高エネルギー密度金属リチウム電池の寿命予測モデルを開発~金属リチウム電池の実用化に向けた大きな一歩~

2024/07/24  ソフトバンク 株式会社 

高エネルギー密度金属リチウム電池の
寿命予測モデルを開発

~金属リチウム電池の実用化に向けた大きな一歩~

2024年7月24日
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
ソフトバンク株式会社

概要

  1. 1.

    国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下「NIMS」)は、ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)と共同で、高エネルギー密度金属リチウム電池の性能評価データに対して、機械学習手法を適用し、寿命予測モデルを構築しました。放電、充電、緩和プロセスから得られる情報を基に、特定の劣化機構を仮定しない、高精度な予測モデルの構築に成功しました。本成果は、金属リチウム電池を搭載したデバイス運用における安全性・信頼性の向上に寄与し、金属リチウム電池の早期実用化に貢献します。

  2. 2.

    金属リチウム電池は、現行のリチウムイオン電池よりも高い重量エネルギー密度を実現することができるため、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムなどの幅広い分野への応用が期待されています。NIMSは、2018年にソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPS(High Altitude Platform Station)などに向けた高エネルギー密度蓄電池に関する研究を行ってきました。これまでに、300Wh/kg以上という高いエネルギー密度で200サイクル以上の充放電が可能な金属リチウム電池を報告しています。このように高い電池性能を有する金属リチウム電池の実用化には、安全性の観点から、そのサイクル寿命を正確に見積もる技術の開発が極めて重要となります。しかしながら、金属リチウム電池の劣化機構は、従来のリチウムイオン電池よりも複雑であり、その詳細は未だ明らかになっていません。そのため、金属リチウム電池の寿命予測モデルの構築は難しい課題となっています。

  3. 3.

    研究チームは、これまで確立してきた高い電池作製技術を用いて、金属リチウム負極とニッケル過剰系正極で構成される高エネルギー密度な金属リチウム電池セルを多数作製し、その充放電性能を評価しました。得られた充放電データに対して、機械学習手法を適用することにより、金属リチウム電池の寿命予測モデルを構築しました。放電、充電、緩和プロセスから得られたデータを分析することで、特定の劣化機構を仮定することなく、サイクル寿命を予測することが可能なモデルの構築に成功しました。

  4. 4.

    今後、寿命予測モデルの予測精度をさらに向上させ、新規材料の開発にも活用することで、高エネルギー密度の金属リチウム電池の実用化を加速します。

  5. 5.

    本研究は、NIMS-SoftBank先端技術開発センターの研究開発の一環として、Qianli Si NIMSジュニア研究員、松田 翔一チームリーダー、館山 佳尚グループリーダーらの研究チームによって実施されました。

  6. 6.

    本研究成果は、日本時間2024年6月27日に、Advanced Science 誌にオンライン掲載されました。

研究の背景

NIMSは、2018年にソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPS※1などに向けて、高いエネルギー密度を有する蓄電池に関する研究開発を進めています。金属リチウム電極は、現行のリチウムイオン電池の負極材料として利用されている黒鉛電極に比べて、10倍以上の理論容量を有します。そのため、金属リチウム電極を用いた金属リチウム電池は、リチウムイオン電池よりも高い重量エネルギー密度を実現することが可能です。NIMS-SoftBank先端技術開発センターでは、重量エネルギー密度300Wh/kg級の金属リチウム電池を作製し、200サイクル以上の安定な充放電を実現しています。このような高い電池性能を有する金属リチウム電池の実用化には、そのサイクル寿命を正確に見積もる技術の開発が極めて重要となります。特に、安全性の観点からは、電池の残存寿命を正確に把握する技術が求められています。しかしながら、金属リチウム電池の劣化機構は、従来のリチウムイオン電池よりも複雑であり、その詳細は未だ明らかになっていません。そのため、金属リチウム電池の寿命予測は困難となっています。

研究内容と成果

今回、研究チームは、機械学習手法を適用することにより、金属リチウム電池の寿命予測モデルの構築を試みました。寿命予測モデルを開発する場合、従来、物理ベースのモデルが広く採用されてきました。この方法では、電池内部の複雑な劣化機構を正確に把握したうえで、適切なモデルを構築します。金属リチウム電池の劣化機構は、リチウムイオン電池に比べはるかに複雑であるため、劣化機構の把握自体が困難です。もう一つのアプローチとして、機械学習を活用したデータ駆動型の方法があります。この方法では、多数の電池セルの充放電測定データに対して統計学的な解析を実施することにより、電池寿命を予測します。このような機械学習を用いた電池寿命予測技術は、リチウムイオン電池を対象として、近年、盛んに研究開発が行われています。しかし、高エネルギー密度セルの開発が困難な金属リチウム電池に対しては、機械学習を用いた電池寿命予測技術の開発が進んでいませんでした。
研究チームは、これまで確立してきた高い電池作製技術を用いて、金属リチウム負極とニッケル過剰系正極(NMC811)で構成される高エネルギー密度な金属リチウム電池(4cm×3cm、単層セル)を50セル以上作製し、その充放電性能を評価しました。得られた一連の充放電データから、35種類の特徴量※2を抽出し、電池の寿命を予測するモデルを構築しました。今回取得した特徴量は、放電プロセスに関連する特徴量、充電プロセスに関連する特徴量、緩和プロセスに関連する特徴量の、大きく3つに分類することができます。研究チームは、それぞれの特徴量を用いて予測モデルを構築し、その予測精度を比較しました。その結果を図1に示します。ここで、決定係数R2※3の値が大きいほど、高い予測精度を有するモデルであるといえます。放電プロセスに関連する特徴量で構築した予測モデルが、R2=0.67と最も高く、充電、緩和プロセスに関連する特徴量で構築した予測モデルはそれぞれR2=0.39、0.28となりました(図1)。以上の結果から、放電プロセスに関連する特徴量を採用することが、予測精度の高いモデルを構築するために効果的であることが示されました。

図1:特徴量カテゴリーごとに構築した寿命予測モデル

研究チームは、予測精度をさらに向上させるために、特徴量の組み合わせを最適化しました。重要度解析の結果、35種類の特徴量の中でも、放電関連の9つの特徴量と緩和関連の3つの特徴量がサイクル寿命と高い相関を示すことが分かりました。そこで、これら12個の特徴量を組み合わせた4,095通りのモデルの予測精度を評価しました。その結果、放電関連の5つの特徴量と緩和関連の一つの特徴量、合計6つの特徴量を用いることにより、R2=0.89と最も予測精度の高いモデルを構築することに成功しました(図2)。

図2:最終的に構築した寿命予測モデル

今後の展開

本研究では、機械学習手法を採用し、放電、充電、緩和プロセスから多様な特徴量を抽出することにより、特定の劣化機構を仮定しない、高性能な寿命予測モデルの構築に成功しました。本成果は、高エネルギー密度金属リチウム電池を搭載したデバイス運用における安全性・信頼性の向上に大きく寄与するものです。今後、予測モデルの予測精度のさらなる向上や、モデルを活用した新規材料の開発を進めることで、高エネルギー密度金属リチウム電池の早期実用化に貢献します。

掲載論文

題目:Data-driven Cycle Life Prediction of Lithium Metal based Rechargeable Battery based on Discharge/Charge Capacity and Relaxation Features
著者:Qianli Si, Shoichi Matsuda, Youhei Yamaji, Toshiyuki Momma, Yoshitaka Tateyama
雑誌:Advanced Science(DOI: 10.1002/advs.202402608)
掲載日時:日本時間2024年6月27日

用語解説

※1 HAPS(High Altitude Platform Station)
成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域エリアに通信サービスを提供する次世代通信システムです。山岳部や離島・発展途上国など通信ネットワークが整っていない場所や地域に、安定したインターネット接続環境を構築することが期待されます。

※2 特徴量
対象となるデータの特徴を表す値です。測定生データから抽出され、機械学習におけるデータの分析の際に利用されます。

※3 決定係数
予測モデルのあてはまりの良さを表す指標です。この値が1に近いほど、より予測精度の高いモデルであるといえます。

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