2026年の景気見通しに対する企業の意識調査

株式会社帝国データバンクは、企業における2026年の景気見通しについてアンケート調査を行った。
SUMMARY
2026年の景気見通しは、「回復局面」が前年比3.3ポイント増の11.0%となり2年ぶりに1割台まで改善した。「悪化局面」は17.4%と前年より6.5ポイント減少、4年ぶりに2割を下回った。「踊り場局面」は43.0%(前年41.7%)と4割を超えて最も割合が高い。景気の懸念材料では、「インフレ」が45.8%でトップとなり、連動するように景気回復に必要な政策では、「個人向け」の対策に注目が集まった。物価上昇の進行が続くなか、可処分所得を増加させ、個人消費の拡大を促すことが喫緊の課題となっている。
調査期間は2025年11月14日~11月30日。調査対象は全国2万4,531社で、有効回答企業数は1万207社(回答率41.6%)。なお、景気見通しに対する調査は、2006年以降毎年実施し、今回で20回目
調査期間:2025年11月14日~11月30日(インターネット調査)
調査対象:全国2万4,531社、有効回答企業数は1万207社(回答率41.6%)
2026年の景気見通し、「回復局面」は11.0%高市政権への期待感の高まりが寄与し、前年比3.3ポイント増
2026年の景気見通しについて尋ねたところ、「回復局面」になると見込む企業は2025年の景気見通し(2024年11月調査)から3.3ポイント増の11.0%となり、2年ぶりに1割台まで改善した。企業からは、「高市政権が、現在の調子で改革を進めていき、国民の多くが効果を実感できるようになれば、景気は回復していく」(旅館、愛媛県)など高市政権に対する期待の声が多く寄せられた。
一方で、「踊り場局面」は43.0%(前年41.7%)と3年連続で4割を上回り、「悪化局面」と見込む企業は、17.4%(同23.9%)だった。企業からは「株高や積極財政により、一部はバブルの様相で好景気になる半面、多くの企業や国民には恩恵が少なく、さらなる格差が広がる」(家電機械器具小売、新潟県)など好影響は限定的で、格差拡大の懸念による先行き不安の声も聞かれた。また、「分からない」と見込む企業は28.6%(同26.7%)で、高市政権への期待感から見通しは僅かに明るくなったものの、トランプ関税や日中関係の動向など、依然として先行きに対する不透明感の強さが継続していることがうかがえる。
規模別でみると、「回復局面」では『大企業』が11.5%、『中小企業』が10.9%、中小企業のうち『小規模企業』が10.5%だった。一方で、「悪化局面」では『大企業』が12.8%、『中小企業』が18.2%のなか、『小規模企業』が21.8%で2割台となり、規模が小さいほど見通しを厳しく捉えている結果となった。
業界別でみると、「回復局面」では『金融』(12.7%)が最も高かった。以下『サービス』(12.1%)、『製造』『小売』(11.5%)が続き、『運輸・倉庫』(9.0%)が最も低く、すべての業界で10%前後だった。他方、「悪化局面」では『小売』(23.3%)が唯一の2割台で最も高く、『卸売』(19.3%)、『不動産』(18.8%)が続き、『金融』(10.2%)が最も低かった。
2026年の景気の懸念材料、「インフレ」がトップ 前年比14.3ポイント増と急上昇
2026年の景気に悪影響を及ぼす懸念材料を尋ねたところ、「物価上昇(インフレ)」が45.8%(前年31.5%)で、前年から14.3ポイント増と急上昇し、最も高かった(複数回答3つまで、以下同)。以下、「人手不足」(44.5%、前年41.6%)や「原油・素材価格(の上昇)」(35.9%、同46.2%)、「為替(円安)」(30.4%、同30.7%)が続いた。
2025年の物価上昇は、「物価高が喫緊の課題になっている。主食のコメの店頭値段が昨年の倍では厳しすぎる」(米菓製造、長野県)とあるように、特にコメの価格が前年から大幅に上昇し、家計への負担が増加するなど、主に飲食料品関連の価格上昇が影響を及ぼしていた。加えて、人手不足を背景に名目賃金が上昇し、その一部がサービスや商品の価格に転嫁されるなど、インフレ基調が続いているほか、円安の影響により、輸入食料品や日用品の価格も上昇し、全体的な物価高を加速させている。さらに、原油や素材価格は2022年をピークに緩やかな低下傾向を示しているものの、高水準を維持しており、依然として物価高の要因となっている。

これらのコストプッシュ型のインフレは2026年も継続するとみられ、収益の圧迫など企業に対する悪影響だけでなく、一般消費者にもさらなる負荷となる可能性がある。企業からは、「お客さまが以前よりも値上げに敏感に反応する、相対的に安いものに飛びつくなど購買余力の限界を感じることが多くなってきており、少しずつ財布のひもがかたくなっている印象がある」(花・植木小売、北海道)など、インフレによる一般消費者の節約志向の高まりを懸念する声が寄せられた。
そのほか、「現在のトランプ関税の影響による米中対立および日中関係の悪化による経済への影響が出てきて、景気を悪化させるのではないかと危惧している」(工業用樹脂製品製造、愛知県)のように、トランプ関税や日中関係の悪化による懸念も挙げられた。
景気回復に必要な政策、「個人向け減税」が38.3%でトップ 「個人向け」の対策に注目が集まる
今後、景気が回復するために必要な政策を尋ねたところ、「個人向け減税」が前年比1.3ポイント減の38.3%でトップとなった(複数回答、以下同)。以下、「人手不足の解消」(37.0%)や「所得の増加」(36.6%)、「中小企業向け支援策の拡充」(36.0%)、「物価(インフレ)対策」(32.1%)、「個人消費の拡大策」(31.0%)が続いた。

上位10項目中、1位の「個人向け減税」、3位の「所得の増加」、6位の「個人消費の拡大策」は、いずれも個人に対する対策だった。これら3項目のうち少なくとも1つ選択している企業の割合は64.2%となり、「個人向け」の対策に注目が集まっていることがうかがえる。企業からは、「物価高、最低賃金の見直しが続き、中小零細企業は苦しい状況が続いている。食料品など消費税減税に期待している」(米菓製造、長野)や、「賃上げを行っても、控除される所得税および社会保険料が増加して収入が増えた実感は少ない。その部分を是正しなければ個人消費の拡大にはつながらず、本当の景気回復には結び付かない」(建設・鉱山機械卸売、広島県)などの声が多く聞かれた。物価の上昇が続くなか、企業努力による賃金上昇のみでは根本的な消費拡大につながらない。消費税の減税や年収の壁引き上げに加え、社会保険料の減額を行うことによる可処分所得の増加で、個人消費の拡大を促すことが景気回復への喫緊の課題となっている。
また、「最低賃金の引き上げ・雇用獲得のための初任給引き上げなどにより中小企業の体力を問われる。政府によるテコ入れがなければ、倒産や廃業する企業が増えるのではないか」(印刷、福岡県)など、「人手不足の解消」や「中小企業向け支援策の拡充」といった企業向けの支援策も必要とされている。
本調査の結果、2026年の景気見通しを「回復局面」と見込む企業は2年ぶりの1割台、「悪化局面」と見込む企業は4年ぶりの2割未満となった。また、「踊り場局面」と見込む企業は4割台が続き、「分からない」と見込む企業は約3割となった。高市政権に対する期待感により見通しは僅かに明るくなったものの、トランプ関税や日中関係の動向など、依然として先行きに対する不透明感の強さが継続していることがうかがえる。
懸念材料では、「物価上昇(インフレ)」が前年から急上昇してトップとなり、大幅に懸念が高まった。2025年は、2021年頃から続く物価上昇の波が継続しており、価格転嫁や円安の進行などが重なり、全体的な物価高を加速させている。特にコメの価格が前年から大幅に上昇し、家計への負担が増加するなど、主に飲食料品関連の価格上昇が影響を及ぼしていた。また、台湾問題を巡る日中関係の悪化は、2026年の景気に影を落とすのではないかと不安視されている。加えて、一度落ち着いたようにみえるトランプ関税を発端とした米中の貿易戦争が再燃する可能性もある。中国がトランプ関税の報復措置としていたレアアースの輸出規制の強化などの話が再度浮上すれば、日本のみならず世界経済にも大きな影響を及ぼす。
景気回復に必要な政策では、「個人向け減税」がトップだったほか、「所得の増加」「個人消費の拡大策」を少なくとも1つ選択している企業の割合が6割台となり、「個人向け」の対策に注目が集まっていることがうかがえる。インフレ懸念が強まるなかで、企業による賃上げのみでは物価上昇を上回る可処分所得の増加は困難を極める。消費税の減税や年収の壁引き上げに加え、社会保険料の減額など可処分所得の増加によって個人消費の拡大を促し、景気回復への活路を見出す政策が求められる。
主な企業からの声
- 政府の経済対策次第ではあるが、所得税の減税など個人に還元することで個人消費を促し、景気が上向くことを期待している(損害保険代理)
- 景気は、気分が重要な要素でもある。高市政権の誕生で国民が沸いていることで、今後少しずつ上向くのではないか(食肉小売)
- 株価の上昇・積極的な財政投入など景気を上昇させる政策が多く聞こえてくる。建築は景気に左右される分野でもあるため、景気上昇は歓迎である(木造建築工事)
景気見通しにネガティブな意見
- 物価高が賃金上昇を上回っており、これ以上の賃金上昇は、当社のような中小企業では支払いが難しくなる。今後も物価高の影響で景気改善は厳しいと感じるため、消費税減税など大胆な政策を行ってほしい(コンビニエンスストア)
- 中国との関係が悪化しており、経済や人的交流への影響が今後出てくると思う。また、円安が進行しており、政府の経済対策の効果が出るか不安(中華・東洋料理店)
- 円安による輸出企業の稼働率上昇に期待したいが、国内の人手不足や資材価格の高騰により、資材の海外調達が目立ち、中小製造業の大きな回復は難しいと考えている(合成樹脂シート製造)