愛知県独自の新たな清酒酵母を開発しました~香り華やかな清酒やすっきりとした味わいの清酒を紹介します~
印刷用ページを表示する掲載日:2022年3月11日更新
あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター(名古屋市西区、以下「センター」という。)では、この度新たに愛知県独自の清酒酵母2株を開発しました。この2株の酵母は、リンゴのような華やかな香り(カプロン酸エチル※1)を多く生成する酵母と、すっきりとした味わいの基となる爽やかな酸味(リンゴ酸※2)を多く生成する酵母です。これで、センターが保有・分譲する酵母は8株となりました。
特長の異なる8株の清酒酵母が揃ったことにより、消費者の多様なニーズに応じた清酒の製造が可能になりました。既にいくつかの愛知県酵母※3を使った清酒が製品化されていますが、今後もセンターでは、愛知県酵母の普及に向け、県内清酒メーカーに技術支援を行っていきます。
また、本開発について2022年3月19日(土曜日)にアンフォーレ(安城市中心市街地拠点施設)で開催される「第1回マルシェと地酒の集い&醗酵物語」において、ブース出展により来場者のみなさんに紹介します。
1 背景・経緯
清酒酵母は、発酵過程でアルコール以外に香気成分や有機酸等、香りや味に関わる様々な成分を作り出します。このため、清酒の香りや味は、使われている酵母により大きく変わります。センターでは、30年程前に愛知県独自の清酒酵母としてFIA1(エフアイエーイチ)(純米酒※4用)とFIA2(エフアイエーニ)(吟醸酒※5用)の2株を開発し、これらの酵母は県内の清酒メーカーで長く使用されてきました。
しかし、近年、消費者の清酒に対する嗜好が多様化し、既存の酵母だけでは様々な市場ニーズに対応することが難しくなってきました。「食事との組合せに適した味わい」、「香り華やかで爽やかな味わい」、「フルーティーな風味」、「穏やかな吟醸香とすっきりした味わい」など、多種多様な特長を生み出す酵母の開発が業界から求められるようになりました。
そこで、センターでは、既存酵母と差別化できる新たな酵母を得るため、数年前から、FIA1とFIA2を親株として育種改良し、新しい特長を持つ愛知県酵母の開発を行ってきました。
2 愛知県酵母の育種・改良について
清酒酵母の育種改良には主に変異原※6による突然変異法※7が用いられます。今回の育種では、新たな変異原として期待されるシンクロトロン光※8や従来から多用されるEMS※9により、FIA1とFIA2に突然変異を誘発させました。
変異誘発により得られた多数の候補株について小仕込試験※10等の選抜や試験醸造※11を行った結果、新たに、カプロン酸エチルを高生産する酵母FIA1Arg(アルグ)-CER(シーイーアール)とリンゴ酸を高生産する酵母FIA2-11(ジュウイチ)を開発することができました(図1)。
図1 新開発酵母FIA2-11の電子顕微鏡像
3 愛知県酵母のラインナップ
FIA1Arg-CERとFIA2-11の2株が新たに加わり、特長の異なる計8株の愛知県酵母がラインナップされました。
酵母の分類 | 酵母名 | 酵母の特長 |
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従来酵母 | FIA1 | 純米酒用酵母として1990年に開発 発酵力旺盛で、アルコール生成能が高い |
FIA2 | 吟醸酒用酵母として1991年に開発 ほのかな吟醸香 |
海外輸出向け清酒用の酵母※13 | FIA1Arg | FIA1の尿素※12非生産酵母 |
FIA2Arg | FIA2の尿素非生産酵母 |
香り華やかな清酒用の酵母 | FIA3(エフアイエーサン) | リンゴ様香高生産酵母 FIA1の2~3倍のカプロン酸エチルを生成 |
FIA1Arg-CER (今回開発した酵母) | リンゴ様香高生産かつ尿素非生産酵母 FIA1の3~4倍のカプロン酸エチルを生成 |
FIA2Arg-TFL(ティーエフエル) | バナナ様香高生産かつ尿素非生産酵母 FIA2の2~3倍の酢酸イソアミル※14を生成 |
すっきりとした味わいの清酒用の酵母 | FIA2-11 (今回開発した酵母) | リンゴ酸高生産性酵母 FIA2の3~4倍のリンゴ酸を生成 |
愛知県酵母の特長
4 「第1回マルシェと地酒の集い&醗酵物語」での出展内容について
(1)日時 2022年3月19日(土曜日) 午前10時から午後6時まで
(2)場所 安城市中心市街地拠点施設(アンフォーレ)
安城市御幸本町504番地1 電話:0566-76-1400
(3)内容 今回開発した酵母を使用した清酒を始めとして、以下の清酒をセンターのブースで展示します。
※当日は、産業振興課による愛知の酒試飲販売ブース出展もございます。
使用した酵母 | 清酒名(製造元) |
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FIA1 | 純米酒 不老門(ふろうもん)(合名会社伊勢屋(いせや)商店(豊橋市)) 菊石(きくいし) 山田錦純米酒(浦野(うらの)合資会社(豊田市)) 東龍(あずまりゅう) 本醸造 生酒(東春(とうしゅん)酒造株式会社(名古屋市守山区)) |
FIA2 | 特選國盛 半田郷(はんだごう) 純米吟醸(中埜(なかの)酒造株式会社(半田市)) |
FIA1Arg | 金虎(きんとら) 純米(金虎酒造株式会社(名古屋市北区)) 特別純米 衣(ころも)が浦(うら)若水(わかみず)(原田(はらだ)酒造合資会社(東浦町)) 超特選國盛 半田郷 味わいの純米大吟醸(中埜酒造株式会社) 東龍 特別純米酒 龍田屋(たつたや)(東春酒造株式会社) |
FIA2Arg | タカノユメ 純米 ALL NAGOYA(山盛(やまもり)酒造株式会社(名古屋市緑区)) 純米吟醸(原田酒造合資会社) |
FIA3 | タカノユメ 純米吟醸 ALL NAGOYA(山盛酒造株式会社) 本醸造 金虎(金虎酒造株式会社) 純米大吟醸 千瓢(せんぴょう) 奏(かなで)(水谷(みずたに)酒造株式会社(愛西市)) 菊石 純米酒 夢ゆたか 夢ゆたか(浦野合資会社) 特別純米 ナゴヤクラウド(神(かみ)の井(い)酒造株式会社(名古屋市緑区)) |
FIA1Arg-CER (今回開発した酵母) | 香りの純米大吟醸 超特選國盛 半田郷(中埜酒造株式会社) |
5 問合せ先
(1)酵母及び「第1回マルシェと地酒の集い&醗酵物語」での展示について
あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター
発酵バイオ技術室(担当:三井、伊藤、伊東、近藤)
電話:052-325-8092
メール:shokuhin-kikaku@aichi-inst.jp
(2)「第1回マルシェと地酒の集い&醗酵物語」について
株式会社イーティーワイ
担当:佐々木
安城市大山町1丁目6番地10
電話:0566-91-7910
6 新型コロナウイルス感染防止対策
・発熱等(37.5℃以上)の症状がある方、又は体調が優れない方は、来場をお控えください。なお、当日会場にて明らかに体調不良等と認められる場合には、来場をお断りする場合があります。
・会場は、参加者同士の距離を十分に確保し、定期的に換気をします。
・手洗いやマスク着用に御協力をお願いします。また、会場入口に手指の消毒液を設置しますので、手指の消毒をお願いします。
・新型コロナウイルス感染症の拡大状況によっては、開催内容を変更する場合があります。その時は、改めてお知らせします。
【参考】愛知県酵母の使用実績(2018年~2021年)
清酒メーカーによる愛知県酵母の使用実績及び愛知県酵母を用いた製品の一例は以下のとおりです。
酵母名 | 製品化した清酒メーカー |
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FIA1 | 合名会社伊勢屋商店、浦野合資会社、金虎酒造株式会社、関谷(せきや)醸造株式会社(設楽町)、東春酒造株式会社 |
FIA2 | 中埜酒造株式会社、関谷醸造株式会社、原田酒造合資会社、山盛酒造株式会社 |
FIA1Arg | 神の井酒造株式会社、金虎酒造株式会社、関谷醸造株式会社、東春酒造株式会社、中埜酒造株式会社、山盛酒造株式会社 |
FIA2Arg | 関谷醸造株式会社、中埜酒造株式会社、原田酒造合資会社、山盛酒造株式会社 |
FIA3 | 浦野合資会社、金虎酒造株式会社、関谷醸造株式会社、水谷酒造株式会社、山盛酒造株式会社 |
FIA2Arg-TFL | 神の井酒造株式会社、関谷醸造株式会社 |
愛知県酵母を用いた製品
【参考】「第1回マルシェと地酒の集い&醗酵物語」について
会期:2022年3月19日(土曜日) 午前10時から午後6時まで(雨天決行)
場所:安城市中心市街地拠点施設(アンフォーレ)
安城市御幸本町504番地1 電話:0566-76-1400
概要:「マルシェと地酒」をテーマにした、地域文化の発展を目的とするイベントです。パンや地酒の販売の他、飲食店や雑貨店などが参加するマルシェも開催され、またホールではフラダンス演舞や様々な講演が行われます。
共催:株式会社イーティーワイ
office JAPANICATION(イベント企画部 FEEL FREE)
【用語説明】
※1 カプロン酸エチル
吟醸香といわれる清酒の香気成分の一つ。リンゴのような香りであり、清酒もろみ発酵時に酵母によって生成する。
※2 リンゴ酸
清酒に含まれる主な有機酸の一つ。リンゴ酸含有量を高くするとさわやかな酸味の清酒となる。清酒もろみ発酵時に酵母によって生成する。
※3 愛知県酵母
センターが育種、開発した清酒製造用の酵母。
清酒製造には、様々な酵母(公益財団法人日本醸造協会のきょうかい酵母等)が利用されている。これらの酵母の中でも愛知県酵母は、愛知県独自のオリジナルな清酒酵母であり、主に県内清酒メーカーで利用されている。
※4 純米酒
米と米麹のみを原料とした清酒、精米歩合に制限はない。
※5 吟醸酒
玄米を60%以下の重量になるまで精米した白米を使用して造られたお酒。
※6 変異原
生物の遺伝子に変化を引き起こす作用を有する物質、又は紫外線やX線などの物理的作用。
※7 突然変異法
人工的に突然変異を誘発する手法。突然変異とは遺伝子が変化することでその性質に変化が生じる現象であるが、自然に突然変異が生じる確率が低頻度であることから、微生物の育種改良の際には人工的に突然変異を誘発する突然変異法が利用される。
変異原には、紫外線やX線、ガンマ線等の物理的変異原と薬剤を用いた化学的変異原がある。
※8 シンクロトロン光
光速に近い速度で直進する電子が電磁石によって進行方向を変えられた際に発生する光。赤外線からX線までの広い波長領域の光が含まれる。指向性や偏光性等の点で従来の光源にない特長を有している。
※9 EMS
メタンスルホン酸エチル(Ethyl Methane Sulfonate)の略。突然変異法において、変異原として用いられる薬剤。
※10 小仕込試験
総米数g~1kg程度の小規模な醸造を行う試験。酵母や酒米の育種選抜等の試験研究において、得られる清酒の成分値を確認する目的で、工業的規模の醸造を行う前段階で実施する。
※11 試験醸造
センターは、酒税法第7条第3項の規定に基づき、国税庁より清酒の試験製造免許が付与されている。試験製造免許は、真に試験研究を目的とする場合に限り付与される。
センターでは1957年より清酒試作試験を実施している。その試験成果は、県内酒造メーカーへの技術支援、人材育成、酒米、酵母、麹菌等開発研究に大きく貢献している。
※12 尿素
酒類を含む発酵食品には、カルバミン酸エチルという物質が天然に存在している。今後、この物質は清酒の輸出に際して含有量が規制される可能性がある。
尿素は、そのカルバミン酸エチルの前段階の物質。
※13 海外輸出向け清酒用の酵母
尿素を生成しない酵母。含有量規制の可能性から、尿素を生成しない酵母の利用が望まれている。
※14 酢酸イソアミル
吟醸香といわれる清酒の香気成分の一つ。バナナのような香りであり、清酒もろみ発酵時に酵母によって生成する。