2024.04.30
企業
米国Deciphera Pharmaceuticals社買収契約締結に関するお知らせ
PDF(975 KB)
小野薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長:相良 暁、以下「当社」)は、米国のバイオ医薬品企業 Deciphera Pharmaceuticals, Inc.(NASDAQ:DCPH、本社:米国マサチューセッツ州、以下「Deciphera社」)との間で、本買収のために設立する完全子会社を通じて、一株当たり25.60米ドル、総額約24億米ドルの現金を対価としてDeciphera社を買収(以下「本買収」)することで合意し、4月29日(日本時間)に契約を締結しました。当社は、本買収を通じて、Deciphera社を当社の100%子会社とすることを目指します。合意した取得価格はDeciphera社の潜在株式を含む発行済み普通株式数約94.7百万株との前提に基づいており、Deciphera社株式の2024年4月26日の終値(14.65米ドル/株)に対して74.7%、同日から過去30日間の売買高加重平均価格に対しては68.8%のプレミアムを加えた価格となります。当社とDeciphera社の取締役会は、全会一致で本買収へ賛同しています。
-
本買収の目的
当社はグローバルスペシャリティファーマとして、独創的かつ革新的な新薬を世界に届けることを目指しています。中長期成長戦略である「パイプライン強化とグローバル開発の加速」および「欧米自販の実現」を見据え、医療ニーズの高いがんや免疫疾患、中枢神経疾患、スペシャリティ領域を重点研究領域に定め、医療現場に革新をもたらす新薬の創出に取り組んでいます。本買収により、がん領域における優れた研究開発能力と欧米でのコマーシャルケイパビリティを有するDeciphera社をパートナー企業として迎え入れ、当社グループのパイプラインの拡充及びグローバル展開を加速させていきます。
Deciphera社は、がんを対象とした革新的な医薬品の研究・開発・販売に注力しており、自社で創製した経口キナーゼ阻害剤からなる豊富なパイプライン(表1)を有しています。KIT阻害剤であるQINLOCK(R)(Ripretinib)は消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療の薬剤として米国、欧州及び中国を含む40ヶ国以上で販売されています。加えて、CSF-1R阻害剤であるVimseltinibは腱滑膜巨細胞種(TGCT)を対象とした第Ⅲ相臨床試験(MOTION study)において、主要評価項目及びその他副次的評価項目を統計学的有意に達成しており、米国において2024年第2四半期、欧州において2024年第3四半期での申請を予定しています。また、Deciphera社は、米国および主要な欧州諸国において自社での販売網を構築しており、この販売網はVimseltinibにおいても活用されます。
本買収により当社は固形がん領域のパイプラインを拡充し、特にQINLOCK(R)とVimseltinibの獲得によって短中期的なグループの収益増加が期待できます。また、Deciphera社の欧米での開発・販売能力を獲得し、欧米自販体制を強化できます。さらに、Deciphera社の創薬能力を活用することで、当社グループのオンコロジー領域において研究開発のさらなる加速が期待できます。
当社代表取締役会長である相良 暁は、次のように述べています。「今回のDeciphera社の買収は、当社の目指すオンコロジー領域のポートフォリオ拡充のみならず、当社の欧米での事業展開を加速、また、キナーゼ創薬研究の強化にもつながるものと期待しています。Deciphera社のミッション“Inspired by Patients : Defeat Cancer”は当社の企業理念 “病気と苦痛に対する人間の闘いのために”とも一致しています。今後はDeciphera社の独自性を尊重し、両社のさらなる成長につなげていきたいと考えています。」
Deciphera社の社長兼最高経営責任者であるSteven L. Hoerterは、次のように述べています。「Deciphera社と小野薬品は患者さんの生活を改善するという強い使命感を共有しており、本買収により、患者さんにさらなる大きな影響を与えることが出来るようになります。両社の研究開発能力と商業化のプラットフォームを活かして、企業の成長を加速させることを期待しています。また、本買収はDeciphera社の全てのステークホルダーの皆様に利益をもたらすとともに、グローバルなチームに成長する機会を提供することにより、患者さんにより大きな希望をもたらすと確信しています。両社の将来的な組織統合を大いに歓迎しており、米国を含む全世界における小野薬品の持続的成長に貢献できることを光栄に思っています。」
-
取引の概要
本買収は、当社の完全子会社によるDeciphera社のすべての発行済株式の現金による公開買付け、および、その後の同社のDeciphera社との合併を通じて実行されます。本契約に基づき、当社はDeciphera社の全株式を1株当たり25.60ドル(総額約24億米ドル)で現金にて取得します。これは、Deciphera社の過去30日間の出来高加重平均株価に68.8%のプレミアムを加えた価格に相当します。買収が完了すると、Deciphera社は当社の100%子会社となります。最初の買付け期間は、速やかに開始され、開始後20営業日で終了します。特定の状況下において買付け条件が充足されない場合は、買付け期間を延長することがあります。公開買付けに応募されなかったDeciphera社の株式は、公開買付けにおける買付け価格と同額の支払いを受ける権利に転換されます。本買収の完了は、議決権ベースで50%超のDeciphera社株主が当社の株式公開買付に応じること、独占禁止法関連当局の承認、およびその他のクロージング条件の充足を前提としています。両社は、2024年度第2四半期中の買収完了を見込んでいます。なお、当社とDeciphera社の特定の株主(合計で約28%の株式を保有)との間で当社による公開買付けに応募する旨の契約を締結しております。本買収契約の写しは、米国証券取引委員会(「SEC」)に提出され、SECのウェブサイト(http://www.sec.gov )で公開されます。
当社においては、財務アドバイザーとしてBofA証券株式会社、法律アドバイザーとしてGreenberg Traurig、会計税務アドバイザーとして株式会社KPMG FASおよびKPMG税理士法人、人事アドバイザーとしてタワーズワトソン株式会社およびマーサージャパン株式会社が務めております。Deciphera社においては、財務アドバイザーをJ.P. Morgan Securities LLC、法務アドバイザーをGoodwin Procter LLPが務めています。
-
Deciphera社について
(1) |
名称 |
Deciphera Pharmaceuticals, Inc. |
(2) |
所在地 |
200 Smith Street Waltham, MA 02541, USA |
(3) |
代表者の役職・氏名 |
President & CEO, Steven L. Hoerter |
(4) |
事業内容 |
医薬品の研究開発、商業化 |
(5) |
資本金 |
805千米ドル(2023年12月31日時点) |
(6) |
設立年月日 |
2017年(Deciphera Pharmaceuticals, LLCは2003年設立) |
(7) |
大株主及び持株比率
(2024年3月31日時点) |
Brightstar Associates LLC: 28.1%
Redmile Group, LLC: 10.2%
Blackrock Inc.: 7.3%
Deerfield Mgmt, L.P.: 7.0% |
(8) |
当事会社間の関係 |
資本関係 |
なし |
人的関係 |
なし |
取引関係 |
なし |
関連当事者への 当該状況 |
なし |
(9) |
最近3年間の経営成績及び財政状態(注1) |
|
決算期(千米ドル) |
2021年12月期 |
2022年12月期 |
2023年12月期 |
|
連結純資産 |
304,720 |
341,691 |
350,916 |
|
連結総資産 |
429,484 |
454,039 |
473,566 |
|
1株当たり純資産(米ドル) (注2) |
5.25 |
4.53 |
4.13 |
|
連結売上高 |
96,148 |
134,036 |
163,356 |
|
連結営業損失 |
(300,077) |
(182,722) |
(210,958) |
|
親会社株主に帰属する当期純損失 |
(299,964) |
(178,931) |
(194,942) |
|
1株当たり当期純損失(米ドル) |
(5.16) |
(2.37) |
(2.29) |
|
1株当たり配当金(米ドル) |
- |
- |
- |
(注1)Deciphera社が2024年2月7日及び2023年2月7日に米国証券取引委員会 (SEC)に提出したForm 10-Kから引用
(注2)純資産を加重平均発行済み普通株式数で除して算出
表1. Deciphera社の開発パイプライン
製品名 / 開発コード
| 作用機序 |
適応症 |
開発段階 |
QINLOCK
| KIT阻害剤 |
4L GIST / 一部の2L GIST |
上市済 / 効能追加P3 |
Vimseltinib
| CSF-1R阻害剤 |
TGCT / cGVHD |
欧米申請準備中 /
P1/2準備中 |
DCC-3116
| ULK阻害剤 |
KRAS変異がん、GIST |
P1b |
DCC-3084
| Pan-RAF阻害剤 |
がん |
P1準備中 |
DCC-3009
| Pan-KIT阻害剤 |
GIST |
IND準備中 |
-
取得株式数、取得金額及び取得前後の所有株式の状況
(1) |
異動前の所有株式数 |
0株(議決権所有割合:0%) |
(2) |
取得予定株式数(注3) |
94,721,482株 |
(3) |
取得価格 |
1株当たり25.60米ドル、約24億米ドル |
(4) |
異動後の所有株式数(注3) |
94,721,482株(議決権所有割合:100%)(予定) |
(注3)2024年4月24日時点の発行済み普通株式数(潜在株式を含む完全希薄化後)
-
日程
(1) |
契約締結日 |
2024年4月29日 |
(2) |
株式譲渡実行日 |
2024年 第2四半期(予定) |
-
今後の見通し
本買収による当社業績への影響は現在精査中です。今後報告すべき事由が発生した場合は速やかに公表いたします。
-
QINLOCKについて
QINLOCK(R)は、米国、欧州及び中国を含む各国で「イマチニブを含む3種類以上のキナーゼ阻害剤による治療を受けた消化管間質腫瘍 (GIST) 患者」への治療薬として承認されている経口投与可能なKIT阻害剤です。また、National Comprehensive Cancer Networkの腫瘍学臨床ガイドライン(NCCNガイドライン)にて、GIST患者の4次治療としてカテゴリー1の推奨も受けています。2023年のグローバル売上は163百万米ドルに達しており、GIST患者さんに広く使用されています。現在、KIT Exon 11 + 17/18に変異を有するGIST患者の2次治療への適応拡大を目指し、第Ⅲ相臨床試験が進行中です。また、2019年にGIST患者の4次治療、2023年には上記一部変異を有するGIST患者の2次治療を対象として、米国食品医薬品局(FDA)よりブレイクスルーセラピー指定を受けています。なお、2019年にDeciphera社はZai Lab Ltd(以下Zai Lab社)とライセンス契約を締結しており、中国と台湾についてはZai Lab社が開発販売を実施しています。
-
Vimseltinibについて
腱滑膜巨細胞腫(TGCT)は、関節の内側又は近傍に生じる局所進行性の腫瘍です。主に第一選択として、手術による腫瘍の切除が行われていますが、切除不能患者さんに対する治療選択肢が限定的であり、優れた有効性と安全性を有する新薬が求められています。TGCTの病態として、コロニー刺激因子1(CSF-1)遺伝子の転座とCSF-1の過剰発現が見出されています。VimseltinibはFDAよりファストトラック指定を受けた経口投与可能なCSF-1受容体阻害剤であり、TGCTを対象とした第Ⅲ相臨床試験(MOTION study)にて主要評価項目及びその他副次的評価項目を統計学的有意に達成しています。なお、慢性移植片対宿主病(cGVHD)を対象とした第Ⅱ相臨床試験を現在準備中です。