中国進出の日本企業、ピークから1千社・1割減 2024年は約1.3万社 中国事業の再編・撤退目立つ

2024/08/01  株式会社 帝国データバンク 

日本企業の「中国進出」動向調査(2024年)




日本企業の中国進出が曲がり角を迎えている。中国政府の政策や中国経済への先行き懸念に加え、米中対立によるサプライチェーンへの影響といった観点から、拠点を中国に集中させることへのリスク=「チャイナリスク」が顕在化し、投資意欲の低下が日本企業でも顕著となっている。

帝国データバンクの調査では、中国に現地法人や生産拠点などを有する日本企業の数は約1万3000社に上った。コロナ禍で中国事業の撤退や縮小が相次いだ2年前に比べて約300社増加したものの、コロナ禍前の水準には届かなかった。現地法人の統合や合弁の解消、東南アジアへの移転などが水面下で進んでおり、日本企業の中国ビジネスに対する慎重な姿勢が鮮明となっている。

<調査結果(要旨)>
- 中国進出の日本企業、2024年で1万3034社 22年比では328社増
- 「上海市」が約1千社・1割超の大幅減、沿岸部で減少傾向目立つ 内陸部は増加
- 全業種で2年前から「増加」 不動産開発を背景に「建設業」の増加が目立つ
- 中国事業の統合・整理、生産拠点で加速する可能性 サービス・販売は進出続く

本調査は、帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」(2024年6月時点、約147万社収録)及び信用調査報告書ファイル「CCR」(約200万社収録)、各社の公開情報などを基に、中華人民共和国(本文以下「中国」、香港・マカオの両特別行政区を除く)に対して現地法人や関係会社・関連会社の設立及び出資、駐在所・事務所の設置などを通じて進出する日本企業を対象に集計を行った。なお、同様の調査は2022年に続き8回目。


中国進出の日本企業、2024年は1万3034社 22年比では328社増
中華人民共和国(以下「中国」、香港・マカオ両特別行政区を除く)に進出する日本企業は、2024年6月時点で1万3034社判明した。2015年(1万3256社)以降の10年間で222社・1.7%の減少となったほか、過去の調査で最も進出社数が多かった2012年(1万4394社)に比べると1360社・9.4%少なく、対中進出意欲はピークアウトの傾向がみられる。





2010年の調査開始以降で最少となった前回調査の2022年(1万2706社)と比較すると、新たに現地法人や工場拠点、駐在事務所などを開設した「新規参入」が1571社、拠点閉鎖など「撤退・所在不明」が1243社判明し、2年間で328社の純増となった。日本企業で対中投資マインドに悪化の兆しがみられるなか、コロナ禍で中国ビジネスの見直しが急速に進んだ2020~22年に比べると、総じて日本企業の進出数は微増で推移した。

新規参入と撤退・現況不明の企業を業種別にみると、いずれも「製造業」「卸売業」の割合が高かった。2022年に比べると、新規参入で「建設業」の割合が高まった。

水面下での中国事業の見直し、進出企業数の増減以上に「活発化」している可能性
中国は安価で豊富な労働力を有し、14億人超の人口規模が生み出す世界最大級のマーケットでもあることから、日本企業でも現地生産・販売拠点を積極的に開設し、強固で複雑なサプライチェーンを日中間で構築してきた。しかし、近年はコロナ禍で中国当局によるロックダウン政策で長期の操業停止や物流・供給網の寸断などを余儀なくされたほか、円安の影響や中国国内の人件費上昇、環境規制の強化などで「輸出基地」としての魅力は低下してきている。また、「反スパイ法」の施行による現地従業員の安全確保に関する課題、米国による中国への規制強化なども背景に、外資企業が負う中国事業の「予見できないリスク」が近年急速に高まり、欧米企業などを中心に中国ビジネスを嫌気した「脱・中国」の動きが進んでいる。



日本企業でも、直近2年間で中国に進出する企業数には大きな変動がみられなかったものの、現地法人の統合・整理など、積極的な拡大から事業規模の維持・縮小へと事業戦略を転換させる動きや、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国や日本国内に拠点を移設・分散させるサプライチェーン再編の動きも目立ち、企業における中国事業の重要度は低下の兆しをみせている。水面下での中国事業に対する意欲は、進出企業の増減数以上に減退しているとみられる。

「上海市」が約1千社・1割超の大幅減、沿岸部で減少傾向目立つ 内陸部は増加
具体的な進出先では、「上海市」が中国全土で最多の5046社だった。日本企業の工場や物流施設、中国事業の中核拠点といった進出が多かった一方で、ソフトウェア開発などIT企業の進出も目立った。次いで多い「広東省」(1648社)は、広州市のほか深セン市、珠海市などへの進出が多くみられ、業種では製造業が中心だった。「江蘇省」(1636社)は、南京市のほか常州市、連雲港市などへの進出が目立ったが、24年の進出社数では前回調査の2022年時点・2位から、広東省に次ぐ3位と順位が入れ替わった。大連市や瀋陽市への進出が目立つ「遼寧省」(1157社)を含めた上位4地域では1000社を超えており、進出企業は中国東部(華東地方)の沿岸部に集中する傾向がみられた。また、進出地域の調査を開始した2020年以降で初めて、中国全地域で日本企業の進出が判明した。





2022年から比較すると、減少した省・自治区・直轄市は26となり、減少した地域数は1.5倍に増加した。このうち、社数ベースでは「上海市」の減少幅が最も大きく、2022年の6028社から5046社と2年間で982社・16.3%減少し、2020年→22年の272社減を大幅に上回る減少となった。「江蘇省」は同276社、「北京市」は同210社それぞれ減少し、減少社数が100社を超えたのは6地域を数えた。特に、中国沿岸部の大都市で減少傾向が顕著だった。



一方、増加したのは「陝西省」(79社→80社)など3地域で、いずれも中国西部・西北部エリアだった。2022年調査から進出企業数が減少した地域でも、「内モンゴル自治区」(18社→17社、5.6%減)、「湖南省」(52社→43社、17.3%減)などでは減少幅が沿岸部に比べて小さく、内陸部への進出が日本企業にとって選択肢の一つとなっている可能性がある。

また、コロナ禍に突入した2020年調査からの比較では、特に「山東省」の減少幅が大きく、約3割の減少となった。最も減少幅が小さい「江蘇省」は、上海市など近隣都市からの拠点移転や集約化も背景に、13.9%の減少にとどまった。


全業種で2年前から「増加」 不動産開発を背景に「建設業」の増加が目立つ
業種別(日本国内の事業内容に基づく)でみると、最も多いのは「製造業」の5139社で、全体の約4割を占めた。自動車や電化製品など機械器具製造関連で多く、金型製造や各種工作機械、半導体製造装置製造といった業種が特に多かった。



次いで多い「卸売業」は4218社・32.4%を占め、製造・卸売の2業種で全体の7割超を占めた。「卸売業」では、工業用の電気機械器具卸売といった業種で多いほか、婦人服・子供服などのアパレル卸、食品卸などが多かった。

「サービス業」(1803社)は、受託開発ソフトウェアが最も多く、ゲーム開発などパッケージソフトウェアを含めたIT産業がサービス業全体の約3割・500社超を占める。遼寧省をはじめとする地域で、日本向けにシステム開発などのアウトソーシングサービスを展開する現地法人の設立などが多いほか、中国のインターネット利用者をターゲットとしたネット通販サービスや、婚礼業、警備サービスなどB to C業態の中国ビジネス参入が多いことも、各種サービス業が増加する要因となった。




前回調査(2022年)との比較では、8業種すべてで進出企業数が増加した。なかでも、「サービス業」は社数ベースで81社増と最も多く、IT産業の進出が目立った。「建設業」が76社増で続いた。進出社数で全8業種中2番目に多い卸売業(64社増)を上回る増加となったほか、2010年以降で最多となった。ゼネコンなどの総合工事業や設備工事業などの増加が目立ち、2023年にかけて活発化した、中国国内のインフラ開発などが相次いだことも、日本の建設業が中国への進出を決めた要因とみられる。

「金融・保険業」(33社増)は、2022年調査時点から引き続き増加し、建設業と同様、2010年以降で最多となった。大手都市銀行や証券会社のほか、中国・アジア地域の統括機能を有する拠点として進出した事業持ち株会社が多くみられた。

中国事業の統合・整理、生産拠点で加速 サービス・販売は進出続く見通し
欧米諸国を中心に中国とのデカップリング戦略への方針転換が鮮明となるなか、中国に進出する日本企業では中国ビジネスに対する警戒感が広がっている。帝国データバンクが2023年に実施した調査では、「海外進出や取引に対する課題」に対し、中国に進出する日本企業で回答のあった約600社のうち半数が「進出先の政治・経済情勢に関する情報収集」を挙げた。人材の確保や、言語などカルチャー面での不安が上位だった回答全体と比べると、中国進出企業では政治的・経済的なカントリーリスクの高まりに対する不満や不信感が広がっている様子もみられた。中国の人件費増によるコスト面での優位性低下に加え、反スパイ法の改正による中国国内での企業活動内容の制約、不動産市況の悪化やインフレによる経済成長の鈍化、米中対立による経済安保上の問題など複数の「チャイナリスク」が、日本企業の経営課題として漫然と漂っており、拠点閉鎖などで中国ビジネスの相対的な「魅力度低下」が表面化しつつある。




足元では、生産拠点を中心に再編や統合、売却を行い、日本国内へ回帰するケースや、ベトナムやカンボジアなど東南アジアへ経営資源を移転・集中させる動きもある。中国市場を「輸出基地」として捉え、進出を続けてきた製造業などでは、長期的に企業数の減少傾向が続く可能性がある。一方、少子高齢化が進む中国に対し介護サービス産業の輸出や、人気の高まる日本食レストランの出店など、中国国内の新たなビジネスチャンスに焦点を当てた進出事例もあり、小売業やサービス業などB to C産業では進出企業数が増加傾向で推移するとみられる。

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