ステークホルダーの皆様への手紙(FY2024)

2024/07/01  株式会社 リビングプラットフォーム 

ステークホルダーの皆様への手紙
FY 2024: 日本のアンバンドリングとリバンドリング

昨年は、世界中の人々がウクライナ戦争の収束を願っている中で、イスラエルにおいても戦争が発生しました。そのような中で、11 月にはアメリカの大統領選挙が行われます。以前は、もしトランプ前大統領が再び大統領になったらという意味で「もしトラ」という言葉が生まれましたが、現在では、その勢力からほぼトランプ大統領になるであろうという「ほぼトラ」という言葉までが流布されるようになっています。ウクライナやイスラエル戦争という欧州のみならず、過去に台湾独立を明言している頼清徳氏が台湾総統に就任した状況も踏まえると、日本にとってはいままで以上にアメリカの動きを注視せざるを得ない状況だと認識しております。

一方の日本でも、来年は参議院選挙があり、かつ衆議院の任期満了が 2025 年 10 月に訪れることから、衆参同一選挙を嫌う公明党の意思も反映させ、また今年の自民党総裁任期が 9 月末ですから、その日程を見据えた衆議院の解散が今年中にあると予想されます。欧州議会の選挙は 6 月にありましたが、7 月にはイギリスの総選挙も予定されています。

この様に、今年は世界そして日本では政治的な変化の年となることが想定されますが、経済においては、どの様な変化が予想されるのかを考えてみました。

思えば、2022 年の年初には 110 円程度であった円ドル相場が、2022 年 10 月には 150 円近くに下落し、直近では 160 円を超える水準まで到達しました。FRB は今年の利下げを 1 回に留めるという発言を行う一方、日本銀行はイールドカーブコントロールの柔軟化や国債の買入金額の減少を示唆するなど、日米の金利格差は縮小すると予想されますが、日本の国力の低下は短期的には如何ともしがたく、中長期的にさえ、円安傾向には変わりはないでしょう。

インフレについては、海外では先行してある程度の速度で進み、それに対応する各国中央銀行は利上げを行ってきましたが、ECB が先日 8 年以上の時を経て利下げを実施し、アメリカも回数の問題はあるものの、利下げを期待される状況にあります。一方、日本はタイムラグを伴って後追いをするように、物価の優等生と長い間言われた卵でさえも急速な価格の上昇がおきています。今後は、為替に起因する輸入インフレのみならず、特に東日本、北海道の原発再稼働の遅れや労働規制の厳格運用も踏まえ、更なる物価の上昇は進むと考えますし、日本銀行も長期金利の利上げを容認していくでしょう。短期金利の上昇は 3 年スパンでは大きく進まないでしょうが、10 年金利は 1.5%程度までは同様のスパンで上がっていくでしょう。

株価については、中国企業に対する各国の規制や制裁、国としての不透明さも拍車をかけ、中国に向かっていた投資資金が、一定の流動性や規模のある日本市場に流れ込んだ側面もあるのでしょうが、年初に 33,000 円程度で始まった日経平均株価は、一時 40,000 円を超える水準となり、それを裏付けるような企業の業績発表もあり、今後の期待も持てる状況にあるように感じられます。

この様な政治的、経済的マクロ環境を見ていると、良くも悪くもガラパゴス化していた日本が、世界の潮流に飲み込まれざるを得ない状況に至っているように感じます。

一時、グローバリゼーションの文脈であったり、金融技術の観点からアンバンドリングという言葉が流行しましたが、日本は、国内市場の規模、国力等から、物価や賃金水準、商慣行などある程度独立した環境にあったように思えていました。しかし、今は国内市場の先細りや労働力の縮小、国力の低下から、もはや世界の潮流と密接な関係を持たざるを得なくなってきている、リバンドリングされているように思えます。

こうしたマクロ環境の中、我々の主力事業である、介護、障がい者支援、保育の業界は、どの様な状況なのでしょうか。

介護は、マーケットとして依然拡大を続けており、弊社の推計では 2040 年代後半までは市場は拡大するとみており、今年の 4 月の改定でも、まだら模様の印象はありますが、総体としてはプラス改定となっております。運営者としても、日本生命のニチイ学館の 2000 億円を超える金額での買収、ベネッセの非上場化など、話題に事欠くことはなく、投資ファンドが取得した HITOWA やSOYOKAZE、ツクイなどを含めた再編もあり得るため、大きな変革の流れは継続していると見ております。

障がい者支援においても、一部では想定されていたグループホームの総量規制も、整備率の低さから見送られ、ソーシャルインクルーなどの大手運営会社の投資ファンドへの売却も含め、業界の拡大とともに運営者の再編の兆しも出てきました。

保育業界においては、整備の進捗が一定の水準まで達したため、もはや自治体の新規開設需要はほぼ消滅しましたが、売買市場での価格の低下が十分ではなく、また改善の余地が低い事業でもあるため、運営者の再編はしばらく大きな潮流にはならないでしょう。

我々の主力ビジネスにおいて、これまで国内のみを視野に入れる事業者が多かったと思いますが、元々介護でさえも需要のピークアウトは今後 20-30 年程度のスパンでは見えているだけでなく、前述のように日本の世界へのリバンドリングの潮流は止められないのであれば、一刻も早く海外の市場に適合可能な組織体制の構築が必要だと感じてきました。昨年度に発表したように財務体質の改善も必要であるため、成長率を 10%程度に抑制することにしましたが、同時に本部職員も含めた多国籍化とテクノロジーの一層の活用を通して、組織のアップデートを進めます。

昨年度は、当初の業績予想のような成績を残すことはできませんでしたが、運営体制の強化は進みました。介護、障がい者支援、保育、フードの 4 事業部とし、それぞれの統括者を置くことができ、運営の質の向上、データの整備と PDCA サイクルの高速化、幹部職員の拡大、そして特定技能外国人の雇用促進が実現できました。特定技能外国人数は、フィリピン、インドネシア、ネパール、カンボジア、ミヤンマー、インドを中心とし、急速に増えるでしょう。そして彼らがいつか彼らの母国との橋渡しになると想定しています。

そして、昨年のステークホルダーへの手紙で触れた、価格の転嫁は一定程度進み、今年度も 6 月以降に値上げを進めます。また、介護や障がい者支援事業においては、お恥ずかしい限りですが、長年取得できていなかった加算と呼ばれる項目が数多く発見されましたので、取得を進めることによって、改善余地を見出しました。

この一年は運営部門の再生に注力していたために、財務体質の向上や高利益率事業の創出は道半ばですが、運営部門は一定の段階に到達しましたので、今年度中に何とか一定の結果を出したいと思います。

最後に、前期の決算は、前々期に続き営業赤字に陥り、株価も低迷するなど、ステークホルダーの皆様にはご心配をお掛けし、私自身も経営者として忸怩たる思いです。

ただ、従前から申し上げている業界のマクロ動向に大きな変化はなく、10 年以内にはマーケットリーダーが各事業において決まっていく環境にも変わりはないと考えております。弊社と致しましては、必ずやその一角に入り、海外展開においても日本のリーディングカンパニーと認識されるよう、全力で事業の拡大や質の向上を図ってまいりますので、引き続きご支援ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。

株式会社リビングプラットフォーム
代表取締役 金子洋文

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