島津製作所・エーザイ・大分大学・臼杵市医師会の地域コホート共同研究血液バイオマーカーによる脳内アミロイドβ蓄積予測能の評価

2024/10/17  株式会社 島津製作所 

2024年10月17日 | お知らせ 島津製作所・エーザイ・大分大学・臼杵市医師会の地域コホート共同研究
血液バイオマーカーによる脳内アミロイドβ蓄積予測能の評価

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株式会社島津製作所(以下 島津製作所)、エーザイ株式会社、国立大学法人大分大学、一般社団法人臼杵市医師会(以下 臼杵市医師会)は、2022年11月より共同で実施する大分県臼杵市を実証立地としたコホート研究において、血液バイオマーカーを用いて、アルツハイマー病(注1)の重要な病理として知られる脳内アミロイドβ(注2)蓄積の予測能を評価しました。この内容を報告する論文が専門誌「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に10月10日に掲載されましたのでお知らせします。

本共同研究は、血液バイオマーカーを活用し、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症の診断ワークフローを日本で初めて構築する試みであり、フェーズ1研究とフェーズ2研究で構成されています。フェーズ1研究では、2015年から2019年に臼杵市で行われた臼杵コホート研究で取得され、凍結保存されていた血漿検体を用いて、地域コホートにおける血液バイオマーカー検査の脳内アミロイドβ蓄積予測能を評価しました。フェーズ2研究では、かかりつけ医から認知症の関連学会専門医に至る医療連携体制において、新規に募集した研究参加者(100例)での血液バイオマーカー検査の有用性を検証し、検査結果開示を行った上で開示者や結果の違いによる参加者への心理的な影響の評価を行います。

今回の論文は主にフェーズ1研究の結果をまとめたものです。本試験では、アミロイドPET(注3)検査結果と島津製作所の測定した血液バイオマーカーとを、脳内アミロイドβ蓄積予測能を評価するArea Under the Curve (AUC)を指標として比較しました。この結果、血液バイオマーカーのAUCは0.94と高い値を示し、地域コホートにおいても脳内アミロイドβ蓄積を高い確度で予測できる性能が確認されました。さらに、7年間の観察期間における被験者データの解析結果から、ベースライン時の血液バイオマーカー結果を用いて臨床症状進行を予測できる可能性、つまりアルツハイマー病によるMCIからアルツハイマー型認知症への進行を予測できる可能性が示されました。血液バイオマーカーは低侵襲の検査であるため、アミロイドPETや脳脊髄液検査(注4)の代替マーカーとなれば、当事者様の負担を軽減することができ、さらに、将来的な認知症発症の予測にも役立つ可能性があります。今後は、既にデータ取得が完了したフェーズ2研究についても解析を進め、研究全体の成果を報告する予定です。

4者は本共同研究を通じて、かかりつけ医から認知症の関連学会専門医に至る診断ワークフローにおいて、アルツハイマー病の早期診断に寄与するエコシステムを構築することで、当事者様や家族が安心して生活できる社会の実現を目指してまいります。

  • (注1)アルツハイマー病:認知症の原因として最も頻度の高い疾患であり、老人斑、神経原線維変化、神経細胞死を病理学的特徴とする
  • (注2)アミロイドβ:アルツハイマー病の原因とみられるタンパク質であり、発症の約20年前から脳中に蓄積し、老人斑を形成する
  • (注3)アミロイドPET:脳内アミロイドβ蓄積を可視化する脳画像検査
  • (注4)脳脊髄液検査:脳脊髄液を採取し分析する検査であり、アルツハイマー病のバイオマーカーとしてアミロイドβ42、アミロイドβ40、リン酸化タウ、総タウ等がある

国立大学法人大分大学医学部神経内科学講座 木村成志准教授(共同研究責任者)のコメント

抗アミロイドβ抗体の登場によりアルツハイマー病治療は新たな転換期を迎えており、今後はMCIなどより早期の段階でアルツハイマー病を診断することが求められます。脳内のアミロイドβ蓄積を検出するバイオマーカーを用いた検査には、アミロイドPET検査と脳脊髄液検査がありますが、PET検査は費用が高額であり、脳脊髄液検査は侵襲性が高いといった問題があります。血液バイオマーカー検査は安価で侵襲性が少ないため、実用化されれば当事者様の経済的および身体的な負担を軽減することが期待されます。

論文情報

掲載誌: Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions
論文タイトル: Plasma amyloid beta biomarkers predict amyloid positivity and longitudinal clinical progression in mild cognitive impairment
著者:Takuya Ataka, Noriyuki Kimura, Naoki Kaneko, Teruaki Masuda, Yosuke Takeuchi, Kenichi Yabuuchi, Takeshi Mizukami, Tsukasa Takeuchi, Temmei Ito, Hideaki Tasai, Takehiko Miyagawa, Shunya Hanai, Shinichi Iwamoto, and Etsuro Matsubara
DOI:10.1002/trc2.70008

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