非可食バイオマスを用いた糖製造技術の実証について~持続可能な原料から繊維・樹脂・フィルム製品を創出~

2023/04/17  東レ 株式会社 

非可食バイオマスを用いた糖製造技術の実証について
~持続可能な原料から繊維・樹脂・フィルム製品を創出~

2023.04.17

東レ株式会社



東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺 昭廣、以下「東レ」)は、このたび、製糖工場で発生するサトウキビ絞りかす(余剰バガス※1)およびでんぷん工場で発生するキャッサバ芋絞りかす(キャッサバパルプ※2)などのバイオマスを原料として、繊維や樹脂を製造する際に共通原料となる、非可食植物由来の糖※3を製造する技術をDM三井製糖株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:森本 卓、以下「三井製糖」)と共同で実証し、基本技術を確立しました。
本技術を、東レが現在開発中の、糖からモノマーを製造する技術と組み合わせることで、バイオマスから繊維、樹脂、フィルム等に用いるバイオマスポリマーの製造を一貫して行うことが可能となり、資源循環型社会の実現を目指します。

本実証は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を得て、タイに設置した実証設備を用いて行いました。本取り組みにおいて、東レは、酵素を活用するバイオ技術と水処理分離膜の技術を融合した「膜利用バイオプロセス」により、非可食バイオマスに含まれるセルロース由来の糖を分離・精製・濃縮する技術をプロセス実証しました。また、省エネ効果として、糖液に含まれる水分を熱によって蒸発させ濃縮する従来の製造システムと比較して、50%以上のCO2削減が可能であることを検証しました(図1)。

【図1】膜分離技術を用いたバガスからの非可食糖製造フロー



また、東レは、非可食糖を原料として、微生物発酵技術と、分離膜を活用した精製技術を組み合わせた独自の合成法により、ナイロン66の原料となる100%バイオアジピン酸を製造する技術を開発しています。今回の成果は、その前段階となるバイオマスから非可食糖を製造する技術を確立し量産化に目処を得たことから、食糧と競合せず豊富に存在する農業残さを原料とした繊維や樹脂などの化学品の一貫製造技術の確立を目指します(図2)。

【図2】非可食バイオマスが化学品原料になるまでの概念図



今後は、タイの製糖企業やでんぷん製造企業などのバイオマス保有者と連携し、非可食糖の供給体制を構築し、現在開発を進めている非可食糖からのアジピン酸製造技術のスケールアップを進めます。さらに、非可食糖をグローバルに化学品企業に提供し、石油由来の化学品を、食糧と競合しない植物由来の製品に置き換えることで、循環型社会の実現に貢献します。

東レは、「Innovation by Chemistry」というコーポレートスローガンの下、新領域への挑戦、社内外連携による研究スピードのアップを推進しています。
その一環として、今後、膜利用バイオプロセスに関して、異業種間でのオープン・イノベーション(連携と融合)を積極的に推進し、バイオマス保有企業や非可食糖利用企業とのサプライチェーンの構築とソリューションの提供を進めてまいります。

なお、今回の技術実証の取り組みは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が進める、エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業「余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業」の一環であり、2017年1月に東レと三井製糖が設立したCellulosic Biomass Technology Co., Ltd.(本社:タイ王国バンコク市、以下「CBT社」)の、タイ王国ウドンタニ県の事業所に建設した実証プラントを用いて、2018年8月から2022年12月まで、製造工程における省エネ効果、生産物の性能、システムの経済性等の検証や評価を行い、2023年3月をもって実証事業を完了しました。タイ政府からは、重要政策として掲げている「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済」の実現に、本技術が大きく貢献すると期待されており、東レは今後タイにおける本技術を活用した非可食糖の供給体制構築を目指します。

【実証事業概要】
1.事業名 : エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業/
余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業
https://www.nedo.go.jp/activities/AT1_00175.html
2.実証事業期間 : 2016年9月~2023年3月
3.実証運転期間 : 2018年8月~2022年12月
4.実施場所 : タイ王国ウドンタニ県
5.施設規模 : 最大バガス処理能力 3,000トン/年(乾燥バガスとして)

【実証技術の詳細】
1.酵素と分離膜を用いて非可食植物を分解、糖に変換
未利用のバガスおよびキャッサバパルプを原料として酵素と反応させることにより、エタノール、乳酸、コハク酸などの発酵原料となる非可食糖を製造し、製造した非可食糖を膜分離により精製・濃縮する技術を、実証プラントで検証しました。
また、バガスを原料とした本技術の実証検証を通して、非可食糖製造においてコスト高の課題となる酵素を膜で回収再利用することにより酵素使用量を50%削減できることを検証しました。さらに膜で糖を精製し、酢酸などの有機酸と非可食糖とを分離することで、発酵性に優れる非可食糖が得られ、可食糖と同等にエタノールやコハク酸へと発酵できることを検証しました。
2.独自の酵素製造技術による化学品製造におけるコスト削減
当社が研究開発した酵素製造技術(トリコデルマ属糸状菌を用いた非遺伝子組み換え酵素生産技術。世界トップレベルにまで酵素生産能力を高めた)のスケールアップ製造に成功し、スケールアップ生産した酵素を用いてタイ実証設備を用いたバガスからの糖製造を実証しました。
この酵素製造技術は、糖製造システムが普及する際に酵素をオンサイトで生産する技術としての活用が期待され、酵素費を削減することで普及的な糖製造システムの構築が期待されます。
3.キャッサバパルプを原料とすることで化学品製造のトータルコストを削減
キャッサバパルプを原料とした非可食糖はキシロースを含まず※4、膜利用糖化プロセスで精製し粘性物質を除去することで、バガス由来の非可食糖と比べてグルコース純度の高い糖液を製造することができ(図3)、発酵での変換効率も良好であることを、実証を通して確認しました。グルコース純度が高く、不純物も少ないことから、ナイロン66の原料となるアジピン酸を含めた各種化学品製造のトータルコストを大きく削減できる可能性があります。

【図3】可溶性固形分に対するグルコース純度



【語句の説明】
1) 余剰バガス
バガスはサトウキビを搾汁した後に残る固形物。タイ王国は、世界有数のサトウキビ産出国であり、バガスの一部は製糖工場ボイラーの熱源として燃焼され、電気としてエネルギー回収が行われている。それ以外の未利用で残った分を余剰バガスと定義した。
2) キャッサバパルプ
キャッサバ芋からタピオカを抽出した後に残る固形物。天日乾燥後に家畜飼料として利用されるが、未乾燥品は保存ができないため、利活用が求められている。
3) 非可食糖
植物から食糧を生産する際に発生する、食糧として用いられない農業残さ(バイオマス)を分解することで得られる、グルコースを主成分とする糖液。
4) グルコースとキシロース
バイオマス由来の非可食糖は、グルコース(微生物が利用しやすい)とキシロース(微生物が利用しにくい)が主成分であり、キシロースが少ない方が化学品の製造効率が良い。通常、バガス由来の非可食糖には、グルコースとキシロースが約2:1の割合で含有されるが、キャッサバパルプ由来の非可食糖にはキシロースがほとんど含まれない。


【ご参考】
■NEDO「エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業」
https://www.nedo.go.jp/activities/AT1_00175.html

■2022年8月24日ニュースリリース
「世界初 非可食バイオマスを原料とする糖からナイロン原料を創出」
https://www.toray.co.jp/news/details/20220817150637.html

■ CBT社 非可食糖製造技術実証プラント(タイ ウドンタニ県)

■2018年7月6日 ニュースリリース
「膜利用糖化プロセスのタイ実証プラント竣工式開催について」
https://cs2.toray.co.jp/news/toray/newsrrs01.nsf/0/259C8D39B2313DB7492582C0002CC23E

以 上



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