令和7年1月 財務大臣年頭所感

2025/01/06  財務省 

令和7年1月 財務大臣年頭所感



あけましておめでとうございます。令和7年の年頭に当たり、謹んで新春のお慶びを申し上げます。

昨年10月に財務大臣兼金融担当大臣を拝命してから3か月が経過しました。この間、総合経済対策の策定、補正予算及び当初予算の編成、G20財務大臣・中央銀行総裁会議等の国際会議への出席など、それぞれの場面において全力で取り組んでまいりました。本年も国民の皆様の声に真摯に向き合いながら、直面する課題に対して答えを出し、それを実行に結び付けてまいりたいと思います。

日本経済に目を向けてみますと、回復に向けての明るい兆しが見られており、これを確かなものとし、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を実現していく必要があります。本年は巳年であり、脱皮するヘビのように、わが国が成長型経済に移行するのにふさわしい年にしていきたいと思います。力強い新年のスタートを切るためにも、以下、経済財政運営等についての3つの抱負と主な取組について申し上げます。

1 賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現する

1つ目は、デフレからの脱却を確実なものとし、賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現することです。

日本経済は、バブル崩壊以降長らくデフレに悩まされ続け、賃金や設備投資といったコストを抑制するコストカット型の経済に陥ってきました。平成24年の政権復帰以降、経済再生の取組はもとより、国民の皆様や各企業といった様々な各層での努力の結果として、日本経済は改善が進み、昨年は、春闘における33年ぶりの5%を超える高水準の賃上げ率、過去最大規模の100兆円超えの設備投資、600兆円超の名目GDPを実現するなど、前向きな動きが見られております。この動きを確かなものとし、高い付加価値を創出する成長型経済に移行していくことが重要です。

こうした中、昨年11月22日に「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を策定し、その裏付けとなる令和6年度補正予算も昨年12月17日に成立しました。総合経済対策の最重要課題は、全ての世代の現在及び将来にわたる賃金・所得を増やすため、日本経済・地方経済の成長力を強化することです。まずは、賃金上昇が物価上昇を上回る経済を作っていくこと、また、更に生産性や付加価値を高め、安定的に賃金・所得が増えていくメカニズムを構築することが必要です。

そこで、主な取組として、①賃上げ環境の整備と投資の促進、②税制改正、③「資産運用立国」、④物価高の克服の順に御説明します。

①賃上げ環境の整備と投資の促進

賃金上昇が物価上昇を上回る経済の構築に向けて、総合経済対策に基づき、適切な価格転嫁の促進のための下請Gメンによる取引実態の把握等に加え、新たに「下請かけこみ寺」 の調査員との連携を図るなど、中小企業においても賃上げがしやすい環境を整備してまいります。

令和6年度補正予算及び令和7年度予算では、中小企業をはじめとした事業者の皆様方の稼ぐ力を強化し、現下の賃上げができるよう、ITツール導入やシステム構築・設備投資の支援など、省力化・デジタル化投資の促進などの支援策を盛り込んでおります。

賃上げの原資は企業の稼ぐ力であり、投資を促進することでその生産性向上を実現することが必要です。今後成長が期待される分野において、企業の予見可能性を高めつつ、戦略的かつ重点的な官民連携投資を進め、内外からの投資を引き出し、産業に思い切った投資が行われるように取り組んでまいります。

具体的には、総合経済対策において、今後10年間で50兆円を超えるAI・半導体関連産業での国内投資を官民協調で実現するための「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を策定しております。令和6年度補正予算及び令和7年度予算等においては、先端・次世代半導体の国内生産拠点の整備や研究開発支援など、計1.9兆円規模の支援を実施することとしております。

また、GXの実現に向けては、カーボンプライシングを償還財源とするGX経済移行債を活用し、20兆円規模の大胆な先行投資を行うことにより、10年間で150兆円超の官民協調投資を実施していくこととされています。令和6年度補正予算及び令和7年度予算においては、次世代太陽電池等のサプライチェーン構築等や次世代航空機技術開発など、計1.5兆円規模を計上したところです。

予算のほか、財政投融資計画についても、日本経済・地方経済の成長のための取組等を加速させるために、必要な資金需要に的確に対応してまいります。

②税制改正

令和7年度税制改正では、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を実現し、経済社会の構造変化等に対応するための見直しを盛り込んでいます。

まず、物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除の控除額等の引上げを行うとともに、大学生年代の子等に係る新たな控除を創設し、子等の収入が増加した場合でも親等の控除が段階的に逓減する仕組みを導入します。この改正は、関係者の皆様にできる限りご負担をかけないよう、令和7年末の年末調整から適用することとしています。

次に、成長意欲の高い中小企業の設備投資を促進し地域経済に好循環を生み出すため、売上高100億円超を目指す中小企業を対象に、中小企業経営強化税制を拡充し、対象資産に建物を追加します。また、法人版・個人版事業承継税制について、特例措置の役員就任要件及び事業従事要件を見直します。

③「資産運用立国」

本年の干支であるヘビは古来、資産の象徴と言われておりますが、本年も引き続き、「資産運用立国」の政策を推進してまいります。

家計における金融所得の推移を見ると、利子・配当は1994年度には約28兆円あったものが、足下では半減して約15兆円で推移しています。こうした金融所得を増やしてくためにも、貯蓄から投資への流れを着実なものとし、国民の資産形成を後押ししていくことが重要です。

昨年1月から大幅に拡充されたNISAは、昨年1月から9月までの間に、口座数は、2,125万口座から2,509万口座と一昨年の約2倍のペースで、累積の買付額については、35.2兆円から49.0兆円と一昨年の3倍以上のペースで増加しています。今後も、より多くの方にこの新しいNISAをご利用いただけるよう、適切な活用を促してまいります。

また、確定拠出年金(企業型DC、個人型(iDeCo))について、会社員の方の企業型DC・iDeCo全体の拠出限度額を、賃金の伸びを踏まえ7,000円引き上げることとしており、iDeCoの拠出限度額は最大で約3倍になります。また、自営業者の方のiDeCo等の全体の拠出限度額も同様に7,000円引き上げます。老後に向けて資産形成を支える重要な柱として、今後とも活用を促してまいります。

そのほか、金融経済教育の充実に向けた取組を進めるとともに、コーポレートガバナンス改革の推進、資産運用業の改革やアセットオーナーシップの改革に取り組んでまいります。こうした取組を含め、我が国市場の魅力を国内外へ積極的に発信してまいります。

④物価高の克服

物価高によって厳しい生活を強いられる方々がいる一方で、賃金上昇が全国各地に幅広く波及していくまでには一定の時間を要するため、当面の支援措置が必要となります。また、様々な事情によって働くことができず、賃金上昇の対象とならない方々が存在することにも留意する必要があります。

そこで、総合経済対策では、そうした厳しい状況に置かれている方々を念頭に、住民税非課税世帯一世帯当たり3万円を目安として、給付金の支援を行うほか、推奨メニューを拡充したうえで、「重点支援地方交付金」の更なる追加を行うことなどとしたところです。また、エネルギー価格上昇に耐え得る経済社会を実現するため、省エネ性能の高い住宅の新築等を支援します。こうした取組により、誰一人取り残されない成長型経済への移行に道筋をつけます。

2 成長型経済への移行に向けた礎である、国民の安心・安全を確保する

2つ目は、成長型経済への移行に向けた礎である、国民の安心・安全を確保することです。

昨年の元日、能登半島では、コロナ禍以降、皆が待ちわびていた家族の団らんが、地震により一瞬にして奪われました。その後さらに能登半島地震の被災地を豪雨が襲い、河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、多くの尊い人命が失われました。こうした災害により、亡くなられた方々に哀悼の誠を捧げるとともに、被災されている方々に心よりお見舞いを申し上げます。引き続き、能登地域をはじめ、被災地の一刻も早い復旧と創造的復興に向けて、万全を期してまいります。

また、今月は「阪神・淡路大震災」発生から30年の節目を迎えることになりますが、改めてこの震災により亡くなられた方々に対し、心から哀悼の意を表します。我が国は世界有数の災害発生国であり、近い将来に首都直下型地震あるいは南海トラフ地震が発生することも懸念されております。過去の災害の経験と教訓を継承し、災害からの復旧・復興に取り組むことはもとより、発災時における被災者の良好な生活環境の確保を含め、今後も想定される災害への備えに万全を期すため、防災・減災及び国土強靱化の取組を推進してまいります。

国外に目を向けますと、世界経済の安定を維持し、持続的な成長を実現するには、国際協調の推進が重要です。ウクライナ支援や対露制裁、グローバル・サウスへの支援、サプライチェーンの強靱化等の取組を進めるとともに、国際金融機関の改革や途上国の債務問題、国際保健などの議論に貢献してまいります。

今月には、米国でトランプ次期政権が発足します。これまで築いてきた日米の密接な関係を基礎に、引き続き経済面でも日米の協力関係を発展させていくことが重要です。私のカウンターパートになる次期財務長官を含め、しっかりと信頼関係を構築してまいります。

安全保障環境が厳しさを増す中、わが国の防衛力の抜本的な強化を行うために安定的な財源を確保するという観点から、令和7年度税制改正において、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置を講ずることとしています。

税関行政につきましては、入国者数と輸入申告件数が急増する中、不正薬物等の摘発件数が高水準で推移しています。本年は大阪・関西万博が開催され、更なる入国者数の増加等が見込まれるところ、テロ対策も含めた厳格な水際取締りと円滑な通関の両立に努めてまいります。また、軍事転用のおそれのある製品や技術の不正輸出等を防止すべく、輸出貨物の審査・調査の強化にも取り組んでまいります。

3 中長期的に持続可能な経済社会を実現する

3つ目は、中長期的に持続可能な経済社会を実現することです。

足元の人手不足の大きな要因でもある人口減少は、2030年代に加速することが見込まれており、持続可能な経済・社会のためには、女性活躍を含めた労働参加率の向上に取り組むほか、少子化対策にも取り組むことが必要です。

令和5年の1年間における出生数は、約72万7,000人で過去最少、そして合計特殊出生率は1.20で過去最低となりました。少子化は、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えておりますが、いまだ多くの方の「こどもを産み育てたい」という希望の実現には至っていないと認識しております。少子化対策は待ったなしの瀬戸際にあると受け止めており、令和5年末に取りまとめられた「こども未来戦略」に基づき、政府として、少子化対策の強化に取り組むことが重要です。また、令和7年度税制改正においては、子育て世帯等に対する住宅ローン控除等の拡充や生命保険料控除の拡充を実施することとしています。

こうした取組により、子育て世代や、若い人たちが将来の展望を拓くことが可能となり、希望と夢をしっかりと持つことができる社会を作っていきたいと考えています。

また、我が国の財政状況が極めて厳しい状況にある中、持続可能な経済社会を実現するためには、「経済あっての財政」という考え方の下、財政状況の改善を進め、力強く発展する、危機に強靭な経済・財政を作っていくことが必要となります。

こうした中、令和7年度予算については、「経済財政運営と改革の基本方針2024」を踏まえ、日本経済を新たなステージへ移行させることを目指す中で、経済・物価動向等に配慮しながら、中期的な経済財政の枠組みに沿った内容になっていると考えます。

具体的には、歳出総額を過去最大となる115.5兆円とする中で、こども・子育て政策や防衛力の強化、GX投資推進やAI・半導体産業の基盤強化といった、財源を確保しつつ複数年度で計画的に取り組む重要政策課題を着実に推進するとともに、予算の適正化や効率化を通じた歳出改革努力をあわせて行うことで、メリハリの効いた予算になったと思っております。税収が過去最高を更新(78.4兆円)したことに加えて、こうした改革努力の結果、令和7年度予算の新規国債発行額は、対前年度比6.8兆円減の28.6兆円と、平成20年度以来、17年ぶりに30兆円を下回る水準となっています。

他方、債務残高対GDP比が世界最悪の水準にあるなど、我が国の財政状況が極めて厳しいことに変わりはありません。政府としては、今後とも、「経済あっての財政」との考え方の下、力強く経済再生を進める中で、財政健全化も実現し、経済再生と財政健全化の両立を図ってまいります。

最後に、財政を通じて実施される政策は、国民の皆様からの納税で支えられています。経済社会のグローバル化やデジタル化が進む中、納税者利便の向上や適正・公平な課税・徴収の実現を効率的・効果的に推進していきます。さらに、事業者の業務のデジタル化を促進することにより、税務を起点とした社会全体のDXを推進していきます。

4 結び

以上、今後の経済財政運営等についての抱負とその主な取組について申し述べてまいりました。

本年も「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ」との財務省の組織理念を胸に、副大臣、政務官、そして総勢7万人からなる財務省職員とともに、全力で職務に励んでまいる所存です。その際、働き方改革を始め、職員が誇りを持って働ける環境作りにも取り組んでまいります。関係する皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。

本年が皆様にとって良い一年となりますよう祈念しまして、新年の挨拶とさせていただきます。

財務大臣 加藤 勝信

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