「紙と属人化」が図面・書類業務を圧迫、予算確保の壁は「費用目安の不明確さ」か
J-COMSIA施工管理ソフトウェアデータベース: https://www.jcomsia.org/software/

調査期間:2025年11月1日~12月15日 調査方法:各自治体へのアンケート調査
一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会(以下、J-COMSIA)は、自治体における建設DXの現状と課題を把握するため、全国の自治体職員を対象に「建設DXと業務プロセスに関する実態調査」を実施しました。
本調査では、工事管理業務で最も負荷が高い工程は「図面の作成・修正・共有(29.2%)」および「提出書類(施工計画書、日報など)の作成・確認(26.8%)」であり、図面・書類業務に負荷が集中していることが分かりました。
さらに、図面や設備台帳の管理方法は「紙が正本で書庫保管(41.6%)」が最多で、紙・Excel・専用システムの混在や属人的管理も一定数見られました。
DX施策は電子納品などの基盤的施策で一定の運用が見られる一方、BIM/CIMや点群活用など高度な施策は「関心はあるが運用/検討の予定はない」が過半となり、推進の壁として「予算」「人材不足」「施策理解不足」が上位に挙がりました。
調査期間:2025年11月1日~12月15日
調査方法:各自治体へのアンケート調査
有効回答数:209
実施主体:一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会(J-COMSIA)
- 自治体区分は、市・町・村が182件(87.1%)で大半を占めました。次いで中核市14件(6.7%)、政令指定都市9件(4.3%)、都道府県2件(1.0%)、その他2件(1.0%)でした。
- 回答者の所属部署は、建設・土木関連部署が139件(66.5%)、営繕・施設管理関連部署が40件(19.1%)で中心となりました。
- 職位は、係員・主事・技師が78件(37.3%)、主任・主査が61件(29.2%)、係長・担当係長が39件(18.7%)でした。
- 工事管理業務で最も負荷が高い工程は「図面の作成・修正・共有(29.2%)」と「提出書類の作成・確認(26.8%)」でした。図面・設備台帳の管理は「紙が正本で書庫保管(41.6%)」が最多で、「混在管理(26.3%)」「属人的管理(19.6%)」も多く見られました。
- 管理方法の課題(複数選択、回答あり183件)では「異動時の引き継ぎが困難(55.7%)」「過去履歴の検索に時間(53.0%)」が上位でした。
- 建設DX施策は、電子納品で「運用中+試行中」が39.2%ある一方、BIM/CIMは5.7%、点群出来形は5.3%に留まり、「関心はあるが予定なし」が過半数でした。
- DX推進の課題(最大3つ選択)は「予算獲得が難しい(56.5%)」「人材不足(52.6%)」「施策理解不足(47.4%)」が上位でした。
こうした建設DXの流れを受け、施工管理ソフト市場は「業務を支援するツール」から「行政・現場・ベンダーを結ぶ情報基盤」へと進化。J-COMSIAはこの変化に対応し、施工管理ソフトの標準化と品質評価の透明化を目的に、本データベースを構築しました。
J-COMSIAの会員企業数は年々増加しており、登録ソフトウェア数は5年間で約2.2倍に拡大。現在では74社191ソフト(2025年度11月時点)に達し、主要ベンダーを広く網羅しています。

工事管理業務の負荷調査
工事管理業務の中で最も負荷や工数がかかっている工程として、「図面の作成・修正・共有」が29.2%(61件)で最多となりました。次いで「提出書類(施工計画書、日報など)の作成・確認」が26.8%(56件)となりました。工事写真の整理・確認・管理(15.8%)や関係者との連絡・調整(15.8%)も一定割合を占めています。
この結果は、工事の進捗や品質を担保するために必要な「図面」「書類」「写真」といった成果物の整備と確認作業が、業務負荷の中心になっていることを示しています。現場側の作業だけでなく、発注者側でも確認・検査・承認の手続きが積み重なる構造になりやすく、改善の効果が出やすい領域がこの周辺に集中していると考えられます。

図面や設備台帳の主な管理方法を調査
図面や設備台帳の主な管理方法は、「紙の図面・台帳が正本で、書庫等で保管」が41.6%(87件)で最多でした。「紙、Excel、専用システムが混在し、一元化できていない」が26.3%(55件)、「Excelや共有フォルダでデータ管理しているが属人的」が19.6%(41件)と続きました。専用の台帳管理システムやGISを導入済みは10.5%(22件)に留まります。
また、現状の管理方法における課題(複数選択、回答あり183件)では、「担当者しか場所や内容を把握しておらず、異動時の引き継ぎが困難」が55.7%(102件)、「過去の修繕履歴の検索・参照に時間がかかる」が53.0%(97件)が上位でした。「設備や施設の状態把握(点検結果など)がリアルタイムでできない」も46.4%(85件)と続きます。
この結果は、単に「電子化している/していない」の問題ではなく、情報が散在し、更新・参照・引き継ぎが難しいことが、日常業務の摩擦になっていることを示唆します。DX施策を前に進める以前に、図面・台帳・履歴情報が「誰でも探せて、追えて、共有できる」状態に近づける必要性が高いと言えます。

建設DX運用状況を調査
建設DX施策の運用状況を見ると、電子納品(写真、図面を含む)は「運用中」が24.4%(51件)、「試行中」が14.8%(31件)で、「運用中+試行中」の合計は39.2%(82件)でした。一方で「関心はあるが運用/検討の予定はない」も41.1%(86件)と拮抗しています。
情報共有システム(ASP)は「運用中+試行中」が24.9%(52件)に留まり、「関心はあるが予定なし」が45.0%(94件)でした。遠隔臨場は「運用中+試行中」が10.5%(22件)で、「関心はあるが予定なし」が53.6%(112件)となりました。BIM/CIMは「運用中+試行中」が5.7%(12件)で、「関心はあるが予定なし」が53.1%(111件)です。点群を用いた出来形管理も「運用中+試行中」が5.3%(11件)に留まり、「関心はあるが予定なし」が54.1%(113件)でした。
このように、電子納品などの基盤施策は一定の運用が進む一方で、設備投資・体制整備・運用設計や受注者側の対応まで含む施策ほど、関心があっても計画に落ちにくい傾向が見られます。導入を前提としたガイド、費用感、手順、先進事例といった「実行のための情報」が不足している可能性が高いと考えられます。
電子入札は「導入済み」が50.7%(106件)でした。一方で電子契約は「未検討」が32.5%(68件)で最多となり、「導入済み」は22.5%(47件)に留まりました。入札は進んでいるが、契約は検討・導入が遅れやすい構図が確認できます。
施工業者との情報共有・連絡手段(複数選択)では、「電子メール」84.2%(176件)、「電話・FAX」81.8%(171件)が中心でした。「対面での打ち合わせ・書類受け渡し」も47.4%(99件)と一定割合を占めています。ASP等の情報共有システムは16.7%(35件)、ビジネスチャットは4.8%(10件)に留まりました。
連絡基盤が従来型のまま残ると、提出書類や写真の差し戻し、最新データの共有、確認事項の履歴管理が「人に紐づく」形になりやすく、結果として図面・書類・写真の負荷が下がりにくい状況につながります。連絡・共有の基盤整備は、工事管理の負荷軽減に直結しやすい論点と考えられます。
国や業界団体が標準ガイドラインを策定する場合に統一・標準化してほしい項目は、「提出書類の標準フォーマット(施工計画書、日報など)」が58.4%(122件)で突出しました。次いで「工事写真の電子納品ルール」が13.9%(29件)、「図面(CAD)データの標準レイヤ・形式」が9.1%(19件)でした。
標準化で期待する効果は、「発注者(自治体職員)の書類確認・検査業務の工数削減」が33.0%(69件)で最多となりました。次いで「受注者の書類作成・提出の効率化」が21.5%(45件)、「発注者・受注者間の手戻りや認識齟齬の減少」が21.5%(45件)でした。

建設DX推進の課題を調査
一方、DX推進の課題(最大3つ選択)は、「予算獲得が難しい」56.5%(118件)、「人材不足」52.6%(110件)、「施策理解不足」47.4%(99件)が上位でした。さらに、業務改善やDX化のために年間で確保できる(または確保したい)予算規模は「わからない」41.1%(86件)、「特に決まっていない」26.8%(56件)で、予算枠の不明確さ自体が推進の難しさに影響している可能性があります。
「予算がない」という回答の背景には、単なる財政難だけでなく、「いくら予算を確保すれば何ができるのか」という費用対効果のモデルケースが不在であることが、最大の障壁となっている可能性があります。
また、他自治体の事例として知りたい情報は、「費用感」56.0%(117件)、「効果(効率化の度合い等)」50.7%(106件)、「導入から本格運用までの手順」38.3%(80件)が上位でした。ツールの有無以上に「どう進めると失敗しにくいか」という実務知の整備が求められている状況が読み取れます。
本調査から、自治体の建設DXは「関心」はある一方で、図面・書類・写真・連絡の基盤が整いきらず、さらに予算・人材・進め方の不足が重なり、運用段階まで到達しにくい実態が確認されました。
特に、回答自治体の大半を占める市町村では、紙正本や混在管理、属人化が残りやすく、まずは提出書類・図面・写真を中心とした標準化と情報の一元管理が、現場負荷の低減に直結しやすい論点だと考えられます。
本調査により、自治体の建設DXにおいて真に求められているのは、高度な3次元技術の導入以前に、日々の「図面・書類」のデジタル整理と標準化という、足元の業務環境の整備(守りのDX) であることが示唆されました。
J-COMSIAは、自治体における建設DXの推進を、ツール導入の議論だけでなく「進め方」「運用設計」「標準化」の観点から支援していきます。具体的には、自治体職員向けの勉強会の開催、導入プロセス・費用感・効果を共有できる先進事例づくり、発注者・受注者・ベンダーが共通の前提で議論できる場の設計に取り組み、現場の負荷を下げながら持続的にDXが進む環境づくりに協力してまいります。
また施工管理ソフトウェアデータベースを活用し、各自治体が自らの業務課題に応じて適切なツールや導入ステップを選択できる環境づくりが重要となります。機能や活用領域、費用感、先行事例を整理・可視化することで、「何から着手すべきか」「どの程度の投資で効果が見込めるか」を具体的に示し、現場負荷の軽減と持続的な建設DXの推進につなげていきます。
施工管理ソフトウェアデータベースの概要
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