順天堂大学とメタジェンセラピューティクス、パーキンソン病患者に対する「腸内細菌叢移植療法」に関する共同研究を開始

2024/10/21  学校法人 順天堂 

順天堂大学(所在地:東京都文京区、学長:代田浩之)とメタジェンセラピューティクス株式会社(所在地:山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO:中原拓)は、2024年9月より、「パーキンソン病に対する抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法の開発」の共同研究を開始しました。


本共同研究は、パーキンソン病患者を対象に「腸内細菌叢移植療法」の安全性や治療効果について検討することを目的としています。研究の成果により、パーキンソン病患者に対する腸内細菌叢移植療法が新たな治療の選択肢として提供できるよう、検討してまいります。

パーキンソン病は、中脳にある黒質の神経細胞の中にαシヌクレインが蓄積することで黒質細胞が減少しドーパミンが減少する、中枢神経変性疾患です。日本では、パーキンソン病は指定難病であり、患者数は約29万人(*1)とされています。高齢になるほど発症率が高まるため、患者数は増加傾向にあり、2030年には全世界で3000万人が罹患すると予測されています。

パーキンソン病治療においては、多くの治療薬が存在する一方で、長期的効果や副作用、患者さんの生活に大きな影響を及ぼす運動症状の課題など、アンメットメディカルニーズ(満たされていない医療ニーズ)が多く存在します。しかし、疾患の原因物質を標的として作用する疾患修飾療法はまだ開発されておらず、進行を抑制する薬剤など新たな治療が必要とされています。近年の研究(*2)では、パーキンソン病の病態と腸内細菌叢の関係や、腸内細菌叢を調節することで治療の奏効割合が改善される可能性が示唆されています。

本共同研究開始にあたり、順天堂大学 医学部 神経学講座 主任教授 服部 信孝は、次のように述べています。


「パーキンソン病は、単なる脳の疾患ではなく、“全身疾患”または“腸の疾患”であるとも言えます。パーキンソン病の原因物質であるα-シヌクレインは、腸管神経叢から始まり中脳黒質まで上行する可能性が示されており、腸内細菌がパーキンソン病治療の鍵を握っているとも考えられます。パーキンソン病における疾患修飾療法の実現は、私たち医療従事者、そして患者さんの大きな願いです。今回の研究は、新たなパーキンソン病治療開発に向けた大きな一歩であると考えています」

また、メタジェンセラピューティクス 代表取締役社長CEO 中原拓は、以下のように述べています。


「日本においてパーキンソン病治療・研究をリードする存在であり、また腸内細菌叢移植療法の臨床実績を多く持つ順天堂大学と、新たなパーキンソン病治療の開発に向けた共同研究を開始できることを、大変嬉しく思います。パーキンソン病は、高齢化に伴う患者数の増加や認知症との関連からも、画期的な治療の開発が必要をされている領域です。弊社の腸内細菌叢に関する知見、腸内細菌叢移植の支援サービスや、FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬プラットフォームを最大限に活用し、パーキンソン病患者さんやそのご家族の皆様に新たな治療の選択肢を届けられるよう、尽力してまいります」


なお本研究は、順天堂大学の令和5年度 第1回「次世代イノベーション創出基金GAUDIアワード(以下、GAUDI アワード)」に採択されています。GAUDIアワードは、研究開発シーズの社会実装までを一気通貫で支援するオープンイノベーションプログラム「GAUDI」の実用化研究支援の一つとして、令和5年度に開始したものです。特に、順天堂の研究者と企業が連携して実用化を目指す産学連携実用化研究の促進を目的とする研究助成制度です。

■ 研究概要
<目的>
パーキンソン病に対する抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法の開発
<方法>
進行期パーキンソン病患者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照並行間比較試験により、 A FMT(Antibiotic Fecal Microbiota Transplantation) 療法の有効性及び安全性を検証する。
<研究内容>
抗菌薬を用いて患者の腸内細菌叢を取り除き、健康なドナーから採取した腸内細菌叢溶液を移植後、主要評価項目としてパーキンソン病の全般的な機能に関する標準評価法である MDS UPDRS を用いる。さらに副次評価項目として、 IP/RT QuIC 法(*3)による α-synucleinシードの測定、炎症マーカー、腸内細菌叢の変化、 L-ドパ血中濃度の変化を測定する。
<研究実施場所>
順天堂大学医学部附属順天堂医院
<実施体制>
・研究者
順天堂大学医学部神経学講座
服部信孝 主任教授、波田野 琢 先任准教授、西川典子 准教授、奥住文美 准教授、竹重遥香 助教、石川景一 准教授
順天堂大学医学部内科学教室・消化器内科学講座
石川 大 准教授、野村慧 助教、丸山貴史 大学院生、小田倉里奈 大学院生、高馬將郎 大学院生、大森将史 大学院生、澁谷智義 先任准教授
・共同研究機関
メタジェンセラピューティクス株式会社

■ 用語解説
腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう):
ヒトの腸管には約1,000種、40兆個以上(*4)腸内細菌が生息しており、その細菌の集団を腸内細菌叢(腸内フローラ)と言います

腸内細菌叢移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation):
腸内細菌叢移植(FMT)は、健康な人の便に含まれている腸内細菌叢を、疾患を持つ患者さんの腸に移植し、バランスのとれた腸内細菌叢を再構築する治療方法です。2023年1月より、潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が先進医療Bとして実施されています。また、2024年8月より消化器がんを対象とした「免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植併用療法」の臨床試験(特定臨床研究)が開始されました。
<参考リリース>
・潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が先進医療Bとして承認、2023年1月より実施
https://www.metagentx.com/news/230104_senshinb/
・食道がん・胃がん患者さんを対象とした「腸内細菌叢移植」の臨床試験を開始
https://www.metagentx.com/news/240809_kokugan_clinicaltrial/

疾患修飾療法:
疾患の原因となる物質等を標的として作用し、疾患の進行を遅らせたり止めたりする治療方法を意味します。

FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬:
腸内細菌叢移植療法(FMT)であらかじめ安全性・有効性が確認できた腸内細菌叢を用いて行う創薬を意味します。通常の創薬では、基礎研究の成果を基に医薬品としての実用化を目指す「トランスレーショナルリサーチ」による創薬が行われますが、FMT起点の創薬は、臨床上で明らかになったメカニズムを基に研究を行い医薬品の実用化を目指す「リバーストランスレーショナルリサーチ」による創薬です。FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬では、通常のリバーストランスレーショナルリサーチより、さらに安全性・有効性の確率性の高い開発を進めることができます。メタジェンセラピューティクスは、FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬実現のため、日本初の創薬研究を目的とした腸内細菌叢バンクの構築を進めています。

順天堂大学について
順天堂は、江戸後期の天保9(1838)年、江戸・薬研堀(現在の東日本橋)に開設したオランダ医学塾「和田塾」に端を発し、今につながる日本最古の西洋医学塾です。現在では、医学部・スポーツ健康科学部・医療看護学部・保健看護学部・国際教養学部・保健医療学部・医療科学部・健康データサイエンス学部・薬学部の9学部をはじめ、大学院5研究科、医学部附属6病院からなる「健康総合大学・大学院大学」として教育・研究・医療そしてリベラルアーツを通じて国際レベルの社会貢献と人材育成を進めております。

メタジェンセラピューティクス株式会社について
メタジェンセラピューティクス株式会社は「マイクロバイオームサイエンスで患者さんの願いを叶え続ける」ことをミッションとして、腸内細菌研究に基づいた医療と創薬でソーシャルインパクトを生み出す大学発ベンチャーです。
順天堂大学の医師と慶應義塾大学、東京工業大学の研究者が共同創業し、「腸内細菌叢移植(FMT)」の社会実装と、「FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬」を推進しています。現在は、免疫疾患(炎症性腸疾患)、がん、中枢神経系疾患の開発に注力しています。

会社概要>
会社名:メタジェンセラピューティクス株式会社(略称 MGTx)
本社所在地:山形県鶴岡市覚岸寺字水上246-2
東京事務所:東京都港区虎ノ門1丁目17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 15階
代表者:代表取締役社長CEO 中原拓
設立日:2020年1月17日
事業内容:マイクロバイオームサイエンスを活用した創薬・医療事業
URL:https://www.metagentx.com

出典:
1.令和2年 患者調査 傷病分類編
2.Nishikawa H. et al., Movement Disorder 2020 Sep;35(9):1626-1635.
3.Okuzumi A et al. Nature Medicine volume 29, pages1448-1455 (2023)
4.3. Sender, R., Fuchs, S. & Milo, R. Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLoS Biol. 14, e1002533 (2016)

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