水素ガス、水素製造など水素利用関連の市場を調査

2024/11/05  株式会社 富士経済 

第24102号

水素ガス、水素製造など水素利用関連の市場を調査

― 2040年度世界市場予測(2023年度比) ―
●水素ガス 58兆1,006億円(30.5%増)
用途別では産業用が中心の市場構造続く。将来的に発電用や車両用の需要増大
●水素製造設備(改質型、固体高分子型電解/アルカリ型電解) 12兆758億円(12.3倍)
現状は改質型が主流。長期的には電解由来水素の普及拡大
■水素利用関連 95兆6,637億円(2.1倍)
燃料電池車や電解型水素製造設備などが堅調に伸長

総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、 カーボンニュートラル実現に向けて重要な役割を担う、水素利用関連のインフラやアプリケーション、機器、また、水素ガスの市場について調査した。その結果を「2024年版 水素利用市場の将来展望」にまとめた。

この調査では、水素ガス・インフラ市場9品目、水素アプリケーション7品目、水素ステーション及び関連機器10品目、車載用水素関連機器2品目の市場について、現状を捉え、今後の動向を予想した。

◆注目市場

●水素ガスの世界市場

燃料電池車燃料や発電設備燃料、また、産業原料・工業ガスとして利用される水素ガスを対象とする。用途は産業用、車両用、発電用に大別される。

現状は大部分が産業用であり、石油精製やアンモニア製造、メタノール製造、製鉄での利用が中心である。国内では石油精製での利用が80%以上を占めている。海外でも石油精製用途が40%以上を占めており、特に北米や中国、中東地域で需要が大きい。長期的には化石燃料の利用が減ることにより、先進国を中心に石油精製の需要は減少するが、水素還元による製鉄用途などでの利用が増加し、産業用は微増で推移するとみられる。

現状、利用はまだ少ないが、将来的には発電用の伸びが期待される。カーボンニュートラルの進展に向けて、燃焼時にCO2を排出しない水素系燃料を用いた発電への代替が進むとみられる。火力発電では、水素ガスタービン発電やアンモニア発電技術の開発が進められており、双方とも化石燃料との混焼(水素+天然ガス、アンモニア+石炭)発電技術は商用化可能なレベルにまで達しており、将来的なカーボンニュートラル燃料の専焼発電や大規模発電システム構築を見据えた動きが活発化している。2030年度以降に水素利用の大規模発電が世界的に広がり、2040年度には発電用の構成比が20%を超えるとみられる。

車両用は、燃料電池システムを主要動力源とする車両で利用される。燃料電池乗用車(FCV)の導入が先行していたが、車両価格や水素ステーションの整備、水素価格の上昇により伸び悩んでいる。そのため、乗用車に比べ1台あたりの水素消費量が大きいトラックやバスなどの普及による需要増が期待されている。特に長距離を走行する大型トラックは、EVと比べて航続可能距離の面などで燃料電池の適合性が高いため各国で開発が進められており、2030年度頃の本格導入が予想される。

●水素製造設備(改質型、固体高分子型電解/アルカリ型電解)の世界市場

改質型は、天然ガスなどを改質して製造する方法である。市場は水素製造設備に関連する費用を対象とする。
水素製造の主な手法として普及しているが、製造時にCO2が発生する。CO2の回収や貯蔵によりクリーンな水素を製造するため、CO2の回収・貯蔵技術の進展が求められている。近年は、米国や欧州などでバイオガスを原料とした水素製造が実施・計画されており、水蒸気メタン改質(SMR)の手法を活用することにより、低コストで排出量ゼロ/マイナスが可能になるため、クリーンな水素の製造技術として注目される。また、SMRのほかに自己熱改質法(ATR)があり、日本や米国、欧州でプロジェクトが進行している。ATRはSMRと比べて大規模な水素製造に適しており、今後の普及が期待される。2030年度頃からは環境対策として水素製造時のCO2排出量規制が進み、CO2回収率の向上が重要視されるようになるため、SMRと比べてATRの導入が増加することが予想される。

再エネルギー電力を用いた電解式の水素製造として固体高分子型とアルカリ型を対象とする。市場は水素製造設備に関連する費用を対象とする。
固体高分子型は、固体高分子膜を活用し純水を電気分解させることにより、高純度の水素ガスを発生させる手法である。設備の導入コストが高いため、今までは小規模プロジェクトによる実証試験が中心であったが、2023年度頃から数百MW級の大型プロジェクトが進められている。アルカリ型と比較して設備導入時のコストは高いが、メンテナンスコストや水素製造効率、耐久性、省スペース性などに優れ、10年以上にわたる安定した水素製造が可能なため、トータルコストでは優位性があるとみられる。それらの利点を活かして、長期的に市場は大幅な拡大が予想される。

アルカリ型は、電解液に濃度25%から35%の水酸化カリウム水溶液を使用し、食塩電解プロセスを応用した技術である。特に中国と欧州で導入が進んでいる。中国では数十MWから数百MWのプロジェクトが多数進行しており、欧州は高い技術力を持つアルカリ電解型水素製造装置メーカーが多く、MW級の導入が増えている。2020年代中頃から製鉄や石油精製、クリーンアンモニア製造などの産業用を中心に数百MWから数GWのプロジェクトが立ち上がるとみられる。2030年度以降、低炭素水素の利活用が本格化し、数GW規模の電解装置の導入が世界中で実施されることによりコスト低減も進むため、市場は順調な拡大が予想される。

●水素ステーション(商用水素ST/小型水素ST)の国内市場

FCVや燃料電池バス(FCバス)、燃料電池トラック(FCトラック)向けを中心とした公共の商用水素STと、事業所などに設置される公用車や社用車、FCフォークリフト(FCFL)、その他産業車両向けの小型水素STを対象とする。

商用水素STは、FCVやFCバス、FCトラック向けの共用STを対象とする。FCVの普及が「水素基本戦略」(2017年)で規定された目標を下回っていることなどから、2024年度の新規申請件数は減少するとみられる。水素STの運営状況改善を目的として水素販売価格の値上げが相次いでいるが、それによる収益改善効果は限定的との見方もあり、ST数の増加のために供給事業者の負担軽減や、ユーザーのコスト低減につながる支援の拡充、STの整備・運営コストの低減などが求められる。2023年6月に「水素基本戦略」が改正され、FCトラックやFCバス、また、FCタクシーなどの支援を拡充する方針が示され、水素充填速度の高速化に向けた検討も進められている。2030年度までの1,000基程度のST整備が、確実に達成する目標として設定されており、それに伴い今後の市場拡大が予想される。水素ステーションの仕様変更(70MPa→35MPa)検討や、安全確保を前提としながら水素STの整備費や運営費の低減など、政府主導による様々な支援を受けて長期的には市場拡大が期待される。

小型水素STは、FCFLの水素供給で使用されるケースが多い。環境省の補助事業を通じて事業所や工場などで設置が進められてきたが、2020年度から補助対象外となったため、現状は自治体による試験導入が中心である。2020年代後半には、大手製造業者や物流業者などによる、空港や港湾区画でのFCFLの商用利用拡大が想定され、それに伴いSTの設置も進むとみられる。大規模な施設には定置式を中心に導入されるが、一部では移動式の簡易型供給設備の導入も予想される。2030年度以降は、バッテリー式に対する導入メリットを発揮しやすい大規模施設や長時間稼働の事業所や工場などでFCFLの本格導入進み、それに伴う市場拡大が期待される。

◆調査結果の概要

■水素利用関連(水素ガス、アプリケーション、水素製造設備、水素ST)の世界市場

水素利用の大部分を占める、水素ガスの産業用利用が堅調である。また、車両用や発電用も今後の伸びが期待される。特に2030年度頃から燃料電池車向けが大きく増えるとみられる。
水素利用関連のアプリケーション(燃料電池車、発電)、水素製造設備、水素STも堅調な伸びが予想される。燃料電池車はFCVやFCトラックを軸に、発電は水素ガスタービン発電が先行して伸びるとみられる。現状、アンモニア発電は実証試験レベルに留まるが、2030年度頃から世界的な需要増加が予想される。水素製造設備は、改質型が先行してきたが、2025年度以降は電解式(固体高分子型/アルカリ型)が大きく伸びるとみられる。


◆調査対象

水素ガス・インフラ
・水素ガス
・アンモニア
・MCH(メチルシクロヘキサン)
・水素受入設備・拠点
・水素海上輸送(大規模輸送)
・水素陸上輸送(液化ローリー、高圧ガス、水素パイプライン)
・改質型水素製造
・固体高分子型電解水素製造
・アルカリ型電解水素製造

水素アプリケーション
・産業用水素
・産業用水素バーナー
・水素還元製鉄
・燃料電池車
・燃料電池トラック・バス
・水素ガスタービン発電
・アンモニア発電

水素ステーション及び関連機器
・商用水素ステーション
・小型水素ステーション
・緊急用水素ステーション
・水素コンプレッサー
・水素ディスペンサー
・蓄圧器
・オンサイト水素発生装置
・液化水素設備
・水素バルブ
・水素センサー

車載用水素関連機器
・車載用高圧容器
・車載用水素センサー

2024/11/5

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