世界肺がん学会(WCLC)で発表したダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)のTROP2バイオマーカー陽性の非小細胞肺がん患者を対象とした臨床試験データについて

2024/09/09  第一三共 株式会社 

2024 年9月9日
第 一 三 共 株 式 会 社

世界肺がん学会(WCLC)で発表したダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)の
TROP2バイオマーカー陽性の非小細胞肺がん患者を対象とした臨床試験データについて


第一三共株式会社(本社:東京都中央区、以下「当社」)は、ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS1062、抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)*1、以下「本剤」)について、非小細胞肺がん二次/三次治療を対象とした第3相臨床試験(TROPION-Lung01、以下「本試験」)におけるTROP2-QCSバイオマーカー陽性患者のデータを、世界肺がん学会(WCLC 2024)のPresidential Symposiumで発表しましたので、その概要についてお知らせいたします。

TROP2は、非小細胞肺がんを含む固形がん細胞の表面および内部に広く発現するタンパク質ですが、検出方法は限られており、従来の病理学的評価において、抗TROP2 ADCの治療効果を予測するバイオマーカーとして確立されていません。今回、アストラゼネカが開発した定量的連続スコアリング(QCS*2)を用いて、本試験の登録患者から収集した組織サンプルを分析しました。その結果、バイオマーカー評価が可能であった患者集団の60%(非扁平上皮非小細胞肺がん 66%、扁平上皮非小細胞肺がん 44%)がTROP2-QCSバイオマーカー陽性と判定されました。

有効性について、TROP2-QCSバイオマーカー陽性患者における無増悪生存期間*3の中央値は、本剤投与群は6.9ヵ月、ドセタキセル投与群は4.1ヵ月で、本剤投与群はドセタキセル投与群に対し病勢進行または死亡リスクを43%低下させました。

なお、全患者集団における無増悪生存期間の中央値は、2023年10月開催の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2023)で発表した通り、本剤投与群は4.4ヵ月、ドセタキセル投与群は3.7ヵ月で、本剤投与群はドセタキセル投与群に対し病勢進行または死亡リスクを25%低下させ、統計学的に有意な改善を示しました。

また、アンメットメディカルニーズが特に高いActionable遺伝子変異*4の無い非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象としたサブグループ解析では、TROP2-QCSバイオマーカー陽性患者において、本剤投与群の無増悪生存期間の中央値は7.2ヵ月、ドセタキセル投与群は4.1ヵ月で、本剤投与群はドセタキセル投与群に対し病勢進行または死亡リスクを48%低下させました。

安全性について、本解析において新たな懸念は認められませんでした。グレード*5 3以上の薬剤に関連した有害事象の頻度はTROP2の発現量に関わらず同程度で、TROP2-QCSバイオマーカー陽性の患者においては、本剤投与群で30%、ドセタキセル投与群で46%の患者に認められました。間質性肺疾患(ILD)について、外部判定委員会により薬剤と関連のあるグレード3以上のILDと判定された事象は、本剤投与群で3%、ドセタキセル投与群で1%の患者に認められました。

本解析結果より、QCSを活用しTROP2の発現状況を確認することによって、本剤の治療効果が期待される非小細胞肺がん患者さんを同定できる可能性が示されました。当社は、これらの知見およびバイオマーカーについての理解を深め、現在進行中の臨床試験等を通じて、本剤の開発を加速させてまいります。

以 上

*1 抗体薬物複合体(ADC)とは、抗体と薬物(低分子化合物)を適切なリンカーを介して結合させた薬剤で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高めています。

*2 QCS(Quantitative Continuous Scoring)とは、患者の組織サンプルのデジタル画像を解析し、画像内の全てのがん細胞の表面および内部に発現するTROP2のような標的タンパク質を正確に定量化する新しい計算病理学的プラットフォームです。

*3 無増悪生存期間とは、治療中および治療後に病勢進行せず安定した状態の期間です。

*4 Actionable遺伝子変異とは、現時点において、EGFR変異等のがんに対する治療ターゲットとなりうる遺伝子変異を意味します。

*5 米国国立がん研究所(NCI)の有害事象共通用語規準(CTCAE)で規定された重症度を意味し、グレード1~5に分類されます。

進行性非小細胞肺がんについて

世界では、2022 年に新たに約 250 万人が肺がんと診断されました。肺がんの約 80%を占める非小細胞肺がんは、その約75%が非扁平上皮がん(腺がんと大細胞がんを含む)で、約25%が扁平上皮がんの組織型です。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は非小細胞肺がんに対する治療効果を改善しましたが、効果が見られない、または効果が見られてもその後病勢が進行するケースも多いため、新たな治療の選択肢が必要とされています。

TROP2は、複数の固形がんに高発現するタンパク質の一種で、非小細胞肺がんの大多数に発現しており、がんの進行や生存率の低下に関係していると言われています。現在、肺がん患者を対象に承認されているTROP2を標的とした治療法はありません。

ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)について

ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)は、がん細胞の細胞膜上に高発現する抗原TROP2 と特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体(札幌医科大学との共同研究)に、当社独自のリンカーを介してトポイソメラーゼⅠ阻害剤(以下「DXd」)を結合させた薬剤で、1つの抗体につき約4個のDXdが結合しています。薬物をがん細胞内に直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えるよう設計されています。

第一三共のADCパイプラインについて

第一三共のADCパイプラインは、第一三共独自の二つのADC技術プラットフォームから創製された、臨床開発段階にある7つのADCから構成されています。

一つ目のADCプラットフォームは、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、複数のトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)をリンカーを介して結合させ、がん細胞の内部へDXdを届けるDXd ADC技術で、現在6つのADCがあります。トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ(R)、抗HER2 ADC)およびダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062、抗TROP2 ADC)は、全世界(当社が独占的権利を有する日本は除く)においてアストラゼネカと共同で開発および商業化を進めています。パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402、抗HER3 ADC)、イフィナタマブ デルクステカン(I-DXd/DS-7300、抗B7-H3 ADC)およびDS-6000(R-DXd、抗CDH6 ADC)は、全世界(当社が独占的権利を有する日本は除く)においてMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAと共同で開発および商業化を進めています。DS-3939(抗TAMUC1 ADC)は当社が単独で開発を進めています。

二つ目のADCプラットフォームは、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、改変されたピロロベンゾジアゼピン(PBD)を結合させ、がん細胞の内部へ改変されたPBDを届けるADC技術です。

DS-9606(抗CLDN6 ADC)は、このプラットフォームを活用した最初のADCです。

なお、ダトポタマブ デルクステカン、パトリツマブ デルクステカン、イフィナタマブ デルクステカン、DS6000、DS-3939 および DS-9606 は、現在開発中の薬剤です。安全性および有効性はまだ確立されておらず、各国の規制当局による薬事承認は受けていません。

他の画像

関連業界