「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」 回収CO2から燃料を合成する高性能触媒を新たに開発しました
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掲載日:2024年8月9日更新
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愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1IV期」を2022年度から実施しています。
この度、「プロジェクトSDGs※2」の研究テーマ「インフォマティクスによる革新的炭素循環システムの開発※3」において、中部大学の二宮(にのみや)善彦(よしひこ)教授、伊藤忠セラテック株式会社(瀬戸市)等の研究グループは、回収CO2から燃料として用いられるメタンを合成する触媒を新たに開発しました。
本触媒は、従来用いられるニッケルとパラジウムに新たに第3成分が添加されていることが特徴であり、低温においても高い効率でのメタン生成を実現したものです。本触媒により、メタン合成の省エネルギー化、装置の小型化、メタン生産量増大が可能となり、今後、カーボンニュートラル※4に取り組む幅広い産業において活用が期待されます。
1 開発の背景
CO2排出量の増加による温暖化は、近年の気候変動への影響等地球規模で影響を与えており、人類の活動によるCO2排出を削減することは大きな課題です。その手法は数多く考えられ、実現に向けて努力がなされています。CO2排出削減の中でも特に石油、石炭、天然ガスを使った燃焼による熱利用に関しては、電気炉への転換等が考えられますが、技術面、コスト面での課題が残されています。
一方、CO2と水素からメタンを合成する反応をメタネーション※5といい、その反応でできる合成メタンを利用し、CO2排出量を削減することが近年着目されています。本プロジェクトではメタネーション用の触媒として、これまで達成できなかった温度と効率を有する触媒を新たに開発しました。
2 新たに開発した触媒の概要
今回開発した触媒は従来品と比較して、
1 メタンの高効率の生成が可能
2 反応温度が低い
といった特徴を有しています。
触媒は、化学反応を促進するものであり、具体的には、ニッケルやパラジウムといった金属の表面でCO2と水素が吸着・接触することで反応が活性化します。少量の金属でも大きな表面積とするために、通常は触媒担体に微粒子の金属を埋め込んで利用します(図1)。
本触媒担体は、α-アルミナとγ-アルミナの2種類の担体からなる構造を取っており、それぞれの構造に応じてニッケル、パラジウムを配置し、さらに第3成分を加えることにより、上記の特徴を引き出すことに成功しました(表1)。
図1 開発した触媒構造概念
表1 開発品と従来品(社内品)との比較
メタネーション反応は発熱反応であるので、プラント設計における反応の制御は、安全のため重要です。装置が大型化すると除熱装置が必要となるため、コスト上昇にもつながります。本開発触媒では従来よりも低温で効率よく反応でき、プラント設計においても大きなメリットとなります。
3 期待される成果と今後の展開
開発した触媒は、低温でも高い効率でメタンが得られることから、メタネーションの事業化を検討している企業、あるいは工場でのメタネーションの活用を考えている企業が興味を示しており、すでに試験運用を開始しています。
また、水素をカーボンニュートラルで製造する方法として、太陽光発電の電力による水電解を利用する手段も重要となります。さらに、発生したCO2を濃縮する手段も必要となります。本プロジェクトでは、水電解水素発生装置として熱の利用が可能なSOEC※6素子の開発と、CO2を濃縮する手段としてPSA※7による吸着・脱着反応を利用するための吸着剤の開発も同時に行っており、窯業を中心とした県内中小企業向けに、メタネーションのみならず、熱の利用等も含めた総合的なシステムを提案していく予定です。
4 社会・県内産業・県民への貢献
社会への貢献
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新規メタネーション反応触媒の開発により、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの加速が期待されます。
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県内産業への貢献
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県主要産業の窯業では石油使用窯を用いて焼成を行っていますが、カーボンニュートラル実現に向け、焼成法の転換、電気炉の利用コスト低減等が課題となっています。開発した触媒の利用により、コスト低減の可能性が生まれ、またプロジェクト全体で実証するCO2循環システムへの展開で、中小企業でも安価に導入可能になることが期待されます。
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県民への貢献
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愛知発の新規メタネーション反応触媒として、窯業のみならず県内主要産業へのカーボンニュートラルでの貢献が期待されます。
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5 問合せ先
【重点研究プロジェクト全体に関すること】
・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
担当:村上、佐藤、日渡
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8306
・公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:松村、渡邊、田草川
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8360
【本開発内容に関すること】
(理論解析に関すること)
中部大学
担当:応用化学科 教授 二宮 善彦
所在地:春日井市松本町1200
電話:0568-51-9178
(触媒に関すること)
伊藤忠セラテック株式会社
担当:触媒開発課 課長 髙橋(たかはし) 陽(あきら)
所在地:瀬戸市塩草町12番地の8
電話:0561-21-3958
【用語説明】
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトIII期」を実施し、2022年8月から「重点研究プロジェクトIV期」を実施しています。
「重点研究プロジェクトIV期」の概要
実施期間
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2022年度から2024年度まで
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参画機関
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16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社) (2024年7月時点)
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プロジェクト名
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・プロジェクトCore Industry ・プロジェクトDX ・プロジェクトSDGs
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※2 プロジェクトSDGs
概要
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SDGs 達成に向けた脱炭素社会・安心安全社会の実現と社会的課題の解決に資する技術開発に取組みます。
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研究 テーマ
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【分野】カーボンニュートラル 1 地域の資源循環を支える次世代の小規模普及型メタン発酵システム 2 インフォマティクスによる革新的炭素循環システムの開発 【分野】感染症対策・ライフサイエンス 3 健康と食の安全・安心を守る多項目遺伝子自動検査装置の開発 4 多感覚ICTを用いたフレイル予防・回復支援システムの研究開発 5 管法則に基づく血管のしなやかさの測定システムの開発 6 安心長寿社会に資する認知情動を見守り支える住まいシステム開発 【分野】災害対策・自然利用・複合分野 7 地域CNに貢献する植物生体情報活用型セミクローズド温室の開発 8 全固体フッ化物電池の開発とその評価技術の標準化 9 血中循環腫瘍細胞からがんオルガノイド樹立が可能な1細胞分取装置の開発
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参画 機関
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9大学4研究開発機関等26企業(うち中小企業19社) (2024年7月時点)
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※3 インフォマティクスによる革新的炭素循環システムの開発
概要
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カーボンニュートラル実現に向け、中小規模に適したCO2循環システムを開発するため、メタネーション・水蒸気改質触媒の開発、固体酸化物電解セル素子の開発、CO2分離用吸着材を開発する。
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研究リーダー
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中部大学 教授 二宮 善彦 氏
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事業化リーダー
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伊藤忠セラテック株式会社 髙橋 陽 氏
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参加機関 (五十音順)
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〔企業〕 伊藤忠セラテック株式会社(瀬戸市)、北村マテリアルリサーチ(大府市)、 山本匣鉢製造(やまもとこうばちせいぞう)株式会社(瀬戸市)、 株式会社ナガエモールド(瀬戸市) 〔大学〕 中部大学 〔公的研究機関〕 あいち産業科学技術総合センター(産業技術センター)、 公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)
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※4 カーボンニュートラル
二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を削減し、残った排出を吸収することで、環境への影響をゼロに近づけること。
※5 メタネーション
CO2と水素でメタンを生成する技術。カーボンニュートラルの視点で合成メタンの作製法として実用化に向けて開発が進んでいます。
※6 SOEC(Solid Oxide Electrolyzer Cell)
セラミックスといった固体電解質を用いて水の電気分解を行う反応装置。通常の水電解装置(アルカリ型水電解、高分子形水電解)と比較して高温(800℃~900℃)で反応するため、反応の効率が良く、熱を再利用しやすいことが特徴です。
※7 PSA(Pressure Swing Adsorption)
吸着物質にガスを加圧して吸着させて、その後減圧することによってガスを回収する方法で、吸着物質へのガスの吸着のしやすさが異なることを利用して目的成分のガスの濃縮を行う方法です。
このページに関する問合せ先
あいち産業科学技術総合センター企画連携部
企画室(担当:村上、佐藤、日渡)
豊田市八草町秋合1267-1
電話:0561-76-8306
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