寄稿・インタビュー
石破総理大臣のコンパス紙(インドネシア)への寄稿
令和7年1月10日
英語版 (English)
インドネシアの皆様、明けましておめでとうございます。
昨年10月に日本の総理大臣に就任後、最初の二国間の外国訪問として、東南アジアを訪問しています。インドネシアでも昨年10月にプラボウォ大統領が就任され、両国それぞれで新政権が発足して間もないタイミングでインドネシアを訪問することができ、大変嬉しく思います。インドネシアと日本は、60年以上にわたる伝統的な友好関係を基礎に、政治、経済、文化、人的交流など、幅広い分野で緊密な協力関係を築いてきました。天皇皇后両陛下が2023年に御即位後、初の外国親善訪問としてインドネシアを御訪問されたことも、長きにわたり培われてきた心と心が通じ合う信頼関係を象徴しています。 私は、今回の訪問を通じ、二国間協力に加えて、地域・国際社会の諸課題についての連携を強化し、包括的・戦略的パートナーとしての両国関係を更に発展させたいと考えています。 まず、今回の訪問に際し、インドネシアの子供たちに栄養価の高い給食を提供したいというプラボウォ大統領の思いに応え、国家栄養庁関係者への給食運用に係る研修や、日本からの専門家派遣を行うこととしました。それに併せ、インドネシアでの食料自給の確立や地方創生を後押しするために、離島・地方を含む漁港・市場整備といった漁業・農業振興支援を行っていきます。 次に、防災分野では、インドネシアと日本は自然災害多発国として協力を推進してきており、今後とも災害に強い国づくりに向けて火山防災や洪水対策等の協力を行っていきます。多くの尊い命を奪い、甚大な被害をもたらしたスマトラ沖大地震とインド洋津波の発生から、先月で丸20年の歳月が流れました。改めて衷心より哀悼の意を表します。日本も2011年に東日本大震災を経験し、インドネシアの皆様から多くの御支援を頂きました。その温かく心強い御支援に、改めて深謝申し上げます。
また、経済分野での協力も更に強化していきます。特に、インドネシアの持続的成長に向けて、数千人規模の行政官研修を含む人材育成、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)やパティンバン港開発計画、そして国際的課題でもある脱炭素に向けたエネルギー移行を進めるためのアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の具体化を通じた協力を推進していきます。
地域・国際情勢に目を向けますと、昨今の安全保障環境は厳しさを増しています。世界中のどこであれ、力や威圧による一方的な現状変更の試みは許されません。日本は、世界を分断や対立ではなく、協調に導くために取り組んでいます。法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、基本的な価値や原則を共有する包括的・戦略的パートナーであり、グローバル・サウスの有力国でもあるインドネシアとの連携を重視しています。
こうした観点から、日本は、共に海洋国家でもあるインドネシアとの間で、2023年に決定した海上保安機関向けの大型巡視船供与に加え、今後、外務・防衛閣僚会合「2+2」の開催、OSA(政府安全保障能力強化支援)などを通じ、安全保障協力を重層的に進めていきます。また、私は、防衛大臣を務めた経験から、防衛当局間の要諦は人と人とのつながりであると考えています。防衛大学校への留学生受入れを始めとする防衛当局間の次世代の交流や人材育成を通じて、厚みのあるネットワークを作っていきたいと思います。
ASEAN唯一のG20メンバーであり、グローバル・サウスの有力国であるインドネシアが、地域・国際社会の諸課題の解決のために果たす役割は益々高まっています。このようなインドネシアがOECDに加盟することは、インドネシアの更なる持続的な経済成長を支えるものと確信しています。日本は一貫してインドネシアのOECD加盟を支持しており、このプロセスの着実な進展に向けて積極的に協力していく考えです。
また、混迷を極めるガザ情勢についても、日本と世界最多のムスリム人口を有するインドネシアの間でパレスチナ支援に向けた協力の可能性が広がっています。日本はパレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)を2013年から立ち上げ、この枠組みにおいて、インドネシアと協力してパレスチナ向けの支援を長年にわたり実施してきました。今回のインドネシア訪問を通じ、両国の連携による農業分野での対パレスチナ支援を進めていくことを含め、ガザ情勢に関するインドネシアとの連携を一層強化していきたいと考えています。
インドネシアと日本との間の緊密な友好協力関係は、人と人との交流にも支えられています。インドネシアからの訪日者数は2023年1年間で約43万人に達し、過去最高となりました。日本在住のインドネシアの方も約17万人に達しています。私の出身地である鳥取県にお住まいのインドネシア人も大きく増加しており、日本各地で両国の交流が増えています。日本への外国人国費留学生の数を見ると、インドネシアが最多であり、技能実習生、特定技能人材、介護人材としてもインドネシアの方々は様々な形で活躍されています。今後とも人的交流を促進すべく、インドネシアと協力していきたいと思います。 今年4月から、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに日本において大阪・関西万博を開催する予定です。インドネシアからは、自然、文化、未来を融合した「調和の繁栄」をテーマに、船をモチーフとしたパビリオンを出展いただくと伺っています。人的・経済交流の促進の観点からも、インドネシアの皆様にも是非とも多数御来場いただき、日本が世界と共に描く未来を体験するとともに、ビジネス・マッチングも進めていただきたいと思います。
最後に、インドネシア国民の皆様の御多幸と、相互理解と相互尊重に基づく両国と両国国民の友好関係が末永く続くことを心より願っています。