第24113号
がん領域や中枢神経領域、疼痛領域など
医療用医薬品5分野30品目の国内市場を調査
― 2033年市場予測(2023年比) ―
■がん領域 2兆3,180億円(25.3%増)
今後は拡大幅が緩やかに。
これまでに比べて少ない新規作用機序の開発品、
大型製品のジェネリック医薬品の台頭が要因
■中枢神経領域 1兆2,561億円(75.9%増)
てんかんや認知症などでは新規作用機序の製品開発が活発。
中長期的には拡大の予想
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 社長 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、新規作用機序の開発品がこれまでと比較して少なく、大型製品のジェネリック医薬品の台頭も予想されるがん領域、てんかんや認知症などで新規作用機序の製品開発が活発な中枢神経領域、片頭痛治療剤の伸長が予想される疼痛領域など、5分野30品目の医療用医薬品の国内市場を調査した。その結果を「医療用医薬品データブック 2024 No.3
」にまとめた。
この調査ではがん領域、抗がん剤関連用剤、中枢神経領域、疼痛領域、経腸栄養剤・栄養輸液製剤について最新の市場動向をまとめ、将来を展望した。なお、免疫疾患やアレルギー疾患などの治療剤市場については調査結果の概要を2024年4月に、生活習慣病や循環器疾患、希少疾患の治療剤市場については2024年5月に発表した。
◆調査結果の概要
■がん領域
市場は2023年まで、分子標的治療剤や免疫チェックポイント阻害剤などがけん引し、順調に拡大してきた。2024年以降は、新薬はこれまで同様発売されるものの、新規作用機序の開発品はこれまでと比較して少ない。また、2010年代に発売された大型製品のジェネリック医薬品の台頭も予想されるため、市場の拡大幅は緩やかになるとみられる。
疾患別治療剤をみると、現状で最も市場規模が大きいのが肺がん治療剤である。新薬や適応拡大を図る開発品が豊富であり、さらなる市場拡大が予想される。2番目に市場規模が大きいのが乳がん治療剤である。新規作用機序の開発が21件あり、今後市場拡大が予想される。胃・食道がん治療剤の市場規模は、患者数に比べると小規模にとどまるが、新薬や適応拡大を図る開発が20件あり、中長期的には拡大するとみられる。前立腺がん治療剤や大腸がん治療剤は、患者数に比べて開発品が少ない。血液がん治療剤は比較的開発品が多く、なかでも悪性リンパ腫治療剤や骨髄異形成症候群・その他血液がん治療剤では、モスネツズマブ(中外製薬)や「エプキンリ」(アッヴィ)、「ジャカビ」(ノバルティス ファーマ)、「ベネクレクスタ」(アッヴィ)などが大きく伸びるとみられるため、長期的には市場拡大が予想される。
●肺がん治療剤
市場は2015年に免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」(小野薬品工業)が、肺がんの中でも患者数の多い非小細胞肺がんに適応拡大したことをきっかけに、大幅に拡大しはじめた。その後に発売された「キイトルーダ」(MSD)、「テセントリク」(中外製薬)、「イミフィンジ」(アストラゼネカ)といった免疫チェックポイント阻害剤も同様に非小細胞肺がんの適応を主体としており、非小細胞肺がんでは免疫チェックポイント阻害剤の処方が中心となった。
小細胞肺がんに関しても2019年に「テセントリク」、2020年に「イミフィンジ」が適応拡大したことで免疫チェックポイント阻害剤が中心となった。
肺がん治療剤に対する製薬企業各社の注力度は特に高く、製品開発は活発で、適応拡大を含めた承認申請一歩手前となるフェーズⅢ以降の後期開発は50件近くと、他のがん治療剤に比較して圧倒的に多い。
■中枢神経領域
中枢神経領域では、既に有効性の高い製品が発売され成熟した市場になっている疾患治療剤もあるが、てんかんや認知症、睡眠障害、希少疾患(多発性硬化症、視神経脊髄炎スペクトラム、神経変性疾患)といった疾患の治療剤では、新規作用機序の製品開発が活発に進められており、中長期的な市場拡大が予想される。特に、認知症・MCI治療剤では、抗アミロイドβ抗体製剤により市場が大きく拡大している。
●認知症・MCI(軽度認知障害)治療剤
市場は1999年に「アリセプト」(エーザイ)が発売されたことで立ち上がった。しばらくはその一剤のみの市場であったが、2011年に「レミニール」(ヤンセンファーマ)、「イクセロン」(ノバルティス ファーマ)、「リバスタッチ」(小野薬品工業)、「メマリー」(第一三共)が発売され、市場拡大が加速した。ただし、市場投入された製品が限定的であったこともあり、2016年には市場は縮小に転じ、2020年にはすべての製品が長期収載品となり、ジェネリック医薬品の台頭によって2023年にはピーク時の半分以下となる600億円台まで落ち込んだ。
2024年の市場は、前年4月に初めての経皮吸収型製剤「アリドネパッチ」(興和)が発売され、12月には分子標的治療剤「レケンビ」(エーザイ)が発売されたことから、久々に前年比プラスになるとみられる。「アリドネパッチ」は、多剤服用している患者や、嚥下困難・寝たきりの患者への処方が進んでいる。「レケンビ」は抗アミロイドβ抗体製剤であり、アミロイドβに作用し認知症の進行を遅らせることが期待されており、特に伸びている。
2024年は9月に「レケンビ」に続き2番目となる分子標的治療剤の抗アミロイドβ抗体製剤である「ケサンラ」(日本イーライリリー)が承認されている。「レケンビ」が評価される中、注目度が高まっている。
認知症・MCI治療剤の開発は活発であり、適応拡大を含めて申請中からフェーズⅡまでの開発は13件となっている。高齢化に伴い患者数も増加するとみられることから、今後市場は拡大推移が予想される。
■疼痛領域
疼痛領域では、慢性疼痛治療剤とその他疼痛治療剤でジェネリック医薬品へのシフトがみられ、特に、その他疼痛治療剤の市場は前年比マイナスが続いている。一方、片頭痛治療剤は中長期的な市場拡大が予想される。
●片頭痛治療剤
市場はトリプタン系製剤を中心に形成されていた。2012年以降、ジェネリック医薬品が発売され市場は縮小していたが、2021年に抗CGRP抗体である「エムガルティ」(第一三共)、「アジョビ」(大塚製薬)、「アイモビーグ」(アムジェン)の3剤が発売され、以降大きく拡大している。2024年も3剤が市場をけん引しており、前年比10.7%増の332億円が見込まれる。当面は注射剤である3剤が市場をけん引するが、その後はファイザーやアッヴィが開発を進める経口剤が治療の選択肢に加わるとみられる。また、ルンドベック・ジャパンが開発を進める抗PACAP抗体も新たな治療の選択肢として注目されている。さらに、「エムガルティ」と「アイモビーグ」、セロトニン5-HTIF受容体作動薬「レイボー」(第一三共)が小児向けで適応拡大を図っており、発売されると市場拡大の追い風になるとみられる。
◆調査対象
がん領域
・肺がん治療剤
・胃・食道がん治療剤
・大腸がん治療剤
・乳がん治療剤
・子宮がん・卵巣がん・その他女性関連がん治療剤
・前立腺がん治療剤
・肝がん治療剤
・頭頸部がん治療剤
・腎がん治療剤
・悪性脳腫瘍治療剤
・皮膚がん治療剤
・その他固形がん(甲状腺、膵臓、尿路上皮他)治療剤
・白血病治療剤
・悪性リンパ腫治療剤
・多発性骨髄腫治療剤
・骨髄異形成症候群・その他血液がん治療剤
抗がん剤関連用剤(CSF・制吐剤・がん疼痛) 中枢神経領域
・抗うつ剤(抗不安剤、アルコール依存症治療剤含む)
・統合失調症治療剤(双極性障害治療剤含む)
・抗パーキンソン病治療剤・レストレスレッグス症候群治療剤
・ADHD治療剤
・抗てんかん剤
・認知症・MCI治療剤
・睡眠障害治療剤
・多発性硬化症治療剤・視神経脊髄炎スペクトラム治療剤
・神経変性疾患・その他中枢神経治療剤
疼痛領域
・慢性疼痛治療剤(糖尿病性疼痛、神経障害性疼痛含む)
・片頭痛治療剤
・その他疼痛治療剤(ステロイド系消炎鎮痛剤、外用消炎鎮痛剤、NSAIDs、解熱鎮痛剤)
経腸栄養剤・栄養輸液製剤 2024/11/28
対象レポート
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