2023年カンボジア総選挙での国際選挙監視団派遣報告

2023/08/09  特定非営利活動法人 インターバンド 

カンボジア和平後の総選挙から30年

私たち特定非営利活動法人インターバンド(以下、インターバンド)は、本年7月12日から7月24日まで選挙監視団を派遣し、カンボジア総選挙前の政治状況のヒアリング、及び選挙当日の投票プロセスの監視を行ってまいりました。 今回、インターバンドは弊団体理事の阪口直人(元衆議院議員、元国連カンボジア暫定統治機構<UNTAC>選挙支援要員)を団長として、計8名の監視員を派遣し、プノンペン及びコンポントム州で選挙監視活動を行いました。 7月13日から21日の事前のヒアリングでは、プノンペンにて、カンボジアの選挙監視NGOであるCOMFREL(Mr. KIM Chhorn)、日本大使館(植野篤志大使)、国家選挙管理委員会(Mr. HANG Puthea)、カンボジア政治・選挙制度研究者、人民党の選挙キャンペーン及び炊き出し、そして若者の政治意識調査のための大学訪問を行いました。 23日選挙当日はコンポントム州7箇所の学校で19の投票所を訪問しました。



◆本活動の目的
 1992年、国際社会の協力によって国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)がカンボジアの平和と民主主義のための活動を展開し、憲法制定議会選挙を実施して30年が経過しました。このプロセスにおいて、日本も積極的な役割を果たしました。国連ボランティアとして選挙の支援活動に関わっていた中田厚仁さんが殺害されるなどの大きな犠牲も払いましたが、日本の平和貢献の歴史において、カンボジアへの貢献はもっとも成功した例と、未だに評価されています。
 日本は今後とも国際社会への平和貢献を続けていく責任があります。よって、カンボジアの選挙支援の成果を検証し、より良い民主化支援の方法を継続的にリサーチすることは、大きな意義と必要性があると考えています。
 このような考え方に立ち、インターバンドは2002年、2003年、2013年、2018年にカンボジアに選挙監視ミッションを派遣しました。今回、私たちインターバンドは5回目のカンボジア選挙監視に参加し、下記のような視点で活動を行いました。

(1)国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)において国際社会が協力して実現を目指したカンボジアの平和と民主主義の現状を点検する。

(2)私たちは日本、カンボジア政府に有権者登録の電子化を提言し、不正が起こらない選挙制度改革を実現した。日本は特にカンボジア国民IDを選挙管理委員会のホストコンピューターに連結させ、二重登録などの不正が起こらないシステムの構築を目指した。今回、このシステムがどのように運用されているか、今後に向けての課題は何かリサーチする。

(3)中田厚仁さんが活動した地域であり、また、コミューン選挙においてキャンドルライト党が躍進した地域を含むコンポントム州で投票と開票を監視し、人々の投票行動について考察する。




◆今回のカンボジア国民議会選挙に対する評価
(1)評価できる点
・長く課題とされた有権者登録プロセスの信頼性については大きな向上
 2013年と2018年を比較すると人口が1468万人から1603万人に約135万人増加した一方で、有権者は968万人から838万人に130万人減っています。これは過去の選挙において大きな問題とされた二重登録が大きく減ったことを意味します(今回の有権者数は971万人で、5年前から133万人増えている)。今回、投票所においては投票の権利に関する混乱は見られませんでした。これらは大きな進化と評価できます。

(2)課題
・野党の政治参加を含め、反対意見に対する寛容さが不足している。
・国民が政治的意見を表明する自由度が不足している。
・立候補の自由が脅かされる可能性がある。
・政府に批判的なメディアが存在していない。

(3)総評
 2018年、そして今回の2023年の国民議会選挙において、最大野党が参加できない状況について極めて残念に遺憾に思います。民主主義を進化させるためには複数政党制による健全な競争が必要であり、国民が自由に政治的意見を表明すること、メディアが自由に報道すること等も非常に重要です。これらを考慮すると、カンボジアの民主主義は、UNTACが目指した理想からは未だ遠いと言わざるを得ません。
 私たちは公正な政権は公正な選挙制度からしか生まれないと考えており、公正で透明性の高い選挙制度をつくるための改革の努力は、継続的に行うべきであると考えます。以上のことから、私たちは、将来のカンボジアの民主主義のため、今回も監視活動を行うべきだと判断致しました。今回の選挙監視を通した日本の市民社会からの提言として、下記について日本政府などに提言し、それらの実現に向けて努力致します。



◆改善に向けての提言
(1)有権者登録における精度のさらなる向上
 国民IDをデジタル化し、選挙管理委員会のホストコンピューターに連結させることで、二重登録は劇的に減少した。また、生体認証システムの導入によって同じ人物が投票することは不可能になった。日本が支援した有権者登録システムは2026年に契約が終了する予定。技術の進化に伴うより高度なシステムの構築については今後も検討すべき。ただし、立候補の自由を奪う目的で使われることがあってはならない。

(2)カンボジアの経験と技術の輸出を支援する
 カンボジアの有権者登録は大変精度が高く、有権者登録の信頼性の欠如が民主主義の阻害要因になっている国にこのシステムを輸出する価値は大きい。カンボジアの経験と日本の技術的支援とセットで一緒に平和協力を行ってはどうか?

(3)透明なインクに変える
 投票する権利、投票しない権利はどちらも尊重されるべき。より多くの人々が選挙に参加することは、本来は望ましいことだが、投票は強要するべきではない。他国では、特殊な光を当てた時のみ反応する透明なインクを使っている例もある。投票者の人権を守る上では透明なインクの導入を検討すべき。


 今回の「選挙」で得た知見を元に、長期的な視点からカンボジアの民主主義が達成されるよう、インターバンドは今後も日本政府に働きかけていきたいと思います。






特定非営利活動法人インターバンド

https://www.interband.org/

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