パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニックHD)は、株式会社電通グループと共同で、「Self-Sovereign Information Environment(SSIE:自己主権型情報環境)」の研究成果を環境・サステナビリティ分野の国際学会「SGEM Vienna GREEN 2025」にて発表しました。
本研究は、環境課題や人権課題などに取り組む市民参加型プロジェクトにおいて、「なぜ社会貢献活動が続かないのか」という問いに対し、Web3やブロックチェーン技術を活用しながら、個人が自らの行動データの主導権を持てる新しい情報基盤のあり方を検証した、実証結果をまとめたものです。
近年、カーボンニュートラルや人権尊重に向けて、企業・自治体・NPOなどがさまざまな社会貢献プログラムや行動変容を促すアプリ、ポイント制度を展開しており、その多くが、企業や行政がデータを集中管理する「カストディアル型(custodial)」を採用しています。しかしこうした取り組みは、「提供した情報の用途が利用者から見えにくい」、「参加者自身がデータの制御権を持てない」、「プラットフォームごとに仕組みが異なり、サービスが変わると参加履歴が途切れてしまう」など、「一時的な参加にとどまり、継続的な活動がしにくい」という構造的な課題が指摘されています。
今回発表したSSIEでは、こうした課題に対して“ユーザーが行動記録の主権を持つ”という「構造的主権(Structural Sovereignty)」の考え方に基づき、「カストディアル型」とは異なった、「透明性(行動記録の流れや検証プロセスが外部から確認できること)」・「プライバシー(個人が特定されない形でデータを扱えること)」・「自律性(参加者自身が、どのデータを、誰と、どの範囲で共有するか決められること)」・「検証可能性(社会貢献活動の成果が、第三者からも確認できること)」の4つを並立させる新しい情報環境を提供します。
論文では、SSIEが中央管理者に依存せず機能するための4層アーキテクチャを定義しています。
1. Sensing Layer(行動記録)
学習参加、ボランティア活動、寄付など、市民の行動を時系列で記録します。
2. MRV Layer(検証:Measure-Report-Verify)
行動記録が事実に基づくものかを、関係者による確認やデジタル証跡によって検証します。
3. Tokenization Layer(行動証跡NFT化)
検証済みの行動記録をNFT(非代替性トークン)として発行し、改ざん困難な形で保存します。
4. Incentive Layer(金銭に依存しない認証インセンティブ)
金銭だけに依存せず、認証バッジや評価指標など、「やりがい」「信頼」といった非金銭的価値をインセンティブとして設計します。
本研究ではこれらが実証で問題なく作動し、プライバシー・透明性・継続性を両立したデータ処理が成立することを確認しました。
<本プロジェクトの今後について>
パナソニックHDおよび電通グループは、本実証成果を踏まえ、SSIEアーキテクチャが、地域コミュニティ、教育、そして環境・サステナビリティ領域のような、国内外の多岐にわたる社会課題へ応用可能であると考えています。
まずはサステナビリティをテーマとした国際学会において、個人レベルで実行可能な「環境課題へのエンゲージメント行動」と、既存のカーボンクレジットや温室効果ガスの排出削減などの環境分野における「社会的インパクト指標」を結びつけることで、持続的な行動参加を促す基礎技術としてのSSIEの可能性について深く掘り下げ、研究・技術展開をさらに強化していく予定です。将来的には、このSSIEアーキテクチャを様々な社会課題解決に応用することで、より広範なサステナブル社会の実現に貢献していきます。
<関連情報>
今回参加する国際学会では、両社が共同ホストとなり、国内外のサステナビリティ政策、グリーン変革(GX)、データガバナンス分野の有識者が集うワークショップを開催します。ワークショップでは、SSIEアーキテクチャの有効性、実証プロセスの透明性、環境領域における応用可能性について議論します。
■開催概要
【タイトル】Why don't social contribution activities last? And Why is Citizen Participation Still Limited? - Self-Sovereign Information Environments for Global Sustainability
【日時】2025年12月4日(現地時間11:30~12:30)
【会場】国際学会 SGEM Vienna GREEN内(Room Leopold)
【主催】パナソニックHD/電通グループ
【内容】SSIEの技術解説とインド・日本の実証報告に加えて環境・サステナビリティ領域への応用可能性に関して参加者とディスカッション
【お問い合わせ先】
パナソニック ホールディングス株式会社 コーポレートR&D戦略室 技術広報担当
Email:crdpress@ml.jp.panasonic.com