Morgan Stanley and MUFG Japan Summit 2026
片山財務大臣 兼 金融担当大臣 挨拶
2026 年5月21日(木)17:30-17:50
皆さん、こんにちは。財務大臣兼金融担当大臣の片山さつきです。本イベントの開催にあたり、主催者をはじめ登壇者・関係者の皆さまに心より敬意を表します。本イベントには、日本及び海外の多くの有力な投資家の皆様にご参加いただくなど、大変盛況であったと伺っており、海外から日本への更なる投資を促す契機となったと思います。
私からは、海外から日本への投資を促すための政府の取組として、高市内閣が掲げる「強い経済」の実現に向けた「責任ある積極財政」と日本の成長戦略、そして、これまでの「資産運用立国」の取組を更に発展させた新たな金融戦略の検討状況について、お話をさせていただきます。
(責任ある積極財政)
まず、「責任ある積極財政」と日本の成長戦略についてです。日本経済の足元の状況は大きく改善してきています。
名目GDPは600兆円を超えて700兆円に近づいており、高い成長の下では2040 年頃に 1,000 兆円程度の経済が視野に入っています。また、企業収益は過去最高、設備投資も過去最高水準にあり、直近の実質賃金もプラスで推移しているほか、春闘においても、現時点では一昨年、昨年に引き続き5パーセントを超える賃上げとなっています。さらに、日経平均株価も史上最高値を更新し、経済は確実に活気を取り戻しています。
今後さらに日本経済を強くしていくため、「責任ある積極財政」の考え方に基づき、メリハリのある成長投資を進めていきます。成長率を高めることと相まって、債務残高対GDP比を安定的に引き下げます。市場動向を常に十分注視しながら、財政の持続可能性を確保し、マーケットからの信認を維持していきたいと思います。
(重点分野への戦略的投資)
日本は、「デフレ・コストカット型経済」から投資拡大と生産性向上を伴う「成長型経済」への移行期にあります。
一方で、「静かな有事」とも言うべき人口減少、そして戦後最も厳しく複雑な安全保障環境という課題にも直面しています。
こうした中で、潜在成長率は伸び悩み、個人消費は力強さを欠いています。この状況において、日本経済の強さを取り戻すことが重要です。将来的にも人口減少が見込まれる我が国において、「強い経済」を実現していくためには、「責任ある積極財政」の考え方の下で戦略的な財政出動を行います。日本の供給構造を強化し、経済成長率を高めることを通じて、所得を増やし、消費マインドを改善し、これが事業収益改善につながる好循環を実現する必要があります。
こうした観点から、高市内閣は、供給力の強化に向けて大胆かつ戦略的な「危機管理投資」と「成長投資」を進めてまいります。経済安全保障や成長の観点から、AI・半導体や造船を含む17の戦略分野を選定しました。経済安全保障、食料安全保障、エネルギー・資源安全保障、健康医 療安全保障、国土強靱化対策、サイバーセキュリティなどの様々なリスクや社会課題に対し、官民が手を携え、先手を打って行う戦略的な投資を行います。
例えば、質の高いデータを集積し、学習させることで、ロボットによる自律的な人間の支援や、ものづくりを行う工場の無人制御などが可能となる、「フィジカルAI」の実現に向けた取組などを行っていきます。
こうした「危機管理投資」・「成長投資」については、通常の歳出と別に、予見可能性を持って実施できる「新たな投資枠」を創設することとし、財源については、債務残高対GDP比を安定的に引き下げる中でも可能となる財政規模を精査し、中期的な債務経路と整合的な形で柔軟に管理していくこととしております。このうち、経済安全保障上、特に重要な分野の投資等については、複数年度で財源を確保した上で、別枠で管理します。
このように、今後人口が減少していく中でも、AIや半導体といった経済安全保障の強化にも資する戦略分野を中心に、官民が連携して積極的な投資を行うことにより、日本の課題を解決し、先端産業を開花させ、日本経済を力強く成長させてまいります。
(新たな金融戦略の策定)
続いて、金融分野における政府の取組についてです。足元、政府では、「日本成長戦略」の取りまとめに向け、17の戦略分野のうち官民投資を優先的に支援していくべき「主要な製品・技術等」についての「官民投資ロードマップ」や、金融を含む8つの分野横断的なテーマについて議論を行っているところです。
この戦略的な投資を進め、日本経済の成長を更に加速させるためには金融の力が不可欠であり、「日本成長戦略」を支える重要な分野として位置づけられています。まずは足元の検討の状況をご説明させていただきます。
資金の好循環を創出し、日本経済の成長と国民所得の増加を目指すために、政府がこれまで取り組んできた「資産運用立国」の実現に向けた幅広い施策は着実に進展し、内外投資家からも高く評価いただいています。
例えば、家計に向けては、2024年1月、個人投資家向けの投資非課税制度であるNISAを抜本的に見直し、足元の口座数は約2,800 万口座と 18 歳以上の国民の4人に1人が口座を保有する状況です。加えて、足元では、家計金融資産におけるリスク性資産の残高が過去最高を更新するなど、「貯蓄から投資へ」の移行が着実に進んできています。
また、企業に対しては、スチュワードシップ・コードを策定した 2014 年からコーポレートガバナンス改革を進めており、10年来の継続的な取組が着実に根付いてきています。また、東京証券取引所のプライム上場企業の9割が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた計画を開示しており、企業の意識も変化してきています。
さらに、家計の安定的な資産形成を支える資産運用サービスの高度化や、企業や経済の成長の果実を家計にもたらす役割を担うアセットオーナーの機能向上に向けた取組についても、着実に進展してきています。
高市内閣においては、こうした「資産運用立国」の実現に向けた取組を更に発展させ、17の戦略分野への投資を促進する等、金融を通じ、成長戦略を加速させ、「強い経済」を実現してまいります。
そのため、日本成長戦略会議の下に「新戦略策定のための資産運用立国推進分科会」を設置し、私は分科会長として、新たな金融戦略の策定に向けた議論を主導しています。
分科会では、
・ コーポレートガバナンス改革等を通じた企業の「稼ぐ力」の向上、
・ それを支えるための、官民連携による成長資金の供給拡大、
・ 受益者の最善の利益を確保していくためのアセットオーナーの機能向上、
・ 地域経済の発展に金融面から貢献するための「地域金融力」の更なる発揮、
・ デジタルイノベーションが加速する中で、経済活動を支えるための決済システムの高度化
といったテーマについて検討してまいりました。
そして先月開催した分科会において、金融戦略の骨子案をお示ししたところです。
骨子案では、これまでの「資産運用立国」の取組をさらに発展させて、
・ 企業には中長期的な企業価値の向上に向けた成長投資5 を促しつつ、
・ アセットオーナーの受益者や家計が、成長の果実を最大限享受できるようにする、
・ そのために、これらをつなぐ金融機関・市場による資金供給・成長支援機能の発揮を強力に促す環境整備を行っていく
ことで、資金の好循環を創出していきます。
また、こうした金融システムを支えるインフラを新たな技術に対応できるようにしていくことも重要です。
新しい金融戦略は、こうしたコンセプトに基づき、4つの軸で構成しています。その内容と方向性をご紹介させていただきます。
1つ目の軸は、「17 の戦略分野等への成長投資や事業再編・再構築を支えるための金融機関・市場の機能強化」です。
17 の戦略分野をはじめとする成長投資や、大規模化するM&Aや事業プロジェクトへの資金ニーズに対応していくためには、金融機関、とりわけ銀行等が、資金供給や適切な知見を有するプレイヤーとの連携などのあらゆる面で企業を支え、企業の成長を促す中心的役割を担うことが期待されます。そのため、銀行等に対する規制緩和を行い、大型案件や事業再編への機動的な融資や出資のニーズへの対応力を高めることで、銀行等による資金供給・企業の成長支援機能の強化を後押しします。
また、今後、成長投資を含めた資金需要の拡大に応えていくためには、多様なプレイヤーが参加し、多様な商品が取引される、厚みのある金融市場を創っていく必要があります。このため、例えば社債の発行を容易にするための規制緩和等により、社債市場の活性化を図るほか、貸出債権の取引を円滑にするための環境整備を進め、ローン・セカンダリー市場の活性化に取り組みます。また、適切なモニタリングを前提として、PEやVCといった民間ファンドの健全な育成を図ることも重要と考えております。
さらに、地域金融機関が地域経済の「要」として、地域企業の価値向上と地域課題の解決に貢献できるよう、地域金融力の強化を推し進めます。
2つ目の軸は、「企業の成長投資を促進するためのガバナンス改革」です。企業・機関投資家の双方が、短期主義に陥らず、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を強く意識し、必要な成長投資が実施されていくよう、コーポレートガバナンス改革を進めます。
このため、「コーポレートガバナンス・コード」を本年夏に改訂する予定です。また、「成長投資ガイダンス」の策定などにも併せて取り組みます。それにより、企業が、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社の成長段階を考慮した上で、成長により得た利益を、株主への還元とともに、人的投資や設備投資、研究開発への投資等の成長投資に、適切に振り向けることを促します。
3つ目の軸は、「経済成長の成果を最大限享受するための環境整備」です。GPIF等の公的アセットオーナーのほか、企業年金や大学等のアセットオーナーに対し、受益者の最善の利益を追求した資産運用を促すことで、受益者や家計が経済成長の成果を最大限享受できるようになることが重要です。そのため、例えば、アセットオーナー・プリンシプルの受入れを一層進めるとともに、各アセットオーナーによる運用の点検を通じて、運用の高度化に向けた取組を促します。
また、それを支える資産運用サービスの高度化も重要です。本年4月に新たに発足した資産運用業協会による政策対応力や国内外への情報発信等の機能強化を後押しします。
加えて、家計の安定的な資産形成を促進するための環境整備を進めます。来年1月に開始予定の、NISAのつみたて投資枠の年齢要件撤廃についての広報を強化するほか、本年 12 月に施行予定の加入者目線に立ったDCやiDeCoの制度改善、広報の充実を進めます。世代や地域の事情に即した金融経済教育も推進します。
4つ目の軸は、「金融システムを支えるインフラへの投資」です。ブロックチェーンを用いた物流・商流・決済の一体化によって経済全体の効率性向上が追求されていく中で、それに対応できる決済環境を整備するため、ステーブルコイン・トークン化預金といったブロックチェーンを活用した決済手段の実装・普及に向けた環境整備などに取り組みます。
例えば、昨年、金融庁が立ち上げた「決済高度化プロジェクト」、通称PIP(ピップ:Payment Innovation Project)では、決済分野における金融機関等の実証実験について、法令解釈等の面から支援するなど、ブロックチェーン技術を活用した決済高度化の取組を後押ししています。
また、金融システムを支える決済基盤について、サイバーセキュリティを確保することも不可欠です。AI技術が急速に進展する中、サイバー攻撃にAIが使用されることで、攻撃のスピード・規模が劇的に加速・拡大するなど、サイバーセキュリティを巡る脅威が高まっています。AI脅威に対する金融分野でのサイバーセキュリティ対策強化について、官民で連携して取り組みます。
(結語)
本日は、高市内閣が掲げる「強い経済」の実現に向けた成長戦略と、それを支えるための新たな金融戦略について、足元の状況をご説明させていただきました。引き続き、様々な関係者のご意見を伺いながら検討を重ね、骨太な金融戦略を策定したいと思います。
新たな金融戦略の策定、実行を通じ、日本の供給構造を強化し、世界の投資家が信頼を寄せる経済を実現することで、世界の資本が流れ込む好循環を生み出していきたいと考えています。そのためにも、本日、お集まりいただいた投資家の皆様方には、日本への投資の更なる拡大をお願いしたいと思います。
日本市場の将来展望について理解と信認がさらに深まることを祈念し、私のスピーチとさせていただきます。ご清聴いただき、ありがとうございました。
(以上)