当社米国子会社が提起した差止申立てに対する米国連邦控訴裁判所の決定等について

2024/07/10  デンカ 株式会社 

2024 年7月 10 日

デンカ株式会社

当社米国子会社が提起した差止申立てに対する米国連邦控訴裁判所の決定等について

2024 年4月 17 日付「米国におけるクロロプレンゴム製造施設に対するアメリカ環境保護庁による新規制適用の発表について」にて公表しましたとおり、アメリカ環境保護庁(以下「EPA」という)は、同年4月9日(現地時間)、当社米国子会社のデンカ・パフォーマンス・エラストマー社(当社出資比率70%、以下「DPE」という)を含むクロロプレンゴム製造施設に対する新たな化学物質の大気排出規制(以下「新規制」という)を発表しました。新規制は、2024 年5月 16 日(現地時間)付の官報で公示され、同日から 60 日後の同年 7 月 15 日(現地時間)に施行されます。更に新規制に即した対策を実施するまでの猶予期間は施行日から90 日間と設定されました。

これに対して、DPE は、EPA が設定した新規制に対する猶予期間を 90 日間とすることの発効停止を求めて、2024 年5月 28 日(現地時間)に米国ワシントン DC 連邦控訴裁判所(以下「DC 連邦控訴裁」という)に差止申立てを提起しておりましたが、DC 連邦控訴裁は同年6月 26 日(現地時間)付でこの申立てを却下する決定を行いましたので、下記のとおりお知らせいたします。



1.申立て及び決定等の経緯

EPA による新規制は、米国におけるクロロプレンゴム製造施設に対して、各種の排出対策を取らせることにより、中間原料となるクロロプレンモノマー(*1)排出量の大幅な削減を求めるものとなっており、官報公示日から60 日後に施行され、更に当該対策を取るまでの猶予期間は施行日から 90 日間と設定されました。

この新規制は、EPA が行った RTR(Risk and Technology Review)の結果を受けたもので、そのベースにはEPA が 2010 年に策定した統合リスク情報システム IRIS(Integrated Risk Information System)に基づいたクロロプレンモノマーの発がん性評価が用いられています。DPE は、IRIS においてクロロプレンモノマーの発がん性が過剰に評価されているとして、かねてからEPA に対して最新の科学に基づき発がん性評価を正当に見直しするよう求めておりました(後記4ご参照)。なお、DPE は、米国デュポン社より、2015 年 11 月にクロロプレンゴム製造事業を取得(譲受)して以降、一貫してルイジアナ州の排出基準を遵守して操業しており、また、ルイジアナ州環境品質局(以下「LDEQ」という)及び EPA との協議に基づき総額 3,500 万ドル以上の環境投資を行い、2019 年時点で 2014 年比 85%のクロロプレンモノマーの排出量削減を達成しております。

今回の新規制等においては、最新の科学に基づいた正当な発がん性評価の見直しが行われたとは考えられず、また、DPE の操業継続に重大な影響を与える可能性のある内容となっていることから、2024 年5月 16 日(現地時間)付で新規制が官報公示されたことを受け、DPE は、同日、新規制の内容自体の見直しを求める申立てをDC 連邦控訴裁に提起するとともに、同年5月 28 日(現地時間)には、排出量削減対策を実施するまでの猶予期間の定めの停止を求める差止申立てをDC 連邦控訴裁に提起しました。また、DPE は、これに並行して、LDEQに対して、新規制の猶予期間の2年間の延長申請を行いました。

2.申立てに対する決定等の内容

DC 連邦控訴裁は、DPE が提起した猶予期間の差止申立てに対して、2024 年6月 26 日(現地時間)付の決定書において、当該申立てを却下する決定を行いました。

しかしながら、DPE が並行して行っていた LDEQ に対する新規制の猶予期間の2年間の延長申請について、同年6月27 日(現地時間)付で新規制の猶予期間の2年間の延長申請を認める通知を LDEQ から受領しました。この通知の有効性に関するEPA の見解について、DPE が EPA に問い合わせておりますが、本日時点で EPAの見解は明らかになっておりません。

なお、DPE が DC 連邦控訴裁に提起した新規制の内容自体の見直しを求めた申立てについての決定は、本日時点で出ておりません。

3.今後の見通し

今後の対応につきまして、DPE では、今回の DC 連邦控訴裁の決定等の内容を精査し、訴訟代理人とも協議・検討を行い、90 日間の猶予期間の発効停止または延長を求める対応を継続して行っていくこととしております。

また、新規制及び今回のDC 連邦控訴裁の決定等による DPE のクロロプレンゴム製造設備の操業への影響及び当社連結業績への影響等については、引き続き精査することとしております。今後の精査等により開示すべき事項が発生した場合には、速やかに公表いたします。

4.補足情報(クロロプレンモノマーの発がん性評価について)

EPA が 2010 年に策定した統合リスク情報システム IRIS(Integrated Risk Information System)に基づいたクロロプレンモノマーの発がん性評価に対しては、その毒性が過剰に評価されていることから、DPE は、EPAに対して最新の科学技術を織り込んだ発がん性評価の見直しを求め、生理学的薬物速度論(PBPK)モデルの適用についてEPA と協議した結果、EPA もこれを受け入れ、2018 年以降共同で新規 PBPK モデルの開発を行ってきました。その後、2021 年 7 月、DPE は共同開発された新規 PBPK モデルに基づき、EPA に対してクロロプレンモノマーの発がん性評価の見直し要請書を提出しました。

しかし、EPA は、2022 年 10 月、2010 年に策定した IRIS に基づいたクロロプレンモノマーの発がん性評価は当時の厳格な第三者による査読を通じて体系化されたものであり、EPA の情報品質ガイドラインにも沿った当時の最善の科学であることから、より最新の科学を評価に取り入れる義務はないという理由で、DPE が求めていた見直し要請を却下しました。

しかしながら、新規PBPK モデルを用いた毒性評価結果は、主要な科学雑誌である「Inhalation Toxicology」に掲載され、当該掲載において、EPA が 2010 年に策定した IRIS に基づいたクロロプレンモノマーの発がん性評価である70 年間の平均暴露濃度 0.2μg /?以下とする「推奨値」は過剰であると結論付けられています。また、新規PBPK モデルに加え、ピッツバーグ大学の研究者らが更新した米国におけるクロロプレンモノマーを取り扱う施設で従事した作業員約 7,000 名を 70 年近くにわたり追跡調査を行った最新の疫学的研究や、ルイジアナ州腫瘍統計局によるDPE 工場周辺の発がん統計データなどからも、EPA が主張するようなクロロプレンモノマーと発がん性との因果関係は確認されておりません。

5.当社子会社の概要

(1)名称
Denka Performance Elastomer LLC(DPE)
(2)所在地
米国ルイジアナ州
(3)代 表 者 の 役 職・ 氏 名
President & CEO 徳本 和家
(4)事業内容
合成ゴムの製造・販売
(5)資本金
12,100 万米国ドル
(6)大 株 主 及 び 持 株 比 率
Denka USA LLC(デンカ(株)100%出資):70% DIANA ELASTOMERS,
INC.(三井物産(株)100%出資):30%
(7)設立年月日
2014 年 12 月 8 日

(*1)クロロプレンモノマー:クロロプレンゴムの原料となる化学物質

公式ページ(続き・詳細)はこちら
https://www.denka.co.jp/storage/news/pdf/1246/20240710_denka_dpe.pdf

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