ゲノム編集により高度透明化金魚の作出に成功しました

2024/06/01  国立大学法人 静岡大学 

 静岡大学創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸教授の研究グループは、ゲノム編集により透明金魚のさらなる透明化に成功しました。 【研究のポイント】 ・白色素細胞形成遺伝子pax7bのゲノム編集により白色素細胞形成を阻害 ・成魚における透明金魚の白色化を阻止し成魚でもより透明に ・体内の観察がより容易に


 徳元研究室では以前の研究で点突然変異誘発物質ENUを用いて体内の臓器が観察できる透明金魚を作出していましたが、この系統では稚魚は完全に透明で体内組織の発達の様子が観察可能でも、成魚になると体色が白味を帯びて不透明に変化する問題がありました。今回、ゲノム編集技術により白色素細胞の形成に必要であると推定されるpax7bという遺伝子に変異を導入したところ、白色素細胞の形成が見られなくなり、成魚でもより透明に変化しました。樹立された系統は初期発生過程の研究や、卵巣や精巣などが観察可能であることから生殖生物学分野の研究に有用であると期待されます。
 なお、本研究成果は、2024年5月31日(ロンドン時間午前1時)に、Springer Natureの発行する国際雑誌「Fish Physiology and Biochemistry」に掲載されます。

【研究者コメント】
静岡大学創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸(とくもととしのぶ)
 メダカにおいて解明された白色素細胞の形成遺伝子pax7が金魚においてもはたして同じ働きをしているのか不安もあり、また顕微注入も難しい金魚でゲノム編集を成功させる困難もありましたが、学生達の長年の努力が実りました。

和金、透明金魚、pax7b遺伝子のゲノム編集魚の成魚の写真

【研究概要】
 静岡大学・創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸 教授の研究グループは、金魚においてもpax7遺伝子が白色素細胞の形成に必要であることを解明するとともに、高度に透明化した透明金魚系統の作出に成功しました。本研究は、主に静岡大学・理学部の学部生であった宇佐駿佑君(現:新居高校教諭)とこの研究を理学部学部生から修士課程、創造科学技術大学院の博士課程まで継続した毛利匠君によりゲノム編集透明金魚系統が作出されて得られた成果です。

【研究背景】
 透明金魚系統はDNAの塩基を一つだけ変化させる化学変異源物質、エチルニトロソウレア(ENU)を和金に作用させることで生まれた突然変異体の中から銀色の色素が形成できなくなり、透明に変化した金魚を選別交配することで2017年に作出されました。透明金魚は稚魚のうちは完全に透明で体内の様子が観察できますが、成長に伴い、白色素があらわれ成魚になると体全体が半透明になります。そこでメダカの研究で解明された白色素細胞の形成に必要な遺伝子であるpax7という遺伝子をゲノム編集技術で遺伝子破壊したら透明金魚をより透明にできると考え、研究を開始しました。ところが透明金魚の卵は通常の卵より柔らかくゲノム編集の溶液を顕微注入することが困難であることが分かりました。そこでゲノム編集自体はまず和金のメスと透明金魚のオスを交配させた受精卵で行い、変異導入が確認された魚を透明金魚と交配することにより透明金魚の形質を持ち、かつゲノム編集された金魚を選抜し、交配を繰り返すことでpax7ゲノム編集透明金魚系統を作出しました。なお、金魚は進化の過程でメダカなどに比べ遺伝情報が2倍に増えるゲノム重複を起こしているので、金魚にはpax7遺伝子がpax7aとpax7bの二つが存在することから、両方の遺伝子についてゲノム編集による突然変異導入を行いました。

【研究の成果】
 作出したpax7ゲノム編集透明金魚系統の内、pax7bのゲノム編集金魚が白色色素を欠損した系統となり、より透明化しました。このことから金魚のpax7aとpax7bの内、pax7bが白色素細胞形成に必要な遺伝子であることが解明されました。

【今後の展望と波及効果】
 蛍光色素を体内に取り込ませて腸を観察したところ透明金魚では体腔に反射して腹部全体が光ったのに対し、pax7ゲノム編集透明金魚系統では腸の形態が鮮明に観察できました。このようにpax7ゲノム編集透明金魚系統では成魚でも体内臓器の観察が可能になりました。高度透明金魚はこのような生体内でのバイオイメージングに貢献できると考えます。

【論文情報】
掲載誌名: Fish Physiology and Biochemistry

論文タイトル: Pax7 is involved in leucophore formation in goldfish and gene knockout improves the transparency of transparent goldfish

著者: Takumi Mouri ・ Syunsuke Usa ・ Toshinobu Tokumoto

DOI: https://doi.org/10.1007/s10695-024-01364-z

【研究助成】
科学研究費補助金 基盤研究C 23K05830

【用語説明】
 pax7:Paired-box7、ペアードボックスという遺伝子結合領域をもつ転写因子遺伝子ファミリーの7番目の遺伝子。それぞれの遺伝子結合領域と合致した配列を遺伝子前方の遺伝子のスイッチとなる配列にもつ遺伝子群の転写(mRNAの合成)を誘導する。Pax7は本研究成果も含め白色素細胞形成に必要な遺伝子群の転写誘導を行うことが示された。

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