世界肺がん学会(WCLC)で発表したダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)の非小細胞肺がん患者を対象とした臨床試験データについて

2024/09/10  第一三共 株式会社 

2024 年 9 月 10 日

第 一 三 共 株 式 会社

世界肺がん学会(WCLC)で発表したダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)の非小細胞肺がん患者を対象とした臨床試験データについて

第一三共株式会社(本社:東京都中央区、以下「当社」)は、ダトポタマブデルクステカン(Dato-DXd/DS-1062、抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)*1、以下「本剤」)について、非小細胞肺がん二次/三次治療を対象とした 第3相臨床試験(TROPION-Lung01)お よび術前・術後薬物療法を対象とした第2相臨床試験(NeoCOAST-2)のデータを世界肺がん学会(WCLC 2024)で発表しましたので、その概要についてお知らせいたします。なお、NeoCOAST-2のデータは同学会のPresidential Symposiumで発表されました。

1.TROPION-Lung01について
有効性について、Actionable遺伝子変異*2の有無を問わず、前治療歴のある進行または転移性非小細胞肺がん患者(604名)において、主要評価項目の一つである全生存期間*3の中央値は、本剤投与群は12.9ヵ月、ドセタキセル投与群は11.8ヵ月で、本剤投与群はドセタキセル投与群に対し改善傾向が認められたものの、統計学的に有意な改善は認められませんでした。

一方で、事前に規定したサブグループ解析では、非扁平上皮非小細胞肺がん患者(468名)における全生存期間の中央値は、本剤投与群は14.6ヵ月、ドセタキセル投与群は12.3ヵ月で、本剤投与群はドセタキセル投与群に対し2.3ヵ月の改善を示しました。

なお、本試験においては、もう一つの主要評価項目である無増悪生存期間*4を既に達成しています。2023年10月開催の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2023)で発表した通り、全患者集団において、本剤投与群はドセタキセル投与群に対し統計学的に有意な改善を示し、また非扁平上皮非小細胞肺がん患者集団を対象としたサブグループ解析において臨床的に意義のある改善を示しました。

安全性について、新たな懸念は認められませんでした。グレード*5 3以上の薬剤に関連した有害事象は、本剤投与群で26%、ドセタキセル投与群で42%の患者に認められました。本剤と関連のある間質性肺疾患(ILD)について、中間解析以降に新たな報告例はありませんでした。

2.NeoCOAST-2について
本試験は、切除可能な早期(ステージIIA~IIIB)の非小細胞肺がん患者へのデュルバルマブ(免疫チェックポイント阻害剤)をベースとした術前・術後薬物療法の有効性と安全性を評価する第2相臨床試験です。

予備的有効性について、術前薬物療法における本剤とデュルバルマブおよびプラチナ製剤との3剤併用投与群では、主要評価項目である病理学的完全奏効*6が34.1%で、重要な副次評価項目である病理学的著効*7は65.9%でした。

安全性について、本併用投与群において新たな懸念は認められず、また、グレード3以上の薬剤に関連した有害事象は18.5%の患者に認められました。

当社は、非小細胞肺がん治療に新たな選択肢を提供できるよう、これらの試験を含む現在進行中の臨床試験等を通じて、本剤の単剤療法および併用療法の開発を加速させてまいります。

以上

*1 抗体薬物複合体(ADC)とは、抗体と薬物(低分子化合物)を適切なリンカーを介して結合させた薬剤で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高めています。

*2 Actionable遺伝子変異とは、現時点において、EGFR変異等のがんに対する治療ターゲットとなりうる遺伝子変異を意味します。

*3 全生存期間とは、原因を問わず死亡するまでの期間です。

*4 無増悪生存期間とは、治療中および治療後に病勢進行せず安定した状態の期間です。

*5 米国国立がん研究所(NCI)の有害事象共通用語規準(CTCAE)で規定された重症度を意味し、グレード1~5に分類されます。

*6 病理学的完全奏効とは、手術により摘出した組織において病理学的にがん細胞が完全に消失した状態のことです。

*7 病理学的著効とは、手術により摘出した組織において病理学的にがん細胞の残存率が10%以下である状態のことです。

進行性非小細胞肺がんについて
世界では、2022年に新たに約250万人が肺がんと診断されました。肺がんの約80%を占める非小細胞肺がんは、その約75%が非扁平上皮がん(腺がんと大細胞がんを含む)で、約 25%が扁平上皮がんの組織型です。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は非小細胞肺がんに対する治療効果を改善しましたが、効果が見られない、または効果が見られてもその後病勢が進行するケースも多いため、新たな治療の選択肢が必要とされています。

TROP2は、複数の固形がんに高発現するタンパク質の一種で、非小細胞肺がんの大多数に発現しており、がんの進行や生存率の低下に関係していると言われています。現在、肺がん患者を対象に承認されているTROP2を標的とした治療法はありません。

ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)について
ダトポタマブデルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)は、がん細胞の細胞膜上に高発現する抗原TROP2 と特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体(札幌医科大学との共同研究)に、当社独自のリンカーを介してトポイソメラーゼⅠ阻害剤(以下「DXd」)を結合させた薬剤で、1つの抗体につき約4個のDXdが結合しています。薬物をがん細胞内に直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えるよう設計されています。

第一三共のADCパイプラインについて
第一三共のADCパイプラインは、第一三共独自の二つのADC技術プラットフォームから創製された、臨床開発段階にある7つのADCから構成されています。

一つ目のADCプラットフォームは、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、複数のトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)をリンカーを介して結合させ、がん細胞の内部へDXdを届けるDXd ADC技術で、現在6つのADCがあります。トラスツズマブデルクステカン(エンハーツ®、抗HER2 ADC)およびダトポタマブデルクステカン(Dato-DXd/DS-1062、抗TROP2 ADC)は、全世界(当社が独占的権利を有する日本は除く)においてアストラゼネカと共同で開発および商業化を進めています。パトリツマブデルクステカン(HER3-DXd/U3-1402、抗HER3 ADC)、イフィナタマブデルクステカン(I-DXd/DS-7300、抗B7-H3 ADC)およびDS-6000(R-DXd、抗CDH6 ADC)は、全世界(当社が独占的権利を有する日本は除く)においてMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAと共同で開発および商業化を進めています。DS-3939(抗TA-MUC1 ADC)は当社が単独で開発を進めています。

二つ目のADCプラットフォームは、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、改変されたピロロベンゾジアゼピン(PBD)を結合させ、がん細胞の内部へ改変されたPBDを届けるADC技術です。DS-9606(抗CLDN6 ADC)は、このプラットフォームを活用した最初のADCです。

なお、ダトポタマブデルクステカン、パトリツマブデルクステカン、イフィナタマブデルクステカン、DS-6000、DS-3939およびDS-9606は、現在開発中の薬剤です。安全性および有効性はまだ確立されておらず、各国の規制当局による薬事承認は受けていません。

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