「東京かわら版」編集部編『落語家の本音―日本で唯一の演芸専門誌が50年かけて集めたここだけの話』が、2024年12月20日(金)朝日新聞出版より発売されました。1974年11月の創刊以来、落語家の絶大な信頼と落語ファンの熱烈な人気を得ている雑誌「東京かわら版」。特に、人気落語家が登場する巻頭インタビューは、毎回、本音トークが満載です。ここから24人を厳選し、1冊にまとめました。さらに、創刊当時の思い出を綴った会長ブログと、若手真打・三遊亭わん丈と社長の対談も収録。どこから読んでも面白い、落語家たちの珠玉の言葉が詰まっています。昭和の大名人から令和の爆笑王まで、あの師匠がここまで喋る!?
半世紀にわたる、「東京かわら版」の巻頭インタビュー。その膨大な記事から、下記24人のインタビューを厳選し、収録しています。
林家彦六/柳家小さん/金原亭馬生/林家三平/桂文治/桂歌丸/立川談志/古今亭志ん朝/柳家小三治/三遊亭円丈/柳家さん喬/五街道雲助/春風亭一朝/柳家権太楼/林家正蔵/柳亭市馬/春風亭昇太/立川志の輔/柳家花緑/柳家喬太郎/柳家三三/三遊亭兼好/春風亭一之輔/桂宮治
「芸談」「修業時代」「師匠と弟子」「好きなネタ」「失敗談」「ライバル」「笑いとは」など、貴重なお話のごく一部をご紹介します。
■柳家小さん「本当に夜寝ちゃあいられないン」
(C)︎横井洋司
あたしがまだ若い時分にね、師匠連中が「お前、夜よく寝られるか?」てェから、「ええ、よく寝ます」てェと、「いいなあ、お前たちはよく寝られてなァ」なんて言われたことがあったけどね。自分がその位置に来て、色々と悩んでいる時にぶつかるとね、本当に夜寝ちゃあいられないン。夜中飛び起きて、しぐさをやってみたり、しゃべってみたりね。それで夢ん中で受けるんだ、バーッと。いいくすぐりだなあ、なんて思って、起きて考えてみるとちっとも良くなかったり…(笑)。そのぐらいでなきゃあ駄目なんだ。上手にはなれないン。
■桂歌丸「噺家になった以上、果たさなきゃいけない責任」
(C)︎横井洋司
私は楽をしたいから苦しい思いをしているんです。苦しい思いをしないで楽しようなんてそうはいきませんからね。じゃあ、歌丸はいつ楽になるんだと聞かれたら、目つぶった時だ、と答えますがね。それが噺家になった以上、果たさなきゃいけない責任だと私は思ってますからね。
■立川談志「人間の業みたいなものでね」
(C)︎横井洋司
一期一会の、その時のフィーリングが見事にできればいいけども、できない場合は無惨な状況で終わる可能性がある。もっともずっとその刃渡りすれすれの芸をしていたわけですけれども。だけどその刃渡りで、見事に渡ったというのが、まあ三度に一度くらいあれば、続けていけるけれども、その都度、転がり落ちるようなことになれば、当然やめるでしょうね。ただ、問題は“やめられるか〞って問題なんです。人間の業みたいなものでね。
■古今亭志ん朝「古いまんまの形でした方が、かえって新しい」
生きて、自分がそれをはたして分かりやすく理解できているかどうか、これが一番問題になりますよね。だから逆にね、妙に新しいものに直すよりは、古いまんまの形でした方が、かえって新しい場合もあるしね、それはその都度、その噺に対する自分の解釈のしかたひとつじゃないかしらねー。えー、だから、その昔のまんまこういう風に教わったから、そのまんまってんでは、それこそほんとに現代とギャップが出来ちゃうでしょう。
■柳家小三治「どんな暮らしをしてたって、貧しくはない」
おれたちはねェ、金があるのないの、家を建てた建てないのって、そんなことじゃなくて、ただ好きで(噺家に)なったと思ってるんですよ。それを好きでいる限り、どんな暮らしをしてたって、貧しくはない。だから、「芸術家に貧乏はいませんわ」って言葉に嗚咽してしまった。
■三遊亭円丈「日本人は変わらないものが好きなんです」
古典落語は滅びない。滅びてもいいのに滅びないんだ(笑)。農耕民族ですから、毎年同じ事を繰り返すことに意味がある。「笑点」が長寿番組で高視聴率なのもそう。日本人は変わらないものが好きなんです。新作は変わりすぎるからだめなんだ(笑)。
■柳家さん喬「人の噺は聞かなきゃダメですね」
(C)武藤奈緒美
やっぱり人の噺は聞かなきゃダメですね。権ちゃん(柳家権太楼)なんかと会やってるとね、聴いてて「なるほどね、こういう風にやりたいわけね」って思う。「権ちゃんさ、あのサゲこういう風にやった方がいいよ」って言ったりすると、あの人素直なところあるから、「それやらしてもらう」って、それからそういうサゲでやってるときありますよ。逆に自分も「あ、今、権太楼入ってる」って思うときあるン。
■五街道雲助「あれは仕事をしたなという気がした」
(C)︎横井洋司
落とし噺で好きなのは「明烏」。あんな洒落てて粋な噺はない。それ以外では、一応仕事として残せたなと。思うのが「双蝶々」。芝居がかりの『権九郎殺し』の部分を復活できて、それを入れて通しのDVDを出せて、あれは仕事をしたなという気がした。
■柳家権太楼「俺の噺には仁鶴師匠の影響もあるんだ」
(C)︎横井洋司
大阪ローカルの「平成紅梅亭」ってテレビ番組のビデオテープを放送後すぐ知人が送ってくれてたの。その中でも仁鶴師匠はめちゃくちゃ面白かった。だから俺の噺には仁鶴師匠の影響もあるんだ。みんな枝雀師匠だと思ってるけど。あの頃は、「時そば」より「時うどん」の方が面白いぞ、なんて向こうの噺がどう演られてるのか分析してた。
■春風亭昇太「高座に上がる前に勉強させていただきますって言うな」
ウチの師匠は絶対に受けようとしてました。僕もお客さんにはお金を払って来ていただいた分、楽しんでもらうことを一番に考えています。だから、ネタ選びにこっちの都合はどうでもいいし、お客さんに合わせる。僕の手帳には「トリネタを気取るな」って落語をやるときの注意書きがあります。トリとかとると何か大きなネタをと思っちゃうじゃないですか。そういうことはウチの師匠・柳昇から学んだことです。弟子にも「高座に上がる前に勉強させていただきますって言うな」って言ってます。「結果出してきます」っていうならいいけど。お金払ってね、勉強なんかされたらお客さんは堪りませんよ。
■柳家喬太郎「今またやってもいいのかな的な気がしてきましたよね」
(C)︎横井洋司
「純情日記」が一時、できねえなっていう時はあった。やっぱり変に中途半端に歳取っちゃったからできない。やったら気持ち悪いよねっていう時代。その歳を少し抜けてきたのかな、今またやってもいいのかな的な気がしてきましたよね。
■柳家三三「落語の魅力が最大限発揮されるための作業」
(C)︎横井洋司
意識した部分が集中して高座で実行出来てる時って楽しいですよ。落語の魅力が最大限発揮されるための作業をしてると、僕の一番悪い癖であるお客の顔色を気にしながらブレるっていう余地が少なくなるんでしょうね。これまでは軸がないから、いい案配で合わせるんじゃなくて、おもねってブレてたわけです。それがちょっと解消されてるんでしょうね。
■春風亭一之輔「やっぱり10日間出たいです」
(C)︎キッチンミノル
もう寄席に上がりたくてしょうがない。交互出演が悔しい。5日くらいしか出ないと寄席でやってる感じがしないんで、やっぱり10日間出たいですよ。
■桂宮治「誰だろうって出たら木久扇師匠」
昨年末の収録の前日に知らない番号から携帯電話にかかってきて、誰だろうって出たら木久扇師匠。「緊張してるのわかるけど、僕も初めての収録の日があったんだよ。先輩とか後輩とか関係ないんだよ、どんどんどんどん来て、みんなで盛り上げていこう」って言ってくださった。泣いちゃいますよね。示し合わせたかのようにその後に電話が鳴って、今度は好楽師匠だったんです。ベロベロに酔っぱらってました(笑)。
『落語家の本音』編者・「東京かわら版」編集部について
「東京かわら版」 日本で唯一の寄席演芸専門の情報誌。創刊号は1974年11月号。落語・講談・浪曲・漫才・マジック・太神楽・紙切り・コントなど、寄席演芸とお笑いに関する情報が、コンパクトな誌面にぎっしりと詰まっている。演芸会情報は、寄席定席(鈴本演芸場・浅草演芸ホール・末広亭・池袋演芸場・国立演芸場)情報のほか、関東圏内で開かれる大小の会をとりまぜて毎月1000件以上を掲載している。落語ファンや演芸業界に愛されている月刊誌である。
『落語家の本音』目次
第1章 昭和の名人たち、大いに語る――今は亡き大看板の本音
第2章 高座の人気者たち、熱く語る――現役落語家の本音
第3章 創刊号の落語会情報は18本――会長ブログ「いのど~ん」一挙掲載
第4章 若手真打にとって「東京かわら版」とは?――三遊亭わん丈・社長の本音対談
『落語家の本音』
編者:「東京かわら版」編集部
定価:2970円(本体2700円+税10%)
発売日:2024年12月20日(金)
体裁:480ページ 四六判
https://www.amazon.co.jp/dp/4022520221