令 和 4 年 5 月 9 日
資
料
提
供
石川県情報公開審査会からの答申について
石川県情報公開条例(平成12年石川県条例第46号。以下「条例」という。)に基づき
公開請求のあった公文書の一部公開決定に対する審査請求に係る諮問について、本日、石川県情報公開審査会会長(小堀秀行弁護士)から、石川県教育委員会に下記の答申がなされました。
答申の内容は、令和4年4月26日に開催した石川県情報公開審査会(条例第26条の規定により非公開)において決定されたもので、答申書の写し及び答申の概要は別紙のとおりです。
記
答申第219号(諮問案件第281号) 石川県内の公立小・中・高・養護・盲学校に関する体罰事故報告書(加害教師の反省 文、顛末書、診断書、事情聴取記録、その他一切の添付文書等を含む)
(平成27年度分)
に係る公文書一部公開決定に対する審査請求についての諮問
総務課
行政情報サービスセンター
担当者:山崎
電 話:内線 3381
直通 225-1236
答申第219号
答 申 書
令和4年5月
石川県情報公開審査会
第1 審査会の結論
石川県教育委員会(以下「実施機関」という。)が、本件審査請求の対象となった公文書
につき、一部公開とした決定は妥当である。
第2 審査請求に至る経緯
1 公開請求の内容
審査請求人は、石川県情報公開条例(平成12年石川県条例第46号。以下「条例」という。)第6条第1項の規定に基づき、実施機関に対し、令和3年2月28日に次に係る公文
書の公開請求(以下「本件公開請求」という。)を行った。
(本件公開請求の内容)
石川県内の公立小・中・高・養護・盲学校に関する体罰事故報告書(加害教師の反省文、顛末書、診断書、事情聴取記録、その他一切の添付文書等を含む)(平成27年度分)
なお、大阪高等裁判所平成18年12月22日判決・・
(中略)・・など関連司法判断に
従い、学校名、学校長名、教職員名など公務遂行情報は原則公開とすること。
2 実施機関の決定
実施機関は、本件公開請求に係る対象公文書(以下「本件対象文書」という。)を特定し、
令和3年4月28日に条例第8条第1項の規定に基づく部分公開を決定(以下「本件処分」という。)し、次のとおり一部公開しない理由を付して審査請求人に通知した。
(公開しない理由)
条例第7条第2号(以下「本号」という。)に該当
3 審査請求
審査請求人は、令和3年5月28日に本件処分を不服として、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条の規定に基づき、実施機関に対して審査請求を行った。
4 諮 問
実施機関は、令和3年7月9日に条例第19条第1項の規定に基づき、石川県情報公開審
査会(以下「当審査会」という。)に対して、本件処分の取消しに係る審査請求につき、諮
問を行った。
第3 審査請求人の主張(反論)要旨
1 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、本件処分を取り消し、変更するとの決定を求めるというものである。
2 審査請求の理由要旨
審査請求人が審査請求書及び反論書において主張している要旨は、概ね次のとおりである。
なお、審査請求人がその主張において引用する「関連判決」は、平成18年12月22日
大阪高等裁判所判決(平成18年行コ第26号事件、同第68号事件(確定))、平成23年
2月2日大阪高等裁判所判決(平成22年行コ第153号事件(確定))、平成29年3月2
日神戸地方裁判所判決(平成28年(行ウ)第26号(確定))
、令和3年2月5日高知地方
裁判所判決(令和2年(行ウ)第1号)とし、令和3年2月5日高知地方裁判所判決を「令和3年地裁判決」とする。
(1)加害教員その他教職員について
当該個人が公務員の場合、職務遂行情報が「個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができると認められるもの(以下「個人識別情報」という。)」又は「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの(以下「利益侵害情報」という。)」であっても、「当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」及び「当該公務員の氏名に係る部分であって公にしても当該公務員の個人の権利利益を害するおそれがないと認められるもの」は、本件におい
ては公開されなければならない。
このため、加害教員(以下「当該教員」という。)及びその他教職員においては、本件
対象文書に記録された情報が職務遂行情報であるかどうか、公にしても当該公務員の個人
の権利利益を害するおそれがないと認められるかどうかのみが争点になる。
ア プライバシー情報該当性
被害児童生徒及びその保護者(以下「被害児童生徒等」という。)にとって、被害児
童生徒が当該教員から体罰を受けたという情報(当該教員の立場から見れば、当該教員が被害児童生徒に対し、体罰を行ったという情報)並びに体罰の前後になされた当該教
員及びその他教職員(以下「当該教員等」という。)と被害児童生徒等とのやりとりに関
する情報は、通常、知られたくないと認められる情報であると言えるから、被害児童生
徒等を識別することができる限り、かかる情報は本号の保護するプライバシー情報に該
当する。
しかし、当該教員が被害児童生徒に対し体罰を行ったという情報は、教育現場におけ
る教育指導等の過程で発生するものであって、当該教員等との関係で見ると、まさに公
務員である教職員の職務遂行情報であると言わざるを得ず、したがって、このような情
報は本号の保護するプライバシー情報に該当しない。
イ 職務遂行情報該当性
本件対象文書に記録された情報は、当該教員にとっては、公務員たる教職員の職務遂
行情報であり、そこに公務員個人の私事に関する情報は含まれていない。
また、公務員の職務遂行情報の公開においては、当該公務員個人のプライバシーは、
情報公開自体の趣旨、目的を実現するために、一定程度の制限を受けることはやむを得
ないのである。懲戒処分を受けたとか、そのために調査報告されたということは、公務
員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる公務員の私事に関する情報に該当す
るということはできない。
すなわち、本件対象文書に記録された情報は職務遂行情報に該当するため、当該教員、
学校長その他教員といった「当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」は公
開されなければならない。また「当該公務員の氏名に係る部分」については、「公にしても当該公務員の個人の権利利益を害するおそれがないと認められるもの」については
本件条例においては公開されなければならない。
ウ 当該教員の氏名を公にしても当該公務員の個人の権利利益を害するおそれがないこと
本件対象文書に記録された情報は、通常他人に知られたくないものと認められるもの
とは認められないこと、そこに公務員個人の私事に関する情報は含まれていないとされ
ていることを前提に考えられなければならない。このようにプライバシーではないとさ
れているものにおいて、それを公開して一体どのような「当該公務員の個人の権利利益を害するおそれ」があるといえるのか。そのようなおそれは抽象的なものであってはな
らず、具体的現実的なものでなければならないはずである。
令和3年地裁判決では、「被告は、本件条例6条1項2号ただし書が当該公務員等のプライバシーが問題となる場合を想定した規定であり、被害児童生徒等のプライバシー保護の必要性がある場合にはそもそも適用されない旨主張するが、本件条例の規定自体が、被告が主張するような場合を除外する内容とはなっていないから、この点に関する被告の主張は採用できない」としており、被害児童生徒等のプライバシー保護よりも非
公開の例外規定の公益性を優先させている。
(2)被害児童生徒等について
被害児童生徒等にとって、体罰を受けたという情報は、本号の保護するプライバシー情
報に該当する。
ただし、プライバシー情報に該当するとしても、本件対象文書においては、その全部又
は大部分は、本号本文前段の「特定の個人を識別することができる」場合に限られ、「特定の個人を識別することはできない」場合にもなおプライバシー該当とする同号本文後段
には当たらない。本件対象文書には「個人の人格と密接に関連」するような記載は多くな
いと思われるためである。
では、どのような場合が「特定の個人を識別することができる」に当たるかであるが、
関連判決では、
「特定人基準」が許されるのは、「個人の人格的利益が著しく侵害され、当該個人の社会的評価が著しく低下し、その回復が極めて困難な事態が生じる相当程度の蓋然性が認められる場合」、すなわち当該被害児童生徒が「特異な行動をとったと認められるようなもの」やその「名誉を大きく侵害するようなもの」に限られ、そうでない場合は
「一般人」を基準とせねばならない(「一般人基準」)と判断している。
令和3年地裁判決も同様の立場を採るが、すでに触れたとおり、条文構造上「当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」や「当該公務員の氏名に係る部分」であると
されるなら、その部分を「児童生徒の識別可能性」等を理由に非開示とすることは、条文
構造上認められないとしている点が新しく重要である。実際、児童生徒等の個人識別性の
判断においては、これらの情報は除外されている。
第4 実施機関の主張(弁明)要旨
本件公開請求に対応する「体罰事故報告書」は、教員が職務遂行中に体罰を行ったと疑わ
れる事故が発生した場合に、当該学校の学校長や市町教育委員会から実施機関へ提出さ
れるものであり、当該教員や被害児童生徒の氏名等のほか、事故に至る経緯や症状の程度、
事故後の関係者への対応の内容等が記載されている。
当該公開請求にかかる「体罰事故報告書」の公開決定等の判断にあたっては、条例第7条
第2号に基づき、体罰を行ったと疑われる事故が発生した学校(以下「当該学校」という。)
の名称、当該学校長の氏名及び印、当該教員の氏名、年齢及び勤務校、当該学校に勤務する
教頭及び教諭の氏名、被害児童生徒の氏名、性別、所属クラス及び学校での様子等について
の記述、当該学校に通う生徒の氏名、所属クラスに該当する部分を非公開とした。
その結果、非公開とした部分のうち、
①当該教員の氏名、
②当該学校名、
③当該学校長の
氏名、
④当該学校長印の4点について、本件審査請求において、審査請求人より、違法
であるとの指摘を受けたが、これらについて非公開とした理由は、概ね次のとおりである。
(1)当該教員の氏名について
「石川県情報公開条例の解釈運用基準」
(以下「解釈運用基準」という。)では、公務員
の職務遂行情報に含まれる公務員の氏名に関しては、公にした場合、公務員の私生活等に
影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値す
ると位置づけた上で、本号ただし書イ「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当する場合には、公開するものとしている。
こうした解釈運用基準を「当該教員の氏名」について検討すると、
・ 実施機関が定める「教職員懲戒処分の公表基準」の標準例において、体罰行為を行っ
た教員に対しては、被害児童生徒の負傷の程度に応じ、免職、停職、減給、戒告の何れ
かの懲戒処分を行うと定めており、当該教員の氏名を公にした場合、当該教員が懲戒処
分を受ける蓋然性のある立場に置かれていることが明らかとなり、個人としての評価を
必要以上に低下させ、権利利益を害するおそれがあること
・ 実施機関が定める「教職員懲戒処分の公表基準」では、懲戒免職の処分に限り氏名を
公表すると定めており、免職以外の懲戒処分である場合には、被処分者の氏名は、慣行
として公にすることが予定されている情報とは言えないこと
・ 当該教員の氏名を公にすべきと明文で規定し、又は公にすべきとの趣旨を含む法令又
は他の条例の存在は認められないことから、本件公開請求に係る6件の体罰事故におい
て、懲戒免職処分を受けた者はいないため、「当該教員の氏名」は、本号ただし書イに
該当しないため、本号に基づき非公開とした。
(2)当該学校名、当該学校長の氏名、当該学校長印について
「当該学校名、当該学校長の氏名、当該学校長印」の情報は、被害児童生徒が所属する
学校が判明する情報である。
本件処分においては、既に被害児童生徒の学年や事故発生日時及び当時の授業内容、事
故後の被害児童生徒の様子等を公開しており、これに加えて被害児童生徒が所属する学校
が明らかになれば、一般人であっても、公開した情報を基に詮索すれば、被害児童生徒等
が識別されるおそれがあるうえ、被害児童生徒の同級生やその保護者、教員等の学校関係
者、地域住民に至っては、被害児童生徒等を識別することは、さほど難しいことではない
と思料される。
以上から、「当該学校名、当該学校長の氏名、当該学校長印」の情報については、本号
により非公開情報とされている「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当すると判断し、本号に基づき非公開とした。
第5 当審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方
条例第1条では、「地方自治の本旨にのっとり、県政に関する県民の知る権利を尊重し、公文書の公開を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の公開及び情報提供施策の総合的な推進を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、県民参加による公正で開かれた県政をより一層推進することを目的とする。」と定めている。また、条例第3条では、
「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、公文書の公開を請求する県民の権利を十分に尊重するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることがないように最大限の配慮をしなければならない。」と定めている。
当審査会は、この基本的な考え方に基づき、以下判断するものである。
2 本件対象文書
本件対象文書は、平成27年度に県内の公立学校において確認された6件の体罰事故報告
書である。
3 当該教員の氏名について
(1)本県条例における「公務員の氏名」の位置づけについて
本号本文前段では、「個人に関する情報(略)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」と規定し、
個人識別情報を非公開情報としている。
また、個人情報の例外的公開事由として規定する本号ただし書ハでは、「当該個人が公務員等(略)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、
当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」と規定しており、
特に「公務員の氏名」を例外的公開事由として規定していない。
他の一部自治体の条例では、本号ただし書ハに相当する規定を「当該個人が(中略)当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分」と規定し、公務員の「氏名」を例外的公開事由として規定しているが、本県では、「氏名」が当該公務員等の私生
活における個人識別のための基本情報たる性格を有しており、公開した場合に公務員等の
私生活に影響を及ぼす可能性が低くないことから、私人の場合と同様に個人情報として保
護に値すると位置づけ、例外的公開事由として規定しなかったものである。
また、審査請求人は、「当該公務員の氏名に係る部分」については、「公にしても当該公務員の個人の権利利益を害するおそれがないと認められるもの」については公開されな
ければならないと主張するが、本県条例では、審査請求人が挙げた他の自治体の条例のよ
うに、本号ただし書ハに相当する規定について「並びに当該公務員の氏名に係る部分であって公にしても当該公務員の個人の権利利益を害するおそれがないと認められるもの」と
いう部分を加えて規定していないため、本県においても公開されなければならないとする
理由はない。
公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名については、解釈運用基準
によれば、本号ただし書イに該当する場合には、公開するものであるとしている。
(2)本号ただし書イの解釈
本号ただし書イでは、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」と規定しており、これに該当する場合は、氏名であっても公開
することになる。
解釈運用基準では、「公にされている情報」とは、現在、何人も知り得る状態に置かれ
ている情報とし、職員録に掲載されている県職員の氏名等を挙げている。また、「公にすることが予定されている情報」とは、公にされることが時間的に予定されているもののみ
ならず、当該情報の性質上通例公にされるものも含まれるとしている。
(3)本号ただし書イ該当性について
実施機関は、弁明書において、実施機関が定める「教職員懲戒処分の公表基準」では懲
戒免職の処分に限り氏名を公表すると定めており、免職以外の懲戒処分の場合には、被処
分者の氏名は、慣行として公にすることが予定されている情報とは言えないし、当該教員
の氏名を公にすべきと明文で規定し、又は公にすべきとの趣旨を含む法令又は他の条例の
存在は認められないと主張している。
当審査会において、本件対象文書を実施機関が定めている「教職員懲戒処分の基準」に
照らし見分したところ、懲戒免職に該当するような被害児童生徒を死亡させ、又は重大な
後遺症を残す負傷を負わせた体罰事故等は確認できなかった。また、当該教員が所属する
県及び市町の職員録に当該教員の氏名が記載されていないことも確認した。ほかに、当該
教員の氏名を公にすべきと明文で規定し、又は公にすべきとの趣旨を含む法令又は他の条
例の存在も確認できなかったことから、当該教員の氏名については本号ただし書イに該当
しないため、非公開とすることが妥当である。
4 被害児童生徒等について
(1)個人識別情報について
ア 本号本文前段の解釈
本号本文前段の規定については、上記3(1)の記載のとおり、氏名、生年月日、住
所等の記載から直接的に特定の個人を識別することができる情報のほか、その情報自体
からは特定の個人を識別することはできないが、当該情報と他の情報とを照合すること
により、間接的に特定の個人を識別することができることとなる情報を個人識別情報と
し、非公開情報としている。
解釈運用基準において、本号本文前段に規定する照合の対象となる「他の情報」とは、
「公知の情報や、図書館等の公共施設で一般に入手可能なものなど一般人が通常入手し得る情報が含まれる。また、請求権者であれば誰でも公開請求できることから、仮に当該個人の近親者、地域住民等であれば保有している又は入手可能であると通常考えられる情報も含まれると解する。他方、特別の調査をすれば入手し得るかもしれないような情報については、一般的には、他の情報に含めて考える必要はないものと考えられる。」
としている。
イ 双方の主張
実施機関は、本件処分において、既に被害児童生徒の学年や事故発生日時及び当時の
授業内容、事故後の被害児童生徒の様子等を公開しており、これに加えて「当該学校名、当該学校長の氏名、当該学校長印」といった被害児童生徒が所属する学校が明らかにな
れば、一般人であっても、公開した情報を基に詮索すれば、被害児童生徒等が識別され
るおそれがあると主張する。
一方、審査請求人は、学校名、校長名、校長印等の情報が公開されても、被害児童生
徒等が識別されないと主張する。
被害児童生徒等及びその他の児童生徒等に係る氏名は、当該情報に係る個人が誰であ
るか識別させる部分そのものであるから、本号本文前段に該当することを理由に非公開
としたことは妥当と言える。
しかしながら、上記3の当該教員名を含め、学校名、校長名、校長印等は、被害児童
生徒が所属するクラスあるいは学校が特定されるおそれのある情報であることから、こ
ういった当該教員等の氏名、職及び職務遂行の内容に係る部分について、被害児童生徒
等の個人識別情報の該当性について判断する必要があり、その判断に当たっては、本号
本文前段に規定する「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる」の中の「他の情報」の範囲が問題となる。
ウ 体罰事故報告書の特殊性
体罰事故報告書は、当該教員が職務遂行中に体罰を行ったことが明らかになるもので
あるが、一方で、当事者である被害児童生徒にとっては体罰行為の被害者であることが
明らかになるものである。
通常、被害を受けた事実やそれに至る経過として記載された被害児童生徒の言動は、
当該被害児童生徒の名誉に関わる情報であり、他人に知られたくない秘匿性の高いもの
である。万が一にも当該被害児童生徒が特定されるようなことになれば、当該個人の人
格的利益を侵害するとともに、社会的評価をも低下させ、その回復が困難であることは
想像に難くない。
このため、犯罪により害を被った事実は、「個人情報の保護に関する法律」(平成15年5月30日法律第57号)においても、「要配慮個人情報」として、不当な差別、
偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する情報とされている。
さらに、被害児童生徒は心身の成熟途上にあり、人生の中で最も多感な時期に生きて
いる。このような時期に被害児童生徒の人格権と密接に関連する記載内容が公開される
ならば、単なる不快感にとどまらず、精神的苦痛を受ける蓋然性が極めて高い。また、
学校関係者や地域住民等によって当該被害児童生徒が特定されかねないとの危惧を当該
被害児童生徒等が抱くことはごく自然であり、精神的苦痛を受けるおそれがあることは
否定できない。
子どもの権利条約(平成6年条約第2号)においては、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるもの」とし、18歳未満のすべての者は、第一義的に最善の利益が考慮されなければな
らない存在であるとしている。
体罰事故報告書は、こうした被害者情報が明らかになるとともに、当該被害者が心身
の成熟途上にある児童生徒であるという「特殊性」を有していることから、被害児童生
徒に係る個人識別情報の取扱いにあたっては、その秘匿性の保持に最大限の配慮がなさ
れてしかるべきであると思料する。
エ 本件処分の特異性
当審査会において、既に公開された本件対象文書を見分したところ、単に当該教員が
体罰を行ったという事実に止まらず、中には体罰事故に至る経緯や事後の対応について
詳述されている文書も確認された。