産官学連携でロードキルを防ぐ「NISSAN ANIMALERT PROJECT」 第30回『野生生物と社会』学会大会にて実証実験の経過を報告 初期実験にてアマミノクロウサギの忌避行動をテスト
日産自動車 株式会社 日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区)、岡山理科大学・日本大学・帯広畜産大学・T.M.WORKS・奄美市・環境省の7者によりロードキル防止を目指して設立した「NISSAN ANIMALERT PROJECT (日産アニマラートプロジェクト)」は、2025年12月21日(日)、早稲田大学 国際会議場にて開催された第30回『野生生物と社会』学会大会のテーマセッション「野生生物と交通に関する話題-希少種の事故と保全」において、これまでの実証実験の経過報告を行いました。
※ANIMALERTは、ANIMAL(アニマル)とALERT(アラート)から作られた造語です。
「NISSAN ANIMALERT PROJECT」は、歩行者にクルマの接近を知らせる電気自動車の車両接近通報装置の仕組みから着想し、動物に合わせた周波数を発する装置を導入することで、クルマと野生生物の接触事故(ロードキル)ゼロを目指す取り組みです。鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する日本固有種で、絶滅危惧IB類(近い将来に絶滅の危険性が高い種)に指定されているアマミノクロウサギの保護を目指し、実証実験を進めています。
【NISSAN ANIMALERT プロジェクトムービー(YouTube)】 ※2025年3月公開
https://youtu.be/FssabDYu2b4
今回、第30回『野生生物と社会』学会大会に登壇した岡山理科大学の辻維周 特担教授は、「NISSAN ANIMALERT PROJECT」が始まった背景をはじめ、実証実験に使用した高周波ロードキル忌避デバイス「RK12」(通称、鹿ソニック(R))や、実験車両として用いた軽EV「日産サクラ」について紹介、その後は、これまでに実施した実証実験の内容や得られた知見を共有し、今後の研究および取り組みの展望について発表しました。
日産自動車は、「NISSAN ANIMALERT PROJECT」を通じて、単なる事故防止にとどまらず、人と野生生物が共存できる社会の実現を目指しています。EV技術と外部パートナー、研究機関との共創により、地域課題・環境課題の解決に貢献していきます。
※『鹿ソニック(R)』はT.M.WORKSが開発・製造を行い、岡山理科大学が検証とフィードバックを行っている高周波音放射式動物忌避装置です
※『鹿ソニック(R)』はT.M.WORKSの登録商標です
■第30回『野生生物と社会』学会大会で行った実証実験の経過報告
▼大会情報
第30回『野生生物と社会』学会大会
共催:早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター
日程:2025 年12 月19 日(金)~12 月21 日(日)
会場:早稲田大学国際会議場
大会公式ウェブサイト:https://sites.google.com/view/awhs2025
▼発表演題
野生生物と交通に関する話題-希少種の事故と保全
▼発表者
辻維周(岡山理科大学)
西野佐希子(岡山理科大学)
末次優花(日本大学)
浅利裕伸(帯広畜産大学)
伊東英幸(日本大学)
▼実証実験の背景
2021年7月に世界自然遺産に登録された奄美大島では、クルマと動物の接触事故「ロードキル」が深刻な課題となっています。環境省の調査によると、アマミノクロウサギのロードキル件数は7年連続で増加し、2023年には過去最多の147件を記録しました。また、2024年9月に奄美大島でマングース根絶宣言がされ,アマミノクロウサギの個体数は回復状況にあり,今後もロードキルが増加する可能性が高く対策を急ぐ必要がありました。これまで奄美大島では、アマミノクロウサギのロードキル対策として、警戒標識やフェンスの設置、路面標示、ロードキル対策に向けた普及啓発活動などが行われていましたが、 より、効果的な対策が求められていました。
▼実証実験の内容
・2024年12月から2025年2月:
日産テクニカルセンターでの高周波音特性の分析、奄美現地での設置型実験などを経て2024年12月に実施した日産サクラによる走行実験では、森林地域内の市道(利用規制道路)にて、アマミノクロウサギの出現する夜間に時速10kmで走行し高周波音の有無での挙動データを収集しました。
・2025年8月:
2024年度の成果に基づき、2025年度の本実験に向けた準備を開始しました。使用機材の選定および本実験前の走行テストを実施し、使用機材を「暗視カメラ」と「ビデオカメラ」に決定しました。ただし、音響機器の修理や調査記録内容の修正が必要であったため、部分的にアマミノクロウサギの行動データを収集しました。
・2025年10月以降:
森林地域内の市道(利用規制道路)を時速10kmで走行し、アマミノクロウサギの探索を行いました。往路では、高周波忌避デバイスは使わず、復路では、個体発見時に高周波忌避デバイスを使用することで、アマミノクロウサギの反応を検証しました
▼中間報告
実証実験は、2025年10月に開始し、同年12月5日までに計9日間で73回の試行を重ねております。現在は、これらのデータのうち、発見時の行動が「停止」であったものを対象として、行動変化の集計・分析を進めています。
対象発見から30秒以内における行動変化を集計したところ、現段階ではサンプル数が限られているため、統計的な有意性を検討する解析には至っておりませんが、音供与がある条件(高周波音を流した場合)において、対象個体による「移動」が多くみられる傾向がありました。
今後については、サンプル数を増やすとともに、より詳細な効果検証を行っていきます。
※本実証実験は、野生動物およびロードキル対策の専門家の監修・立ち会いのもと、周辺環境への適切な配慮を行いながら実施しています。
▼実証実験の様子
日産サクラでの走行実験の様子
走行実験中に現れたアマミノクロウサギ
日産テクニカルセンターでの事前分析の様子
■これまでの研究結果についてコメント
<岡山理科大学 研究社会連携機構 特担教授 辻維周 氏>
・今年度の実験方法や結果に関して
初年度であったこともあると同時にクロウサギの生態も十分に解明されていないため手探り状態で実験を進めましたが、様々な機械的なトラブルに見舞われたことと、走行回数も限られたため十分な結果を残すことができなかったことは残念です。次年度も継続して実験を行い、少しでもクロウサギのロードキルを減らすことができればと思います。
・野生動物と人間の共生やロードキル問題に関する見解
野生動物と人間との共生やロードキルの問題は「棲み分け」ができない限り難しい問題ではあります。しかし「難しい」とか「食べ物の魅力には何物も敵わない」などと思考停止せずに、我々研究者は今出来る技術を使って、その「棲み分け」を造っていく義務があると思っています。
<帯広畜産大学 環境農学研究部門 准教授 浅利裕伸 氏 >
ロードキルは多くの陸生動物で発生しており、特に希少生物にとっては個体群への影響が懸念されています。アマミノクロウサギの生息地は奄美大島と徳之島に限られており、ロードキルによる個体および個体群への影響を軽減する必要がありますが、完全にロードキルを防ぐことは難しく、さまざまな視点で対策を講じる必要があります。今回のプロジェクトでは結果の蓄積がまだ不十分ではあるものの、新たな対策に向けたヒントが生まれることを期待しています。
<日本大学理工学部 交通システム工学科 教授 伊東英幸 氏 >
現在、野生生物のロードキルが世界各地で多発していますが、特にアマミノクロウサギのような小型躯体の場合、ロードキル対策は非常に難しく、警戒標識やフェンスなどの対策に加え、ドライバーへの普及啓発や自動車自体も含めた対策を総動員して取り組む必要があります。ANIMALERT PROJECTは、高周波発生デバイスを搭載した新たな取り組みであり、社会実装に向けて効果検証のためのデータ蓄積が必要になりますが、一つの有効な対策として大きな期待をしています。
<日本大学理工学部 交通システム工学科 助手 末次優花 氏 >
動物が交通事故により死亡する「ロードキル」は、日本だけではなく世界各地で問題となっており、近年は世界の多くの地域で研究が進んでいます。一方、日本では研究があまり進んでいないため、本プロジェクトを契機に、今後ロードキルに関する研究が発展していくことを期待しています。
<鹿児島県奄美市役所 世界自然遺産課 遺産政策係 主査 出口聡一郎 氏>
地元自治体といたしましても、国・県・地元団体と協力し様々なロードキルの対策を行っております。しかしながら、アマミノクロウサギのロードキル数は、生息数の回復もあり年々増えてきているのが現状です。電気自動車×高周波装置という最新の技術を活かしたこの取り組みがロードキルの新たな対策として活用できることを期待しております。
<環境省 奄美群島国立公園管理事務所 希少種保護増殖等専門員 鈴木真理子 氏>
昨年度からさらに実証実験の手法や検証方法が明確になり、試行数も増えて今後の結果が楽しみです。アマミノクロウサギは個体数の回復とともに農業被害など人との軋轢が増えてきており、交通事故も含めて「迷惑な存在」になっていないかと心配しているところです。ANIMALERT PROJECT のような技術・取組が軋轢の解消に選択肢を与えてくれることを願っています。
<日産自動車 ブランド&コミュニケーション戦略部 一条綾 氏>
日産自動車では2015年から、寒い季節にクルマに乗る前にボンネットなどを叩いてエンジンルームやタイヤの隙間などに潜む猫を外に追い出し保護する「のるまえに #猫バンバン」プロジェクトをはじめとして、自動車会社として、動物愛護のためにできることを、SNSを軸に発信してまいりました。NISSAN ANIMALERT PROJECTも、EVという日産の技術力を生かし、野生動物の交通事故ゼロに貢献できるのか?をテーマに始まりましたが、プロジェクトメンバーの皆さまのおかげで、EVの音に反応し、アマミノクロウサギが逃げ出す様子を見て、嬉しく思いました。この研究が、アマミノクロウサギに限らず、多くの動物のロードキル撲滅に広がることを期待しています。
■NISSAN ANIMALERT PROJECT 2025年活動報告
・奄美空港展示
これまでの実験の模様をまとめたパネルを奄美大島の玄関である空港に夏休み期間に合わせて展示。島内外の方にロードキルの実態と取り組みを周知しました。また、9月に西表島・徳之島にて行われた、奄美巡回展でも現地学芸員の方のご要望でNISSAN ANIMALERT PROJECTをご紹介いただきました。
奄美空港でのプロジェクト展示の様子
徳之島にて行われた、奄美巡回展の様子
■NISSAN ANIMALERT PROJECT概要
▼プロジェクトの目的:
「NISSAN ANIMALERT PROJECT」は、歩行者にクルマの接近を知らせる電気自動車の車両接近通報装置の仕組みから着想し、動物に合わせた周波数を発する装置を導入することで、クルマと野生生物の接触事故(ロードキル)ゼロを目指す取り組みです。今回は、鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する日本固有種で、絶滅危惧IB類(近い将来に絶滅の危険性が高い種)に指定されているアマミノクロウサギの保護を目指しています。
▼プロジェクト参加・協力団体と役割:
・日産自動車:プロジェクト企画、実験車両提供、高周波音特性の共同分析、公道走行時の保安基準に適合したデバイス設置位置検証、実験計画策定/実施サポート 等
・鹿児島県 奄美市役所:実証実験場所の提供/交渉/許認可調整、車両管理、実証実験実施サポート 等
・岡山理科大学、T.M.WORKS:テストデバイス提供、実験計画策定、実証実験マネジメント、データ解析 等
・日本大学、帯広畜産大学:実験計画策定、実証実験マネジメント、データ解析 等
・環境省 奄美群島国立公園管理事務所:アマミノクロウサギ及びそのロードキル実態に関する知見提供、実験計画への助言/実施サポート、森林地域内の道路を利用する上での手続き等のサポート 等
▼プロジェクトムービー:
【日産自動車公式YouTubeチャンネル】 https://youtu.be/FssabDYu2b4
■実験車両 日産サクラについて:
「日産サクラ」は、100%電気で走る軽の電気自動車です。軽自動車ならではの小回り性能に加え、「日産リーフ」の開発で培った技術をフル投入した電気自動車ならではの静粛性や力強くなめらかな加速を提供します。また、通勤や買い物など、日常のドライブに十分な航続距離、上質で洗練されたデザインと広々とした室内空間、そして「プロパイロット」などの先進技術が、生活に寄り添いながらも運転する楽しみをもたらし、クルマとの日々の生活にワクワク感をお届けします。
提供元:PRTIMES