がより大きな成果につながっていくように、中央銀行の立場から、福岡県経済の発展に貢献できるよう努めてまいります。
続いて、二つ目の福岡県の経済情勢をどのようにみているかというご質問です。福岡県経済は、九州の経済や行政などの集積地として足元でも人口増加が続いているほか、再開発により都市としての魅力を更に高めていることを、今回の訪問で改めて実感致しました。また、一昨年には「金融・資産運用特区」の対象地域に選定され、複数の外資系金融機関やフィンテック企業が進出しているほか、スタートアップの活動も盛んです。観光では国内客はもとより、世界各地からインバウンド客が増加しています。こうした中で、足元の県内景気については、一部に弱めの動きがみられますが、緩やかに回復していると判断しています。中東情勢の影響は一部で広がっているものの、個人消費については富裕層の消費や観光面を中心に堅調に推移しているほか、設備投資も福岡市を中心に都市再開発が着実に進行する中で、半導体関連投資などを含め、高水準で推移していると評価しています。より長い目でみれば、少子高齢化や人口減少、デジタル化、気候変動への対応など、中長期的な生産性向上や成長に向けた取り組みが重要となってきますが、福岡県では産官学金が一体となって、様々な支援や取り組みが行われていることを本日伺いました。こうした取り組みが着実に実を結び、福岡県経済が一層の発展を遂げられることを期待しております。
(問)
質問二点お願いします。一つは今後の利上げのペースについてです。委員は講演の中で政策金利は適切なペースで引き上げ、物価高への対応を進めていくことが適切だとおっしゃっていますが、イラン情勢によってこの物価の上振れリスクもある中で、できるだけ早い段階での利上げが必要とお考えなのか、それとも景気後退リスクの見極めのためにもう少し時間が必要だとお考えなのか、この辺りのスピード感について委員のお考えをお願いします。
もう一点は長期金利についてです。長期金利が今週一時 2.8%まで上昇していて、市場では日銀のビハインド・ザ・カーブに対する懸念というのも指摘されています。この長期金利の上昇のスピードについて委員はどのように認識されているか、また日銀として早期に対応が必要だとお考えかについても併せてお願い致します。
(答)
一点目のご質問ですけれども、中東情勢はわが国にとってはやはり負の供給ショックで、おっしゃっているように物価の上振れリスクと景気の下振れリスクというのをみていく必要があると考えています。物価の上振れ、物価の上昇リスクについては、既に足元顕在化している、特に BtoB のところで顕在化していると思います。輸入物価については、足元前年比で大きく拡大していて、これはエネルギー価格が反映している市況要因からもそうですし、円安が反映している為替要因からも輸入物価は大きく足元上がっております。これを反映して国内企業物価も足元 5%ぐらいになっております。ですので、物価上昇リスクについては、既に BtoB で特に顕在化していて、今後 BtoC への波及のスピードとマグニチュードを、緊張感を持ってみている状況です。一方で、景気後退リスクについては、前回の展望レポートで、基本的見解のところで政策委員の見通しがございますけれども、その中心的な見通しでは、景気の大幅な悪化というのは想定しておりません。おりませんが、中東情勢の帰趨によってはその見通しが大きく左右され得るということは、引き続き状況について注視しているところです。が、まだハードデータではなかなか中東情勢の影響というのは、経済については大きなところは確認できていない状況だと思います。まとめて言うと、足元では、物価の上昇リスクの方が景気後退リスクよりも大きくなっているとみています。ですので、適度なペースでというのは、適度なペースで政策金利を引き上げて、金融政策でも物価高に対応していくということが、経済へのトレードオフには配慮しつつも、適切な政策となっているというふうに足元ではみています。もっとも、次回決定会合までまだ時間がございますので、この物価上昇リスクと景気後退リスクについては、今後の変化についてもしっかりとみて、今後の政策判断をしていきたいと考えております。
二つ目のご質問ですけれども、長期金利の上昇、足元ではやはり中東情勢を受けたインフレ懸念がグローバルにも長期金利を押し上げている状況だと思います。それはわが国でも、市場参加者の見方としては、インフレリスクが長期金利を押し上げている部分というのはあると思います。ビハインド・ザ・カーブかということについては、ビハインド・ザ・カーブにならないように、経済・物価の状況を確認しつつ、金融市場調節方針を決定していくということに、日本銀行はコミットしております。足元確認できるCPIは、政府の政策もございますし、既往の前年比の剥落もあって 2%を切っている状況です。ですので、今後中東情勢を受けた物価上昇リスクの顕在化のスピードとそのマグニチュードについて、緊張感を持って注視していきたいと考えております。
(問)
二点よろしくお願いします。一点目は、先ほどの適切なペースで利上げをしていくということですが、次回の利上げのタイミングもそうなんですが、ペースというと、やはり今後数回の利上げということを意識した表現のようにも感じるんですが、小枝委員は中立金利、日銀はレンジで示してますが、そのレンジの中で委員の意識される中立金利はどれぐらいの水準とみていらっしゃるのか。また、そこまでの現在の政策金利の距離を勘案すると、どういったペースで具体的に、これまでだと大体年 2 回のペースで利上げしていると思いますが、そこが変わり得るのか。その辺りについてお願いします。
二点目は、6 月には日銀は国債買入れ減額計画の中間評価と来年度以降の減額計画について決めると思うんですけれども、足元の長期金利の上昇、国債市場の不安定化というのは、ちょっと需給面を意識した動きともとらえられると思います。こうした最近の国債市場の動きが、特に来年度以降の国債買入れ減額計画を考えるうえで、どういう影響を与え得るのか。場合によっては現行ペースでの買入れを継続してテーパリングを停止すべきという意見もあるんですが、その辺りについてお考えを教えてください。
(答)
まず、金融市場調節方針のペースについてご質問頂きました。中立金利についてもご質問頂きました。私としては中立金利、もちろんこれは幅を持ってみる必要がございますが、その下限は 1%よりは上だというふうに足元では認識しております。金融市場調節方針のペースについては、やはりこれは物価と経済の状況、金融環境の状況に応じてということに尽きると思いますので、例えば、実質金利からの視点ですと、物価上昇リスクはどれだけ速いペースで、どれだけのマグニチュードで顕在化するの[か]で、今よりも実質金利がどれだけ低下するかということが変わってくると思いますし、あるいは今後、潜在成長率が緩やかに伸びていくような見通しということであれば、やはり自然利子率の推計値の幅は平均値でみると上がっていく蓋然性はそれなりにあると思いますので、そうすると、実質金利とその均衡値のマイナスの乖離というのはより意識する必要がある、金利の正常化がより重要になるという視点もあると思いますので、そのペースについては今後の物価・経済の情勢に応じて変わり得るというふうに認識しております。
二番目の質問は、国債買入れの減額についてですけれども、これについては市場参加者の意見も伺いつつ、6 月の決定会合でしっかりと議論をしたいと基本的には思っておりますが、日本銀行では長年続いた非伝統的金融政策のもとで、他国と比べてバランスシートがとても大きいので、そのバランスシートの正常化ということについては、引き続き柔軟性を確保しつつも、予見可能な形で進めていく必要があると考えております。
(問)
二点お願いしたいんですけれども、午前の講演で、今ほどもちょっと言及がございましたけども、実質金利と自然利子率との乖離について懸念のようなことを示されたと思うんですが、現在の物価見通しとかまた物価の上振れリスクの大きさを踏まえると、今後時間が経てば経つほどそのマイナス乖離が大きくなっていく可能性があると思うんですが、ちょっと重複する質問になるかもしれないんですが、それによって政策対応が遅れてしまうリスク、時間の経過とともに政策対応が遅れてしまうリスクについて実質金利の観点からどのようにお考えかということが一点目です。
もう一点なんですが、講演では基調的な物価が既に 2%になっていて、引き続き定着度をみていく必要があるというふうにお話もされましたが、この定着度をみていく局面という中では、緩和的な金融環境が必要というふうにお考えなのか、それとも 2%にもう達している中では早めにやっぱり中立金利というのをある程度意識しながら利上げをしていく必要があるのか。この二点をお願い致します。
(答)
最初、ビハインド・ザ・カーブということですけれども、足元CPIは 2%を切っている中で、今後 BtoC への価格転嫁のスピードとマグニチュードを注視していくという段階だと私は思っておりますけれども、ですので、ビハインド・ザ・カーブにならないように、少し先ほどの繰り返しになってしまいますけれども、経済と物価の状況を確認しつつ金融市場調節方針を決定していくということに尽きると思います。
ビハインド・ザ・カーブのことについては、やはり基調的なインフレについて述べることは必要だと思うんですけれども、こちらについては私、引き続き 2%ぐらいになっておりますが、定着度をみる必要があると考えています。ただ、その定着度については、中東情勢を受けて今後、2%を超える可能性というのは出てきているというふうに考えておりますので、物価と経済の状況に応じてですけれども、以前よりも金融政策としても物価高に対応していくという役割は増しているというふうに考えております。
(問)
講演について二点お伺いします。金融環境に関して、実質長期金利がプラスで推移するということについて市場の健全性の観点から望ましいというご指摘がありました。一方、昨今の長期金利の上昇で、住宅ローンの固定金利も上がっていたり、消費者の負担増というのが浮き彫りにもなって、そういう側面もありますけれども、その辺りどのようにお考えでしょうか。
もう一点が、今後の利上げのポイントの中で、足元 1~2 か月の状況変化というワードに言及されました。この間の物価上昇リスクへの危機感を更に強めるかたちに考えが変わったのかと思いますが、そのきっかけになった具体的な出来事はおありでしょうか。
(答)
まず最初に金融環境に関するご質問で、[長期の]実質金利が足元プラスになっている中で、家計などへの負担、住宅ローンも含めてということでございましたが、こちら私の挨拶でも、家計のバランスシートの負債側というのはその大部分が住宅ローンでございますので、そこについては金融システムレポートなどでも詳細な分析がされていますけれども、しっかりとみているところではございます。もっとも、本行の生活意識アンケート調査というものをみますと、金利水準については「低すぎる」と回答をしている家計が相応にみられている状況ではございますし、暮らし向きにゆとりがなくなってきたと回答した方にその理由を尋ねると、「物価が上がったから」という声が多くなっている状況で、やはりこういった面からも、適切なペースで金融政策としても、経済へのトレードオフには配慮しつつも、物価高に対応していくということは適切になっているというふうに考えております。
二番目のご質問ですけれども、この 1~2 か月ぐらいの状況変化は主に何かということだと思います。一つはやはり私の見方ですけど、中東情勢は春頃よりも、より緊迫している状況が長引く蓋然性というのはそれなりに以前よりは高くなっていて、ですので原油高が高止まりするシナリオというのも以前よりは蓋然性を増しているというふうにみております。更に、直近の BtoB の価格転嫁をみると、先ほど少し申し上げた通り、輸入物価は前年比で大きく上がっておりますし、それを受けて国内企業物価も足元前年比で 5%ぐらいになっているので、その価格転嫁のスピード、そして BtoC への波及のスピードとマグニチュードについては、注視しているところでございます。そこが 1~2 か月の状況変化の大きなところの一つだというふうにみております。
(問)
私からは再度、国債買入れ減額の中間評価に関する質問をさせてください。買入れ減額を進める中で、日銀の適切なバランスシートの規模についての議論も必要になると思います。例えば以前、増審議委員は、先日の講演で異次元緩和の前の水準までバランスシートを縮めるべきかというと、必ずしもそうとは限らないというふうにされていらっしゃいましたけれども、小枝さんは適切なバランスシートの水準についてどのようにお考えでしょうか。
(答)
バランスシートの正常化に関して、適切な規模というご質問だったと思います。日本銀行のバランスシートの正常化を考えるうえでは、やはり本行の国債保有額は大きな項目ですので、そこを議論することは必要だと思っています。これはご承知の通り、償還分が買入れ分を上回っていることから緩やかに低下してきておりますが、適切な規模というと長期的に保有している国債の償還と買入れがどこでバランスするかということにも関連してくると思いますが、これについては、市場参加者の意見も伺いつつ、国債市場の状況や準備預金も含めた流動性の観点などから総合的に判断していくことだというふうに考えております。詳細については、次回決定会合でしっかりと議論してまいりたいと考えております。
(問)
日本の予想インフレっていうのは、適合的な期待形成の側面が強いという整理をかつて日銀はしていたと思うんですけれども、今後、特に政策上重要な長期の予想インフレの動向については、今少し高まってることは注意が必要と講演でおっしゃってたんですが、一層高まる可能性についてはどのようにみてらっしゃるんでしょうか。
(答)
長期の予想インフレについては、ご指摘の通り足元サーベイベースのものも、マーケットベースのものも上昇しているところがみられますけれども、それについては基調的なインフレの指標でもあると思っておりますので、先ほど中東情勢を受けて2%以上に基調インフレがなる可能性が出てきたと申し上げましたが、まさにそこについても注視しているところでございます。適合的というのは、特に家計のインフレ予測が適合的というところは引き続きそういう面はあるとは思っておりますが、同時に家計のインフレ予測は、インフレ率だけでなくて、その水準というか、価格への目線というところも関係してくるところだと思いますので、これについても同様に、インフレ実感ということと関係してくると思いますけれども、同様にしっかりと把握していきたいと考えております。
(問)
午前の挨拶文の中で今後の利上げのポイントというところで経済のトレードオフにも配慮ということをおっしゃったと思うんですけども、こちら基本的にはプラス面とマイナス面があるということだとは思うんですけども、これもうちょっと、今までおっしゃったこととちょっとかぶる部分もあるかとは思うんですけども、より具体的にトレードオフというのはどういう内容なのかっていうのを伺いたいんですけど。
(答)
特に 4 月の展望でお示しした見通しというのは、今後大幅な景気悪化はみられないという見通しが中心的な見通しでしたけれども、例えば、グローバルなサプライチェーンの混乱が生じるとか、そういったことが起これば、見通しも大きく左右され得ますので、例えば、そういった景気悪化リスクが大幅に上昇するような局面ということを意識して、こちらの経済へのトレードオフという言葉を使用致しました。
(問)
ちょっと終わった話になってしまうんですけども、前回会合で利上げを提案しなかった理由について教えて頂けますでしょうか。
(答)
前回会合で私は、政策金利については現状維持が適切であると判断致しました。その理由としては、足元のCPIは 2%を切っている中、それはもちろん政府の政策もあり、あるいは既往の前年比の剥落というものがある中で、前回会合においてはBtoB のところで特に川上の方で価格転嫁ということは聞かれておりましたが、まだBtoC への波及をみていくという段階であったと思いますし、あるいは中東情勢の帰趨についても、状況次第で大きく見通しのシナリオが変わり得るという不確実性はそれなりに高かったと思いますので、そういった状況の中で、前回会合時点では、政策金利を現状維持というのが適切であると判断致しました。
以上