2022年度日本化学会 「第71回化学技術賞」を受賞
繊維断面の形状をナノレベルで精密制御した新規高機能繊維を開発
2023.03.29
東レ株式会社
東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、『繊維断面の精密制御による高機能テキスタイルの開発』について、公益社団法人日本化学会より「第71回(2022年度)化学技術賞」を受賞しました。日本化学会による「化学技術賞」の当社受賞は第70回(2021年度)に続き、当社ナノテクノロジーでの2年連続の受賞となりました。
このたびの受賞は、新発想の流動制御技術を用いることで、繊維断面形状の制御を飛躍的に高度化する、革新的な複合紡糸技術NANODESIGN
(R)の創出と、そのNANODESIGN
(R)を駆使した新規高機能繊維の工業化が顕著な業績として評価されたものです。
合成繊維は、加熱して溶かしたポリマーを複数の孔が穿設された口金から押し出す溶融紡糸により製造されています。従来から特性の異なる2種類のポリマーを幾何学的に配置して、複合ポリマーを繊維化する複合紡糸は、単成分の紡糸では達成困難な繊維の高機能化を目的に、様々な機能性素材の開発に用いられています。しかしながら、従来の複合紡糸では、特性の異なる2種類のポリマーにより構成された複合形態を安定化させるためには、プロセス条件の設定に課題が多く、断面形態の高度化や適用可能なポリマーの種類には制約がありました。
東レは人々の生活が豊かになり、より快適な生活を求める中で、我々の衣食住を支える基幹素材として、さらなる高度化への要求にも応えるべく、ポリマーの組み合わせや成形条件といった制御技術の高度化に取り組み、従来技術の断面形成の機構を抜本的に変える、新しい流動制御の機構を着想し、繊維断面の形状を精密に制御する新しい複合紡糸技術を創出するに至りました。
複合紡糸技術NANODESIGN
(R)は、布帛や不織布などの繊維素材に求める機能を、断面形態やそれを構成するポリマーといった繊維の設計に落とし込むことが可能となり、天然シルクの特性を複合的に実現した新しいシルキー素材「Kinari
(TM)」、扁平C型断面により、優れた吸水速乾性能等の機能性とナチュラルな触感を両立した新触感素材「Camifu
(R)」、捲縮繊維の表層にウールのスケールに類似した溝構造を形成し、優れた発色性を実現したストレッチ素材「Qticle
(TM)」など、天然の外観と合成繊維ならではの機能性を両立させた、従来素材とは一線をひく快適衣料用繊維の開発が可能となりました。今後、NANODESIGN
(R)による新規高機能繊維を衣料分野での拡大を推進することに加え、産業資材用途からライフサイエンス製品まで各分野での応用展開も進め、我々の生活を支える素材として、人々の安心・安全で、豊かな生活に貢献してまいります。
東レはこれからも、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」との企業理念のもと、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーなどのさらなる深化を図り、革新的な先端材料の創出を進めてまいります。
※NANODESIGN
(R)は、東レ株式会社の登録商標です。
以 上
写真:楯を持つ受賞者達(左)と、NANODESIGN(R)による高機能テキスタイル(右)
日本化学会誌「化学と工業」(受賞記事) :
https://www.chemistry.or.jp/journal/ci23p162.pdf
<語句説明>
・NANODESIGN(R): |
複数の原料樹脂(ポリマー)を極めて多数の微細な流れに分割し、この多数の流れを組み合わせることで繊維を設計する革新的な複合断面形成技術。従来技術では実現できなかった、特殊な複合断面を任意に、かつ高精度に設計することが可能となる。
URL : https://www.nanodesign.toray/ |
<ご参考>
東レの「日本化学会・化学技術賞」受賞履歴について
第1回(昭和26年度) |
「ポリアミド合成繊維の研究とその工業的製造技術の確立」 |
第13回(昭和39年度) |
「光ニトロソ化法(PNC法)によるε-カプロラクタムの製造」 |
第19回(昭和45年度) |
「トルエン不均化と高純度シクロヘキサン製造技術の確立と工業化」 |
第22回(昭和48年度) |
「スエード調一層構造人工皮革の技術開発」 |
第25回(昭和51年度) |
「ポリアクリロニトリルを原料とする炭素繊維製造技術の確立と工業化」 |
第37回(昭和63年度) |
「水なし平板システムの開発」 |
第41回(平成4年度) |
「架橋芳香族ポリアミド複合逆浸透膜の開発」 |
第45回(平成8年度) |
「パラ系アラミドフィルムの開発」 |
第47回(平成10年度) |
「表面実装対応ビフェニルエポキシ封止材の研究開発」 |
第49回(平成12年度) |
「敗血症治療用エンドトキシン吸着カラムの研究開発」 |
第51回(平成14年度) |
「感光性ガラスペーストによるPDP隔壁形成技術」 |
第58回(平成21年度) |
「部分エステル化反応を用いたポジ型ポリイミドの開発と実用化」 |
第61回(平成24年度) |
「軽量航空機用複合材料の実用化」 |
第63回(平成26年度) |
「新規分子・構造設計による革新逆浸透膜の開発」 |
第65回(平成28年度) |
「反応誘起型ナノ相分離エポキシ樹脂と高性能CFRPの開発」 |
第67回(平成30年度) |
「高機能ポジ型感光性シロキサンの開発と実用化」 |
第70回(2021年度) |
「スピノーダル分解によるPBT/PC共連続型高性能ナノ-アロイの開発と工業化」 |
第71回(2022年度) |
「繊維断面の精密制御による高機能テキスタイル開発」 |